チートレス転生者の冒険記

沼米 さくら

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迷宮探索編

独りぼっちの反省会

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 地上に出ると、もうすでに暗くなっていた。
 そのまま宿屋に向かい、部屋で横になった。
 冒険者カードを見ながらボス戦のために自己分析をする。
 まず、問題は、全体的なステータスの低さだ。
 暇だったときに調べてわかったことだが、俺の今のステータスは、同じレベルの普通の冒険者と比べると、少し弱いらしい。
 今までろくに体を鍛えてこなかったのがいけなかったのだろう。
 そもそも以前は異世界に行くことを想定していなかった。もっとも、想定しているのは中二病患者のみだろうが。
 まして、自らが剣と魔法を使い、生き物を殺し続けるなんて、ありえないと思っていた。
 悪いとはいえないし、そもそも普通は起こらないことのはず――少なくとも一般常識では――だから当たり前だが。
 とりあえず、これはある程度は装備品でまかなえているし、日々の鍛錬もほとんど欠かしていないため、転生直後よりはましになっただろう。
 しかし、そのほかにも、MPや魔法力が足りないゆえに攻撃がほとんど通らない。
 俺が出しうる最大火力、すなわち魔法力強化をかけた上で、魔法強化魔法によって強化された隕石魔法でもほとんどダメージを受けなかった。かわさずに受けたというのにだ。
 そのほかの手段では全く傷さえもつかなかったのだが。
 しかし、これは合計消費MPが65と膨大で、連発できるものでもない。
 むしろ一日一回のみの必殺技といったほうが正しいほどだ。
 これ以外にあれにダメージを与える術は無いだろうか。
 さらに、ステータスには記されない精神面にも、多大な負荷がかかる。
 いつまでも倒れない相手、勝ち目のない戦いというのは辛い。
 今冷静になって考えると、あの時点で退避しなければ、今頃一人での戦いにSAN値が削られ、発狂していただろう。
 ちょうど二ヶ月ほど前のキンコツゴブリン戦のように。
 さらに、あの時とは違い、増援が来る可能性もきわめて少ないだろう。
 そう考えれば、あの時退避したのは正解だったのだろうが、次は違う。
 かなりの長期戦になることはもはや確実だろう。
 そうなると、いつまで正気を保っていられるかもわからない。
 つまり、戦いの間、自分の理性も保たないといけないのだ。
 これを踏まえて作戦を立てようとするが、なかなか思い浮かばない。
 ……罠を仕掛ける……いや、それで動きを止めたとしても、そこから攻撃できなければ意味がない。却下。…………………………やべえ、何も思い浮かば……あ、これを忘れてた!
 仲間を集めてもう一度やればいいのか!!

 ――翌日、朝。アレー冒険者ギルド。
 俺は仲間集めに取り掛かった。
 ……取り掛かったはいいが、早速難航していた。
 実は、現実世界では中学まで完全なるいじめられぼっち枠を獲得していた俺である。
 高校ではそこから抜けられたものの、その環境は俺に後遺症として、コミュニケーション能力低下――初対面の人に自分から話しかけられないという呪いのような性質を残しやがった!
 畜生っ! 何で話しかけようとするとものすごい緊張して口が開けなくなるんだ!
 物を買ったりするのは平気なのにな……。
 エンテで友達ができたのだって向こうから話しかけてもらったからなんだよな。
 自分で思ったよりもヘタレだな、俺。
 とりあえず、そのせいで仲間ができないのだ。
 ……あ。窓口に『臨時パーティーメンバー募集案内』の文字が!
 助かるっ! よくわからんけど。
 俺はその窓口に行き、その『臨時パーティーメンバー募集案内』サービスの概要を聞いた。
 それによると、『臨時パーティーメンバー募集案内』サービスとは、パーティーを組みたい冒険者が登録をし、登録された冒険者の中からギルドの人が冒険者に紹介したり、臨時でパーティーを組ませたりするらしい。
 まさに今一番あってほしいと思ったサービスである。
 何でも、最近冒険者ギルド本部で検討され、先月からアレーの冒険者ギルドで試験運用されている新しいサービスらしい。
 なので、まだ登録者数は少ないのだが。
「あなたの冒険者カードを見せてください」
 ギルドのお姉さんが優しく言ってくる。俺はそれに応じる。
「レベル36の魔法剣士ですか……ょゎ」
 ……弱いとか聞こえた気がするが先に進めるとしよう。
「では、今回のパーティー結成の目的は何ですか」
「はい、ダンジョンの階層ボス撃破のためです」
「はっ!? ……いそうですかわかりました何かパーティーメンバーでご要望とかございますか」
 この人、今すごい動揺したよな。まあそれは措いておいて。
「特にありません」
「は、はあ……」
 なんだかんだで登録してから5分ほど後、早くもお呼び出しがかかった。紹介する人が決まったらしい。
 窓口に向かい、その人の特徴などを教えてもらう。
 紹介されたのは二人。
 一人は赤髪、黒いバンダナ、背中に両手剣、腰に片手剣×2、イケメン。
 もう一人は青い長髪、巨大な弓、長身、端正な顔立ちの美青年。
 無論、両方男性。そして、年齢は俺と大体同じくらいだという。
 くそっ、女性と出会えればよかったのにっ!
 ちなみに、ギルドのお姉さんは手を合わせながら悲痛な笑みで――葬式かなんかで見かけそうな顔で見送っていた。
 さて、酒場に向かい、彼らを探すと、一瞬で見つかった。
 うわーかっこいー(無表情)
 酒場のテーブルのうちひとつで、仲の良さそうなイケメン二人が談笑している。
 特徴とあっている。この二人で間違いない。
 すごく苦手なシチュエーション来たー……。
 仲よさそうに話す二人に割り込んでいかなくてはならない。
 しばらく迷ってから、勇気を出して話しかけた。
「すっ、すすすっ、すすっ、すみません」
「ん? 何だ?」
 赤髪の少年が気さくそうに返す。
(大丈夫だ俺、何とかなる。大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫)
「ほっ、本日、パーティーメンバー紹介で紹介されたものでございますっ!」
「おお、そうか。よろしくな」
 よし、何とかなった!
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