❰完結済!❱堅物牛乳(ウシチチ)お父さんと激しくラブしたい!

蒼い色鉛筆

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じゅうななぱいめ

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四葉さんと付き合ってることは学校内の誰にも話していない。お互いの交遊関係が壊れるのも嫌だし、彼女も人前でベタベタ甘えるタイプではない。いやむしろ淡白過ぎるくらい淡白のようだ。

しかし勘というか空気感というのか、僕が誰かと付き合っているのはなんとなく周知されているらしい。以前は時々、晴れた日は中庭でこっそり彼女からお弁当食べさせてもらったり恋人っぽいこと…?をしていたが、それも気になるのか四葉さんからやめようと言われてしまった。残念……。

僕の舌はすっかり肥えていて、パサパサのパンやちょっと物足りないコンビニ弁当なんかでは満足出来ない体になってしまっていたもんで、突然の話に大変困ってしまったが、それでも女神のような四葉さんが朝イチにこっそり、僕の机にお弁当を潜ませてくれているおかげで心身の健康は保たれている。

見た目やメニュー、毎日少しずつ違う工夫を凝らしてくれる彼女の労りに僕は、何か恩返し出来ているのだろうか…キスはしたが、それ以上手を出していない。与えられることに慣れてお返し出来ていない自分に自信喪失して、思いきって彼女に聞いてみたことがある。
すると彼女はニコニコして…「大丈夫、ウチ、今が1番楽しい。明日も楽しみなんだ。」と答えた…ああ、高橋パパ、なんて良い娘さんに育てたんだ…!心の中で拍手してしまった。天使すぎる…!

求められない以上、彼女の言葉を信じている。それでも彼女にとって自慢できる世界一の彼氏でありたい情熱は常日頃感じている。例えばそう、週末最後の授業は選択体育で、体育館組の僕はバスケ、グラウンド組の四葉さんはマラソンをしていた。

地区大会優勝する彼女にとってグラウンド10周は退屈この上ないだろう。普段ならおまけで自主練しているそうだがグラウンドの休憩場所からは体育館内がよく見える。

だからもしかしたらカッコいいところ見せられるかもしれない…そんな熱意が蒼雨にはあった。

キュッキュイッキュッ

冬の体育館の床はスケートリンクのように冷えきっているが今は高校生男子の熱気で独特のシューズの音を甲高く鳴らしている。

「うおおおお!やっちまええー!」

応援組も寒さを忘れ、館内に響くほど声を張る。身体能力抜群の蒼雨は攻撃側として攻め、試合は白熱していた。

「パスパスパス!」

「蒼雨マークされてる!抜かせ!」

「ッシ!パス!…っ行くぜ!」

「アメくんがんばれーーー♡♡」

グラウンドの周回終わり組の暇そうなスズキさんたちが体育館の出入り口から黄色い声援を浴びせてくれる。そっちにスマイルを送る余裕はないが、視界の端で四葉さんの姿を確認した。

素早く険しい眼光をバスケットゴールに合わせ、迫り来る若い男の汗を蹴散らし、しなやかな動作でゴールに近付く。当然おまけをいっぱい引き連れながら…

「くっ…!」

ダメだ、どこから投げても途中でブロックされてしまう、一旦味方に投げよう…!
汗がキラッと散る頭を振って一瞬の判断に任せたのは…

「ヤマミチ!パス!」

「ッラァ!ボールの扱いは任せろや!」

その右手に吸い込まれるようにしてクラスメイトがパスを受け取る。そちらに敵が群がってる隙に蒼雨はゴールに近付き、叫んだ。

「パス!」

もうヤマミチは限界だ、ガチバスケ部にもみくちゃにされて1秒ともたない。ゼッケンを引っ張られ鎖骨だヘソだ見せつけながらも、彼は全力でパスを試みた。

「ーーーー!」

これで勝負が決まる…!

もう時間はない、僕が決めなきゃ1点差で負けてしまう盤面ーー

ボールは途中、2mのバスケ部の伸ばした指をかすり、ヘナヘナと予測不能の弧を描く。

集中だ、集中しよう!

顔中に力を込めて蒼雨はルール違反ギリギリの妨害を受けながらもボールに手を伸ばしーーー


グキッッ


「っーーーーー!!!!!」

刹那、沸騰直前だった血液が一気に氷点下まで下がった。


何が起こったか一瞬で理解してしまった。


ボールはラインを超えてポンポン遠くへ転がっていき…蒼雨はその場でうずくまる。


「いっっっでえええええええええ!」

演技する余裕なんて皆無、情けない雄叫びを体育館内に響かせたことで全員が我に返り、試合どころではなくなった。親しい友人から先に異常に駆けつけてくれ、悶える蒼雨を心配してくれた。

「どうしたアメ!」

「花文くん怪我したの!?」

「キャーー!担架!担架よー!!」

見守っていた女子の悲鳴も相まってカオスな空間となった、が体育教師が天井に向かってパンパンと手を鳴らすと全員が押し黙った。そして蒼雨の元へ駆け寄り、無表情で無慈悲に痛む手を掴んだ。

「いぎゃっ…!」

イタイイタイと泣きそうだった蒼雨は最後まで庇っていた手を力ずくで奪われ、ちょっと泣いた。

「…骨折はしてない、突き指だ。保健室。」

教師の太い指は真っ直ぐ保健室を指していた。ぐすんぐすん、少し高橋パパと体格が似てるくせに鬼!悪魔!冷血漢!と心の中だけで罵倒しながらヨロヨロと保健室へ向かう。

「花文くん大丈夫ーーーーー!?!?」

その後ろを3、4人の女子がゾロゾロと追いかけて手厚い介護を受けつつ、体育館を後にした…。

*******************

ピアニストみたい、と褒められる白魚のように白く長い蒼雨の左手、中指~小指は腫れ上がり、変色したクリームパンのようになってしまった。

やる気のない保健室の先生は処置こそは、しっかりしてくれたが気になるなら病院でレントゲン撮れば?って投げやりな感じで放り出された。まあ、病院行けって強要されても行く気ないからいいけど…。

「大丈夫?大丈夫?大丈夫?花文くん大丈夫?まだ痛い?大丈夫?痛い?」

「あ、アリガト、ヘイキ、ダイジョウブ、ハハハ。」

どうして女子って過剰に心配するんだ…毎秒聞かれたってすぐには治らない。過保護に甘やかされているのは分かっているが、ファンクラブ()の女子へイライラをぶつけたくないからいつもより微妙なスマイルで返事することしか出来ない。
遠巻きで四葉さんの視線を感じる…心配してくれてるんだろうなぁ、と思いつつ過剰に世話してくれる女子へのお礼に忙しいーーー。

「ウン、ダイジョウブ、ウン、アリガトヘイキ。」

結局その日は怪我した蒼雨が1番疲れていた。家に帰って、自分の部屋のベッドに寝転がるのが最大の幸せを感じた。

今朝までは健康そのものだった左手がジンと熱く痛む度にモヤモヤと不明瞭な不安を感じる。こんな時こそ、日曜日のデートを思いっきり楽しもう。四葉さんが甘やかしてくれることを期待してベッドの上で寝返りを打ち、右手だけでスマホを操作する。
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