BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび

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第五十七話








栗河さんと別れた後、俺はとある橋に来ていた。
残暑の続く中、周りはみんな半袖で出歩きなるべく日向を通らないよう過ごしていた。
そんな中俺は日陰のないような橋のど真ん中で涼しげに流れる川を1人眺めている。
サワサワと優しく耳を擽る川の音は、寂しく泣きそうになっている俺の心を少しずつ柔らかくしてくれているようにも感じる。

明日になれば、栗河さんも…桜野や大原もこの世界から消えている。

その事実が俺の胸を突き刺し、足を止めさせる。
意味のないことだというのは俺が一番わかっている、けれど…なかなか足が家に向かわない。
家に帰れば兄さんと…ちゃんと話をしないといけない。
どうしたら兄さんは幸せになれるのか、どうしたら…兄さんはこの世界から消えられるくらいの多幸感を感じることが出来るのか。
それは、兄さんにもハッキリわかることじゃないのかもしれない。
でも、話さないといけない。

そう思っていても、俺はそれから逃げようとしている。

家に帰れば、また俺は大事な人を失うことになる。
そうしたら俺は?どうしたらいい?
怖くなりその場から動けなくなった足を諦め、橋から川を眺めて少しでも気分を落ち着かせようと深呼吸してみる。
すると…







「唯兎君?」

「…に、兄さん…」






買い物袋を手に持ち、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる兄さんの姿があった。
そういえば、今日の夕飯の買い物…お願いしてたんだっけ…。






「唯兎君、大丈夫?少し顔色良くない気が…」

「…大丈夫、なんもないよ。ちょっと川を眺めてただけ」






フルフルと頭を振ると、汗が頰を伝って地面に落ちる。
そういえば今はまだ暑いんだった。
これからの事に思考を持っていかれ、暑さを感じていなかった俺は汗を認識した事で暑いという感覚を思い出した。
飲み物すら飲むことを忘れていた俺は汗を拭きながら喉の渇きを感じ、自動販売機は近くにないか…とキョロキョロしてみるもここは橋の真ん中。
少し歩けばあるだろうが、それまでは我慢か…と肩を落としていると頰にヒヤリとしたものが当たり変な声が出た。






「はい、飲み物ちゃんと飲んで」

「あ、ありがとう…」






有り難い事に兄さんはスポドリを買ってきてくれたようで、それを受け取り口に含む。
思っていた以上に乾いていた喉は一口飲んだだけでは満足せず、一気に半分程飲んでしまい冷たいソレを一気に飲んだ事により頭がキーンと痛みを訴える。
こめかみを押さえながらいたた、と眉間に皺を寄せているとソレが面白かったのか兄さんがクスクスと笑っている。







「…笑わないでよ」

「ふふ、ごめん。帰ろうか」

「……うん」






先に歩き出した兄さんについて行くような形で歩き始めると、兄さんの横に並んでゆっくりと歩いて帰る。
そういえば、今の兄さんとこうして歩くのって初めてかもしれない。
チラッと兄さんを見上げてみると、なんとなく嬉しそうにしている兄さんの横顔。
今なら、なんか聞けそう。







「…兄さん、この前聞いた…兄さんの幸せの事だけど」

「うん」

「俺の中にあるって、まだ…俺よくわからなくて」

「いいんだよ、そのままで。それが僕の幸せでもあるんだ」






優しく微笑みながら言う兄さんは嘘をついているようには見えない。
ジッと見つめてみると、困ったように笑い返される。
どうしよう、このまま兄さんの幸せがわからないで俺と兄さんの2人だけが残ったら…。
兄さんだけを置いて行くなんてこと出来ないし、んー…。






「唯兎君?…唯兎くーん!どこ行くの?」

「…はっ!」






つい考えすぎていたようで家に着いたことにも気付かず通り過ぎてしまっていた。
慌てて小走りで兄さんの元まで戻ってくるとクスクスと笑いながらおかえり、と優しい言葉をくれた。
なんとなく恥ずかしさで顔を逸らしながらただいま、なんて返してみると兄さんにそっと頭を撫でられそのまま家に入る。

そこはいつもと変わらない我が家で、スマホを見てもまだ…大原や桜野、栗河さんの名前があることが確認出来る。
今頃大原と桜野は話し合っているのだろうか。
栗河さんは佐久間さんの帰りを家で待つと言っていたから、ソワソワしながら家で待っているのだろうか。
みんなにとってその時間はとても幸せな事の筈だ。
俺も、幸せを探さない…兄さんと一緒に。

そう覚悟を決めた夜、俺は兄さんの部屋を訪れた。






「今日、一緒に寝てもいい?」

「もちろん、おいで」





自分の枕を持って来た俺の手を引いて部屋に招き入れてくれた兄さん。
兄さんの部屋は前の世界と変わらないものの、前の世界とは圧倒的に写真の数が少ないと思う。
前の世界の兄さんの部屋は俺や父さん、義母さん、家族での写真をたくさん飾っていて自分でも『飾りすぎかな』なんて苦笑していたレベルだ。
しかし今の兄さんの部屋はシンプル。
よくある主人公の癖のない部屋、と言ったらそれに当たるのかもしれない。

既に寝る準備は出来ていたらしい兄さんが先に布団に潜り込んで隣をポンポンと叩き、素敵な笑顔で俺を待っている。
なんとなくおかしく思い、くふくふ笑いながら布団に潜り込むと兄さんがリモコンで電気を消した。
薄暗くなった室内で兄さんに身を寄せ、甘えるように頭を兄さんの胸元にくりくりと押し付けるとクスクス笑い俺の身体を抱き寄せた。
…あたたかい。
話そう話そうと思いながら口を開くも、バスケ部のことや全力疾走、映画館でのことなどでかなり体力を使った俺はついウトウトと目を閉じ眠ろうとしてしまう。
かろうじて開いた口から出た言葉もまとまった言葉にはなっていないだろう。






「…にい、さ…の…しあ、わせ…」

「ふふ、最近ずっとそれだね」






嬉しそうな声色の兄さんはそっと俺の頭を撫でながら言葉を続けた。
…やめて、頭撫でないで…寝ちゃう、寝ちゃう…。






「僕、なんとなく気付いてた事があるんだ。唯兎君が“兄さん”って呼ぶ時、他の人を呼んでる感覚があった。呼ぶたび呼ぶたび、目の前にいる僕を通して他の人に呼びかけてた。それはきっと、気のせいでも…唯兎君が僕の事が嫌いだからとかでもないんだろうとわかってた」









兄さんに撫でられ、限界まで高められた眠気に抗いうっすらと目を開けてみると兄さんは今までの笑顔以上に優しく微笑んでいて、目が合うとクスッと笑って俺の頭や頰、目元をソッと撫でる。
そのせいで再び目が閉じると、兄さんは再び口を開く。






「僕は唯兎君にとって、間違えた存在なのかもしれない。消えてしまう存在なのかもしれないと泣きそうになったこともあった。けれど、よく考えたら…僕は君の中の僕でもあるんだって…気付いた」

「……ん…」

「もし君が君の中の僕に再会したら、今度は君は…その僕を通して僕を見てくれるよね」







額に柔らかいものを感じ、うっすらと目を開けるもその時には兄さんの柔らかい微笑みしか見えず正体がわからないでいた。
…いや、本当は正体に気付いていたが見て見ぬ振りをしたんだ。
柔らかいそれの事を考えないように、そして抗えなくなって来た睡魔に身を委ねるように目を閉じると兄さんは俺の身体を引き寄せ抱きしめた。







「…この感情がなんなのか、君が教えて。君が決めた選択が…きっととても大事だから」







おやすみ。
そう、再び感じた額の熱を最後に俺はずっと急かしていた睡魔に身を委ねた。
兄さんが抱きしめてくれているからだろうか、とても温かくて…安心してしまう。
モゾっと寝やすい位置を探して身体を捻り、クスクスと兄さんが笑う振動を感じながら俺は深く眠りについた。




























なんだか、よく寝た気がする。
目を開ける前から俺そう思うくらい熟睡していたようだ。
よく寝たであろう身体は確かに軽くなった気はするが、目はまだ開かない。
温かい布団の中で一つ伸びをしてから再び眠りにつこうと息を吐くが、隣にいるはずの熱を感じない。
まだ覚醒し切っていない頭をなんとか動かし、うっすらと目を開けるとそこにいる筈の兄さんが居らず俺は1人で兄さんのベッドを使っていた。
時計を見れば朝の7時を差している。







「……んーーーっ…」







まだ寝たいと駄々を捏ねる身体を無理やり起こし、その場で猫のポーズで身体を伸ばすと気持ちよさで再び布団へ身体を沈めてしまう。
兄さんはもう起きたのかな、なんて思いながらサイドテーブルに置いていた自身のスマホを手に持ち画面を見つめる。

…大原、桜野…栗河さん。

みんな、幸せを迎えられたのかな。
なんとなく緊張してしまう身体をフルッと震わせ、画面を開く。
…連絡先の…一覧でみんなが幸せになれたのかわかる。
ふーー…と長めに息を吐きながら連絡先を押し、一覧を確認した瞬間…俺の思考は停止した。

連絡先の一覧には…誰の名前もなかった。








「なに、これ…なんだよ…っ」






俺は連絡アプリやSNSを確認してみるが、それにも誰もいない。
…そもそも、機能していない。
俺は慌ててベッドから降りると、バタバタと階段を駆け下り兄さんの姿を探す。
けれど、当然のように兄さんはどこにも居らず…玄関を見ても兄さんの靴が見当たらない。
外に出た、そう考えるのは簡単だ。
けれど、違う…兄さんはもうここにはいない。
ふら、とふらつく足を動かし玄関を開けてみると…その向こう側は真っ暗闇だった。
リビングの窓から見た外も真っ暗。
俺が今駆け降りて来た階段も消えて…真っ暗。

この世界が、崩壊していくのが見える。

不思議と驚きはしなかった。
兄さんが主人公なら、主人公を失った世界は意味を成さない。

驚きはしなくとも、ショックは大きい。

目の前にあった筈のテレビやソファ。
いつも兄さんと過ごしていたリビングが一気に暗闇に飲み込まれ、何もない真っ暗な空間に俺1人が取り残された。






「…どうして…?」






どうして、俺だけここに残されたの?
おれは、どうしたらいいの…?

わからない、どうしたらいいのか…わからない。
何もないその空間に俺は蹲るように膝を抱えた。
わからない…わからないよ…。
泣きそうになりながらただ俯いていると、兄さんが最後に言っていた言葉が俺の耳を擽った。





__ 君が決めた選択が…きっととても大事だから__


「…俺の、選択…?」






前を見てみても、何も見えない。
けれどなんとなく選ばないといけない気がした。

目の前にある選択肢は…4つ。

どれを選ぶかできっと、俺の生きる道が大きく変わる。
俺は、どれを選ぶべき…?















_____________________




選んでください。

エンディングは4つ。
そのうちの1つは3つを見ないと解放されません。

つまりは今進める道は3つ。

1つは辛く、悲しい人生。

1つはみんなと幸せに…。

そして1つは、真実を。


選んでください。
あなたの選ぶ道はどれ?






>妹のいる世界に帰りたい。

>兄さん達のいる世界に帰りたい。

>決められない。





















___________


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良ければ、唯兎の最後の選択にご協力を。










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