IDIOM.異世界の落ちこぼれ魔女は、現代でクーデレなエージェントに管理される

るりたては

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第4章 囚われの姫

32. 発掘屋

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大学構内の広場。魔法陣の淡い光に照らされながら、銀髪のエルフ――リリエルは無力な姿で結界に囚われたままだった。

光り輝く魔法の鎖が、彼女の身体を縛り付けている。

気を失うリリエルに向かって、一人の男がゆっくりと歩み寄っていた。無骨なブーツの足音が、静かに周囲に響く。

「こういうのは趣味じゃないが、俺たちも仕事じゃんよ。……悪く思うな。」

男が低い声で言い放ちながら、リリエルを囲っている結界に手を伸ばす。その指先が光の壁に触れようとした、その瞬間のことだ。

「“理の介さず綴る筆オートマティスム拘束する鎖シグネチャー”!!」

突然、どこからともなく飛んできたインクの鎖が、男の腕に絡みつく。腕を縛られた男は、一瞬動きを止めた。

「お前が“発掘屋”の長男、ライムント・モールだな。」

冷静な黒薙の声が響き渡ると、ライムントはゆっくりと彼女の方へと振り返った。

その顔立ちはニクラスやカスパーに似ているが、その肩には人間離れした大きさの棍棒こんぼう――いや、“ドリル”がかつがれていた。

鈍い回転刃が、重く光を反射している。

「……足止めしとけって言ったのに、あいつら、しくじってるじゃんよ。」

ライムントはため息交じりに呟くと、その視線を黒薙に向けた。その目には、明らかな殺意に満ちていた。

「ま、特に支障はないか。」

その言葉とともに、ライムントは獣のような勢いで黒薙に飛びかかる。

ドリルが低く唸りを上げながら激しく回転を始めると、黒薙のインクの鎖を容易く引きちぎった。

地面を抉りながら回転するドリルが、黒薙へと迫る。

『水よ、我を包む壁となれ、“流水の防壁ロウネア”!!』

叩きつけられたドリルは、寸前で黒薙の前面に現れた水流によって衝撃を受け流された。そのまま地面に深い傷跡を残して逸れていく。

「ちっ……!」

ライムントが苛立ちを漏らす間、黒薙は素早く後方へと下がる。そこにはフェリエッタが、杖を構えて控えていた。

「黒薙さん!大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございます。しかし――」

黒薙の声に、緊張が滲む。

ドリルを地面から引き抜いたライムントは、素早く付着した水滴を払うようにドリルを薙ぎ払うと、その回転は再び加速し始めた。

「やるじゃんよ、お前さんたち。」

ライムントは薄く笑みを浮かべると、まるで獲物を狩る猛獣のように身を屈めた。

「でも、次で終わらせるじゃんよ。」

しかし、その言葉が言い終わる前に、ライムントの行く手を阻むように一枚のふだが飛んできた。

「……くそっ。今度はなにじゃんよ?」

即座に反応したライムントは、煩わしそうにドリルで札を弾く。

「まさか……!」

突然飛んできた札に驚いたフェリエッタたちが顔を向けると、そこにはこちらに駆け寄ってくる笹平の姿があった。

「さ、笹平さん!」

「待たせたな、フェリエッタ、黒薙。協力して奴を止めるぞ!」

奥からやってきた笹平が、彼女たちの隣に並び立つ。その様子を、ライムントは忌々しそうに見ていたのだった。



「全く、あの光の壁も壊さないといけないってのに、これ以上増えても面倒めんどいだけじゃんよ。……仕方ないが、コレ、使うか。」

ライムントはドリルを肩に担ぎ直すと、よれよれのシャツのポケットから複雑な紋様が刻まれた透明な翠緑色の球を取り出す。

翆緑色の球を地面に落とすと、ライムントはブーツの踵で踏みつぶした。

パリンッ――

粉々に砕け散った球の破片が、近くにある地面やコンクリートを吸収しながら再生していく。やがて、それは隆起するように巨大な人型へ姿を変えた。

――ゴゴゴゴゴ……!!

地中から湧き上がるような轟音と共に、緑の目を光らせる岩石の巨人が姿を現す。

「ゴーレムだ。……ま、せいぜい頑張りなじゃんよ。」

ライムントは冷たく笑みを浮かべると、一歩後ろへと下がった。

彼がリリエルの方へと向かいだしたのを見て、黒薙は慌ててその後を追いかけようと大きく足を踏み出す。

「待て、ライムント・モール!!」

だが、彼女の行く手を阻むように、ゴーレムの腕が振り上げられた。

――ドゴォォォン!

地響きが鳴り響き、巨大な拳が地面を激しく叩きつける。

間一髪でゴーレムの攻撃を避けた黒薙は、素早く起き上がると手に持っていた万年筆をゴーレムに向けた。

「“拘束する鎖シグネチャー”!」

万年筆のペン先から放たれたインクの鎖は、拳を地面に打ち付けたままのゴーレムに瞬時に巻き付くと、その身体を強力に縛りつけた。

黒薙が後ろにいる笹平に振り返る。

「笹平さん!」

「任せろ、黒薙!!」

笹平が、ふところから一枚の札を取り出す。そして、勢いよくゴーレムへと投げつけると、札はゴーレムの胴体部分にピタリと貼りついた。

押捺おうなつ『氷』!」

印を結ぶ笹平の声に呼応するように、札に刻まれていた文字が青白く光り始めた。次第にゴーレムの体表に氷が広がり、その全身を覆っていく。

冷たい結晶が成長すると、ついには巨人の動きを封じ込める。

「わ、私が追いかけます!」

その隙を突いて、フェリエッタは駆け出した。

「フェリエッタさん、駄目です!あなたの力では……!」

焦った黒薙の声が周囲に響く。しかし、その言葉はゴーレムの身体から発せられた不穏な音によってかき消されてしまった。

――バリバリッ!

ゴーレムを覆っていた氷に無数の亀裂が走り、その断片が砕け散る。ゴーレムは再びその巨体を動かし始め、黒薙と笹平の前に立ちはだかった。

「こいつ、思った以上にしぶといな……!」

笹平が苦々しく呟きながら身を構えると、黒薙も手にした万年筆を握り直しながらゴーレムと対峙する。

その目の前で、フェリエッタの姿は徐々に遠ざかっていたのだった。



結界に囚われているリリエルの前に立ったライムントは、片手に担いでいた巨大なドリルと持ち上げるとゆっくりと結界に押し当てる。

その先端が結界の障壁に触れると、ドリルは赤く発熱しながら高速回転を始めた。

「や、やめて下さい!!」

後ろから聞こえた声に、ライムントは僅かに振り返る。そこには、追いついたフェリエッタが息を切らしながら立っていた

それを見たライムントは、面倒くさそうに眉をひそめる。

「はぁ、また俺の邪魔するじゃんよ。」

「そ、その人をどうするつもりなんですか……?」

フェリエッタの視線は、結界の中に力なく倒れているリリエルに向けられていた。その問いに、ライムントは口元を歪ませる。

「決まってるじゃんよ、売るんだ。事情は知らないが、こいつを高く買うって奴がいる。コレが手に入れれば、良い商売になるじゃんよ。」

ライムントの言葉はあまりにも軽々しく、無情だった。彼の無頓着の態度に、フェリエッタの表情はみるみる青ざめていく。

「売る……?そ、そんなこと間違ってます!誰かを売るなんて、そんな――」

「どうしてじゃんよ?」

ライムントはドリルを軽く肩に担ぐと、反論するフェリエッタを嘲笑するかのように問いかける。その飄々とした態度に、彼女は思わず唖然とした。

「……え?」

「俺たちは、ただの“発掘屋”だ。宝を掘り出して、価値をつけて、それを欲しがる奴に渡す。それだけのことじゃんよ。それの何か問題がある?」

「けど、あれは物じゃありません。そんなのが許されるはずが――」

「はっ、それは綺麗事じゃんよ。」

彼の鼻笑いが、フェリエッタの言葉を遮る。

「世界は、そうやっては回ってはいない。金が欲しい奴、力が欲しい奴、欲を満たしたい奴、そういう奴らがいる限り、俺たちは需要に応え続けるだけだ。」

そう語るライムントの眼には冷酷な光が宿り、その笑みに一切の躊躇は無い。

「それに、手前さんらもこいつらを道具アイテムとやらと呼んで、好き勝手してるじゃんよ。その行為と何が違う?」

「そ、それは……」

彼の一言に、フェリエッタは言葉を詰まらせた。その的を射ているようで、同時にねじ曲がった論理が彼女の心をかき乱す。

「……もし嫌なら、力づくで止めてみろじゃんよ。」

ライムントが口角を釣りあげながら低く言うと、ドリルを構えた。その先端の軌跡が、低い振動音とともに、フェリエッタに迫りくる。

『ロ、“流水の防壁ロウネア”!!』

フェリエッタは反射的に杖を掲げると、水流が渦巻いて彼女を守る。その壁は、ドリルの一撃を横へと受け流すと、激しい水滴が辺りに拡散した。

「それは、さっき見たじゃんよ!」

彼は即座にドリルを逆回転させると、その勢いを利用して横薙ぎの一撃を繰り出した。水流の壁はその破壊力に打ち壊されてしまう。

「んぐっ……!」

ドリルの回転力による衝撃波が、フェリエッタの身体を容赦なく吹き飛ばす。地面に叩きつけられる彼女の姿を目にした黒薙が、遠くで思わず叫んだ。

「フェリエッタさん!!」

助けに走ろうとする黒薙だったが、前に立ち塞がったゴーレムが阻む。巨体を目の前に彼女は、フェリエッタの危機にただ見守るしかできなかった。

その間にも、フェリエッタは何とか杖を握り直し、立ち上がろうとしていた。

だが、ライムントはその動きを見逃さない。

「これで終わりじゃんよ。」

ライムントが再び巨大なドリルを振り上げると、最高潮に達した回転が激しい唸り声を上げながら彼女に迫る。

絶体絶命のピンチに、フェリエッタが身体を硬直させた――その時だった。

「”恙緋一閃つつがあけいっせん”!」

緋色の閃光が、彼らの間に割って入る。鋭い一太刀の刃が、ライムントのドリルと激突すると、激しい火花をまき散らす。

「なっ……!」

「人にそんなものを振り回すなんて、変わらず無粋だな。……ライムント・モール。」

そこに立っていたのは、黒いスーツを身に纏った見覚えのない一人の青年だった。
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