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遊撃部隊入隊編

十二話 

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 『こ、こちら桐島、正体不明の大厄を目視、至急応援をっ』

 遊撃部隊からの回線、焦りを伴うその報告は雪の耳にも入る。

 「巴さん、こちらの戦線はなんとかする、遊撃隊の援護を頼みますっ!」
 「了解」

 一番隊との連携を切り上げ、道路上から突入し報告のあった陸橋へ向かう。

 ――嫌な、予感がする。

 こみ上げる不安を誤魔化し、ただ駆ける。
 すると、別方向から大弓を担いで飛び込む巫女が一人。

 「雪さん、ご無事でしたかっ…、灯さんの援護に?」
 「はい、連絡を聞き駆け付けています、焔さんも?」
 「ええ…、しかし…正体不明の大厄、というのが引っ掛かります」
 「…先程の雷鳴と何か関係があるかもしれません、急ぎましょう」

 自然と足に力が入り、加速していく二人。
 遠くに見えていた橋が徐々に近づくと、大厄と対峙する二人の姿が映り始める。

 が、それは、その場にいる全員が戦慄し、耐えがたい光景であった。

 「あ、あぁぁ…ああああ!!」

 絶望の叫びが響き渡り、艱難辛苦の大厄が洋助を刺し貫く。

 「…嘘…なんで…」

 雪は状況を理解出来ずに、ただ、呆然と佇む。

 「…嘘、さっき、言ってくれた…」

 約束したはずの言葉、それを何度も何度も思い起こし、今この状況を間違いだと信じ込む、そうしなければ壊れてしまう。
 
 何を、伝えてくれたのだろうか。

 いや、何を伝えてくれるのだろうか。

 いつも優しく、鍛錬ばかりで、たまに意地悪な事も言うけどとても真っ直ぐな彼。
 そんな彼が顔を赤くして緊張していた、まるで、何か大事な事を伝えるように――。

 「――――焔さん、灯さんの援護を」
 「ゆ、雪さんっ!?」

 吹っ切る、彼が約束を違えるはずがない。

 動き出す艱難辛苦、それに合わせて雪は距離を詰める。
 放心し、周りが見えていない灯は、ぴくりともせず座り込む。
 その首を狩ろうと、大槍の切っ先が振り落とされる。

 「はぁッ!!」

 キィンッ、と鉄と鉄がぶつかり合う音が鳴る。
 
 間一髪、槍を止め灯を救う。
 が、もう一振りの槍が穿たれる。

 「灯さんッ!しっかりしてくださいッ!」

 焔は太矢を放ちその一撃を遮る、爆撃を伴うその矢は艱難辛苦の片手を射る。
 動きを止めた隙に焔は灯に肩を貸し、その場から離脱する。

 「―――焔…、洋助が…私を…庇って…」
 「今は何も考えないでくださいッ!とにかく生きて!それから考えてください!」
 「あたしは…あたしは……ぅ…ぅぅ…」

 堪えるようにすすり泣く。
 
 普段明るく、誰にでも気丈に振る舞う彼女だが、その芯は人一倍傷つきやすい。
 自分が大厄を仕留めそこない洋助が死んでしまった、その事実は彼女を追い詰めるのには十分であった。

 「―――ッふ!」

 二人を逃がすため応戦する雪。
 灯が放った一撃が効いているためだろう、艱難辛苦の動きに鋭さが無い、ここが勝機と捉え雪は反撃に打って出る。

 「巴流の神髄、ここに」

 雪は悠長にも自分よりも倍近く大きい相手に上段の構え。
 
 当然甘くなる脇を狙った横薙ぎが振られる、さらには刀の範囲外から突きの動作も見えている。
 これでは上段の一撃が決まろうとも追撃の突きで敗れる、艱難辛苦は突きか横薙ぎかの二択を迫る。

 「―――スゥ…」

 一呼吸、刃が向かうその寸前、静かに息を整える。

 「イヤーッァァ!!」

 ―――瞬間、閃光と化した斬撃が、艱難辛苦を切る。

 「オォォ…」

 ――巴流、御霊殺しの太刀。
 
 その絶技が決まり、艱難辛苦は仰け反り体勢を崩す。

 「ここまで、やって…、倒れないッ…」

 胴には抉れた切り傷、肩には鎧ごと砕かれた斬撃、その二つを受けて尚、艱難辛苦は立ち塞がる。
 しかし、流石に動きは止まりこちらを警戒するに留まる、雪も神力と体力の消費が激しいため呼吸を整え、間合いを保つ。

 『こちら二番隊、惨苦二体と交戦中っ…このままでは持ちませんッ!撤退許可をッ!』
 『一番隊、敵影の数が増えているッ…市街地へ侵入されます!』

 遊撃隊が離れた影響か、戦線が崩れ始める。
 かといってこの場から離脱しても艱難辛苦は全てを壊し、破壊する、選択は迫られる。

 「―――っつ」

 雪も限界は近い、致命傷こそないものの消耗が激しく、視界は霞んで見えている。
 好きな人が目の前で殺され、果敢に戦ったがそれでも無理らしい、目には涙が溢れる。

 「ごめん、洋助くん…」

 弱気になり、つい、名前を呼んでしまう。
 彼は水底に沈んだはずなのに―――


 ――なのに、なのに、その水底から、一筋の青い光が漏れ出す。


 水面を叩きつける大きな音、雨しぶきを上げながら陸橋に降り立ち、守るような後ろ姿で語り掛けるは名前を呼んだ彼。

 「――雪」
 「よ、ようすけ…くん」
 「ごめん…、遅くなった…」

 目は合わせず、背中で語る洋助は艱難辛苦を見据える。

 「少し…休んでいてくれ、俺は、大丈夫だから」
 「けど、それじゃ…洋助くんがっ」
 「大丈夫、約束…は、守るから…」

 それだけ言って刀を構える。
 その姿は幼い時見た祖父、巴宗一郎が大厄を切り伏せたその瞬間に似て、雪は懐かしさと共に絶対的な信頼を彼に抱いた。
 
 「終わりにしよう…大厄」

 悟った表情で対峙し、目を逸らさない。
 洋助の瞳には決意と覚悟、そして絶対的な力が宿り、蒼く輝く――。
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