ブレイクソード

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九十七話 来訪者

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「神達はサービス業の頂点だな」カムイは下界に降り立ち、祭日で神社に来た参拝客たちに神力を分け与えている。



「そうだな。お客さんの腹を満たすだけのスキルを求められるな」八咫烏もまた下界に降り立ち同じところで力を分け与えている。



「それにしてもあの別れ方きついんじゃないか?」キンカムイは笑いながら参拝客と目を合わす。神の見え方は人それぞれだが、多くの人間は孤高の存在だと信じてやまない。だからこうやって談笑していても気が付かない。それどころかありがたい言葉を貰った気でいる。



「アクセルはそんなとこで終わらないさ」翼を大きく広げ民衆の注目を集める。下界に降りた神達の仕事は信仰している人間に対してリターンを分けること。それができなければ堕天をするか力が大幅に下がるか。それを避けるために神達は必死なのだ。



もっとも、力が下がった神は信仰もされないし、神界でも馬鹿にされる。だから堕天する神が後を絶たない。それを食い止めるためにも神達は選別を重ねている。



「キンカムイ様は美しいですなぁ」一人の参拝客がカムイを褒め称えている。老人でよぼよぼ。足元はおぼつかなくて杖で何とか立っている状態だ。



「カムイは俺と談笑してないで参拝客と向き合いな。俺と違って信仰が少ないからな」実際のところ、大和国もしくはジパングと呼ばれるところでは烏の方が信仰されている。



理由は二つ。一つは今の大和国の頂点である人物を今の地位まで導いたとされているのが八咫烏とされているからだ。



そしてもう一つ。熊の神が信仰されているのは極一部の地域に住んでいる民族だけだからだ。



「そうだな。こうやって出張しないと信仰が足りなくて力が無くなっちまう」だからカムイは信仰されていない地域に赴き、烏が信仰されている神社にお邪魔しているってわけだ。



「爺さん。あんたはまだまだ現役だぜ?」カムイは拝んでくれた爺さんに力を分け与える。



「お、おぉ!」力を貰った爺さんは筋骨隆々の体になり、禿散らかした頭はふさふさの髪になった。それに死んでいた目には活気が満ち溢れ希望を見据えている。



神の力にはいくつかの種類がある。力を分け体を強化させるもの。運気を上昇させるもの。五感を強化させるもの。ここでは挙げきれないし、もっと細分化される。カムイは体を強化させる種類に分類される。



「お前に負けてられないな」烏はさらに大きく翼を広げる。それはまさに太陽の輝き。圧倒的カリスマ。



「おおぉぉ!!」その輝きを見た者たちは五感が研ぎ澄まされていく。空気の流れ。普段は聞こえない音まで。全てが手の中にあるように分かっていく。烏の力。それは五感を上昇させる力。



「お前のそれ。ほんとにチートだな」カムイは笑いながら参拝客と向き合う。まだまだ祭りは始まったばかりだ。



~祭日のどこかで~

「転生した先で祭りがやってるなんてな」黒い髪に整った顔立ちの男が着物を着こなして出店を見ながら歩く。



「ラッキー、だな。それにチートスキルも貰ったし」隣を歩くのは整った顔とは言えない。そしてそのことをコンプレックスだと思っているのかぼうしを 深く被り、分厚いレンズが装着された眼鏡をかけている。



二人の手にはリンゴを砂糖で固められた、いわゆるりんご飴を舐めている。



「リョウマ、お前はどんな能力を貰ったんだ?」



「俺か?竜化。ヒデ、お前は?」リョウマと呼ばれる男は能力の名前を言うと、目が赤くなり、瞳孔が細くなり皮膚の一部が赤い鱗に覆われた。頭の一部からは小さな黒い角が生えた。



「かっこいいな。俺は爆発」彼の片手には赤い光が集まり小さな爆発を起きた。その小ささ故、皆は異常性に気が付いていなかった。一部を除いて。



「これでこの世界の整った顔を壊してやるんだ」ヒデはそこら辺の通りかかった通行人の頭を掴み爆発させた。掴まれた男の顔はぐちゃぐちゃになり、血が辺りに飛び散った。



「「「きゃあぁぁ!!!!」」」



楽しかった祭りの雰囲気は一変して狂気が入り混じる空間に変貌した。



「はは。落ちこぼれの俺たちはこうやって世界を壊さないとな!!」完全に竜になったリョウマは口から火炎を吐き出した。瞬く間に火の海になった空間を二人の神が食い止めに入った。



「これだから異世界人は,,,」カムイは腰に佩いていた大太刀を抜き取り火球を全て斬り伏せた。



「嫌いなんだ、だろ?」斬り落とせなかった火球や爆発を受け止めるように烏は翼を大きく広げ、漆黒の中にと吸い込んでいった。



「なんだお前ら?俺たちの最強生活を邪魔すんなよ?」ヒデは間合いをあっという間に埋めカムイの腕を掴み爆発させた。



「ぐっ!!」カムイは今までに受けたことのない攻撃に後ずさりしてしまう。爆発された腕の表面は焼き爛れ、神経がむき出しになっている。



「この世界で俺らに勝てるの神だけなんじゃね???」ヘラヘラと笑いながら言ったリョウマのその言葉に神は額に青筋を浮かべた。



「「神を舐めるな」」殺意をむき出した神に異世界人二人は後方に引き下がった。リョウマは大きな翼で大気を押し出し、ヒデは足を爆発させて。



「烏、お前は爆発持ちを。俺は竜を殺す」カムイは大太刀を鞘に納め、大きく姿勢を下げ、抜刀の構えを取った。



「承知した」烏は翼を圧縮し、深い暗闇を生み出す。



「ごちゃごちゃ抜かしてんじゃ,,,!」リョウマが何か言いかけた途端、どさりと鈍い音を立てて何かが落ちた。竜の右前足だ。



「お前ら調子に乗り過ぎだ」~神威古潭~

音を越え光も超えるその抜刀で前足を斬り落としたのだ。古来よりも語り継がれてきた神の威厳を剣に託すその技は神業に相応しい。



「俺の名前はキンカムイ。神だ。もっと崇めたらどうだ?」~火無威~

カムイは竜に変身したリョウマのブレスを封じる。火を失くす威厳。熊が火を恐れない理由。それは神が火を操るからだ。



「黙れ!お前らになんの苦労が分かんだよ!?」リョウマは自身が持った巨体をフル活用し暴れる。数十メートルの体は動くだけで脅威になる。竜が強い種族とされている理由はそこにある。



「逆に聞く。お前らに俺らの苦労は何が分かんだ?」竜の体を軽くいなし山に直撃させる。カムイは依然額に青筋を浮かべている。



「俺たちが作り上げた世界。お前ら無法な来訪者に何が分かんだって聞いてんだよ!!」~竜神白威~



上段から降ろされた白竜を模した大太刀は竜の体を真っ二つにし、絶命させた。カムイは自身たちが作り上げた世界に愛情を持っていた。物語の根幹に居座る者として。



「リョウマ!?お前ら爆発させて殺してやるよ!!」ヒデは自身の体の認識を広げ空気中を爆発させた。それは連鎖反応を起こし、烏の体に迫りくる。



「その爆発、アクセルの餓狼に及ばないな」~案内人~

最適化された道を辿り、烏は難なく爆発を回避する。こんな攻撃は見慣れたもの。それどころか普段よりも退屈なほど遅く威力も小さいものだった。



「アクセルって誰だ!?俺よりもイケメンか!?それとも強いのか!?まぁ俺よりも下なのは分かるがな!!」~爆裂発卦~

ヒデの空間認識能力が向上し、烏も体の一部と認識された。



「くっ!」爆発を直に受けた烏は翼を失い地面に落ちた。



「お前キンカムイと同じ神なのか?だとしたら格が低い,,,」



「神を舐めるなと言っただろ?」~八咫烏~

翼を失ったはずの烏は太陽の如く熱く眩い翼を手に入れ天に昇った。そう彼は太陽の神。墜ちては昇ってを繰り返す。世界が崩壊するまで。終わりを迎えるその時まで。



「じゃあな」五感を強化された民衆がヒデに襲い掛かる。彼の能力は案内人。それは人々の意思までも案内し、自由自在に操ることができる。



彼がなぜ大和国でここまで信仰されていくのか。それは民衆の意識までも動かせるからだ。



「く、くそがぁぁぁ!!!!」断末魔と共に一つの命が、魂が儚く散った。神を下に見た、馬鹿にした奴の末路は皆死を与えられる。神罰。どの世界でも同じだ。



~ヒデ視点~

俺とリョウマは幼い時から仲が良かった。俺の醜い容姿を見ても彼は笑わなかった。それどころか俺の痛みに理解を示してくれた。お前のコンプレックスは分かる。それで傷がついているってことも。



「お前の痛み俺が背負う。だからお前は俺の痛みを背負ってくれ」笑いながら肩を回してくれた腕には今までに感じたことのない温かみがあった。友情。俺が欲しかったものがそこにあった。



「任してくれ」俺は泣きながらその提案に乗った。そこから嫌いだった小学校に行き、中学校、高校と上がった。周りから馬鹿にされることはあったが、リョウマが全て背負ってくれた。



俺は見返りとして彼の悩みを聞いて解決した。恋愛の話もあれば勉強の話も聞いた。俺はリョウマよりも勉強ができた。それどころか周囲よりも頭二つ抜けて賢かった。だから俺は挫けないで学校に行った。リョウマのおかげもあったけど。



そして高校生活が終わろうとした日、俺たちは交通事故にあった。暴走したトラックにひかれて運転手もまとめて死んだ。ベタな話だろ?事故にあって異世界転生。



そのことに気が付いたのはこの世界の管理者に出会った時だ。隣には見慣れた顔リョウマがいた。向こうはこのことに気が付いていなかったようで辺りを見渡していた。



俺はこの手の本をたくさん読んでいたからすぐに状況を理解できた。異世界転生で俺つえーができるって。



「リョウマ、俺達死んだみたいだ」状況が理解できていなかったリョウマにいつもの口調で伝えた。無駄な心配を、不安を煽らないように。



「嘘だろ!?なぁ!!」リョウマはそれでも取り乱して俺の胸倉に掴みかかった。それを止めたのがこの世界の管理者。オリジンと呼ばれる五人だった。



「君たちが死んだのは事実だ」蒼い髪を揺らしながら整った顔立ちの男が俺たちの間に入った。なんで異世界人はこんなに整った顔をしてるんだか。俺は怒りの炎を燃やしながらリョウマから離れた。



「転生するか、輪廻の輪に入るかどっちがいい?」蒼髪の男の後ろから出てきたのは茶色い髪をした超絶美人の女だった。正直俺の好みドストライク。今にでも口説き落としたかった。でも醜い容姿が邪魔をした。



「輪廻の輪に入ると記憶は無くなるから転生をお勧めするぜ」黒い髪に赤色のメッシュ。それを隠す様に深くフードを被った男が影の中から出てきた。手には短剣を持っていて並々ならぬ雰囲気を醸し出していた。恐らくこの中で一番やばい人間だ。



「だってさリョウマ。俺は転生するがお前は?」俺は初めから転生するつもりでいた。醜い自分を知らない世界。そこに行ければ最高だからな。



「お前が行くなら俺も行く。言っただろ?痛みは分かち合うって」リョウマは戸惑っていたが俺についてきてくれることになった。



「そうか。なら俺らの世界楽しんでくれよな」蒼髪の男は一瞬で大剣を出すと俺たちの首を斬った。でも俺はこの後の展開を知っていた異世界に行けるってな。



そのあとはチート能力を貰った俺たちは略奪と快楽の日々を送った。リョウマは初めの方は止めてきたが、少しすれば慣れて俺と同じような行動をとった。



順風満帆。そのはずだった。この祭りに来るまでは。管理者と同じ様な存在。それに刈られた。悔しかった。だからもう一回転生してこの世界を壊してやる。



今度は復讐者として。覚えておけ。このクソみたいな世界。復讐の意識の中で俺の魂は輪廻の輪に入った。
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