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3 戦いの始まり
シーン1 うめの木学園 位相空間内
しおりを挟む「へっ!他愛もない…これで任務は完了……」
「・・・あ~…あれっ?!なんとも、ない…?」
爆風で土煙が立ち昇った時点で自分の勝ちを確信していたジャッカルだったが、甲高い声が煙の中から聞こえてくると言葉を失った。
「・・・・・いま、ちょくげきしたよ、な?」
「・・・直撃?なんか、今のは目の前で弾けて爆発したみたいだったけど…直撃したっていうのかな?」
驚くジャッカルの目の前で爆煙は晴れて。
泣きじゃくるピックと笑い転げまわるミルフィーユ、そりて好き勝手に優子の身体を撫でたりもふもふしたりするクラスメイト達が、何があったのか全く気がつく様子もなくそのまま行動を続けていた。
ただ一人、ペンギンの着ぐるみ少女だけが自体を把握していて、ケロッとした顔で頬を搔いていた。
「ファイアーボールだぞ?!直撃だぞ?!
なんとも無いはずはねぇ!テメェ…何しやがった?」
「・・・別に、何も」
なにかしたつもりは優子には全く無く、彼女はただキョトンとしている。
そんな様子にジャッカルは怒りを顕にした。
「そうかい!しらばっくれるならこいつはどうだ!」
ジャッカルがそう吠えると同時にティラノサウルスが優子に向かって突進する。
そのままふざけたキグルミを捕まえようとした恐竜は、何も無いはずの空間に弾かれて再び地響きを上げて転倒した。
「・・・なにっ?!」
「・・・え~っと…何してんの?勝手に自爆??」
「・・・これは……魔法のフィールド?」
「…あ~苦しかったぁ~…あら?魔法障壁…」
ひとしきり笑い終わって一区切りついたミルフィーユが、自分たちの周りを包む見えない壁に気がついてそれに触れる。
ほわん…と触った場所で優しい光が波紋になって現れた。
「…これ、貴女が張ったの?」
「…う~ん……よく解んないんだけどそう…なのかな?」
「魔法と物理攻撃を同時に弾く魔法障壁だと?!そんな高等魔法を、呪文詠唱もなしに使う、のか?!」
驚愕するジャッカルの様子を見て、優子はミルフィーユに聞いてみた。
「・・・そんなにすごいの?これ」
「まあね…そこそこね……魔力使うのよ、それ」
「魔力………使ってる感じ、無いんだけどなぁ」
「・・・そうか…じゃあ、オレのとっておきの呪文でその御自慢の魔法障壁ごと消し飛ばしてやるッ!」
そう言うと、ジャッカルは相棒の恐竜を再びペンギンのキグルミにけしかけた。
ぎゃおおおおぁん!
今度は弾かれないように体重をかけながら魔法障壁を、その体には似つかわしくない小さな手にある鋭い爪を何度も何度も引っ掻くように叩きつけ始めた。
「きゃっ?!なによ!気持ち悪いわねぇ」
いくらなんとも無いからとは言え、自分を襲おうとする恐竜が目の前で暴れているのを見るのは気持ちのいいものではない。
『…我に従いし炎の使徒よ。我が敵の目前でその力を示せ。敵の前後は汝の遊び場・・・』
「…!あの呪文は!」
「…ぐすっ……ジャッカル君……キミ、そんな攻撃呪文を…ぐすすっ……覚えたなんて意外に頑張ったんだねぇ…」
ようやく泣き終わったピックがたどたどしい声で感心しているのを聞いたミルフィーユが、呆れ顔のままペンギンから先生を引っ剥がすと自分の目の前にぶら下げながら怒鳴った。
「感心してる場合じゃないでしょ?!いくらこの魔法障壁が強くても、下僕の物理的攻撃を受け続けてるこの状態で魔法攻撃効果と物理攻撃効果の高いあんなもの受けたら、ただじゃ済まない…」
『…汝の猛々しいその力、我に貸せ…そして、我が敵を討ち滅ぼせ!』
「…そう思うんならそんな説明してる間に魔法障壁でも唱えるか反撃魔法でも叩き込んだらいいんじゃない?」
「先生こそなんとかしなさいよ!」
「・・・ボクは、まだ彼女の能力を見限ったわけじゃないんだ。」
身体をミルフィーユに引っつかまれて宙ぶらりんになりながらもピックはオキシペタラムの方を見た。
「あんな姿だけど…何もしないままでもこの防御力……能力は、もしかしたらすっごいのかもしれない…」
そんな二人の会話の最中にも、彼等の前後に2つの大きな火球が現れて激しく燃えながらどんどん大きくなっていく。
「ちょっとお~!なに、あれ~!!」
「熱い!熱が伝わってきて、あついっ!」
「・・・二人共…多分、大丈夫」
こんな状況だが、当の本人である優子は落ち着いていた。
「大丈夫って…?」
「頭の中でね、何か女の人の声が聞こえるの…」
『荒れ狂い、我が敵を、滅ぼせっ!!』
そう言うとジャッカルは両手を叩くようにして合わせた。
『火炎球相互爆破弾』
2つの大きな火球が、彼等の前後で激しく炸裂した。
あたりの空気を激しく振動させながら爆破音が響き渡る。
「…へへへ……こいつの破壊力はファイアーボールとは比べ物にならないぜ?
なにしろ相乗効果でファイアーボールの数倍……防衛拠点にあるような小さな城なら簡単に吹き飛ばしちまうほどの威力だ。
オレの魔力はかなり消費しちまうが…その分・・・え?」
確かに、今…2つの大きな火炎球は大爆発を起こした。爆煙が舞い上がり、爆風が沸き起こり、辺りに大きな爆発音が響き渡ったからだ。
…しかし……。
「長々と説明してくれちゃってるけど……それで?」
「・・・は???なにしてんだ、おま……」
爆発の余波が消え去って姿を現したオキシペタラムの頭上に、ひとつの大きな火球が浮いている。
彼女の短い手は届いていないが、明らかにその火球をその下にいる青いキグルミペンギンが支えているようにジャッカルには見えていた。
「自分の下僕の恐竜さんまで巻き込んで灰にしちゃってるのに、随分と余裕があるみたいで。
…それなら、コレ、そのまま返しても問題は…」
火球を支えていない方の手で自分の頬を掻きながら、オキシペタラムが不機嫌そうな顔をした。
「・・・いや、あの、ちょっとまて!
なんで??今、爆発したじゃん??なんで、それがそんなんになってんだ???」
自分の最大攻撃力が、ひとつの火の玉になって、相手の手の内にある恐怖。
弾かれたわけでも、かき消されたわけでもない。
ちゃんとそこに自分の放った魔法が…自分で判る自分の魔力の波動を感じるソレが……。
自分に向けれれている、恐ろしさ。
魔法を放った後の硬直時間がどうとか、残り魔力が少ないからとかの問題ではなく。
「…えげつないわね~。アイツ、実質まだ魔法詠唱状態のままってことにされちゃってるよ?あれじゃよほどの魔導師じゃない限り次の手が打てないじゃん」
「・・・これが、オキシペタラムの能力…魔法返し…」
ミルフィーユの呟きに、ピックが目を輝かせながら答えた。
「文献にあった、相手の魔法の力を利用するって、こういうことだったんだ……たしかに、これは」
「・・・無いよ、ね?」
__ぽいっ☆
まるで軽くキャッチボールをして返球するかのように、オキシペタラムは大きな極悪火球をジャッカルに投げ返した。
「うっ…うわひゃああああぁあぁぁっ??!」
魔法詠唱状態…元々飛翔魔法で空にいる状態からの、ありったけに近い魔力消費から生み出した攻撃魔法を使っている状態・・・。
当然、更に3つ目の次の魔法を紡ぎ出すことなど、普通の魔導師には出来るはずもない。
次の魔法を使うことも出来ず、魔法を放った直後の体力低下で逃げる余力も残っていなかったジャッカルはあっさりとその攻撃の直撃を受けてしまった。
「「えげつな~い」」
__ちゅどんっ!!
軽い爆発音とともに、ピックとミルフィーユが感想を述べると同時に現実世界からジャッカルの姿は消えてしまったのだった・・・。
合唱☆
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