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冒険者たちの青春編
少年少女よ大志を抱け
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何事も無く森を歩き、さらに十数分。
疲れた疲れたと連呼しながら歩いていたら、突如、巨大な影。
自分より1メートルほど高い身長、グルグルと唸りながらこちらに近づく4本足の獣。巨大な犬だった。
あれは、まさか……
「ウルヴェン!?」
ラビが叫び――俺たちはとっさに草の中に隠れた。
何故ここに!?
正直言って、あれはトラウマだ。
転生したてのとき――あれは、死んでから2時間30分後ぐらいだろうか――ふらふらと草原をさまよっていたところ、偶然出くわしたあの魔物に食べられかけたのだ。
「恐らく、コボルトを追って、ここまできたのでしょう。あわよくば、通りかかった人間を食べようとも思っていたのではないでしょうか」
おいおい、まじかよ。だとしたら……。
「つまり、あたしたちを食べたいのね~」
チェシャがのんびりした声で恐るべき事を言った。
「それ、絶体絶命じゃない!?」
俺の言葉にラビは、
「はい、そうですね。と、言うことで、戦いましょう」
あっさりと返答。
というか、ラビ、体力すごいな……。
「えっ、戦うの!? 私、もう魔力残ってないよ!?」
そこで思い出した。
「そういえば、魔力回復ポーション持ってきてた」
「おや、準備がいい」
こんな事もあろうかといくつか買っておいたのだ。供えあれば憂いなしとはこのことである。
「ちなみに私も持ってきました」
俺とラビは、それぞれ4本ずつ持ってきたので、合計8本。一人2本ずつ。一気に飲んで多少の魔力回復。隕石を落とすことはできないものの、これであと少しだけ戦える。
そして、目の前の巨大な魔物を倒すための作戦をひねって――数秒後、草の陰から一人の少年が飛び出した。
ウルヴェンから見て斜め後ろ、足の付け根の辺り。魔力の光が、炸裂した。
「槍技、豪雷突!!」
ラビの、魔力をまとった渾身の一撃が魔獣を襲う。
突然の出来事に驚き、振り返ろうとする獣。しかし、動くことはできなかった。
実は、ラビの槍に火花魔法を付与しておいたのだ。
予想通り、筋肉が麻痺して動かなくなった魔獣。
そして、俺は指示――――宣言をした。
「みんな、総攻撃だ!!」
その瞬間、一気に魔法が炸裂、色とりどりの光が魔獣を包み込む。一息おいて、俺とラビも魔獣の身体へと斬りこんだ。
魔法、剣技、槍技、そして、魔獣の血。さまざまな色が散乱する。魔獣の命は確実に減っていく。
一方的な攻撃は1分間も続いた。
そして、動き出した魔獣は、ふらついていて、弱っているのがよくわかった。HPバーがあるならば、もう赤くなっているところだろう。
しかし、計算違いというものは誰にでもある話である。
魔獣はなぜか俺に向かってきたのである。
牙をむき、こちらに走る巨大な犬。誰にだってわかるほどのどす黒い殺気を迸らせて向かってくる。
それは、本能からの恐怖を呼び起こすのには十分だった。
とっさに二刀をバツの字に重ね合わせて防御態勢をとるが――
「だめだ、受け止めきれない……ッ!」
元の攻撃力が高い上に、スピードが出ている。あたかも、俺をこの世界へと導いた、ブレーキの壊れたトラックのように。
背筋が寒くなる。あの瞬間を、痛みを、熱を、苦悶を、恐怖を、絶望を、色彩を、感覚を――鮮明に想い出される『死』の瞬間。それが、瞼の裏に映った。
魔獣は肉薄していた。獣は速度を緩めずに突っ込んだ。俺は悲鳴を上げ――その瞬間だった。
「リフレクション・シールド!!」
アリスの声が響き渡り、俺の前に青い透明な壁が現れた。
魔獣はそれにぶつかる。
しかし、その壁は慣性の法則でたわんでしまう。それはまるでトランポリンのように――。
トランポリン。その言葉を思い出したとき、何が起こったのかを理解した。そして、これから何が起こるのかも。
壁が、大きくしなる。たわんで、しなって、やがて俺のすぐ目の前で動きを止め――瞬間、壁が一気に元に戻り、魔獣の体を丸ごと跳ね返した。
反射防御壁……その鉄壁の防御でもって攻撃を防ぎつつ、その極限の弾性でもって、攻撃を数倍の力で反射する魔法。
それに最大限の力で打ち込んできた魔獣は、その何倍もの力で打ち返され、飛んでいき、近くの木にぶつかり、そのまま体中から血を噴き出した。
絶命したのか……?
いや、それでもぴくぴくと動いている。
しぶといやつだ……!
でも……これならいける!
俺はバッグから短剣を取り出し。
「付与・火発生……いけ!」
燃え上がったそれを、虫の息の獣に向かって投擲した。
そして、それは見事命中。
投げた剣は魔獣の喉元に当たり、そのまま巨大な体を火炎で包み込む。それは、魔獣のわずかに残っていた命を焼き尽くした。
**********
帰り道。
「よかったです……」
「何が?」
「ウルヴェン肉は高値で売れるんですよ。報酬が増えましたね」
「そういうことか」
彼らはこんな他愛も無い話をしながら帰った。
「アリス、なんだったんだ、あの魔法。今まで見たこと無かったけど」
「ああ、あれね。反射防御壁。覚えてから一度も実践では使ったことが無かったんだ」
「なんでだ?」
「上手く制御ができなかったんだよ。上手く跳ね返せなかったり、防御力が足りなかったり」
「じゃあ、何であの時は使おうと思ったんだ?」
「君に襲い掛かるウルヴェンを見たとき、このままじゃ、死んじゃうって思って、とっさに使ったんだ。成功してよかった……。もう、このまま君がいなくなったら、私……」
アリスはそう言って、耳まで赤くする。
純也は彼女が何を言おうとしているのか、まったくわからず、頭に疑問符を浮かべているようだ。
そんな二人を見て、ラビとチェシャは顔を見合わせて、微笑んだ。
(あれ、絶対……)
(うん、あれですよね)
(しかも、ジュンヤは何も気付いていないね。にぶちんだ~)
(なんというか、青春ですね)
(そーだね。二人のこれからが気になるよね~)
(ですね。アリスのことを応援したいです)
ひっそりとこんな話をしていたのだが、それを知るものはいない。
そうこうしているうちに町にたどり着いた。
いつしか日は傾き始めていた。
彼らの背中を、オレンジ色の光は優しく照らしていた。
疲れた疲れたと連呼しながら歩いていたら、突如、巨大な影。
自分より1メートルほど高い身長、グルグルと唸りながらこちらに近づく4本足の獣。巨大な犬だった。
あれは、まさか……
「ウルヴェン!?」
ラビが叫び――俺たちはとっさに草の中に隠れた。
何故ここに!?
正直言って、あれはトラウマだ。
転生したてのとき――あれは、死んでから2時間30分後ぐらいだろうか――ふらふらと草原をさまよっていたところ、偶然出くわしたあの魔物に食べられかけたのだ。
「恐らく、コボルトを追って、ここまできたのでしょう。あわよくば、通りかかった人間を食べようとも思っていたのではないでしょうか」
おいおい、まじかよ。だとしたら……。
「つまり、あたしたちを食べたいのね~」
チェシャがのんびりした声で恐るべき事を言った。
「それ、絶体絶命じゃない!?」
俺の言葉にラビは、
「はい、そうですね。と、言うことで、戦いましょう」
あっさりと返答。
というか、ラビ、体力すごいな……。
「えっ、戦うの!? 私、もう魔力残ってないよ!?」
そこで思い出した。
「そういえば、魔力回復ポーション持ってきてた」
「おや、準備がいい」
こんな事もあろうかといくつか買っておいたのだ。供えあれば憂いなしとはこのことである。
「ちなみに私も持ってきました」
俺とラビは、それぞれ4本ずつ持ってきたので、合計8本。一人2本ずつ。一気に飲んで多少の魔力回復。隕石を落とすことはできないものの、これであと少しだけ戦える。
そして、目の前の巨大な魔物を倒すための作戦をひねって――数秒後、草の陰から一人の少年が飛び出した。
ウルヴェンから見て斜め後ろ、足の付け根の辺り。魔力の光が、炸裂した。
「槍技、豪雷突!!」
ラビの、魔力をまとった渾身の一撃が魔獣を襲う。
突然の出来事に驚き、振り返ろうとする獣。しかし、動くことはできなかった。
実は、ラビの槍に火花魔法を付与しておいたのだ。
予想通り、筋肉が麻痺して動かなくなった魔獣。
そして、俺は指示――――宣言をした。
「みんな、総攻撃だ!!」
その瞬間、一気に魔法が炸裂、色とりどりの光が魔獣を包み込む。一息おいて、俺とラビも魔獣の身体へと斬りこんだ。
魔法、剣技、槍技、そして、魔獣の血。さまざまな色が散乱する。魔獣の命は確実に減っていく。
一方的な攻撃は1分間も続いた。
そして、動き出した魔獣は、ふらついていて、弱っているのがよくわかった。HPバーがあるならば、もう赤くなっているところだろう。
しかし、計算違いというものは誰にでもある話である。
魔獣はなぜか俺に向かってきたのである。
牙をむき、こちらに走る巨大な犬。誰にだってわかるほどのどす黒い殺気を迸らせて向かってくる。
それは、本能からの恐怖を呼び起こすのには十分だった。
とっさに二刀をバツの字に重ね合わせて防御態勢をとるが――
「だめだ、受け止めきれない……ッ!」
元の攻撃力が高い上に、スピードが出ている。あたかも、俺をこの世界へと導いた、ブレーキの壊れたトラックのように。
背筋が寒くなる。あの瞬間を、痛みを、熱を、苦悶を、恐怖を、絶望を、色彩を、感覚を――鮮明に想い出される『死』の瞬間。それが、瞼の裏に映った。
魔獣は肉薄していた。獣は速度を緩めずに突っ込んだ。俺は悲鳴を上げ――その瞬間だった。
「リフレクション・シールド!!」
アリスの声が響き渡り、俺の前に青い透明な壁が現れた。
魔獣はそれにぶつかる。
しかし、その壁は慣性の法則でたわんでしまう。それはまるでトランポリンのように――。
トランポリン。その言葉を思い出したとき、何が起こったのかを理解した。そして、これから何が起こるのかも。
壁が、大きくしなる。たわんで、しなって、やがて俺のすぐ目の前で動きを止め――瞬間、壁が一気に元に戻り、魔獣の体を丸ごと跳ね返した。
反射防御壁……その鉄壁の防御でもって攻撃を防ぎつつ、その極限の弾性でもって、攻撃を数倍の力で反射する魔法。
それに最大限の力で打ち込んできた魔獣は、その何倍もの力で打ち返され、飛んでいき、近くの木にぶつかり、そのまま体中から血を噴き出した。
絶命したのか……?
いや、それでもぴくぴくと動いている。
しぶといやつだ……!
でも……これならいける!
俺はバッグから短剣を取り出し。
「付与・火発生……いけ!」
燃え上がったそれを、虫の息の獣に向かって投擲した。
そして、それは見事命中。
投げた剣は魔獣の喉元に当たり、そのまま巨大な体を火炎で包み込む。それは、魔獣のわずかに残っていた命を焼き尽くした。
**********
帰り道。
「よかったです……」
「何が?」
「ウルヴェン肉は高値で売れるんですよ。報酬が増えましたね」
「そういうことか」
彼らはこんな他愛も無い話をしながら帰った。
「アリス、なんだったんだ、あの魔法。今まで見たこと無かったけど」
「ああ、あれね。反射防御壁。覚えてから一度も実践では使ったことが無かったんだ」
「なんでだ?」
「上手く制御ができなかったんだよ。上手く跳ね返せなかったり、防御力が足りなかったり」
「じゃあ、何であの時は使おうと思ったんだ?」
「君に襲い掛かるウルヴェンを見たとき、このままじゃ、死んじゃうって思って、とっさに使ったんだ。成功してよかった……。もう、このまま君がいなくなったら、私……」
アリスはそう言って、耳まで赤くする。
純也は彼女が何を言おうとしているのか、まったくわからず、頭に疑問符を浮かべているようだ。
そんな二人を見て、ラビとチェシャは顔を見合わせて、微笑んだ。
(あれ、絶対……)
(うん、あれですよね)
(しかも、ジュンヤは何も気付いていないね。にぶちんだ~)
(なんというか、青春ですね)
(そーだね。二人のこれからが気になるよね~)
(ですね。アリスのことを応援したいです)
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