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6話 書庫
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オルテンシア伯爵邸は、古びているが、手入れは行き届いている。
ご先祖様が大切にされていた物を、代々当主となった者が、責任を持って管理しているからだ。
古くても、使える物は大切に使い続ける家系でもある。
殆ど領地から出る事もない、引き籠りでもあった。
年に一度だけ開催される国王生誕祭にすら、欠席する事も珍しくはない。
たまたま出席したとしても、たった一度のパーティの為だけに礼装を新調する事はせず、持っているドレスやタキシードを手直しして着る事が当たり前だと思っている。
決して裕福とはいえないが、礼装を仕立てる事が出来ない程、貧乏な訳でもない。
無駄な支出をするくらいなら、領地の為に使う事を選んでいるだけなのだ。
そんな事も知らない王都に居座っている貴族たちからは、オルテンシア伯爵家を、貧乏貴族と揶揄していた。
動きにくいドレスを着て、毎日小鳥の囀りみたいにくだらないお喋りに花を咲かせているくらいなら、畑で薬草を育てている方が何百倍も楽しい。
オルレンシアの人間は、一般的な貴族とは程遠い生活をしているので、噂話なんて気にもしていなかったのである。
ドレスや宝石の自慢などしなくとも、古くから続いている家門のひとつであるオルテンシアには、先祖から受け継がれてきた技術や知恵がある。
代々集められてきた貴重な書物も沢山あるのだ。
それらを大切に保管している書物庫には、王立図書館にも引けを取らない程の蔵書数を誇る。
何代か前の当主が非常に几帳面な魔術師だったので、一目で何が何処に収められているのかが分かる様に整理されていた。
本が腐ってしまわない様に、保管魔術をかけるのも、オルテンシア伯爵となった者の使命でもある。
ミラは、オルテンシアの自慢のひとつでもある書物庫の大きな扉を、ゆっくりと開けた。
真っ暗闇だった部屋に微かな灯りがポツリ、ポツリと静かに揺らめきながら灯ると、古い紙の香りが漂ってくる。
目の前には本棚があり、人一人通れるくらいの隙間を残して、均等に並んでいた。
入り口付近の頭上は吹き抜けになっており、見上げると各階の手摺の奥からも本棚が整然と並んでいるのが見て取れる。
入って直ぐ右側には螺旋階段があり、上階へと上る事が出来るようになっていた。
左側には細長い机が備え付けられていて、大きな魔晶石が鎮座している。
ミラが魔晶石に魔力を流し込むと、キラキラと虹色の輝きを放った。
「火の魔術書」そう呟くと、虹色の輝きは一筋の光となって、天井を突き抜け本のある場所を指し示したのだ。
上階を目指し螺旋階段を上がると、光はまだ上を刺していたので、三階まで上がって来た。
すると、三列目に並んでいた棚の中にある一冊の本に、光が真っ直ぐと伸びていたのである。
その本の背表紙を確認すると、確かに「火魔術書」と、記されていた。
手に取りパラパラと捲ると、詠唱文や威力などが、事細かく書かれている。
ミラは、本を持って一度部屋に戻ると、初級魔術師に必要不可欠な詠唱文のところだけ書き写したのだった。
大切な本なので、作業が終わると直ぐに書庫へと戻してから、マーカスが働いている薬草畑に行ったのである。
ミラは水属性なので、水魔術の詠唱文なら分かるのだが、火魔術の詠唱文はうろ覚えだったのだ。
火魔術は、魔術属性の中では最も攻撃力が高く、危険な魔術も多い。
しっかりと詠唱文を覚え、適切な場所で適切な魔術を使う事が求められるのである。
建物や人混みの中で、火力の高い魔術を間違って使ってしまうと、大惨事になるのは想像が付く。
どの属性にもいえる事だが、特に火属性に関しては、基準が厳しく設けられているので試験も難しくなっていたのだった。
ミラは、魔術書に載っている詠唱文を書き写しながら、これは非常に難しいと実感してしまったのだ。
お世辞にも、マーカスは賢いとはいえない事を、理解している。
学生時代から、筆記テストはいつも及第点だったのだ。
それでも、誰よりも努力を惜しまない事も、最後まで諦めずに頑張れる事も知っていた。
だからこそ、次の試験で合格点が取れなかった場合は、魔術師になる事は諦めなければならないと覚悟を決めたのである。
ミラにとっても、大好きな人と添い遂げられるかどうかの瀬戸際に立っていたのだった。
ご先祖様が大切にされていた物を、代々当主となった者が、責任を持って管理しているからだ。
古くても、使える物は大切に使い続ける家系でもある。
殆ど領地から出る事もない、引き籠りでもあった。
年に一度だけ開催される国王生誕祭にすら、欠席する事も珍しくはない。
たまたま出席したとしても、たった一度のパーティの為だけに礼装を新調する事はせず、持っているドレスやタキシードを手直しして着る事が当たり前だと思っている。
決して裕福とはいえないが、礼装を仕立てる事が出来ない程、貧乏な訳でもない。
無駄な支出をするくらいなら、領地の為に使う事を選んでいるだけなのだ。
そんな事も知らない王都に居座っている貴族たちからは、オルテンシア伯爵家を、貧乏貴族と揶揄していた。
動きにくいドレスを着て、毎日小鳥の囀りみたいにくだらないお喋りに花を咲かせているくらいなら、畑で薬草を育てている方が何百倍も楽しい。
オルレンシアの人間は、一般的な貴族とは程遠い生活をしているので、噂話なんて気にもしていなかったのである。
ドレスや宝石の自慢などしなくとも、古くから続いている家門のひとつであるオルテンシアには、先祖から受け継がれてきた技術や知恵がある。
代々集められてきた貴重な書物も沢山あるのだ。
それらを大切に保管している書物庫には、王立図書館にも引けを取らない程の蔵書数を誇る。
何代か前の当主が非常に几帳面な魔術師だったので、一目で何が何処に収められているのかが分かる様に整理されていた。
本が腐ってしまわない様に、保管魔術をかけるのも、オルテンシア伯爵となった者の使命でもある。
ミラは、オルテンシアの自慢のひとつでもある書物庫の大きな扉を、ゆっくりと開けた。
真っ暗闇だった部屋に微かな灯りがポツリ、ポツリと静かに揺らめきながら灯ると、古い紙の香りが漂ってくる。
目の前には本棚があり、人一人通れるくらいの隙間を残して、均等に並んでいた。
入り口付近の頭上は吹き抜けになっており、見上げると各階の手摺の奥からも本棚が整然と並んでいるのが見て取れる。
入って直ぐ右側には螺旋階段があり、上階へと上る事が出来るようになっていた。
左側には細長い机が備え付けられていて、大きな魔晶石が鎮座している。
ミラが魔晶石に魔力を流し込むと、キラキラと虹色の輝きを放った。
「火の魔術書」そう呟くと、虹色の輝きは一筋の光となって、天井を突き抜け本のある場所を指し示したのだ。
上階を目指し螺旋階段を上がると、光はまだ上を刺していたので、三階まで上がって来た。
すると、三列目に並んでいた棚の中にある一冊の本に、光が真っ直ぐと伸びていたのである。
その本の背表紙を確認すると、確かに「火魔術書」と、記されていた。
手に取りパラパラと捲ると、詠唱文や威力などが、事細かく書かれている。
ミラは、本を持って一度部屋に戻ると、初級魔術師に必要不可欠な詠唱文のところだけ書き写したのだった。
大切な本なので、作業が終わると直ぐに書庫へと戻してから、マーカスが働いている薬草畑に行ったのである。
ミラは水属性なので、水魔術の詠唱文なら分かるのだが、火魔術の詠唱文はうろ覚えだったのだ。
火魔術は、魔術属性の中では最も攻撃力が高く、危険な魔術も多い。
しっかりと詠唱文を覚え、適切な場所で適切な魔術を使う事が求められるのである。
建物や人混みの中で、火力の高い魔術を間違って使ってしまうと、大惨事になるのは想像が付く。
どの属性にもいえる事だが、特に火属性に関しては、基準が厳しく設けられているので試験も難しくなっていたのだった。
ミラは、魔術書に載っている詠唱文を書き写しながら、これは非常に難しいと実感してしまったのだ。
お世辞にも、マーカスは賢いとはいえない事を、理解している。
学生時代から、筆記テストはいつも及第点だったのだ。
それでも、誰よりも努力を惜しまない事も、最後まで諦めずに頑張れる事も知っていた。
だからこそ、次の試験で合格点が取れなかった場合は、魔術師になる事は諦めなければならないと覚悟を決めたのである。
ミラにとっても、大好きな人と添い遂げられるかどうかの瀬戸際に立っていたのだった。
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