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Act 1 大事な恋の壊し方(本編)
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しおりを挟む結局、オレがあれから交番に駆け込むことはなかった。
あの日偶然にも、駅のロータリーに停めた瀬川さんの車の中で話し込むオレの姿を見ていた友人がいたのだ。
その友人と翌日講堂で顔を合わせると、たまたまその事が話題になって……オレは内心ひどく動揺したし、警察に相談しようかとふくらみかけていた気持ちがしゅんと萎んでいってしまったのだ。
曖昧に笑ってやり過ごし、手短にその場を終わらせようとしたものの、それさえもできず。
「うそ、真野ちゃん、R大の王子と知り合いなん!? え、すごくね!? 一体どんな繋がりよ?」
「すんげー女ったらしだって有名だよな、あのイケメン。お前も彼女盗られないように気をつけたほうが良いんじゃないか?」
「ああ、……うん、そうだね」
話しかけられた場所も悪かったのだ。俺たちの会話を聞いていたらしい仲間内の別の友人たちがまず興味を示し、彼らのやや大きな声量のおかげで、周囲にいた学生たちにも話が聞かれていたようで。
他大学の学生のあいだでも有名らしい瀬川さんとオレが顔見知りであることは、そのあと学科内でも少しばかり噂になってしまったらしい。
どこまで噂が広がっているのかは知らないが、瀬川さんとの繋がりを求める見知らぬ女の子たちからも、ここ数日はちらほら声がかかるようになってしまった。
……この様子じゃ、あの男を警察に突き出したところで、オレの学生生活への影響だって免れない。
一番の心配は智実や千華ちゃんにあの夜の出来事が知られてしまうことだ。
オレと瀬川さんのあいだで起こった事がもしもこの大学の人間の耳に入ったら、きっとまた瞬く間に噂は拡散されて、今度はオレは大学中の晒し者になってしまうだろうことが容易に想像できた。
――そんなことになっては、すべてが目茶苦茶だ。
必死の受験を乗り越えて果たしたこの大学への入学だったし、友人たちにも恵まれている充実した学生生活。
それらを壊されるリスクを抱えてまで、オレは警察に頼りたいとも思えなかった。
「はあ……」
購買で書籍を探している最中も、気を抜くとため息が漏れてしまっていた。
正直に言うと、参っていた。
我ながら、ここ最近の運の悪さはどうかしていると思うのだ。低空飛行どころか、地獄を這っている。
(会いに来てくれるのを待ってるって言われたし……次なんてホント、ないんだけど)
瀬川さんとのことは、猿にでも噛まれたと思っていっそ忘れようと思うものの、状況が忘れることを許してもくれない。
誰かに瀬川さんのことで話しかけられるたびに、連絡先を訊ねられるたびに、あの日のことや不穏な台詞が頭を過ぎるのだからが仕方ない。
……もちろん、千華ちゃんの手前、瀬川さんへの紹介の類いは一切をお断りするようにはしている。連絡もとりたくないし。
「りっちゃん? 課題本あったよ、こっちこっち」
何も知らない智実が本棚の陰から小首を傾げてオレを呼んだ。透き通ったフルートの音色みたいな、可憐な声に誘われるままそちらに足を向けて、胸の軋みは掌の下に押し隠す。
瀬川さんには浮気だなんだと言われたけれど、強引に身体の関係を持たされたようなものだ。……相手も男なわけで、あれが浮気だったのかと問われればオレの答えは否だった。
しかし何一つ正直に話せないせいで、後ろめたい気持ちも消えない。
不可抗力だったとはいえ、自分が巻き込まれてしまった出来事をなかったことにして、素知らぬ顔で今まで通りに振る舞う事なんて、オレにはとてもできなかった。
……少なくとも、あの映像を見せられたらきっと智実だって、オレの浮気を疑うだろう。
最悪の光景を想像するだけで、心に大岩が乗っかったように気持ちはどこまでも沈んでいく。
きっと、誰にも相談できないというのも良くないのだとわかっていた。けれども、こんな情けなくて恥ずかしい出来事を相談できる相手なんて、いないわけで。
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