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転生編
はじまりの草原
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俺は困惑した。
今、俺は草原に立っている。
周りには自分の背丈ほどの草。その真ん中の一本道の脇に俺は立っている。
鎧を着けたトカゲ男のような生き物が荷物を背負って目の前の道を駆け抜けていく。こんなのが今までいた世界にいれば、たちまちUMAとして有名になることだろう。
ここは、今までとは違う世界というのがわかった。
そして、青い空に顔を向けて考える。
どうしてこうなった。
**********
体感で45分前、高校1年生の俺、岩谷 純也は学校から帰る途中だった。
横断歩道を渡ろうとしたところだった。
耳朶を打つ、クラクションの音。横を見た時にはもう遅く――瞬間、激しすぎる痛みが、苦しみが俺を襲った。
体がバラバラになるような、否、実際にバラバラになっている。体中の筋肉がちぎれ、皮膚がちぎれ、血が噴き出し、骨が折れて――痛み、痛み、痛み。熱い。ああ、熱い!
叫んだその時、ぷつんと何かが切れて……すべての感覚が、消失した。
そうして、俺の16年間の人生はブレーキが故障した暴走トラックに轢かれるという結末で幕を閉じた。
――15分ぐらい夢を見た。
紅く、黒く、鮮やかで残酷な夢。
何かを殴っては壊し……蘇ったそれをまた殴り……それを繰り返す夢。悪夢。
今思うと、その時は発狂していたのかもしれない。いま、妙に冷静で落ち着けているのはこれが原因だろうか。
そのあと、次第に普通の色彩に戻り……。
目を開けると、そこは暗い神殿のような空間だった。
目の前では白いひげを長く伸ばしたおじいさんが呪文を唱えていた。
恐らく、あれは神様だったのだろう。
床には魔法陣。
5分ほど経つと、それは光りだす。
強くなっていく光の中から神様の「能力無いけど、とりあえずがんばれ~」と手を振って送り出す姿ははっきりと見えた。
……あ、ちょっと待て。今思い出したが、能力無いってどういうことだ?
だが、今は措いておくことにしよう。
そして、25分ぐらい前にこの場所で起き上がった。
**********
……ということで一時間ほどここに立っているが、人間のようなものが全く通らない。
ただし、文明的なものがあることは、トカゲ男が鎧を纏って荷物を運んでいたことからわかった。
この道の先には村があるのだろうか。
考えているだけでは何も変わらないので、動くことにした。
この先の村に行こう。そうすればどうにかなるはずだ。
約15分歩いた。つい誰が聞くでもないのに弱音を吐く。
「腹減ったぁ」
そういえば昼から何も食べていない。だいたい……
もう日が傾き始めた。
食べるものを探しても食べものは無く、野宿をしようにも必要なものが無い。というか、ここで野宿をしたら野獣や魔物に襲われかねない。寝ているところを襲われたら確実に死ぬだろう。
一日に二度も死にたくはない。なので、歩き続けるしかない。
1時間30分は歩いただろうか。人どころかトカゲ男にも会わない。
魔物とは何度かすれ違ったが、そのほとんどがスライムだった。RPGにはつきものな雑魚モンスターだが、食べられそうにもないし、そもそも倒せそうにもない。
景色はずっと変わらず、一面の草原の真ん中に黄土色の土がむき出しの道があるだけだ。村なんて無い。そう思ってしまう。精神が擦り切れそうだ。そんな事を考えつつ歩き続ける。
どのくらい歩いただろう。もう空は暗く、星が綺麗に輝いている。もう走れないし歩くのがやっとである。
誰もいない。何も無い。そこに変化が生じた。
突然、草むらから魔獣が現れた。
自分より1メートルほど高い身長、グルグルと唸りながらこちらに近づく4本足の獣。巨大な犬だった。
頭の上に来た大きな口をあけて頭に喰らいつこうとする魔獣に、俺は成す術なんて無かった。
犬に食われて死ぬ。
神様がくれたチャンスを一瞬で棒に振った。
そう思ったとき、一人の男が現れた。
その男は、魔獣を後ろから剣で斬った。
魔獣の注意は彼に向いたようだった。
彼は魔獣と戦い、すぐに勝った。
魔獣は倒れ、血を撒き散らす。彼は、俺に気付いたようでこっちに向かって話しかけてきた。
野太い声で「おーい大丈夫かー!」
「――食べ物ください……」
答えになっていないことに気付かずにそのまま安心して倒れこんだのだった。
今、俺は草原に立っている。
周りには自分の背丈ほどの草。その真ん中の一本道の脇に俺は立っている。
鎧を着けたトカゲ男のような生き物が荷物を背負って目の前の道を駆け抜けていく。こんなのが今までいた世界にいれば、たちまちUMAとして有名になることだろう。
ここは、今までとは違う世界というのがわかった。
そして、青い空に顔を向けて考える。
どうしてこうなった。
**********
体感で45分前、高校1年生の俺、岩谷 純也は学校から帰る途中だった。
横断歩道を渡ろうとしたところだった。
耳朶を打つ、クラクションの音。横を見た時にはもう遅く――瞬間、激しすぎる痛みが、苦しみが俺を襲った。
体がバラバラになるような、否、実際にバラバラになっている。体中の筋肉がちぎれ、皮膚がちぎれ、血が噴き出し、骨が折れて――痛み、痛み、痛み。熱い。ああ、熱い!
叫んだその時、ぷつんと何かが切れて……すべての感覚が、消失した。
そうして、俺の16年間の人生はブレーキが故障した暴走トラックに轢かれるという結末で幕を閉じた。
――15分ぐらい夢を見た。
紅く、黒く、鮮やかで残酷な夢。
何かを殴っては壊し……蘇ったそれをまた殴り……それを繰り返す夢。悪夢。
今思うと、その時は発狂していたのかもしれない。いま、妙に冷静で落ち着けているのはこれが原因だろうか。
そのあと、次第に普通の色彩に戻り……。
目を開けると、そこは暗い神殿のような空間だった。
目の前では白いひげを長く伸ばしたおじいさんが呪文を唱えていた。
恐らく、あれは神様だったのだろう。
床には魔法陣。
5分ほど経つと、それは光りだす。
強くなっていく光の中から神様の「能力無いけど、とりあえずがんばれ~」と手を振って送り出す姿ははっきりと見えた。
……あ、ちょっと待て。今思い出したが、能力無いってどういうことだ?
だが、今は措いておくことにしよう。
そして、25分ぐらい前にこの場所で起き上がった。
**********
……ということで一時間ほどここに立っているが、人間のようなものが全く通らない。
ただし、文明的なものがあることは、トカゲ男が鎧を纏って荷物を運んでいたことからわかった。
この道の先には村があるのだろうか。
考えているだけでは何も変わらないので、動くことにした。
この先の村に行こう。そうすればどうにかなるはずだ。
約15分歩いた。つい誰が聞くでもないのに弱音を吐く。
「腹減ったぁ」
そういえば昼から何も食べていない。だいたい……
もう日が傾き始めた。
食べるものを探しても食べものは無く、野宿をしようにも必要なものが無い。というか、ここで野宿をしたら野獣や魔物に襲われかねない。寝ているところを襲われたら確実に死ぬだろう。
一日に二度も死にたくはない。なので、歩き続けるしかない。
1時間30分は歩いただろうか。人どころかトカゲ男にも会わない。
魔物とは何度かすれ違ったが、そのほとんどがスライムだった。RPGにはつきものな雑魚モンスターだが、食べられそうにもないし、そもそも倒せそうにもない。
景色はずっと変わらず、一面の草原の真ん中に黄土色の土がむき出しの道があるだけだ。村なんて無い。そう思ってしまう。精神が擦り切れそうだ。そんな事を考えつつ歩き続ける。
どのくらい歩いただろう。もう空は暗く、星が綺麗に輝いている。もう走れないし歩くのがやっとである。
誰もいない。何も無い。そこに変化が生じた。
突然、草むらから魔獣が現れた。
自分より1メートルほど高い身長、グルグルと唸りながらこちらに近づく4本足の獣。巨大な犬だった。
頭の上に来た大きな口をあけて頭に喰らいつこうとする魔獣に、俺は成す術なんて無かった。
犬に食われて死ぬ。
神様がくれたチャンスを一瞬で棒に振った。
そう思ったとき、一人の男が現れた。
その男は、魔獣を後ろから剣で斬った。
魔獣の注意は彼に向いたようだった。
彼は魔獣と戦い、すぐに勝った。
魔獣は倒れ、血を撒き散らす。彼は、俺に気付いたようでこっちに向かって話しかけてきた。
野太い声で「おーい大丈夫かー!」
「――食べ物ください……」
答えになっていないことに気付かずにそのまま安心して倒れこんだのだった。
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