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第二章

十三話 お風呂の時間

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ラミさんに言われるまま僕は屋上へと続く階段を上って行きました。
その先は棚と籠が置かれた部屋がありまた。

「さぁ着いたよ脱衣所。汚れた服は此処で脱いでね」
「え!脱衣所ってまさか!?」

部屋の名前を聞いた僕の体は反射的にびくっと震えました。

「さぁ、カウル君見てごらん我が家の自慢を!」

にっこりと笑みを浮かべるラミさんは奥の引き戸ををがらりと開きました。

ムワァ。

立ちのぼる大量の湯気。
そして目の前に現れたのは大人三人が余裕で入れる広さの風呂窯でした。

「どうだいカウル君。源泉かけ流し露天風呂!」
「露天の……お風呂……」
僕はその光景を呆然と見つめてしまいました。
「な、なぁ……」
「ふふ、驚きで声も――」
「なんて所に連れてくるのですか!!」
「えぇ!?」

僕は思わず怒りの抗議をラミさんにぶつけてしまいました。

「機械の僕にとって湿気はトラブルの大敵です!」
「それがお風呂に入る……いえ水没なんてありえない!」

普段からご主人とツーリングをしてた僕は温泉についても聞かされてました。
ご主人曰く其処は『極楽』の一言に尽きるとの事でした。
ですが話の内容を聞いてた僕にとって其処は想像を絶する『地獄』の一言につきます。
何故なら全身をお湯につけるなんて自殺に等しい行為だからです。
僕は雨の日だって難なく走る事が出来ます。
しかし僕の体は完全防水というわけではありません。
空気を取り込む為の給気口や、排気ガスを出す為の排気口。
体内に水が入る隙間はいくらでもあります。
そこから起きる錆び、腐食による劣化。
配管、電子部品、オイルタンクにガソリンタンクそしてエンジン内に水が入るなんて……考えただけでぞっとします。

「原付の僕にお風呂は無理です!」
「いや今の君は人間の体だろ!?」
「人間の体でも無理なものは無理です!」
「えぇ……せっかく喜んでもらえると思ったのにぃ……」
「でもカウル君。汚れたままだけどどうするの?」
「安心して下ささい。ご主人は洗車と一緒にワックスもしっかり掛けてくれてます」
「水を当てながら柔らかい布で汚れを落とした後に拭き上げるだけでピカピカです」
「でも今の体は人でしょ。だから平気だよほらほら」

そう言ってラミさんは僕の腕をぐいぐいと引っ張りました。

「いやです、やめぇ!いやだぁ、水没怖いぃ!」
「子供みたい駄々をこねて……以外とめんどくさい所があるね……あ、そうだ!」

ラミさんの脳裏にぴかっとひらめきが走り、さっと僕の後ろに回りこみました。

「なら足湯から挑戦するのはどうだい?」

僕の太ももにソフトに触れながらラミさんはしっとりと言葉を紡ぎます。

「あ、ちょっと……足湯ですか?」
「君だって水たまり程度の深さなら問題ないでしょ」
「うぅ~ん……えっと……体の一部を不用意に付けるなんて……怖いです」
「大丈夫、大丈夫。ホイールのスポーク手前、いやタイヤの先っぽからでいいからさ」
「でもぉ……」
「せっかくの人体なだから色々とチャレンジしてみないと」
「ほら君の柔軟なサスペンションでお湯感じてみよ」
「……何の話をしてるんだ二人共」

後から来たセイラさんは意味の分からないラミさんの会話に呆れてました。

「セイラさん!」

僕はさっとセイラさんの元へ駆け寄ると事情を話ました。

「そうか……お風呂が苦手か」
「人それぞれだ。強制は良くないぞラミ」
「でも気持ち良いのに……我が家の自慢なのぃ……」

嗜められてしょんぼりしてるラミさん。何だか不憫です。

「えっと……僕足湯なら頑張れるかもしれません……」
「本当カウル君!」

それを聞いたラミさんの表情がぱっと明るくなりました。

「本当に大丈夫?」
「ほんのちょっとだけなら……多分ですけど……」
「やったぁ!さっすがカウル君!」
「そうと決まればさっそく入ろう!ほら脱いで脱いで」

僕はラミさんにせかされ脱衣所に戻りました。


「服は洗濯籠に入れといて」
「それとバスローブ。体を洗ったら後はこれに着替えてね」

そう言いながらラミさんはさっと羽織ってた服を脱ぎ始めました。

(うぅ、なんだか緊張する。ご主人以外に中身を見られるなんて製造されたの時以来かも)

内から溢れる羞恥心を抑えながら僕はコソコソと服を脱ぎ、人前で一糸まとわぬ姿になりました。

「…………」

僕の体は足の先までしっかりと見下ろせる凹凸の少ないおしとやかで大人しいものでした。

「…………はぁ」

分かってました。
でも思わず出てしまうため息。
そこへポンと僕の肩に手が置かれました。

「ふふ、気にしない気にしない。まだまだ成長の余地ありだよ」

そう告げるラミさんの裸体は程よく肉のついた熟れた大人を漂わせてました。
そして一般人のそれとは比較にならない程たわわに実った胸がボヨン、ボヨンと揺れてました。

「…………」
「ん?おんやぁ?どうしたんだいカウル君。そんなにじっと私の体を見て、ふふ……」
「い、いえ、あの、ごめんなさい。なんでもないです」

心の奥から顔を出した女の部分がバサバサと白旗を振ってました。
僕はその事実から目を晒す様にいそいそと視線を別の方向に向けました。

「あ……」

その先には衣類を脱いだセイラさんの姿がありました。
セイラさんの体を一言で表すなら曲線美でした。
首から肩、胸、腰、お尻、太ももから伸びる足。
そのバランスが絶妙な形で繋がり無駄のない肉付きはまるで美術品を思わせる様なしなやかな体形でした。

「くう、うぅ……胸が……痛いです……」
「どうしたカウルさん大丈夫?」
「平気ですぅ……」
「いや入る前から真っ赤だよ!?」
「……僕は平気だもん……」
「?……」

怪訝な顔を浮かべるセイラさん。
そして敗北感と羞恥心が頂点に達した僕の心情を察したラミさんは隣では、は、は、と笑ってました。

「もう~本当に可愛いね君は」
「さて真っ裸になった事だし、極楽をしっかりと堪能しようではないか」

僕はラミさんに肩を掴まれながら、再び露天風呂へ足を踏み入れました。


「まず此処で体を綺麗にしてね。洗剤は右からシャンプー、リンス、洗顔フォーム、ボディーソープだからね」

お風呂の脇にある洗い場に腰を掛けるとセイラさんとラミさんは自身の体を洗い始めました。
僕も二人の様子をまねながら体を洗ってみました。

「えっと……桶にお湯を入れて体に流して……洗剤は……あれ?上手く泡立たない」

しかし自身の体を洗う事に慣れてない僕はどうしても動作が遅くなってしまいます。

「手こずってるのかいカウル君?」
「え!いえ、えっと僕……自分で体を洗った事がないから……ちょっと……」
「ふふ、金持ちのボンボンみたいな事を言って」
「どれ私が手伝ってあげよう」
「い、いえ自分でやります」
「そう遠慮しないでさ、ほら目と口を閉じて耳を塞いで……良いかい?」
「は、はい」
「それじゃ流すよ」

そう言ってラミさんは桶に入れたお湯を頭の上からゆっくりと流してくれました。
次にシャンプーを出すと手の中でモコモコと泡立てました。
それを髪にふわっと乗せ、クシュクシュと洗ってくれました。

「かゆい所はありませんかお客様?」
「あはぁ……頭がぁ……気持ち良いです」

一通り髪を洗った後最後にザバァっと洗剤を流す。
そしてリンスを僕の髪の毛に馴染ませる様に付けてくれました。

「少し時間を置いて髪に浸透させてから流して……髪の毛はおしまい」
「ありがとうございますラミさん」
「まだまだ次は体の方だよ!」

そう言ってラミさんは目をぎらつかせながら、泡立ったボディタオルで僕の体を洗い始めました。

「やだ、くすぐったいです、後は僕がやりますから……」
「だめ、だめ。ほらこっちは洗いにくいでしょ?じっとして」

背中等の手の届きにくい箇所もラミさんはしっかりと洗ってくれました。

「も、もう平気ですから……」

不用意に肌を触られ続け、流石に止めて欲しかった僕は逃げる様に体をよじりました。
ですがラミさんの手は止まりません。

「ほら逃げないで。ふ、ふ、ふ、メインディッシュがまだ残ってるから」
「え?あぁ!……だでめですぅ……そこは自分で洗うから」

ラミさんの手が僕の大事な所に迫ってきました。

「恥ずかしがって普段からご主人に隅々まで洗ってもらってるだろ?」
「観念して洗われなさい」

ラミさんは文字道理隅々まで僕の体を入念に洗っていきます。

(あぁ、やだそこに触れて良いのはご主人だけ……でも、何この気持ちは?……だめ口にできない)

僕の思いとは裏腹に体はピクンと否応し、そのたびに内なる不可侵領域の壁が弾けていく様でした。

「やぁ!……もう、いやぁ、お願い、やめ、てぇ……下、さい」
「ぐふふ、良い声で啼くじゃないかカウル君」「ほらほらその先を行けば君も立派な――」
「いぁ、助けて……セイラさん……」
「おいラミ」
「ひぃ!」

その声に答えいつの間にかラミさんの背後をとってたセイラさん。

「あ……セイラ……君」

セイラの全身から湯気とは違う、怒りのオーラが沸き上がってました。

「カウルさんを困らせて……」
「やりすぎだ!このエロ魔女!!」
「きゃぁ!やぁ、だめセイラ君あぁやめ!ああぁぁ!」

セイラさんはラミさんをがっしりと掴み天へ掲げると、そのまま風呂へ放り投げました。

「ぎああゃぁぁ!!あぶぅ!!」

ザバァン!と悲鳴と共にラミさんは豪快に着水しました。
するとまるで間欠泉の様に勢い良くお湯が吹き上がりました。

「ふん、少しは反省しろ」
「ありがとうセイ、ラさ……はくしょん!うぅ……」
「体が冷えちゃったか。そこに座って待ってて」

そう言ってセイラさんは桶でお湯をすくって来ると冷えた僕の体を温める為、肩からお湯をかけてくれました。

「温かいです……ありがとうございますセイラさん」
「気にしなしでくれ私も……くしゅん!」
「……私も早く入るか。待ってるよカウルさん」
「はい」

その後何度か体にお湯を流し体を温めた僕は、一度脱衣所に戻りました。
そして体を拭きバスローブを羽織ると、再びお風呂場へ戻ってきました。

「おぉ来たね。さぁ入った入った」

大きな胸を水面に浮かしながらゆったりしてるラミさんと、監視の目を光らせるセイラさんが湯舟に浸かってました。

「……お邪魔します」

僕は風呂窯に腰掛けると足の先端を湯舟に入れました。

「あぁ……温かい」

足から熱が上ってるくる心地よさを強く感じとれます。

「ふふ、どうだい?風呂は良いだろカウル君」
「はい。何だか心がほっこりして落ち着きます」
「今度は全身で浸かれると良いね」
「それはまだ怖いです……」
「そうかい。まぁ、その内入れる様になるさ」
「それとほら、カウル君天井を見たまえ」

僕はラミさんに言われるまま顔を上げました。

「うぁ……すごい……」

見上げた夜空のキャンパスには森に浮かぶ星々の海が広がってました。

「良いだろ……これが露天風呂の醍醐味さ」
「はい……とても綺麗です」

数えきれない程の星が燦然と輝き、その美しい景色に僕は思わず息をのみました。

(あぁ……ご主人もこんな素敵な思いをしてたのかな?)
(出来るならご主人と一緒に……)

「…………」

余計な言葉なんて要らない。
だたただゆっくりと流れる癒しの時。
皆思い思いにそれを堪能しました。

次回 『お休みの時間』

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