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大事故です
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中2年の春、私は生まれて初めて転校を経験した。
そもそもは、本当は中1の秋に引っ越すはずだった。でも、新しい環境に馴染むならクラス替えのタイミングが良いだろうと両親が気を遣ってくれたのだ。仕事の都合もあり、父だけは先に単身赴任して、私と母は後から行くことになっていた。
お陰で地元の友達ともじゅうぶん別れを惜しめたし、転校先の制服も事前に準備できて、本当に両親の優しさには感謝しかない。
担任の先生の後をついて行きながら、私はこっそりとミラーを取り出して、身だしなみを再確認する。前髪をちょっと切りすぎたのが気になって仕方ない。
教室に着くと、先生が「席に着け~」と言いながら扉を開けた。どこに行っても先生って同じ事言うんだなぁと、私は緊張しながらもほんの少しフフッとなる。
先生の背中越しに、ざわざわする教室を覗きながら教室に入ろうとした時。
「……ぁ」
見覚えのある……というか、見覚えのある姿が縦に伸びたような男子とバッチリ目が合った。
相手も目を見開き、固まっている。
(りっくん?!)
小学5年の時に転校していった幼馴染みの情報がブワワッと脳内を駆け巡った、直後。
ブゥンと、ウーハーから出るような大音量の重低音が響いた。
それと同時に、私が今まさに足を踏み入れようとしていた教室の床が、真っ白に光った。……正確には、真っ白な小さい光が、とんでもない早さで床の上を走り回り、あっという間に巨大で複雑な模様を描いているように見えた。
光は私のスカートの下をも通り抜けて行き、教室の床全面が白い模様で埋め尽くされる。
それはまるで、魔方陣のような模様で。
次の瞬間、その模様の「外側」と「内側」の空間は分断された。
……その両方に片足ずつ置いていた私だから気付いた。
前に踏み出していた左足は、魔方陣(仮)の内側に。右足はまだ魔方陣(仮)には入ってなかった。
もう一度言うけど、空間は分断された。
私の身体は、魔方陣(仮)に入り込んでいた部分だけが「内側」に取り残されて、「あ」と思う間もなく無防備に床へ落下した。
崩れ落ちる瞬間に視界に入った私の身体は、胸像みたいに胸元までしかない。その先に繋がるはずの、お腹もお尻もなく、ただ太ももから先だけの左脚が、私の上半身の横にボテッと倒れてきただけだった。
自分に何が起こったかは何故か冷静に把握できていたけれど、びっくりするばかりで痛いとか怖いとかはなかった。
「眞砂!!」
わーきゃーと悲鳴が上がる教室の中から、私の名前を叫ぶ声。
白く発光している床に転げ落ちた私の視界は自分の脚が見えるばかりで、教室の中が見えない。私は「まだ自己紹介してないのになぁ」と場違いな事を思う。
「眞砂!まさ……っ…あぁ……嘘だろ、おい眞砂!」
べちゃりと床に落ちていた私の上体を抱き抱えたのは、先ほど教室の中に見えた懐かしい顔の少年だった。
(やっぱり、りっくんだ……)
同じ年に生まれてから、小学5年生までお隣の家に住んでた、家族の次に長い付き合いの男の子。クラスではリーダー格でほんのちょっと大人びた振る舞いをしていた癖に、私にだけは半泣きで悩み事を打ち明けてくるような、一番の仲良しだった。
名前を呼ぼうとしたけど、声が出ない。というか、さっきからどうも息が出来てないようだ。きっと、肺は「外側」に置いてきてしまったのだろう。
懐かしい顔があんまりにも悲壮な表情で私を見下ろしているので、唯一動く表情筋を頑張って動かし、微笑んで見せる。
「なんでこんな……眞砂っ……」
彼はくしゃりと顔を歪ませ、私の上体をぎゅと抱え込んだ。
(相変わらず、りっくんは泣き虫だな……)
頬にぽたぽたと落ちてくるものを感じながら、私の意識は急速に闇に沈んで行った。
そもそもは、本当は中1の秋に引っ越すはずだった。でも、新しい環境に馴染むならクラス替えのタイミングが良いだろうと両親が気を遣ってくれたのだ。仕事の都合もあり、父だけは先に単身赴任して、私と母は後から行くことになっていた。
お陰で地元の友達ともじゅうぶん別れを惜しめたし、転校先の制服も事前に準備できて、本当に両親の優しさには感謝しかない。
担任の先生の後をついて行きながら、私はこっそりとミラーを取り出して、身だしなみを再確認する。前髪をちょっと切りすぎたのが気になって仕方ない。
教室に着くと、先生が「席に着け~」と言いながら扉を開けた。どこに行っても先生って同じ事言うんだなぁと、私は緊張しながらもほんの少しフフッとなる。
先生の背中越しに、ざわざわする教室を覗きながら教室に入ろうとした時。
「……ぁ」
見覚えのある……というか、見覚えのある姿が縦に伸びたような男子とバッチリ目が合った。
相手も目を見開き、固まっている。
(りっくん?!)
小学5年の時に転校していった幼馴染みの情報がブワワッと脳内を駆け巡った、直後。
ブゥンと、ウーハーから出るような大音量の重低音が響いた。
それと同時に、私が今まさに足を踏み入れようとしていた教室の床が、真っ白に光った。……正確には、真っ白な小さい光が、とんでもない早さで床の上を走り回り、あっという間に巨大で複雑な模様を描いているように見えた。
光は私のスカートの下をも通り抜けて行き、教室の床全面が白い模様で埋め尽くされる。
それはまるで、魔方陣のような模様で。
次の瞬間、その模様の「外側」と「内側」の空間は分断された。
……その両方に片足ずつ置いていた私だから気付いた。
前に踏み出していた左足は、魔方陣(仮)の内側に。右足はまだ魔方陣(仮)には入ってなかった。
もう一度言うけど、空間は分断された。
私の身体は、魔方陣(仮)に入り込んでいた部分だけが「内側」に取り残されて、「あ」と思う間もなく無防備に床へ落下した。
崩れ落ちる瞬間に視界に入った私の身体は、胸像みたいに胸元までしかない。その先に繋がるはずの、お腹もお尻もなく、ただ太ももから先だけの左脚が、私の上半身の横にボテッと倒れてきただけだった。
自分に何が起こったかは何故か冷静に把握できていたけれど、びっくりするばかりで痛いとか怖いとかはなかった。
「眞砂!!」
わーきゃーと悲鳴が上がる教室の中から、私の名前を叫ぶ声。
白く発光している床に転げ落ちた私の視界は自分の脚が見えるばかりで、教室の中が見えない。私は「まだ自己紹介してないのになぁ」と場違いな事を思う。
「眞砂!まさ……っ…あぁ……嘘だろ、おい眞砂!」
べちゃりと床に落ちていた私の上体を抱き抱えたのは、先ほど教室の中に見えた懐かしい顔の少年だった。
(やっぱり、りっくんだ……)
同じ年に生まれてから、小学5年生までお隣の家に住んでた、家族の次に長い付き合いの男の子。クラスではリーダー格でほんのちょっと大人びた振る舞いをしていた癖に、私にだけは半泣きで悩み事を打ち明けてくるような、一番の仲良しだった。
名前を呼ぼうとしたけど、声が出ない。というか、さっきからどうも息が出来てないようだ。きっと、肺は「外側」に置いてきてしまったのだろう。
懐かしい顔があんまりにも悲壮な表情で私を見下ろしているので、唯一動く表情筋を頑張って動かし、微笑んで見せる。
「なんでこんな……眞砂っ……」
彼はくしゃりと顔を歪ませ、私の上体をぎゅと抱え込んだ。
(相変わらず、りっくんは泣き虫だな……)
頬にぽたぽたと落ちてくるものを感じながら、私の意識は急速に闇に沈んで行った。
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