愛と詐欺師と騙しあい

作間 直矢 

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日常

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 「洋助さぁん……」

 「なんだ、礼なら別にいいぞ」

 「いやそうじゃなくてッ!?流石に酷くないですかッ!?」

 「はぁ?助けてやったんだからあのぐらいの戯言は聞き流せよ、
  それともなんだ?茜みたいにあっちこっちで遊びまくってんのか?」

 「ふへッ!?そんな訳ないじゃないですかッ!?
  なんなら私、洋助さんとしかっ―――」

 「あーはいはい、分かったから仕事の話をしろよ」


 不要な言葉を切り下げて、本題へ入る。


 「っもう……いつも適当なんだから、
  それでだけど、電話で話した詐欺依頼の件、受けてくれるんだよね?」

 「あいに仕事しろって言われたからな、仕方なく、だ」

 「まーたあいちゃん?本当にべったりじゃないですか……」

 「うるせぇ、早く依頼内容を言え」


 自然な流れで喫煙所に辿り着き、人のいない隅まで移動した。

 ヤク子が煙草を咥えて火を着け、煙が漂うと彼女は切り出す。


 「今日、マークしていた詐欺師の一人を捕獲した、
  そいつが知っているであろう情報、それを聞き出したいの」

 「ふーん、お前の能力じゃ口を割らなかったのか?」

 「自白剤打たせて、爪剥がして脳神経ぐちゃぐちゃにしてみたけど
  ダメだった、これ以上やると死にそうだったから一旦眠って貰ってる」

 「最近の詐欺師にしては珍しく口が堅いな、それで俺の出番ってわけか」

 「対象は女、年齢は三十四歳……前は大手商社で働くバリバリのキャリアウーマン、
  詐欺能力を持ってからは暴力組織に雇われて活動してたみたい」

 「それで、何を聞き出せばいい?組の構成員か?
  それとも他に所属する詐欺師の情報か?」


 手持無沙汰となり、話をしながらヤク子が咥えていた煙草に視線を落とす。

 暇なので口元の煙草を奪ってそれを吸い、話を聞いた。


 「……もう、吸いたいなら新しいやつあげるのに」

 「火を着けるの面倒だし、これでいい」

 「まぁ、私的には間接キスで嬉しいからいいけど、
  ……で、聞き出して欲しい情報だけど、逃げた詐欺師の居場所」

 「逃げた詐欺師?」

 「本来、捕まえるはずだった詐欺師は二人、
  一人は今尋問中の女、もう一人は組に加担していたフリーの詐欺師」

 「外部から金で雇った詐欺師か、ならもうとっくに逃げただろ」

 「それじゃマズいから、こうしてるんだよ」


 事情を大体理解し、吸い慣れない銘柄の煙草を揉み消した。

 要は仕事のミスを俺が拭えって訳だ。
 使いっパシリもいいとこだが、仕事を選ばないのが一流の社会人。

 帰ったらあいに教えてやろう。


 「よし、大体わかった」

 「場所は織田クリニックが管理する倉庫、案内するよ」

 「―――さぁーて、仕事の時間だ」


 漂った煙を振り切って、俺達は詐欺師のいる場所へと向かうのであった―――

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