義理の妹が結婚するまで

夏目くちびる

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第二章 春休み(夢子の場合)

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 階段を上り、間髪を入れずに扉を開けた。



 「いるんじゃん。どうして引きこもってるの?」



 理由はわかっているけど。



 「逆に聞きたいんだが、仮に俺の友人と三人で話しているところに夢子は割り込んでくるのか?」



 「場合による」



 お兄ちゃんに汎用性の塊を投げつけた。



 それを聞いて、何かを諦めたような顔をしていた。しかし本気で嫌がっているわけではなさそうだから、ご飯を作ったから降りてきて、ということを伝えておく。これで大丈夫だ。



 温めた味噌汁を茶碗に注いでいると、お兄ちゃんが下りてきた。ジーンズを履いている。



 お兄ちゃんが椀を盆に乗せてテーブルへ運ぶ。一度戻ってご飯を盛った。きっと二人はもっとたくさん盛っているのを見たかっただろうけど、常軌から逸れていないふりをしているのだと察してか、何も言わなかった。



 「はい。それでは食べましょう」



 挨拶をして、一斉に食べ始める。程なくしてお互いに自己紹介をして、なんてことのない会話を始めた。



 高校生になったら、がテーマの妄想話を高校を卒業した人の前で話している。普通なら何かしらのアドバイスや訂正が入りそうなものだけど、さすがはお兄ちゃん。普通の高校生活を送っていないから、この話に口を挟めないみたいだった。



 話題が恋愛に変わっても大した変化はなく、いつものように淡々と流れていった。



 「ところで、お兄さんにはいないんですか?彼女」



 理子が切り込んだ。



 「いや、いないよ」



 「そうなんですね、なんでいないんですか?」



 「人に優しくないからじゃないかな」



 どうして私が一番好きな人は、私の好きな人を一番貶すのだろう。お兄ちゃんのそういうところ、あんまり好きじゃない。



 そんなことない。



 そう、静かに言ったつもりだった。しかしみんなの反応は明らかに私が想像していたリアクションではない。しかも二人はニヤニヤしながら私を見ていた。まずい、またいじられる。



 そう思って下を向いていると、何かを感じ取ったのかお兄ちゃんはさっさとお皿を片付けて部屋を出て行ってしまった。



 「それじゃあゆっくりしていってくれ。冷蔵庫や戸棚にあるものは、全て飲み食いして大丈夫だから」



 一瞬だけ静かになって、すぐに真が口を開いた。



 「なんか思ってたより普通。夢子が好きっていうからどんな人かと思ったのに」



 「でも優しいもん」



 というか、かっこいいところをそんな簡単に見られてたまるもんですか。



 「ちょっとミステリアスな雰囲気はあるよね」



 気が付いたら評論会が始まっていた。



 ……今、お兄ちゃんが廊下を通った。割と大きめの声量で喋っていたから、きっと聞こえてしまったと思う。まぁいっか。



 「ところで、さっき好きに飲み食いしていいって言ってたよね」



 理子が立ち上がった。これは悪いことを考えているときの顔だ。



 「そうだね」



 「じゃあこれもいいのかな?」



 ガラスの扉の奥にあった、洋祐さんのウィスキーを取り出した。



 「確かに、お兄ちゃんがいいって言ってた」



 私は『が』の部分を強調して、全ての責任を擦り付けた。実は前から興味はあったからだ。



 「だよね。真琴はどう?」



 理子が瓶を揺らす。水が跳ねる音がする。



 「飲んでみたい」



 即答だった。



 かくして、私たちは初めてのお酒を体験することになった。



 コルク栓を抜くと、重たい香りがした。匂いに質量があるというのは変な話だけど、確かに重みがある。



 「ウィスキーボンボンって、本当にウィスキーなんだね」



 瓶に鼻を近づけているだけで、酔っぱらってしまいそうな気分になってきた。



 「色がいいよね。きれい」



 照明を瓶越しに見つめて、真琴が言う。確かに輝いていて綺麗だ。



 「それじゃあ飲んでみるけど、これってどうやって飲むの?」



 「映画だと小さめのグラスで氷を入れて飲んでなかったっけ?」



 「うーん。とりあえずそのままいってみない?」



 ということで、グラスに半分ほど注いで、三人でグラスを持つ。当たり前だけど、ぬるい。



 「それでは、かんぱーい」



 音頭に合わせて、三人でグラスをぶつける。チン、と小さな音がなった。なんだか大人になったみたいで、すごく楽しい。



 ……。



 「なにこれ、まっず」



 「えっ、これやばい!」



 「辛すぎない?苦い気もするし」



 戦々恐々、ほんの少しずつ口に含んで味わってみるが、全くおいしさがわからない。ただ、先に飲むのをやめると負けた気がするから、誰もその手を緩めはしなかった。



 「えぇ~。こんなかんじか~」



 あれ。どうしたんだろう。



 「これでも、あれだね。あれ」



 「あれってどれ?」



 「あれだよ。んふふ~」



 何が面白いのかはわからないが、理子が笑い出した。



 「ていうかこれ量多くない?全然減らないんだけど」



 舐める程度の飲量では、液体は一向に減らない。



 「じゃあ一気にいってみよう~」



 完全に悪乗りだったけど、私も自分が何をやっているのか段々とわからなくなってきて、それを止めることが出来なかった。



 「えいっ」



 ごくり。真琴が一度、喉を鳴らす。



 「……どう?」



 訊くと、真琴は何も言わずにグラスを置いて、ソファに寝そべってしまった。中身はまだ残っている。



 「あれ~、酔っぱらっちゃったの~?」



 きゃははと理子が笑った。その時、玄関の扉が開いたのが分かった。そのまま足音はお風呂場へ向かう。



 「あれ、お兄さん帰ってきたんじゃないの~?」



 「うん。そうだと思う」



 なぜそんなことをしようと思ったのかはわからないけど、おもむろに立ち上がると、私はお兄ちゃんのお風呂を覗きにいった。
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