がーるずらぶ2 ラブ・スイッチ

森原明

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4  私の、戦い(お預けと戦う私(苦笑))

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 電話しようとする雫の腕を掴んだ私は、そのまま優しく包み込むようにして彼女に抱きついた。



「……?あんな、ちゃん??」
「ごめんね…雫。これは病気とかじゃないの。
大丈夫だから……こうしていれば、多分落ち着くから……」



 雫の優しくて、甘い匂い……。






多分、こんな事が出来るのはこれが最後になるだろう。

私はそう思ったら涙が溢れ出してきた。



「あんなちゃん・・・」


 夏休みに入って、電車の中は何時もよりは人が少ないとはいえ……通勤で利用する人達は沢山いる。
そんな人達が見ているかも知れないのに……
私はこんな事をしてしまった。


雫にまで迷惑をかけちゃう……。


そんなこと、解っているのに。



「ごめ……ん。も、少し……だけ……」

「……杏奈ちゃん……いいよ。大丈夫」


そう小さくつぶやきながら、雫は私の頭を優しく撫でてくれた。






「・・・落ち着いた?」

 終点の西桑名に着いてから、なかなか涙が止まらない私に寄り添って待合室にまでついてきてくれた雫が、にっこりと優しく微笑みながら私の顔を覗き込む。

これからあの事を話したら・・・
私達の関係は、多分終わるだろう。

もう、友達ではいられなくなって、嫌われて。

今までずっと一緒だったこの子と話ができなくなる……。



・・・そんなのは嫌だ。

じゃあ、嘘をついてでもこの場を回避する?



……いや。
それでは答えは変わらない。

嘘を見抜く能力の高いこの子がどうして嘘を見抜けるのか?
それは、この子…雫が嘘つきが大っ嫌いだからで・・・。

嘘をついても嫌われる。

同じ嫌われるなら、正直に話して嫌われたほうがまだましだ。



・・・このままずっと黙ったままでは話も進まないし…時間だけが過ぎてしまう。



・・・私は意を決して雫の顔を見た。


「「あのね」」


・・・え?!

雫と言葉が被った??


私がびっくりして目をパチクリさせると、雫はその様子を見てくすっ☆と笑った。


「杏奈ちゃん……分かった。杏奈ちゃんがおかしい理由(わけ)。
杏奈ちゃん、失恋したんでしょ?」



・・・・・。


・・・・・・・。


・・・うん。まあ……間違っては、いない、けど……。


いや、まだ、振られたわけでは、ないんだけれども・・・。
いや、まあ、振られちゃうのもほぼ間違いは、無いんだけれども・・・。


「ほら、前、焼き鳥屋のカッコいいお兄ちゃんにあっさり振られた時も、そう言えばこんな感じだったもん」

うっ・・・。
嫌なこと、思い出してくれているなぁ……。



 焼き鳥屋、というのは移動販売の焼き鳥店のことで。
そこにいたお兄さんが、超イケメン。
一発で恋愛スイッチがオンになったのだけど。

わずか三分後に失恋してしまう。


 焼き鳥を受け取った直後、私達の横をすり抜けてきた男の子が「おとうさん」と声を掛けて…
その後から美人の奥様がひょっこりと現れたのだ。


 告白どころか、まともな会話もする暇のない恋愛劇だった。
 だから、その時は雫にそんな話すらする時間もなく終わってしまったのであえて何も言わなかったのだけれども。

 あまりのことだったからか、バカバカしかったからなのか、涙が止まらなくなっちゃって、ばれてしまったのだった。

雫は、その時のことを言っているに違いなかった。




「また、いつの間にか恋愛スイッチが入っちゃって、私の知らないうちに終わっちゃったのね?」


・・・いや、違うぞ。

これは、そんな恥ずかしいやつじゃないよ。
……いや、人に簡単に言えない事ではおんなじか……(汗)





いや。
これは……貴女を好きになったんだから、そんなお笑いネタにしていい話なんかじゃ、ない!


あ~…しかたがないなあ、もう…と言いながら会社に電話してお休み申請をする雫に、私は少しイラッ…としてしまったのだ。




「・・・そういう、貴女はどうなのよ、雫…」

 違う意味で言っちゃあいけない事がある。


 でも、恋愛モード中で頭のネジが何本か緩んでしまっていた私は、つい、話し出してしまったのだ。



彼女…雫の恋愛事情……。

 私は彼女の親友として長く彼女の側にいるけれど、この子の浮いた話は今まで聞いたことが無いんだよね……。

 親友として、認められていないからなのか、それとも、実は彼と仲良くよろしくコソコソとヤッているのか。



 どっちにしても、私には面白くない。


 この際、1つでもそんな話を聞き出してからでないと、こっちの気持ちを話すわけにはいかなくなっちゃったのだ。
私だって、意地くらい、あるんだからね。



「え?わたし??」

今度は雫が目をパチクリさせながら私を見つめてきた。


「そう。私、雫の惚れた腫れたな話は知らない。ずーっと一緒にいるはずなのに、よ?
コレっておかしくない??」

 いつになく強めの視線で彼女を見るが、雫は動じないままきょとん、としている。


「そ……そうだっけ?」
「そうなの!聞いた事、ないのっ!」

 矢継ぎ早に切り返した私に、う~ん……と、考え込むようなポーズを取りながら下を見る彼女……。
あまり考えないような感じに見えるけど、この子の場合はこういう時ほど頭が回っていたりするのは、長い付き合いだから知っている。


「あ~…確かに……私のそんな話はした事無いかぁ~…。
ごめんね~?別に話したくなくて話さなかった訳じゃ、ないんだよ~」

 てへっ☆と舌を出しながら自分の頭をぺちっ★と叩いた雫は、おちゃらけた台詞やポーズとは真逆の雰囲気を急に醸し出した。


(……あれ?なに??この雰囲気……)


長く一緒にいても、こんな感じのこの子には出逢ったことが無い。



いつもふわっ…としていて、軽い感じ。

……それが今は……妙に色気を感じられる雰囲気に変わったのだ。





    
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