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BADEND5
しおりを挟む「なぁ、七海大丈夫かよ?」
「……なにが?」
いつものように俺と桜野の近くに寄ってきた七海だったが、その顔色はあまりにも悪く学校に登校していいのか不安になる程だった。
七海の顔色の悪さに流石の俺も何か声をかけようと口を開いたが、それより先に桜野が七海に心配の声をかけていてそれに七海を反応を示した。
しかし、その声も力がなく桜野を見上げる目は視線が合っていないようにも見える。
俺と桜野はお互い目を見合わせてから俺が七海の手を引いて保健室に向かって足を進めた。
「…おおはら、どこいくの?」
「保健室。まだ体調悪いでしょ」
「…悪くないよ、なんで?普通だよ」
普通だ、と言いながら俺に掴まれた手を振り払おうとしないあたり調子が悪いのが伺える。
朝から保健室だなんて変な感じだ、と抵抗しない七海と俺たちの後をついてくる桜野と一緒に保健室の扉をガラッと開けた。
「どうしたの?」
「七海が体調悪そうで、昨日まで休んでたから連れてきました」
「……体調悪くない、普通」
「あらあら、体温測ってみようね」
保健室の先生はいそいそと体温計を用意すると、七海を椅子に座らせて制服のボタンを外していった。
連れてきた以上熱があるかくらいは知っておきたい俺たちもその場に止まり、早退なら早退、保健室で休むなら休むで先生に伝えるからと保健室の先生にも許可をもらった。
ピピピ、と体温計が音を立てて先生が優しく七海の脇からソレを取り出す。
「…36.8度。今は熱は無さそうだけど、体調どうかな?」
「…普通です」
「ご飯は?食べられてる?」
「……吐いちゃって、食べられない」
フルフルと首を振った七海は目を伏せながら小さな声でそう言った。
なんだよ、やっぱり体調悪いんじゃん。
そう思って保健室で休んでいくのかな、と桜野に目を向けようとした瞬間七海の方がヒクヒクと痙攣し始めてギョッとする。
七海、泣いてる?なんで?
体調悪すぎて?普通って言えるくらいの体調なのに?
なんで泣き始めたのかわからなくて桜野を見上げてみると桜野も困惑気味で首を傾げていた。
「あらあら、どうしたの?何か嫌なことあった?」
「…ぅー…っ、ふっ…っ」
「なんでもいいからお話しできる?」
「ぅ…、ぅーっ…っ、」
ただ泣き続ける七海に言葉を話すのは難しいと判断したのか、先生は一つ一つ頷くか首を振るかで答えられるような質問をし始めた。
今悲しいか。
夜眠れているか。
辛いことがあったか。
呼吸は苦しくならないか。
泣きたいわけじゃない時に涙が出るか。
ゆっくり先生が問い、七海が答えを伝えるのを見ていることしか出来ずにただ突っ立っている俺たち。
なんか、怖い。
そう、感じてしまった。
体調悪いなら帰るなり、休むなり…俺も体調を気遣うことくらいならできる。
けどこれは違う。
心の問題、なんじゃないかと思う。
テレビでも雑誌でも、よくうつ病というものを特集していたりするけど…もしかして七海ってその類なのかと勘繰ってしまう。
だとしたら俺は何も出来ない。
何か言えば傷付けてしまうかもしれない。
簡単に「大丈夫」だなんて言えない。
無意識に掴んでいた桜野の制服を更にギュッと握ってしまうが、桜野は一歩唯兎に向かって歩き始めた。
「七海!俺らにできることあるか!?」
そう、七海の顔を真っ直ぐ見て真剣な顔で聞いた。
…そうだ。
桜野はこういう奴なんだ。
困ってる奴がいたら手を差し出してしまう。
そんなこいつに、俺も助けられた。
…それでも俺は…
俺にはそんな勇気は出せない。
軽い気持ちで手を差し伸べて、何もできなかった時…俺はきっと自分の無力さに立ち直ることが出来なくなってしまう。
人を助けようとして自分が折れるなんて本末転倒だ。
それに、相手だって一瞬でも期待させられて助けてもらえなかったとしたらそれ以上何も信じることはできなくなるだろう。
…それなら、俺たちは何もせず…本職の人に任せるべきだ。
前に出た桜野の後ろで目を逸らすように下を向いた俺は、七海の光を失った真っ暗な瞳が俺を見つめていたのに気が付かなかった。
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「……大丈夫、俺…大丈夫」
そう、桜野に伝えてふらつく足を動かした。
保健室の先生には早退することを伝えると、急ぎたがる足を抑えてゆっくりと学校から逃げるように立ち去った。
…あの時の桜野の言葉はすごく嬉しかった。
本当は縋りたかった、助けてって…俺の名前を呼んでって叫びたかった。
けど、大原の目はもう俺と関わることを拒否していた。
桜野の後ろで俺から目を逸らし、両手をぶらんと垂れ下げた状態の大原の頭の中はきっとどう桜野を止めるか…どう切り抜けるかだけを考えているだろう。
つまり、大原の中で俺は異物と認識されたわけだ。
…関わりたくないものを前にした時の大原の癖。
目線を完全に逸らし、両手は力をなくす。
全てが終わるまでそのままだ。
ああ…俺にはもう、何も残っていない。
桜野もきっと大原に説得されたらそのまま納得して俺から離れてしまうだろう。
「…ぅ…、ふっ…」
俺、何か悪いことしたかな。
前世で何か…神様を怒らせるようなことしたかな。
だからこんな…みんなから嫌われるような世界に連れてこられちゃったのかな。
ボロボロと流れ続ける涙をそのままに歩いていると、足は自然と深緑は向かっていたようで見慣れた店が目に入る。
…あの店が、俺の最後の砦だった…気がする。
俺に対して前と変わらない態度で接してくれるマスターと藍田さんは、現実から目を逸らさせてくれていた。
また、頑張ろうって思わせてくれた。
それももう…出来そうにない。
きっと藍田さんの中で俺は《七海照史の弟》として確立されただろう。
…俺は、あの人にそんな風に見られるのは嫌だ。
好きな人の弟として見られるなんて、嫌だ。
大好きな大原にも
大好きな桜野にも
大好きな藍田さんにも
大好きな栗河さんにも
……大好きな兄さんにも
俺は俺として見て欲しいのに…みんなが見る俺は『俺』じゃない。
皇に会っても同じだろう事は簡単に想像できる。
どうして俺は、みんなから嫌われちゃうんだろう。
どうして俺は、いつもこうなんだろう。
どうして…おれは…っ
考えれば考えるほど嫌な方向にばかり思考が進む。
涙が止まらない、胸が苦しい。
誰か…たすけて…
「あれ?唯兎くんじゃないか」
後ろから聞こえた声は、慣れ親しんだものではないが聞き覚えのある声だった。
振り向いてみると今日は休みの日なのか、松岡先生が私服姿で立っていた。
特に買い物袋を持っている様子もないから、ただの散歩なのか…それともこれから買い物か何かに行くのかわからないが泣き顔を見られるのは流石に気まずい。
先生に一度ペコッと頭を下げて先生のいない方向に足を進めようとすると、いつの間にか近寄っていた先生が俺の腕を掴んでいた。
「…どうしたの?何かあった?先生で良ければ話を聞くよ?」
「……なんでも、ないです。大丈夫…」
「泣いてる生徒を見てはい、そうですか。って帰せないよ。近くに家があるからそこに行こう」
グイッと強めに引かれた腕を振り払う事もできないまま足を動かされる。
…もう、なんでもいいか。
家に帰っても兄さんと気まずい時間を過ごす事になるんだから、どこに行っても。
無抵抗で先生に腕を引かれて行く俺に、先生は歪んだ笑顔を浮かべていた。
それに俺は気付くことなく、そのまま先生の後についていった。
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ガチャッ
「ただいまー」
俺は自宅に帰るとスリッパに履き替えパタパタと音を鳴らしながら廊下を歩いた。
そしてリビングへ通じる扉を開けると、ソファに座っていた可愛い子の後頭部が見える。
ひとつ、クスッと笑うとその子の隣にわざとらしくどっこいしょ、なんて声を上げながら座るとその子の光のない瞳が俺を捉えた。
「…おか、えり…」
「ただいま、唯兎。いい子にしてた?」
「…おれ、わるいこ…だから…わからない…」
ジワリと瞳を濡らす可愛いの両頬を掴むと、そのまま唇を奪った。
くにっと柔らかいそれを何度も何度も堪能すると、少し苦しかったのか胸元をペタペタと弱々しい力で叩かれる。
解放すると数回咳き込んだ後再び俺を見上げてきた。
「…可愛い、すごく可愛いよ唯兎」
「…せんせ、おれ…かわいい?」
「すごく、誰よりも可愛い、すーーー…はぁ…唯兎の匂い。唯兎の匂い…すー…」
唯兎の身体を抱き込むと首筋、胸元、脇、臍…鼠蹊部やお尻など…ドンドン匂いを堪能して行く。
唯兎の匂いはまるで麻薬だ。抜け出せない、抜け出す気もない。
匂いを強く堪能するために唯兎を迎えて1週間、一度も風呂に入ることを許していない。
…そろそろ入れてあげたほうがいいかな、時々痒そうにしているのも可愛いけど少し可哀想だ。
「今日は一緒にお風呂に入ろう」
「…おふろ」
「そう、お風呂。先生が洗ってあげるね。全身、頭から…お尻の穴も、足の指も。おちんちんもね」
唯兎の手を引いて風呂まで連れて行くと、相変わらずの無抵抗。
全てを俺に委ねるその姿は俺の望んだ伴侶そのものであり、俺が愛でるべきものでもあった。
初めての唯兎とのお風呂だけど、どうかな?
恥ずかしいかな?
そうワクワクしながら唯兎の服を脱がせて行くと、パンツに手をかけた所で唯兎の手に邪魔をされた。
…ああ、やっぱり恥ずかしいよね。
それでも、ダメなことはちゃんと躾けないと。
俺は唯兎の頬を強めにパンッと叩いた。
「…ぁっ」
小さな声を出して叩かれた反動で壁にぶつかった唯兎は涙の残る目で俺を見上げてくる。
なんて可愛らしい目なんだろう…怯え?悲しみ?いろんなものが混ざったこの瞳。
これが俺のものだなんて…なんて幸せなんだ。
「…ダメだろう?嫌じゃない、俺に任せなさいって毎日言ってるだろ?」
「ご、…っめんな、さ…っ」
「いいよ、次は気をつけて。俺も無能な鼠は嫌いなんだ」
強めに言ってあげると反省したのか、立ちなさいと指示をすれば大人しくそれに従った。
再びパンツに手をかければ今度は拒否もなく、すんなりパンツは下にさがり…可愛らしい陰茎が姿を現した。
ああ…いい匂いだ。
このまま食べてしまいたいが…まだ身体を作れていない。
まだ、ゆっくり…味をつけていこう。
「さ、お風呂入ろうか」
狂おしい程に可愛らしい君を、俺の味に。
【バッドエンド】
______壊れた心と壊れた匂い______
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