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第一章

五話 小さな小さな希望

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「別の手段で脱出する方法は無いのですか!?」

焦燥にかられ早口になった僕にセイラさんは冷静にしかし重い声で話しました。

「それは無い……だけど脱出方法はある」
「おぉ!それはどのような!?」
「……囮よ」
「え、それって!……」
「私が奴の注意を引き付ける。その間にカウルさんは逃げて」

既に意を決しているかセイラさんの声は硬いものでした。

「出口までの道のりは伝えます――」
「待って下さい!セイラさんはどうなるのですか?!」
「私はスキルや魔法で出来る限り時間を稼ぐ」
「無茶ですよスキルや魔法はそんな万能じゃないでしょ!」
「それにセイラさんの腰の鞘……武器だって無いのに」
「そうだ、僕達が同時に出るのはどうでしょう?相手はどちらかを攻撃するか迷うかもしれません」
「その隙に二人で逃げましょう」
「それはだめだ!」
「もし貴方が狙われたら奴の初撃を避けられない」
「そうなれば確実に……致命傷を受ける」
「うぅ……」

此処に来て直ぐ襲われた記憶。

(たやすく地面をえぐる衝撃。それがもしも僕に当たったら……)
(ご主人に会えなくなる)

そう思うだけで僕の体は震えだし、じっとりと冷や汗が滲みました。

「私の方が逃げ切れる確率が高い」
「だから私が囮になる」
「でも、でも……セイラさんが危険すぎるよ!」
「お願いだ任せてくれ!」
「私にはそれぐらいしか償いが出来ない……」

セイラさんは頬を濡らし堰を切った様に己の思いを吐き出しました。

「カウルさん本当にごめんなさい」
「まさか貴方の様な『人』が現れるなんて思ってもみなかった」
「そして自身の問題に貴方を巻き込み危険な目に遭わせてしまった」
「私は元『護衛騎士』他者を護る者……だった」
「でも今は守るべき者を奪われ、私は縋る思いで此処に……最後の望みに賭け聖剣を差し出した」
「だが結果はこのありさまだ!」
「もう私にはもう何も無い!」
「……そう思ってた」
「でも……だけど……」
「私の護衛騎士としての魂はまだ残ってた」
「カウルさんどうか私に責任を……」
「貴方を護らせてほしい」
「セイラさん……」
「…………」
「……嫌です」
「そんな!……待っ――」
「聞いて下さい!」
「!!」
「……僕初めて人と直接おしゃべりしたり食事が出来て……」
「すごく、すごく嬉しかった」
「その方がセイラさんで本当に良かったです」
「でもこんなにも辛い形で初めての方を失うなんて……」
「絶対に嫌です!」
「セイラさん一緒に考えましょう。時間は十分に残されてます」
「何か方法があるはずです!」
「カウルさん……」

ドクン!

「うぅ!?」

その時僕の中で鼓動が起きました。

「どうしたのカウルさん!?」
「何この感覚!?……胸が……熱い」
「でも……なんだか力がみなぎってくるみたいです」
「それって!――カウルさんステータスカードを出して」

僕は言われるままカードを出現させると、それは眩い光を放ってました。

「僕のカードが輝いて……文字を刻んでる!?」
「スキルの覚醒だ!」
「セイラさん見てください」
「このスキルは!?……」

覚醒した僕の新たなスキル。

それは今の窮地を乗り越える可能性。
小さな小さな希望でした。

次回『疾走』
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