魔法戦士 トイ・ドールズ

森原明

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1 異世界からの侵略

シーン5 うめの木市 感花喜(かんげき)町、町内

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「・・・はぁ~…なんか、いい点数取れる気がしないなぁ~」

 あかりんの家…喫茶店「月光つきあかり」からの帰り道、優子は一緒に帰る広美に弱音を溢していた。

 せっかく広美に勉強を教わった優子だったが、一番の苦手教科である社会系…いわゆる「歴史」が相手ともなれば愚痴りたくなる気持ちは分からなくもない。
 基本的にただ年号や事件の名前などを暗記するだけのつまらないものだと思っている彼女からしてみれば、これほどつまらなくて面倒くさい教科は他に無かったのである。


「優子の場合…ただ、苦手意識を持ってるから覚わらないだけなんやないの?私がアニメに出てくるロボットとかメカとかの名前が覚えらんないのと、同じでさ」
「だってぇ~…昔の人が何かした、なんてどーーーでもいいことやんかぁ!!なんでそんなものが勉強として成立してて、テストなんかになったりすんのさ~!」


「・・・昔の人が何かしたから、今がある訳で…そうねぇ・・・例えば “魔法少女 カミラもみな”で、やんべぇがもみなちゃんの願い事叶えないまま魔法少女に変身できるようにしたら…どうなっていたのかな?とか・・・」
「契約が成立していないから魂を縛られることがなくて力だけ発揮できるようになるから物語の結末が大きく変わる!」

 食い入るように顔を思いっきり近づけてきっぱり言い切る優子に、広美は苦笑いしながらも話を続けた。


「・・・早い回答ねぇ…そんな風に歴史も “IF” を考えるとさぁ…面白くなる気がしない?」

「・・・けどさぁ……そもそも興味が薄いんだもん。そういう歴史に関わるよーなアニメがあると、興味湧くんだけど。 “幕末英雄伝 リョーマ見参!” みたいにさぁ」
「アンタ幕末の辺りは確かに強いよね~。中学ん時のその辺りのテスト、100点で私より良かったし」

「そもそも、歴史っていうのは・・・ん?」

 広美と会話しながら歩いている途中なのだが、広美越しに目に入ったゴミ捨て場で何かが動いたような気がした優子はピタリと足を止めた。


「…どしたん?」
「……ん・・・なんか、今、そこでなにか動いたような気がして…もしかしたら、野良ちゃんでもいるんかな?」

 最近はゴミ捨て場にはネットが張られたり、あるいはきちんと専用の小屋のようなものが設置されて野良犬、野良猫、カラス、猿などに荒らされないような処置が施されているのが一般的だが・・・物によっては廃品回収で集めるために直前に回収場所に集められ、野ざらしにされている場合もある。
 優子が目にしたのは夕方に回収される、布団や毛布などの少し大物専用の回収場所であった。


「もし猫ちゃんがいたら…布団とかと一緒に連れて行かれちゃうかも!」

 夕方四時頃が確か回収時間だったな…と、曖昧な記憶ではあるがそう認識していた優子は、誤って猫まで一緒に業者に布団ごと回収されてしまうのは忍びないと考えたのだ。


「お~い!そんなとこにいると、こわ~いおじさん達にゴミごと連れて行かれちゃうぞ~…っと・・・」

 そんな事を言いながら回収場を覗き込んだ優子だったが、猫らしきものは姿を見せなかった。



「・・・あれ~?たしかに今、何か動いたような気がしたんだけど、なぁ~」
「…気のせいだったんじゃない?何かが逃げたような感じはしなかったし・・・」

 優子とほぼ同時にここを見ていた広美だったが、猫が慌てて逃げていったような姿は見てはいない。


「・・・う~ん…そうかなぁ……確かに何か・・・あら?これは・・・」


 優子は布団やベッドのマット等が山積みになっているその場所の一角に、人形、ぬいぐるみ等が無造作に数体捨てられているのを見かけた。



「・・・なんか、かわいそう……まだ、ちょっと直せば全然大丈夫な子もいるのに・・・」

 大きなピンク色の人に似た体型の猫や、ネズミ型の某人気キャラの腕や足がもげてしまったもの、愛らしい瞳をして指を咥えているお猿さんなどのぬいぐるみや首が取れてしまった和人形、それから使わなくなったのか、数体の壊れたマネキン人形などが・・・そこには沢山放置されていた。


「・・・うわぁ…なんか…ここまで揃ってると気味が悪い・・・どっか、この辺りでお店が潰れたとか…そんな事、あったかな?
優子、あんたこういうの大丈夫なん?」


「私は平気・・・というよりはなんか、可愛そうで……ほら、この子なんてほとんど無傷だよ?綺麗にしてあげればまだまだ可愛がってもらえるよ、きっと」

 そう言うと優子は大人でも抱きかかえるのがやっとじゃないか?というサイズの大きな青いペンギンのぬいぐるみを拾い上げた。


「…あら、その子かわいい……ん?なにかくっついてる・・・?」

 大きなペンギンのぬいぐるみの胸元に、一回りは小さいリスのぬいぐるみがしっかりくっついていた。



「紫色のリスのぬいぐるみ…?あんま、見たことないカラーリングねぇ…あら、取れないわ、コレ」

 広美は変わったリスのぬいぐるみだけ手に取ってみようとしたのだが…まるで縫い付けてあるかのようにしっかりくっついていて取ることが出来ない。



「何か、昔のアニメのキャラか何かかしら?背中に金色のハンマーみたいなのもくっついてるし」

「誰かがいたずらして縫い付けちゃったのかもね?いいわ、私、この子たち連れて帰って綺麗にしちゃう」

 嬉しそうに大きなぬいぐるみを抱えた優子は、大きなため息を付いて呆れ顔の広美に満面の笑みを浮かべながらそう言った。


「・・・ここにあるってことは捨てられちゃった、ってことだろうからとやかく言うつもりはないけどさぁ…帰ってからもちゃあんと復習しておきなよ?せっかく試験に出そうなトコロ教えたんだからね」

「だいじょうぶだいじょおぶ☆邪馬台国の女王がタケルと一緒に草薙の剣を使って天界丸を操って戦ったんだって覚えてるから♪」

「……そこはアニメから離れなさいよ・・・ったく、知らないぞ、私は・・・」


 大きなぬいぐるみを拾って上機嫌になっている優子を半分呆れながら、しかし半分微笑ましく思いながら広美は友人の背中を見送ったのだった。



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