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6章 想いを、重ねて・・・(H表現あり)

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 津の海水浴場から車を走らせ、湾岸道路へ入った私達はそのまま名港まで車を向かわせる。
四日市を通り過ぎ、桑名東で降りてから今度は再び名四国道へ向かい・・・。

 さっきまでと、今と私達は違っていた。

 津へ行くときは雫の運転だったしそんな余裕はなかったのもあるけど(苦笑)今の私達は。

 ベンチシートの有りがたさって、こういう事を言うんだなってしみじみ思う。
 私の左腕に、雫の右手がそえられて…この子のぬくもりを感じながら運転する、その幸せと言ったらもう。
特に何か話すわけじゃあないんだけど、それでも体が触れ合うことの幸せを噛みしめる。

もう、我慢しなくっても、いいんだから。


そして……

名四名物(?)のホテルが並ぶ場所へやって来て・・・。
キリンの絵が可愛い、ラブホテルへ車を乗り入れた。


「・・・ここ・・・恋人ができたら入ってみたいって…ずっと思っていたんだぁ…」
「え?そっちにあった温泉付きの場所じゃなくて?」
「だって…初めてで温泉なんか入っちゃったら多分そこで幸せになっちゃって、すること出来ないんじゃないかな~って」
「いや・・・体がしっかりあたたまるから湯冷めしにくくて良いんじゃないかな?」
「…じゃあ、あっちにする?」

そう言って雫の顔を見ると、彼女は小さく首を横に振った。


「ここがいい。杏奈ちゃんが選んでくれたんだもん。温泉付きは、また今度にしよ?」

 ・・・夜の恋人たちは、ラブホに入る時こんな会話をしているんだろうか?
お互いにこんな場所に入るのは初めてだし・・・緊張のドキドキが止まらない。

 ましてや、私達は女性同士の特別カップルだ。
ホテルの受付のおじさんに変な顔されたりしないだろうか?






「え~~~っとぉ・・・(汗)」




 車で入ってみたものの……普通のホテルとは造りが全然違ってて。
まず、ガレージみたいに一台しか止められない駐車スペースに車を入れて。
そのまま車から出ればホテルへの入り口があって……小さなドアを開けて中へ進むとすぐ、パネルが壁に埋め込まれていてそこに色々な部屋が写真で案内されていた。
 各写真(部屋の案内板)には説明文と番号が表記されていて……
部屋のパネルの消灯されている所は利用者がすでにいるって事らしかった。


「え~っと。ジャングルパラダイスは…気分は密林。森の中で自然に帰ろう??
ヘブンズリゾート…気分は天国?ふわふわもこもこの白い空間で柔らかな気持ちになるでしょう??・・・なんじゃ、こりゃあ」

 前者は観葉植物や蔦やらが部屋いっぱいに飾られていてジャングル気分になれる…らしく、後者は壁から床から天井からベッドまで全部真っ白。
すべり台やブランコまで完備されていて天国で遊んでいる気分になれるらしい。


「奇をてらった部屋ばかり……でもない?」

見ると海外ドラマで出て来そうなニューヨークの夜景を見下ろした豪華な部屋なんかもあって、セレブ気分が味わえそうな感じになっている。


「なんか面白ぉ~い♪あ、こんなのもあるよ☆」

雫が指差したのは、“気分は動物園?!大きなぬいぐるみ達に囲まれてハッピーになりましょう”
というものだった。


「なんかぬいぐるみ達に見られている感じになりそうだからちょっとね~…(汗)」

なんか、もうちょい初心者に優しい部屋は無いのだろうか?(苦笑)

全面鏡張りのミラーハウスとか、めっちゃ気が散りそうなんですが。


「う~ん…あ、これ、良さそう♡
“気分は軽井沢。別荘のような心地良さをあなたにも” だって」

 壁がログハウスみたいに丸太むき出しみたいになったところ以外見た目には普通っぽく見える。


「コレを押す…の、かな?」

パネルの脇に番号が書かれたボタンがあって、雫は私が頷くより早くボタンを押した。


『当店へ、ようコそ。お客様ガ 選ンだのハ、333 号室ニ なりまス。点滅ランプ に 従っテ お進みクださイ ごユっくりどうぞ』

 機械で誰かの声を合成したような女性の声のアナウンスが流れ、壁に埋め込まれたライトが点滅を始めた。


………想像してたのと違う…。





 ランプに従って進むとエレベーターにすぐにたどり着き、それに乗り込むと自動で3階にたどり着いた。
エレベーターの目的階指定ボタンを押さないで動くエレベーターに乗ったのはこれが初めてで…妙な気分になってくる。

 そのまま目的の階に着き、ドアが開くと目の前に位置する部屋のナンバーがチカチカ音を立てて点滅している。

……333…どうやらアソコらしい。



 そのまま案内に従って部屋に入ると、何やら機械音がして自動でドアがロックされてしまった。
……え?私達、閉じ込められたの?と一瞬びっくりしたものの…そのドアにも説明文が表記されていて。
間違えて誰かが部屋に入って来れないように自動で鍵が掛かっただけだった。
 内側からドアの取手を回すと普通に廊下へ出られるらしいが、一度出たら部屋の中には戻れないらしい。
…利用料金損しないように気をつけなくちゃ。
うちらにとっては結構なお金なんで(汗)



…あたり前のことだけど


「旅館や普通のホテルとは違うんだね」

 雫が興味津々で中扉を開けて「ほほう?」とか言いながら感想を述べた。
そりゃあ、目的が違うんだもん。
中身だって違うよね?
……などと頭の中で呟いてみるものの、様子が違うから私も興味で頭がいっぱいだった。


 中扉を開けて中に入ると、中身は完全にログハウスみたいになっていて。
本当に何処かの別荘に遊びに来たみたいになっている。


 正面にダブルベッドがひとつ。


 その奥には大きな窓を模した液晶スクリーンがあって避暑地のような森林や湖がある外の風景を映し出している。
…ときどき、外から鳥の鳴き声らしき音が聞こえてきていて…何も知らないまま目隠しされてここに連れてこられたら、別荘地と間違えることは確実だった。



「すごっ!」

「わあ☆湖があるぅ♡」


 すぐに窓際まで走った雫が窓を開けようとするボケをかまし、


「開くわけないかぁ…てへっ☆」

と、舌を出して苦笑いした。

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