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邂逅
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しおりを挟む『―――父と母が、朝……起きたら、いなくなってて……
私は、捨てられてしまったんです、どうして、でしょうか……』
少女が弱音と言ったそれは、決してそうではない。
両親に捨てられた事実を酔っ払いに語り、幼きあいは手のひらを固く握る。
安酒で歪んだ視界と思考、それでも、彼は彼女に返せる言葉を持ち合わせていた。
『大人なんて勝手ですぐ嘘をつく、それは親であっても友人であってもだ、
それをいちいち真に受けて悲しんでたら、人生忙しくてしょうがねぇよ』
『けど……』
『俺を見て見ろ、こんなバカだって幸せそうに生きてるだろ?
親がなんだ、捨てられた?アホをぬかすな、なんだってプラスに捉えろ、
お前はむしろ自由に生きる権利を拾ったんだよ、そう考えるんだ』
『自由、ですか……?』
『そうだ……っひっく……今まで親に何て言われてきた?
どうせあれやれ、これやれ、もしくは普段何も言わねぇ癖に、
大事な時だけ口をだす、違うか?それなら、こんなしがらみも無くなる』
『……お兄さんも、同じ経験があるんですか?』
『―――あぁ、ろくでもない父親と、馬鹿みたいに優しい母親がいた』
飲み切った缶を握りつぶし、公園のゴミ箱に向かって投げつける。
当然入る訳も無く、空き缶はあさっての方向に落ちてゆく。
『お前はさ、こんな大人になるなよ……
嘘しか言わない、言えない、詐欺師と呼ばれる大人には、な……』
『はい……あと、ちゃんとゴミは捨てないとダメです』
『あれ?入ってなかったかぁ……ごめんよ、今拾うから』
意外にも少女の一言に対して素直であり、彼はふらつきながら身を起こす。
途中つまずきながら缶を拾いゴミ箱に辿り着くと、上半身ごと缶をシュートした。
『ああっ!?何してるんですかお兄さんっ!?』
『うわぁーーー!!!助けてくれぇっーーー!!』
『何してるんですかっ…!!大人なのにっ……』
方向感覚を失い、すっぽりと収まったゴミ箱を倒して彼は転ぶ。
情けなく、少女に助けを求めて詐欺師はいそいそと引っ張られた。
『ういぃ……助かった、この恩は一生忘れないからな』
『本当にだらしない人ですね……そんな恩より、駅までの道知らないですか?』
『えきぃ…?そんなんタクシー呼べばいい、ちょっと待ってろ』
すると、彼は割れたスマホを取り出して震えた手で電話を繋ぐ。
滅茶苦茶な話し方で通話すると、高笑いしながら用件を伝えていた。
そして、通話を終えて歩き出すと、スマホを意味も無く河川に放り投げるのであった。
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