12 / 24
精霊ティーパーティ(2)
しおりを挟む「……これで役者はそろったみたいですね」
何故か妙に若い女の子たちからモテモテだった……なんとなくデジャヴを感じたシーンから数分後。
僕らはテーブルについていた。
「そうデスねー、オーディンさま」
そう「にへらっ」と屈託なく笑うのはバルドル。そのオレンジの髪をしたギャルに、隣の青みがかった黒髪ぱっつんのいかにも優等生めいた少女、ニョルズが「少しは落ち着きなさい」とたしなめる。
「で、本日の議題はなにかしら?」
「見慣れない顔がいますけど~」
言って僕の方に顔を向けたのは、緑色のウェーブがかかった髪が特徴のゆるふわ系女子、フレイ。……さっきの乱痴気騒ぎにはいなかったらしい。
「この子は、新しい……いや、もう一人のスクルドというべきかな。あのちっさいのと融合してスクルドの力を手にした人間さ」
ボーイッシュな水色ショートヘアのウルの説明に、場は凍り付いた。
「ゆ、融合って」
「それって、あの禁忌の?」
「失敗したら死んじゃうやつデース?」
「そう、それだ。彼女は死ぬかもしれない禁忌を犯し、生き残ったんだ」
沈黙。ただ、沈黙。数秒の沈黙。長い長い数秒の果てに、やっと口を開いたのはオーディンだった。
「今日の議題は、スクルドの処遇。あと、魚介人類への対処よ」
処遇。僕と、アキちゃんの。
「確かに。仮にも、禁忌を犯しちゃったんだから。罰を受けなくてはならないわね」
ニョルズの言葉に、僕は不覚にも頷いてしまった。禁忌を破るということの意味くらいはわかっているつもりだ。
「なにか、言い訳はあるかしら?」
オーディンはアキ――スクルドを見据えて、問い詰め。
「ほう、ならば、なぜ精霊が存在するのかということも、聞いてみたいのぉ」
幼い声が、響き渡った。その場の全員がガタリと席を立った。
次の瞬間だ。温室の天井が破壊されたのは。
「ははははは! 覚悟せよ、精霊たちよ!!」
巨大な火球。それが空中に浮かんでいた。この温室を、それどころか、この広い屋敷全部を余裕で燃やし尽くしてしまえそうな程の大きさと火力を有しているような火の玉が、空に浮かんでいたのだ。
「我は、精霊を殺すもの。魚介人類の女王じゃ……!」
言葉と同時に地上に舞い降りたのは、女王というにはあまりに小さい女の子。
紫色のツインテールをふわりと揺らし地上に降り立った彼女の藤色の鋭い眼光は、僕らへの殺意に満ちていた。
「オーディンよ。我を呼んだこと、後悔するがいい。この場の全員が殺されることになったのはお前のせいなのだから」
「……どういうことだい?」
長く誰もしゃべっていなかった中、ようやく口を開いたのはウル。翡翠色の瞳を半眼にし、疑う。
「敵を知るのは、大切なことですもの」
「そんなことで死にたくないデース……」
バルドルの不安げな言葉に、オーディンは微笑。
「あなたたちは死なない。死なせないわ。絶対に」
「いいや、殺す。世界のために……ッ!」
憎しみをぶつける少女に、オーディンは語りかけた。
「世界。あなたにとって、世界って何?」
哲学的な問いだ。僕も一言で答えられは――いや、するけどさ。でも、僕がおかしいことはわかってるつもりだ。普通はこんな問いに答えられまい。
まして、目の前の少女にこたえられるはずもなかった。
「……世界が滅びる前に、精霊を滅ぼさなきゃ」
「答えになっていないわ。それに、その理論なら最終的に自分も死んじゃうわよ」
その言葉は、魚介人類のクイーンと名乗る彼女が、人でも、まして魚介人類でもない、彼女が滅ぼそうとしていた存在そのものであったことを周囲に悟らせ。
その精霊は叫んだ。
「いい! そんなこと、世界の前には、わた……わしの命なんて、どうでも!」
論点をずらして、答えるべきことから逃げている。それが丸わかりだった。
「その、命を投げうってまで守るべき世界って何? 身近な人? 大事な場所? 地球? それとも宇宙?」
「……わかんない。わかるわけないじゃんっ!」
叫んだ少女。火球が、僕らの命を刈り取らんと動き出す。ゆっくりと、しかし確実に。
「はは、みんな、みんな死んじゃえば! 世界は……世界、は……っ!」
「あなたの言う世界は、どうなるの?」
優し気に問われる少女。しかし、怒りをにじませたその声色に、幼い精霊は一筋の涙を落して。
「すく、われる。救われる、から――」
見上げたその先の障壁に、声が枯れるほどに叫んだ。
「邪魔を……するなァァァァァ!!]
僕の作った『最強のバリア』。この程度の火にはびくともしない、何物をも寄せ付けない完全防御。
「これが、人間と融合した精霊の力……」
驚愕する精霊たちに、僕は当然のことだろうと少しだけ胸を張った。“想像で何でもできる”能力、それがスクルドなのだから。
「僕は、この力で僕の世界を守っているだけさ。君の邪魔をしてるつもりはない」
世界。僕にとっての世界は、と聞かれたら真っ先にこう答える。
自分にとって大切な人たちこそが僕の「守るべき世界」なのだと。それを悟ったのもつい最近だけれど、覆す気は全くない。
慢心かもしれないけど。
「これが、僕の戦う理由だから」
「き、さま……ッ!」
力を強めたところで、無駄だ。
そう思えていたのは数秒前までだった。
ガラスの割れるような音が響く。
一瞬、なにが起こったのかを理解できなかった。
「割れた……?」
誰かが口にした。訝しんだ。この現象を。
割れた。最強のバリアが。火球も同時に、跡形もなく消滅。空の攻防は第三者の介入によって不本意にも決す。
誰だ。
推察する前に。
「避けてっ!」
オーディンの叫び。混乱する精霊たちの直上に黒い影。
飛来したのはカマキリ。しかし、常識で知るモノよりそれは何十倍、何百倍も大きい、黒い影のような姿。
その怪物は、人を丸呑みにしてなお余りあるほどのあまりに巨大な顎を力強く開き、カマを振り上げて、本来発しないはずの雄たけびを上げた。
[キシャァァァァァァ!]
この生物が人間であるはずがない。明らかな異形だ。
また、魚介人類であるはずがない。そうであったならば統率者たるクイーンが知らないはずはない。
かといって精霊であるはずもない。そうでなければ、オーディンが首を振って恐怖したりはしないだろう。
未知の敵。誰も知らない化け物が、僕らを襲う。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。
鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。
名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。
親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。
性と欲の狭間で、歪み出す日常。
無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。
そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。
青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。
前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章
後編 「青春譚」 : 第6章〜
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる