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12話 姿を消したマーカス
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生涯離れる事なくずっと傍にいると思っていた相手が、国法によって引き離されるなんて考えてもいなかったミラは、戦地から戻って来ると一人で考える事が多くなっていた。
結婚適齢期を迎え、いつでも嫁に行く準備は出来ていただけに、落胆も大きかったのである。
マーカスは農場の跡取りなので、いつか嫁を貰い可愛い子供に囲まれた、幸せな家庭を築くだろう。
その中に、自分が入れないのは、どう考えても悲しい現実に違いはない。
辺境伯領から戻って来た後、マーカスは絶望したような表情で、肩を落としながら帰って行った。
あの時の後姿が、目に焼き付いて離れないでいたのである。
どうしても、マーカスの隣にいるのは、自分でなくてはいけない。
ミラは、爵位を捨てる事も考えていたが、決心出来ずにいた。
オルテンシアの性には、何の未練もないが、薬術師の資格を失うのは躊躇いがあったのである。
男爵位だけ返上出来たらよいのだが、世の中そんなにうまい話はない。
資格がなくなっても、新薬を開発する事は自由に出来る。
ただ、出来た新薬を使用する許可を出して貰えない。
それだけならまだ我慢も出来るが、薬剤を処方出来る技術と知識を持っているのに、苦しんでいる患者に使う事が出来なくなってしまうのだ。
資格を失うとは、そういう事なのである。
だが、ミラは、思うのであった。
資格を取る前に戻るだけなのだと。
薬剤を使えなくなったとしても、大好きなマーカスと一緒にいる方が、この先の長い人生を幸せに生きて行ける。
そう考えが纏まったら、ミラの行動はとても早かった。
父親の執務室に向かい、開いた扉から開口一番こう言ったのだ。
「お父様!私、かけおちしま~す」
傍で執務を手伝っていた兄弟たちは、口をあんぐりと開けて驚いていた。
「かけおち?」
伯爵は、思わず聞き返してしまう。
「私、マーカスと結婚したいの。だから、爵位を全部返上するね!今日から平民になるし、何も問題ないでしょう?」
いや、問題は大ありだろうと思ったが、こうなったミラを止められる者は誰もいないのである。
意気揚々と、荷物を纏めて家を飛び出して行ったミラは、真っ直ぐにマーカスの父親が経営している農園へと向かったのだった。
だが、そこに、マーカスの姿はなかった。
「おばちゃん。マーカスは何処?お婆ちゃんも元気そうだし、もしかして薬草を売りに行ったのかな」
キョロキョロと、畑を見回しながら問いかけると、何でもない事の様に返事が返ってきた。
「わかんね~ちょっくら出かけて来るって、出て行ってから戻って来てないんだ。何処さ行ったんだべな~?」
「帰って来てないの?もしかして、モンステルの森で魔物に襲われたんじゃないの?」
「んな事はないさ。森はずっと静かだから、何処かで試験勉強でもしてるんだべさ。心配せんで、茶でも飲んでけ。な?」
マーカスの母親は、のんびりとした話し方で、ミラを宥めていた。
それからは、畑を手伝いながら、不安な気持ちを抑えてひたすらマーカスの帰りを待っていたのである。
何度かモンステルの森にも入ったが、人が襲われた気配はなく、不気味さを感じる程静かであった。
そして、マーカスからは何の連絡もないまま、三か月が過ぎていったのである。
結婚適齢期を迎え、いつでも嫁に行く準備は出来ていただけに、落胆も大きかったのである。
マーカスは農場の跡取りなので、いつか嫁を貰い可愛い子供に囲まれた、幸せな家庭を築くだろう。
その中に、自分が入れないのは、どう考えても悲しい現実に違いはない。
辺境伯領から戻って来た後、マーカスは絶望したような表情で、肩を落としながら帰って行った。
あの時の後姿が、目に焼き付いて離れないでいたのである。
どうしても、マーカスの隣にいるのは、自分でなくてはいけない。
ミラは、爵位を捨てる事も考えていたが、決心出来ずにいた。
オルテンシアの性には、何の未練もないが、薬術師の資格を失うのは躊躇いがあったのである。
男爵位だけ返上出来たらよいのだが、世の中そんなにうまい話はない。
資格がなくなっても、新薬を開発する事は自由に出来る。
ただ、出来た新薬を使用する許可を出して貰えない。
それだけならまだ我慢も出来るが、薬剤を処方出来る技術と知識を持っているのに、苦しんでいる患者に使う事が出来なくなってしまうのだ。
資格を失うとは、そういう事なのである。
だが、ミラは、思うのであった。
資格を取る前に戻るだけなのだと。
薬剤を使えなくなったとしても、大好きなマーカスと一緒にいる方が、この先の長い人生を幸せに生きて行ける。
そう考えが纏まったら、ミラの行動はとても早かった。
父親の執務室に向かい、開いた扉から開口一番こう言ったのだ。
「お父様!私、かけおちしま~す」
傍で執務を手伝っていた兄弟たちは、口をあんぐりと開けて驚いていた。
「かけおち?」
伯爵は、思わず聞き返してしまう。
「私、マーカスと結婚したいの。だから、爵位を全部返上するね!今日から平民になるし、何も問題ないでしょう?」
いや、問題は大ありだろうと思ったが、こうなったミラを止められる者は誰もいないのである。
意気揚々と、荷物を纏めて家を飛び出して行ったミラは、真っ直ぐにマーカスの父親が経営している農園へと向かったのだった。
だが、そこに、マーカスの姿はなかった。
「おばちゃん。マーカスは何処?お婆ちゃんも元気そうだし、もしかして薬草を売りに行ったのかな」
キョロキョロと、畑を見回しながら問いかけると、何でもない事の様に返事が返ってきた。
「わかんね~ちょっくら出かけて来るって、出て行ってから戻って来てないんだ。何処さ行ったんだべな~?」
「帰って来てないの?もしかして、モンステルの森で魔物に襲われたんじゃないの?」
「んな事はないさ。森はずっと静かだから、何処かで試験勉強でもしてるんだべさ。心配せんで、茶でも飲んでけ。な?」
マーカスの母親は、のんびりとした話し方で、ミラを宥めていた。
それからは、畑を手伝いながら、不安な気持ちを抑えてひたすらマーカスの帰りを待っていたのである。
何度かモンステルの森にも入ったが、人が襲われた気配はなく、不気味さを感じる程静かであった。
そして、マーカスからは何の連絡もないまま、三か月が過ぎていったのである。
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