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七十三話 正義とは一体何で決まる?
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「今日も騒がしいな」雑踏に包まれた町の片隅で独り言ちる。船に乗ったところまでの記憶はあるんだが、ここまでくるまでの記憶がさっぱり無い。何か薬でも飲まされたのかと疑いたくなるくらいに。
今俺がいる町は名前も付けられていない町だ。これから先どうするかな。アクセルに会いたいがどこにいるのかもわからないし、ブランに会おうにも、意識か魂のどちらかを探さないといけない。
探すためにはアクセルが必要で,,,あー展望が開けない。四面楚歌。お先真っ暗。負のスパイラル。マージでどうしようかこれ。あいつがどこに行くとかも特に聞いていなかったし、向こうも俺がどこに行くのかも聞いてこなかったしな。
あー時を戻してあの時の自分を殴ってやりたい。何が強くなりたいだよ。皆で強くなればよかったじゃないか。なんで俺だけで背負おうとしてたんだよ。頼ればよかったじゃないか。
後悔はなんとやらか。落ち込んでいても仕方が無いし、初めの目標だった二つ名を倒して、名を挙げてついでにアクセルを探そう。あくまでついでだ。一つの町に滞在して情報をできる限り集めて行動する。
よし、まずはでかい町に行ってギルドで依頼を受けよう。ついでにアクセルの情報を得るためにお金を渡して情報伝達してもらおう。金を稼いで金を使っていく。俺が憧れていた冒険者の生き方の一つだ。
足りなくなったら、戦い、探索し、どでかい利益を上げてその場のノリでぶちまける。その繰り返し。そうしていく間に人として冒険者として強くなれるだろう。多分,,,
俺は名もなき街を出て、馬車道を歩いて行く。幅は数十メートルくらいで、馬車が並走できるくらいには広い。道なりに進んでいけば発展したところに到着できるだろう。
「なんだか心が落ち着くな」こうして自分の足で目的地に行くのは一年ぶりくらいだろう。爽やかな草木の匂いを嗅いで、果てしなく広がる空に、まばらに雲が風に任せて形を作っている。
舗装された道を歩くこと数時間。俺はある馬車と町を目指すことになった。その馬車には商人たちが乗っていて、護衛を頼みたいとのことだった。普通だったら街を出る前に護衛を雇うんだが、この商人たちは依頼を出さないで当日を迎えたとのことだった。
依頼あるあるの一つでしっかりと受理されていなかったってのがあるんだが、まさかこんなところで見れるとは。ていうかよく無事だったな、って思わないか?俺も初めは疑問だったんだが、一人は魔法の扱いが美味いらしく、何とか凌いでいたと教えてくれた。
「あなたみたいな人は珍しいですよ!無償で護衛してくれるなんて!」ちょび髭に赤色の帽子をかぶっている小太りのおっさんは嬉しそうに馬を走らせている。
「そうか?目的地が同じなら変わらないだろ」ガタゴトと揺れる馬車の中で横になりながら返事をする。護衛といっても有事の時だけ行動するだけだ。
「そうですか,,,器が違いますね」おっさんは上を向いて何かを堪えているようだった。
過去に辛いことでもあったのだろうか。でも俺にはそのことなんか聞けない。俺には覚悟が無い。資格も無い。そしてその辛いという尺度も分からない。無駄に傷口を抉るくらいなら放置していた方が何倍もいい。
「おっさん、俺が馬に乗るから休んでろ。その体じゃきついだろ?」俺にできるのはこれくらいのことだ。
「そこまでしてもらうのは,,,」
「いいって。ちょうど馬に乗りたい気分なんだ」半ば強引に馬から馬車の中にずらして、馬の手綱を握る。久しぶりの乗馬だから不安だな。後ろから聞こえるすすり泣く声はすぐに馬車が揺れる音でかき消された。どうやら俺は馬の扱いがへたくそらしい。
暫く馬を走らせていると、後ろからおっさっんの声が聞こえた。
「私の名前はネメシア。生まれは,,,」どうやら俺に昔の話を聞かせてくれるみたいだ。ネメシア、どこかで聞いたことのあるような名前だな。
「私には私の命よりも大切な一人の妻と二人の娘が居ました。ですがある夜、特級盗賊団に指定された陽炎に襲われ妻は目の前で殺され、二人は誘拐されました。初めは何が起きたのかわかりませんでした。」奴隷制度があるこの世界では美しい見た目や強い能力は奴隷の対象になりやすい。
それにしても陽炎の名前をここで聞くとは。数十年前に活動していた盗賊団の名前だ。今でも活動しているとは聞いているが、真相は定かじゃない。それにしても厄介な人間に目を付けられたんだな。
「その日から私の生活は激変しました。家族を守れなかった自分への怒り、陽炎への怒り、そしてこの残酷な世界に怒り、打ち震えました。体重も落ち、骸骨の様な外見になり、親しかった友人も私の傍から離れていきました。自殺も考えました。ですが仇を取らなくては、娘を探さなくては、その使命だけは果たす責任があると言い聞かせ自分のことを奮い立たせ商人を始めました」
「お金さえあれば何でも手に入りますから。深い森の奥や、先の見えない霧の中に入り、貴重な素材を集めては加工して売って、金を使って探偵、ギルドを囲って娘の情報を漁りました」
「ですが有力な情報は手に入りませんでした。曖昧な情報ばかりが集まって、無駄足に終わるばかり。そんな日常を過ごして三年間。私のところに一通の手紙が届きました。それはあの夜私の家を襲った陽炎からでした。」ネメシアの声が震えだし、今にも泣きだしそうだった。
「お前の娘は今私の手元に居る、と。さらに紙をめくると、娘の体の詳細な情報が書かれていました。それは私が知らないところまで。身支度を急いで済ませ、娘がいるところに走りました」
「山を二つ越え、川を泳ぎ、一つの空き家まで、一心不乱に駆け抜けました。時間は二日ほどでしょうか。不思議と疲れは感じられなくて、無限に走れるような感覚でした」
「中に入ると、私たちを襲撃した陽炎のメンバーが中に数人いました。娘は裸で地面に倒れ込んでいて、息をしていませんでした。耐えられないほどの辱しめを味わってきた娘たちのことを思うと,,,」声が大きくなるにつれて、辺りの重力が軽くなり始めた。
「そこからはあまり覚えていません。怒りに身を任せ、その盗賊を殺し、その家族も殺し、その盗賊の故郷を燃やし、国も一つ滅ぼしました。言葉の通り、私は世界を敵に回しました」馬が宙に浮き、荷台も空中に浮き始めた。このおっさんの怒りが自然に魔法を発動させているのだろう。
俺は止めなかった。このおっさんの怒りを分かってしまったから。ていうかこのネメシアっておっさんグロリア王国でも指名手配なってるやばい人間じゃないか。でもなんだか、悪って感じがしないな。方法がそれしかなかったみたいな感じがして、言葉は悪いかもしれないがとても哀れに思える。
「それでも、娘たちに、妻ににまた会える方法は無いかと十年以上模索しました。そして私は遂に会える方法を見つけました。あなたほどの実力の持ち主でしたら聞いたことはあるでしょう。禁断の魔法を」禁断の魔法。俺も多少は扱えるが完璧な詠唱は出来ない。なにせ王国では禁止だしな。練習なんかできやしない。
「奇跡的に私は蘇生の条件を満たしていました。たくさんの人間を殺したということ、復讐に命を費やしたこと、最愛の人間を亡くしたということ」
「結局、私は蘇生をすることを止めました。こんなのは求めていないだろうって。私が幸せに生きていることが幸せなのだろうって」
「こんな無駄話最後まで聞いて下さりありがとうございます」ネメシアはそういうと宙に浮いた馬と荷台を地面に下ろし、俺と運転を交代した。
またガタゴトと音を立てて馬車が動き出す。今の俺には二つの選択肢がある。彼を捕まえて処刑をするか、このまま冒険者と商人という形で街に向かうか。
「今日は何も見てないし聞いても無い。ただ街まで護衛するだけ。それでいいだろう?」俺が彼に聞くと、無言のまま、馬を鞭で叩いて加速した。
「やはりあなたは___」風を切りながら馬車は進んでいく。俺たちの行く先は安泰だと教えてくれるように空は青く、木々は揺れ、鳥はさえずっている。
今俺がいる町は名前も付けられていない町だ。これから先どうするかな。アクセルに会いたいがどこにいるのかもわからないし、ブランに会おうにも、意識か魂のどちらかを探さないといけない。
探すためにはアクセルが必要で,,,あー展望が開けない。四面楚歌。お先真っ暗。負のスパイラル。マージでどうしようかこれ。あいつがどこに行くとかも特に聞いていなかったし、向こうも俺がどこに行くのかも聞いてこなかったしな。
あー時を戻してあの時の自分を殴ってやりたい。何が強くなりたいだよ。皆で強くなればよかったじゃないか。なんで俺だけで背負おうとしてたんだよ。頼ればよかったじゃないか。
後悔はなんとやらか。落ち込んでいても仕方が無いし、初めの目標だった二つ名を倒して、名を挙げてついでにアクセルを探そう。あくまでついでだ。一つの町に滞在して情報をできる限り集めて行動する。
よし、まずはでかい町に行ってギルドで依頼を受けよう。ついでにアクセルの情報を得るためにお金を渡して情報伝達してもらおう。金を稼いで金を使っていく。俺が憧れていた冒険者の生き方の一つだ。
足りなくなったら、戦い、探索し、どでかい利益を上げてその場のノリでぶちまける。その繰り返し。そうしていく間に人として冒険者として強くなれるだろう。多分,,,
俺は名もなき街を出て、馬車道を歩いて行く。幅は数十メートルくらいで、馬車が並走できるくらいには広い。道なりに進んでいけば発展したところに到着できるだろう。
「なんだか心が落ち着くな」こうして自分の足で目的地に行くのは一年ぶりくらいだろう。爽やかな草木の匂いを嗅いで、果てしなく広がる空に、まばらに雲が風に任せて形を作っている。
舗装された道を歩くこと数時間。俺はある馬車と町を目指すことになった。その馬車には商人たちが乗っていて、護衛を頼みたいとのことだった。普通だったら街を出る前に護衛を雇うんだが、この商人たちは依頼を出さないで当日を迎えたとのことだった。
依頼あるあるの一つでしっかりと受理されていなかったってのがあるんだが、まさかこんなところで見れるとは。ていうかよく無事だったな、って思わないか?俺も初めは疑問だったんだが、一人は魔法の扱いが美味いらしく、何とか凌いでいたと教えてくれた。
「あなたみたいな人は珍しいですよ!無償で護衛してくれるなんて!」ちょび髭に赤色の帽子をかぶっている小太りのおっさんは嬉しそうに馬を走らせている。
「そうか?目的地が同じなら変わらないだろ」ガタゴトと揺れる馬車の中で横になりながら返事をする。護衛といっても有事の時だけ行動するだけだ。
「そうですか,,,器が違いますね」おっさんは上を向いて何かを堪えているようだった。
過去に辛いことでもあったのだろうか。でも俺にはそのことなんか聞けない。俺には覚悟が無い。資格も無い。そしてその辛いという尺度も分からない。無駄に傷口を抉るくらいなら放置していた方が何倍もいい。
「おっさん、俺が馬に乗るから休んでろ。その体じゃきついだろ?」俺にできるのはこれくらいのことだ。
「そこまでしてもらうのは,,,」
「いいって。ちょうど馬に乗りたい気分なんだ」半ば強引に馬から馬車の中にずらして、馬の手綱を握る。久しぶりの乗馬だから不安だな。後ろから聞こえるすすり泣く声はすぐに馬車が揺れる音でかき消された。どうやら俺は馬の扱いがへたくそらしい。
暫く馬を走らせていると、後ろからおっさっんの声が聞こえた。
「私の名前はネメシア。生まれは,,,」どうやら俺に昔の話を聞かせてくれるみたいだ。ネメシア、どこかで聞いたことのあるような名前だな。
「私には私の命よりも大切な一人の妻と二人の娘が居ました。ですがある夜、特級盗賊団に指定された陽炎に襲われ妻は目の前で殺され、二人は誘拐されました。初めは何が起きたのかわかりませんでした。」奴隷制度があるこの世界では美しい見た目や強い能力は奴隷の対象になりやすい。
それにしても陽炎の名前をここで聞くとは。数十年前に活動していた盗賊団の名前だ。今でも活動しているとは聞いているが、真相は定かじゃない。それにしても厄介な人間に目を付けられたんだな。
「その日から私の生活は激変しました。家族を守れなかった自分への怒り、陽炎への怒り、そしてこの残酷な世界に怒り、打ち震えました。体重も落ち、骸骨の様な外見になり、親しかった友人も私の傍から離れていきました。自殺も考えました。ですが仇を取らなくては、娘を探さなくては、その使命だけは果たす責任があると言い聞かせ自分のことを奮い立たせ商人を始めました」
「お金さえあれば何でも手に入りますから。深い森の奥や、先の見えない霧の中に入り、貴重な素材を集めては加工して売って、金を使って探偵、ギルドを囲って娘の情報を漁りました」
「ですが有力な情報は手に入りませんでした。曖昧な情報ばかりが集まって、無駄足に終わるばかり。そんな日常を過ごして三年間。私のところに一通の手紙が届きました。それはあの夜私の家を襲った陽炎からでした。」ネメシアの声が震えだし、今にも泣きだしそうだった。
「お前の娘は今私の手元に居る、と。さらに紙をめくると、娘の体の詳細な情報が書かれていました。それは私が知らないところまで。身支度を急いで済ませ、娘がいるところに走りました」
「山を二つ越え、川を泳ぎ、一つの空き家まで、一心不乱に駆け抜けました。時間は二日ほどでしょうか。不思議と疲れは感じられなくて、無限に走れるような感覚でした」
「中に入ると、私たちを襲撃した陽炎のメンバーが中に数人いました。娘は裸で地面に倒れ込んでいて、息をしていませんでした。耐えられないほどの辱しめを味わってきた娘たちのことを思うと,,,」声が大きくなるにつれて、辺りの重力が軽くなり始めた。
「そこからはあまり覚えていません。怒りに身を任せ、その盗賊を殺し、その家族も殺し、その盗賊の故郷を燃やし、国も一つ滅ぼしました。言葉の通り、私は世界を敵に回しました」馬が宙に浮き、荷台も空中に浮き始めた。このおっさんの怒りが自然に魔法を発動させているのだろう。
俺は止めなかった。このおっさんの怒りを分かってしまったから。ていうかこのネメシアっておっさんグロリア王国でも指名手配なってるやばい人間じゃないか。でもなんだか、悪って感じがしないな。方法がそれしかなかったみたいな感じがして、言葉は悪いかもしれないがとても哀れに思える。
「それでも、娘たちに、妻ににまた会える方法は無いかと十年以上模索しました。そして私は遂に会える方法を見つけました。あなたほどの実力の持ち主でしたら聞いたことはあるでしょう。禁断の魔法を」禁断の魔法。俺も多少は扱えるが完璧な詠唱は出来ない。なにせ王国では禁止だしな。練習なんかできやしない。
「奇跡的に私は蘇生の条件を満たしていました。たくさんの人間を殺したということ、復讐に命を費やしたこと、最愛の人間を亡くしたということ」
「結局、私は蘇生をすることを止めました。こんなのは求めていないだろうって。私が幸せに生きていることが幸せなのだろうって」
「こんな無駄話最後まで聞いて下さりありがとうございます」ネメシアはそういうと宙に浮いた馬と荷台を地面に下ろし、俺と運転を交代した。
またガタゴトと音を立てて馬車が動き出す。今の俺には二つの選択肢がある。彼を捕まえて処刑をするか、このまま冒険者と商人という形で街に向かうか。
「今日は何も見てないし聞いても無い。ただ街まで護衛するだけ。それでいいだろう?」俺が彼に聞くと、無言のまま、馬を鞭で叩いて加速した。
「やはりあなたは___」風を切りながら馬車は進んでいく。俺たちの行く先は安泰だと教えてくれるように空は青く、木々は揺れ、鳥はさえずっている。
応援ありがとうございます!
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