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ソウル・サルヴェイション(3)
しおりを挟む「倒そう」
迷いなく口にした僕に、ハルが問いかけ。
「……あれも、シキの一部でしょ? 何とかすることって……」
「きっとできない」
僕は否定する。
「何故なら、あれは僕の中に渦巻いている悪意と迷いなのだから」
心は自分ですらも御せないものだ。心の中まで完璧にコントロールできたのなら……こんなにも思い悩んで心を変えることもなかったのだろう。
「壊れていく街はすなわち僕の仕組んだ大規模な世界改変の進行度を表している。最後、この場所もろとも僕ごと破壊されることで、計画は完遂される予定だったんだ」
「……だったら、もう半分は……」
「そうだな。……理想の世界には、半分近づいた」
けれど、これ以上破壊されるわけにはいかない。
光が爆裂し――僕らは、戦うための衣装を身にまとう。
「きっと、これが最後の戦いだ」
これは僕が倒さなければいけない。
僕の手の中に現れたのは、巨大な太刀。
両手で構えたそれの切っ先は、わずかにぶれていた。
……自分の内面の悪意と対峙することが、怖くて。
怖い。怖い。けれど、やらねば――。
そんなとき、そっとぬくもりが僕の手を包み込む。
「大丈夫。……一人きりじゃ弱いあたしたちでも、二人一緒なら」
……そうだ、そうだよな。
力があふれ出してくるのは、精霊の力のせいなのか、それとも――。
――僕の口角は、自然と上がっていた。
「なんだって、できる」
僕だけじゃできない。でも僕たちならば、なにも障害にはならない。
「行ってこい、シキ、ハル。……彼女らは、私が守ろう」
振り向くと、フユはウズさんとアキの前に立っていた。
……思いは託された。
僕は頷いて。
「いこうか」
二人は飛翔した。
空高く駆けて――。
[ァァァァァァァァァァ]
嘆き声のような羽音。あるいは僕の心のきしみ。
退治した巨大な黒精霊。否、それは糸がほつれていくように形を変えて。
――空白の空間。
僕は僕と対面していた。
目の前の少年――男の僕は言った。
「さっさと殺せよ。僕を。過去の自分を。変えたかった自分を」
諦めたように、投げやりに、かつての僕は言ったのだ。
それを受けて、僕は笑った。
「はは、わかったよ。やってやるさ」
空っぽの笑いで、少女の僕は笑っていた。
少女は手を少年の首に持っていって、つかんで――絞めずに、そっと手を離した。
「……なんでだよ。なんで、僕を殺さない!」
激昂する少年。
「こんな僕を。汚い僕を。黒歴史を。どうして消そうとしないんだ」
まるで修羅みたいな形相の少年の僕に、少女の僕は微笑みかけたのである。
「だって、僕は僕だから。君――かつての僕がいなければ、いまの僕はいなかったのだから」
少年はぽかんと口を開け。
「はは、ははは! それはおもしろいな!」
大笑いして。
「ちっ。ペッ」
舌打ちして唾棄しやがった。我ながらクソか。
けれども。
「正論なのが癪に障る。もう好きにしろよ、酷く常識人ぶった僕」
「それは受け入れたということでいいんだよね、酷くひねくれた僕」
視線が交錯した。
僕は同時に息を吐いて。
『お互い、仲良くしようぜ』
――果たして、黒精霊は爆裂した。
「シキ、やったね!」
「ああ」
ハルの言葉に、素直に声を上げて――いや、まだだ。それを悟ったのは、僕らの状況を把握したときだった。
――飛ばされている。爆風によって。
「だめだ。まだ解決していない!」
「どういうこと?」
「黒精霊の爆風が町を吹き飛ばしてる!」
町の破壊率はすなわち、僕のいない理想郷の完成率。
「それって……つまり」
ハルも察したようだ。
そう。計画は――僕の理想への道はもう止まることはない。当人がそれを阻止しようとしても。
「……ここまでしてお別れなんて……」
「僕だってそんな結末はお断り。……どう、すれば――」
そのとき、思い出した。
散々僕を苦しめた精霊の能力。
この計画の要であるあの力。
一か八かの賭けでしかない。効くかどうかも分かりはしない。
けれども、もしも運命が僕を見放していないのであれば。
どうか、僕を現実に戻してください。ハルと共に、生きていきたいのです。
もうこんな力使えなくなったっていい。それでも、僕はハルと生きていたい。生きなければいけない。
だから、お願いします。僕を、現実に戻して――。
願い。叫ぶように、祈り。
――耳鳴りが、高らかに鳴り響いた。
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