義理の妹が結婚するまで

夏目くちびる

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第三章 二つの傷

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……翌日、納豆ご飯一合半程度を体に入れて家を出た。通学は駅まで徒歩、そこから電車だ。



 バッソルは死んだ、もういない。



 とうとう寿命が来てしまったのだ。元々過剰に乗り回していた物を、大学までの距離を移動するようになって力が尽きてしまった。新しいバイクを買うために溜めていた金は独り暮らしに回してしまった為、こうしてテクテクと歩いて通学している。



 引っ越してきてからママチャリ(シティサイクルと言った方がいいだろうか)を八千円くらいで購入したのだが、買ってから一週間も経たないうちにスーパーで買い物をしている間に盗まれて、挙句近所の川に捨てられていた。鍵をかけ忘れた俺が悪いのだが、これではあんまりだ。というか、この街治安悪すぎだろ。



 それからというもの、涙を流さずに済むよう歩いて通学するようになった。まあ、大量に食べなくなったり大学での活動に時間を取られたりで相対的に運動の量も減ったから、運動不足解消にちょうど良かったのかもしれない。そう思っておこう。



 閑話休題。



 駅を跨いで十数分、ようやく俺が通う海明大学に辿り着いた。キャンパスはかなり広い。講堂や校舎が何棟かあり、部室棟に図書館。食堂、イベントホールが二つ。生徒の数が多いだけあって、相当儲かっているに違いない。そうでもなければ、誰も入館しない記念会館など作るわけがない。俺のバイト代の一部があそこに置かれる骨董品になるのかと考えると、胸が熱くなる。



 第二校舎へ向かい、三階の教室の前の方の席に座ると、俺はペンとノートを取り出して教授の到着を待った。始業の二十分程前だ。



 一番前に座るほどやる気はないが、何となく勉強したい時に俺はこの真ん中より少し前の席に座る。それでなくても、後ろの席は支配者たちの独擅場だから中々座ることはできないが。



 ぼーっと窓の外を見ていると、トラが現れた。日向虎緒、俺が所属するシーズンスポーツ同好会(トラが設立したサークルだから俺は初期メンバーということになる)の部長であり、やはり同じピザ屋で働く仲間。



 「よっす。調子はどうだ?」



 他愛のない会話で時間を埋める。その最中で顔見知りが何人か集まり、いつの間にかちょっとした集団になっていた。



 輪の中心はやはりトラ。こいつのカリスマは一級だ。大学に入ってから段々と人当りが良くなっていき、気が付けば学科内の人気者になっていた。曰く、知り合いの飲み会に呼ばれない日はないらしい。



 アノニマスとして皆の話を聞いていると始業のベルが鳴り、程なくして教授が教室に入った。トラの周りに集まる人間は場を弁えて行動できる常識人が多い。授業中に喋ったり、マナーを破るような人は少ない。静かに過ごしたい俺としては、それはありがたいことだった。



 ……そんな調子で午前中の予定が全て終わった。午後には講義を入れていないから、その足でサークルへ参加するのが定石だ。



 シーズンスポーツ同好会は、名前の通りサーフィンやスキーを嗜もうということで設立されたサークルだ。といっても俺にそんな経験はなく、今年の夏も数回海へ行ったもののボードの上から何度も転落してはメンバーの笑いを誘った。あれはあれで楽しかったが。



 部員は十数人。正確な数字を把握できていないのは、時々既存の部員が新しい生徒を勧誘してその数が増えていくからだ。始めたときにはトラと俺だけだったのだが、全く、の手腕には感服する他ない。



 今日は九月中の連休の計画を立てるべく集まった。バーベキューをするらしい。会場と食材の購入ルートは既に予約済みで、後は人数と費用の把握のみ。ちなみにその辺の業務は俺が担当している。(一応副部長だからだ)



 程なくして話はまとまった。決まったことを議事録にまとめて、今日のサークル活動は終わり。



 何人かは部室に残るようだ。まだ昼過ぎだというのに、もう今晩の飲み会の予定を立てている。なぜ大学生という生き物はこんなに飲み会が好きなのだろう。



 俺はというと、今日は気分が乗らない。誘ってもらってせっかくだがパスすることにした。



 皆に別れを告げ、独り駅へ向かう。電車に乗ると家には帰らず、繁華街のある駅に向かった。そこでゲームセンターに寄って格闘ゲームをプレイし、次にカラオケで一時間程熱唱した。



 誰かと行けばいいのに。見る人が見ればそういうだろう。だがそういう日もあるのだ。俺は今日、独りで遊びたかった。



 あまりイケてない大学生の日常を満喫すると、途中スーパーで出来上がったばかりののり弁を買って、俺は満足に浸りながら家へ戻った。



 しばらく歩いてアパートの階段を上ると、そこには見慣れた顔があった。



 ……。



 「お兄ちゃん、久しぶり」



 満面の笑みだった。



 二ヶ月ぶりの義妹の姿。その背中には、大きなボストンバッグを背負っていた。
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