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旅立ち編
さようなら、じゃなくて……
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さて、明日はいよいよ旅立ちの日だ。
みんなに何も言わずに出て行くのも少し気が咎めるけれども、仕方がない。
……寝るか。
**********
ああ、眠れない。
周りはもう暗くなって、町の活気も落ち着いてきた頃だというのに。
まあ、いつもはまだ起きている時間だからな。まだ眠れないのは、むしろ普通……。
何か、するべき事があるからか?
……あるはずがないよな。
…………ない……よな?
……むしろ不安になってきた。
気を紛らわすために出かけるか。
外に出たけど、これといってやることはない。
本屋はやっていなかった。(何故だ?)と疑問には感じたが、それでもやっていないのだから仕方ない。
……ギルドにでも行くか。酒でも飲んで、気を紛らわそう。
そう思った矢先のこと。
青い小鳥のようなものが飛んできて、俺の肩に止まった。
「なんだ? えさか? ……ああ、アリスの魔法か」
アリスの魔法“追尾(トレーサー)”だ。見るのは数ヶ月ぶりである。そもそも一度しか見た事がない。
でも、何故? 俺に追尾魔法をかける必要はないはず……。
すると、その小鳥のようなものがしゃべり始めた。
《ギルド……キテ……ミンナ……マッテル……》
アリスの声に似ているが、片言である。
そうか、これ伝言もできるのか。便利だな。
小鳥のようなものの頭をなでると、《……アリガト……》としゃべった。
自我があるのか。そして自分でしゃべるのか。有能か。そして鳥可愛いな。猫派だったんだけど、鳥も良いかもな。犬は――やっぱり好きになれないけど。
その小鳥のようなものは、俺の頭の上に移動した。
とりあえず、そのままギルドに向かった。
ギルドの扉は閉まっている。思いのほか巨大な扉。開けようにも、大きすぎて開けられなさそうだ。
どうしようか。破壊したらさすがにいけない……というか常識的にアウトだし…………裏口から入るか。
俺は、ギルドの隣のわき道に入った。
そして、ギルドの従業員で入り口を活用して、中に入る。
ん? そもそも何故そんな裏道を知ってたかって? ああ、少しバイトで入った事があるんだ。その話は語られてないんだけどな。
で。
ギルドの中に入ると、そこは完全に静まり返っていた。入り口の大きな扉に向かって何かを構える冒険者たちの姿が見える。俺は思わず聞いた。
「みんな、何しているんだ?」
『うわああああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!』
「なんだああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」
大音量の冒険者たちの驚愕の悲鳴。
パパパパーンと何かが鳴る。それは、クラッカーだった。
飾り付けられた内装、何かを祝おうとしていたのか? ――もしかして――
「みんな、俺のために?」
「ああ、ばれちゃしょうがねえな。明日お前たちがこの町を出て行くって聞いたからさ、送別会を開こうと思ったんだ。お前に内緒でな」
マッチョウさんが言う。
そうか、俺のために……みんな、ありがとう!
「裏から来るとは思ってなかったぜ。全く、人を驚かせるのが上手いやつだ」
「それは褒めているのか……?」
デクシが話しかけてきた。俺は質問する。
「で、お前誰だっけ?」
「忘れるなよ! というか、しれっと名前を間違えてんじゃねぇ!」
だって、しょうがないじゃん。一度だけ出てきて、もう何ヶ月も登場してないんだから。一応前回微妙に出てきた気がしないでもないけど。
「だが、そんな個人的なことはさておき、今日は彼らの門出を祝おうぜ!」
『オ――!!』
「じゃあ、乾杯の音頭は任せた」
「ああ、わかったぜ、デビシ」
「やっぱり覚えてるじゃねえか」
「あっはははは」
「はっはっはははは」
俺とデビシは熱い握手を交わし、笑いあった。
全員がジョッキを持ったところで、叫ぶ。
「じゃあ、行くぞ――! みんなー! かんぱーいっ!」
『かんぱ――い!』
そうして、俺たちは酒を飲み交わす。笑いあう。語り合う。
笑顔で、笑いながら別れる。それは、俺の本当にしたかったことなのかもしれない。
宴会は深夜まで続き、最後はみんなで寝落ちした。
ここまで生きてきて、最高の体験だったかもしれない。そんな風に思いながら。
**********
さて、翌朝。
「おお、やっとみんな集まったか。……もう、ほぼ昼だぞ」
『ごめんなさーい』
「絶対反省してないだろ! ……まあ、昨日はあんなに楽しい宴会があったのだから、仕方ないか!」
リリスの説教を聴きながら、苦笑する。まあ、昨日は確かにやりすぎたけれども。
「じゃあ、行こう! 新たな町へ! ひとまずの行き先は、王都だ!」
リリスが改めて宣言する。
そして俺はこの町を出て行く。
町の門を出ようとした、そのとき。
「おーい、ジュンヤ! 達者でな――――!」
振り返ると、町のみんなが、手を振っていた。
マッチョウさんや、デビシ、長老、鍛冶屋の親父、ライケンとフォリッジ、本屋の人、ゴブリン討伐のときに告白してたあの冒険者、そのほか、俺と仲良くなった冒険者たちや、町の住民たち。みんなが、手を振っていた。
俺は、手を振って答えた。
「ああ、またな――! 絶対、帰ってくるからな――!!」
俺たちは、こうして旅立った。新たな町へと。
また帰る、と約束して。
みんなに何も言わずに出て行くのも少し気が咎めるけれども、仕方がない。
……寝るか。
**********
ああ、眠れない。
周りはもう暗くなって、町の活気も落ち着いてきた頃だというのに。
まあ、いつもはまだ起きている時間だからな。まだ眠れないのは、むしろ普通……。
何か、するべき事があるからか?
……あるはずがないよな。
…………ない……よな?
……むしろ不安になってきた。
気を紛らわすために出かけるか。
外に出たけど、これといってやることはない。
本屋はやっていなかった。(何故だ?)と疑問には感じたが、それでもやっていないのだから仕方ない。
……ギルドにでも行くか。酒でも飲んで、気を紛らわそう。
そう思った矢先のこと。
青い小鳥のようなものが飛んできて、俺の肩に止まった。
「なんだ? えさか? ……ああ、アリスの魔法か」
アリスの魔法“追尾(トレーサー)”だ。見るのは数ヶ月ぶりである。そもそも一度しか見た事がない。
でも、何故? 俺に追尾魔法をかける必要はないはず……。
すると、その小鳥のようなものがしゃべり始めた。
《ギルド……キテ……ミンナ……マッテル……》
アリスの声に似ているが、片言である。
そうか、これ伝言もできるのか。便利だな。
小鳥のようなものの頭をなでると、《……アリガト……》としゃべった。
自我があるのか。そして自分でしゃべるのか。有能か。そして鳥可愛いな。猫派だったんだけど、鳥も良いかもな。犬は――やっぱり好きになれないけど。
その小鳥のようなものは、俺の頭の上に移動した。
とりあえず、そのままギルドに向かった。
ギルドの扉は閉まっている。思いのほか巨大な扉。開けようにも、大きすぎて開けられなさそうだ。
どうしようか。破壊したらさすがにいけない……というか常識的にアウトだし…………裏口から入るか。
俺は、ギルドの隣のわき道に入った。
そして、ギルドの従業員で入り口を活用して、中に入る。
ん? そもそも何故そんな裏道を知ってたかって? ああ、少しバイトで入った事があるんだ。その話は語られてないんだけどな。
で。
ギルドの中に入ると、そこは完全に静まり返っていた。入り口の大きな扉に向かって何かを構える冒険者たちの姿が見える。俺は思わず聞いた。
「みんな、何しているんだ?」
『うわああああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!』
「なんだああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」
大音量の冒険者たちの驚愕の悲鳴。
パパパパーンと何かが鳴る。それは、クラッカーだった。
飾り付けられた内装、何かを祝おうとしていたのか? ――もしかして――
「みんな、俺のために?」
「ああ、ばれちゃしょうがねえな。明日お前たちがこの町を出て行くって聞いたからさ、送別会を開こうと思ったんだ。お前に内緒でな」
マッチョウさんが言う。
そうか、俺のために……みんな、ありがとう!
「裏から来るとは思ってなかったぜ。全く、人を驚かせるのが上手いやつだ」
「それは褒めているのか……?」
デクシが話しかけてきた。俺は質問する。
「で、お前誰だっけ?」
「忘れるなよ! というか、しれっと名前を間違えてんじゃねぇ!」
だって、しょうがないじゃん。一度だけ出てきて、もう何ヶ月も登場してないんだから。一応前回微妙に出てきた気がしないでもないけど。
「だが、そんな個人的なことはさておき、今日は彼らの門出を祝おうぜ!」
『オ――!!』
「じゃあ、乾杯の音頭は任せた」
「ああ、わかったぜ、デビシ」
「やっぱり覚えてるじゃねえか」
「あっはははは」
「はっはっはははは」
俺とデビシは熱い握手を交わし、笑いあった。
全員がジョッキを持ったところで、叫ぶ。
「じゃあ、行くぞ――! みんなー! かんぱーいっ!」
『かんぱ――い!』
そうして、俺たちは酒を飲み交わす。笑いあう。語り合う。
笑顔で、笑いながら別れる。それは、俺の本当にしたかったことなのかもしれない。
宴会は深夜まで続き、最後はみんなで寝落ちした。
ここまで生きてきて、最高の体験だったかもしれない。そんな風に思いながら。
**********
さて、翌朝。
「おお、やっとみんな集まったか。……もう、ほぼ昼だぞ」
『ごめんなさーい』
「絶対反省してないだろ! ……まあ、昨日はあんなに楽しい宴会があったのだから、仕方ないか!」
リリスの説教を聴きながら、苦笑する。まあ、昨日は確かにやりすぎたけれども。
「じゃあ、行こう! 新たな町へ! ひとまずの行き先は、王都だ!」
リリスが改めて宣言する。
そして俺はこの町を出て行く。
町の門を出ようとした、そのとき。
「おーい、ジュンヤ! 達者でな――――!」
振り返ると、町のみんなが、手を振っていた。
マッチョウさんや、デビシ、長老、鍛冶屋の親父、ライケンとフォリッジ、本屋の人、ゴブリン討伐のときに告白してたあの冒険者、そのほか、俺と仲良くなった冒険者たちや、町の住民たち。みんなが、手を振っていた。
俺は、手を振って答えた。
「ああ、またな――! 絶対、帰ってくるからな――!!」
俺たちは、こうして旅立った。新たな町へと。
また帰る、と約束して。
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