BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび

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この話は33話より分岐した話です。
読まなくても本編上問題ありません。

※今回は大注意です。
 死ネタあります
 誰も幸せになりません。
苦手な方は読まないでください。
















あの後、佐久間はうちに泊まった。
せっかく布団を敷いたのにも関わらずベッドに入り込んできて、抱えられる状態で不覚にもとてもよく眠れた。
アイツ、眠れない時は自分がいれば解決するとか思ってるんじゃないか…。

次の日には佐久間は帰り、いつもと変わらない日々が戻ってきた。
1人でご飯を食べて、1人で寝る。
俺にとっては普通のことなのになんとなく寂しさを感じるのはきっと佐久間のせい。
アイツが甘やかしてくるから俺はそれが普通になってしまっているんだ。
小さくため息を吐いて、俺はスマホを確認する。






『よく眠れたか?』

『体調はどうだ』

『なんかあればすぐ呼べ』

『なんもなくても連絡していいからな』





アホかってくらい丁寧に連絡を送ってくる。
その連絡を楽しみにしている自分がいて、それを見るたびに頬が緩むのも自覚している。

もうそろそろ、降参するしかない。
勇気が出ない?そんな事関係ない。
アイツだって、きっと最初は勇気を出して気持ちを伝えてくれた。
明日、俺は伝えるんだ。

《俺も、お前が好きです》

胸の中で思っただけなのにトクン、と胸が騒がしくなる。
でも、嫌ではない。
布団の中に潜り込み、先程届いた佐久間からの連絡を確認する。





『おやすみ、身体冷やすなよ』

「…おやすみ、佐久間」





1人ポツンと呟いてから目を閉じると、なんとなく佐久間の温もりを感じる気がした。
モゾモゾと身体を動かし、寝やすい位置を見つけるとそのままスッと眠りにつけた。

朝、アラームの音と共に目を開けると軽く伸びをして固まった身体を解してやる。
勢いよく身体を起こし、顔を洗うために洗面所に向かうと朝からのシフトに間に合うようご飯を食べ、服を着替える。
いつもよりソワソワしてしまうのは佐久間の事があるからだろう。落ち着かない。
ふーー、と長めに息を吐いて気合を入れると仕事に向けて出発した。







「…え、佐久間休み?」

「みたいですよ、店の電話に連絡あったそうです。お母さんの体調良くないからって」






慌ててスマホを開いてみると佐久間からの連絡が3時間前に届いていた。
『母さんの体調良くないらしいから今日休んで行ってくる』
と簡潔に伝えられた内容にガックリと肩を落とす。
なんだよ、せっかく俺が気持ち伝えてやろうと思ったのに…いや、お母さんの体調第一だから文句なんて言えないけど。
仕方ないと割り切って仕事に集中すれば、1日はあっという間に過ぎて既に陽は落ちていてもうすぐで夜が訪れる事が伺える。
何度か佐久間からも連絡が入っていて、夜にはこちらに帰ってくると伝えられていた。
疲れてるだろうし、夜にわざわざ時間使わせるのもな…なんて思って佐久間からのメッセージを見ているとポンッと通知音が鳴って少しビックリする。
なんだ?と確認するも佐久間からの連絡は入っておらず首を傾げると俺の方からチャットで『佐久間』と送られていることに気付く。

え、なになになんで?
もしかして無意識で名前打ってそのまま誤タップで送っちゃった?
どうしよう、これどうしたらいい?

1人混乱してスマホに指が付かない範囲でおろおろさせていると佐久間からの通知が鳴って身体がビクッと跳ねる。





『どうした?』





ただ一言だけなのに、その文字を見ると心が温まる。
文字をジッと見ていると連続で通知が鳴る。






『栗河?』

『どうした、なんかあったか』

『返事できるか?』





離れていても俺のことを思ってくれているのがこの連絡だけでよく伝わってくる。
好きだな、なんて頬が緩みながら思っていると佐久間から通話が飛んできて慌ててスマホをしっかり持つ。





《栗河?どうした、大丈夫か?》

「…ぁ、ごめん。誤タップで送っちゃったんだよ」

《…俺の名前を?》

「……お、お前の…名前を…」






改めて言葉にすると恥ずかしくなって消え入りそうな声で伝えると電話口からクスクスと優しい笑い声が聞こえてきて耳が擽ったくなる。
その電話の向こうから佐久間を呼ぶ女の人の声、おそらくお姉さんだろう。
佐久間がその声に答えると申し訳無さそうに俺に声かける。





《わるい、呼ばれた。行かねーと》

「ぁ、佐久間!あ、と…あのな」

《ん?》






呼ばれて行かないといけない中でも俺の声に耳を傾けてくれる、そんな佐久間に胸がキュッとなり煩く鳴る胸を空いている手で押さえる。
大丈夫、一言だけだ。大丈夫。







《どうした?やっぱりなにかあったか?》

「ぁ…いや、ごめん!なんでもない…っ!また次会った時言う!じゃあな!」





佐久間の返しも待たないまま勢いで通話を切ってしまい、更にはそのままスマホの電源も切ってしまう。
言うにはまだ、俺の気持ちが整っていない。
そもそも佐久間だって、電話で伝えられるのなんて嫌だろう。そうだ、そうに違いない。

何もしていないのにも関わらずドキドキと煩くなる胸を抑えながらアパートの入り口を潜ろうとした時、後ろから声が聞こえた。
その声は今まで感じていた幸福感を一気に冷まし、俺の心臓に嫌な音を鳴らさせた。






「……見つけた」






ただその一言。
何も内容のない一言の筈なのにとても冷たく、敵意の籠ったその声に身体は自然と後ろを向きながら距離を取る。






「…お前、あの手紙のやつだな」

「………なんのことだ?俺にはよくわからない。そもそもアンタは誰だ」

「情報は全て集まった。お前がガキに付き纏っているのも、あの手紙を俺の家に届けた時間も、日付も特定している。…全部お前が、お前が邪魔をしているのは知っているんだ…っ!」






高城郁真。
コイツは最初こそは冷静に話そうとしていたようだが、段々と息を荒くし今にも飛び掛かって来そうな程興奮し始めている。
ジリジリと近寄ってくる高城に俺の身体も少しずつ後ろに下がる。
いざ目の前にすると、うまく身体が動かない。
自宅まで走って逃げろ、と脳から指示が出ているはずなのに足が動かない。






「…お前が邪魔なんだよ、お前という異物がいなくなれば俺は計画通り照史を手に入れる事ができる…っ!お前が邪魔なんだよ!!なぁっ!!」

「…っ、邪魔ならなんだよ?アンタがやってるのは犯罪だ、あの七海照史が犯罪者なんて…ましてや大事な弟を苦しめる奴になんて惹かれるわけがない」

「それも全部!お前がいなければ完璧に隠せたんだよ!!お前が俺の世界での異物だ、ゴミだ!!」





それはそうだろう。
ゲームの内容通りに進めばコイツは唯兎を利用して七海照史を手に入れられる。
自分の情報を抜かれて脅されるなんて、そんなストーリーはゲームには存在しない。
確かに俺は、コイツにとっては大きな異物。詰まり物。不快な物だろう。

ふー、ふーっと息を荒くして暗がりからゆっくり近寄ってきた高城の手にキラッと光る物が見えた。
包丁、家庭では当たり前に見るソレが右手に握られていた。
大丈夫、俺は…こうなる事を想定してちゃんと用意はしている。
カタカタと震える手を抑え、高城が近寄ってきた分俺もゆっくり後ろに下がって距離を保つ。
大丈夫…1人でも、なんとか出来る…っ。






「…覚悟しろよ異物野郎…楽には殺してやらねぇからな…」

「はっ、こんな他の人が沢山住んでるような所でついに殺人行為に手を染めるつもりか?俺が叫べば誰か来る…異物を排除出来たとしてもお前の望みは何も叶わなくなるな」

「うるさい…、それなら見た奴も殺せばいい…お前のせいでそいつは死ぬんだな、それでもいいなら声出してみろよ!なぁ!」





少しずつ後ろに下がることでアパートの灯りに照らされ、高城も同じように灯りにより身体、顔とはっきり見えるようになってくる。
その瞳は光を失い、ただ目の前の異物だけを見ているように思える。
一歩、一歩と後ろに下がるとついにはアパートの入り口にある壁にぶつかってしまい、これ以上後ろには下がる事ができない。
それを見てニヤッと嫌な笑みを浮かべた高城は先程よりも早い速度で俺に近寄って来ては右手の包丁を前に出して来ている。

…刺されたら、痛そうだな…。

現実逃避か、その包丁を見ても客観的な感想しか浮かばず死ぬなんて事全然思えなかった。
ただ痛いのは嫌だな、どこ刺されるのかななんてボーッと脳が考える事を拒否してしまう。
そんな脳を働かせるためにフルフルと頭を振り、高城の顔を見つめる。






「…俺を殺したら、お前の情報は全部両親にも学校にも送られることになっている」

「…で?」





心底どうでもいい、と言わんばかりにニヤニヤした顔をで見返してくる高城に眉間に皺が寄ってしまう。
…この手はもう使えないか。

コイツは俺を殺しに来た時点で家も学校も捨てる覚悟できてるんだ。
ポケットに入っている物に手を伸ばした途端、高城は俺に向かって包丁を突き出して俺に刺そうと一歩を大きく踏み出して来た。
固まりそうな身体に鞭打ってポケットから出した小さなスプレーを高城の顔に向かって思い切り吹きかけた。

吹きかけた、筈だった。
スプレーを吹きかけるよりも先に、高城の持っていた包丁が俺の右手を切り付ける。
その衝撃でスプレーを落としてしまい、拾おうにも高城の足元に転がってしまってどうする事も出来ない。

ポタポタと右手の甲から流れ出る赤いそれに、脳が危険信号を送り続ける。
今ならまだ、階段を駆け上がれば家に間に合うかもしれない…っ。

そう、駆け出そうとした瞬間。





「…ヒッ」





引き攣ったような悲鳴が聞こえそちらを見ると怯えた表情で高城を見ている若い女性。
震えた膝は今にも崩れ落ちそうで逃げろと言ったところで無理だろう、俺は走る準備をしていた足をその場で止めた。






「栗河くぅん、逃げないわけ?まぁお前が逃げたらこの女が死ぬだけだけど?お前の!代わりに!」

「もう逃げようとなんてしてないだろ、よく見ろアホ」

「はぁ?」






高城の視線を俺に集中させると、俺は女性に目を向け視線だけで外に出るよう指示する。
それを察したのか、震える膝をそのままに壁伝いにゆっくりと外に出ていく。

女の事はもうどうでもよくなったのか、鼻で笑いながら俺の血がついた包丁を弄って遊んでいる高城に軽い吐き気を覚える。
狂った奴だとは思っていたが、ここまでとは。





「お前はこれから死ぬけど、最後に連絡したい奴にメッセージ送ってもいいぜ?あぁ、電話し始めたらすぐ殺すから。ほら、早くメッセージ送れよ」

「…………」






最後にメッセージ送っていい、だなんて親切だな。なんて他人事のように思いながらスマホを起動させると迷う事なくアイツの名前に辿り着く。
結局…直接なんて伝えられなかったな…。

こんな事になるなら、あの電話で伝えておけばよかった…。

佐久間に一言、メッセージを送る。
ポンッと通知音が鳴った瞬間、俺の首に衝撃が走りそのまま後ろに倒れ込む。

あぁ…俺、死ぬのか。
やだな、俺…まだ佐久間に…。






「…ッカヒュ…ッヒュー…ヒュー…ッ」

「あーあ、かわいそ。苦しそうだー、じゃあな無能の異物くん。君のことはすぐ忘れてやるよ」






佐久間、俺…。

最期までお前と一緒…に……___________

































『好きだよ』





その一言だけ送られて来たメッセージ。
嫌な予感がしてすぐに電話するも、繋がらない。
コール音はするのに、誰も出ない。
メッセージが送られてすぐに実家を出ようとしたが、姉から母を病院に連れていくから手伝えと止められてしまう。

嫌な予感が止まらないのに、俺はその場に向かえない。
病院から帰って来ても、なかなか出られないでいると姉から「明日でもいいんじゃない?」と軽く言われキレそうになる。

けど、母の事も気になるのは事実。
きっと大丈夫、きっと…だって、あのメッセージの直前まで電話してたんだ。
大丈夫、きっと…照れ臭くなってスマホに触ろうとしてないだけ。

そう信じて眠れない夜を過ごす。
結局一睡も出来ないまま、俺は朝一番に実家を出て走って栗河の家へ向かう。
今の時間は6時、着く頃には6時半くらいか。
体力だけは自信があるため、このまま走り続ける事にする。

きっと大丈夫。
そう思っていても気持ちが落ち着かない、アイツの無事を確認するまでは安心なんて出来るわけがない。

走りながらもスマホで連絡を試みる。
しかし電源が切れてしまったのか、呼び出し音すらならないで電源か電波の問題で通話ができないと冷たい声での案内が流れるだけだった。
大丈夫だ、きっと充電し忘れたまま寝てるだけ。

走り続けると栗河のアパートが見えて来た、けれど入り口に人だかりができている。
心臓が嫌な音を立てる、違う。アイツは何も関係ない。
アイツは…凪じゃ…ない。

アパート前で立ち止まり、入り口にいたおばちゃんに声をかけてみる。






「…はぁっ、あの…っ!何か、あったんですか…っ」

「あぁ…ここに住んでる大学生が襲われたんだってさ。今警察が調べてるけど、結構血が出てるみたいよ」

「そ、…っ、その大学生は…?」

「病院に運ばれたみたいだけど、そこまでは…」





可哀想よねぇ、と続けるおばちゃんの横を通り黄色く彩られたテープの前までフラフラとした足取りのまま辿り着く。
するとそれを見た警察が俺の目の前に歩いて来て静止する。






「ここから先には立ち入らないでください」

「ぁ…の、大学って男、ですか…?」

「答えられません、もう少し下がってください」

「友達と、昨日の夜最後に連絡来てから音沙汰ないんです…っ。襲われたの友達じゃないですよね…アイツじゃ…っ」







余裕ない俺からの問いかけに警察は申し訳無さそうに答えられません。としか伝えてくれない。
むしろあまりにしつこいと公務執行妨害にあたる可能性がある、とまで言われてしまい呆然としながら規制線の前から離れる。

凪、俺どうしたらいい?

今の俺には、凪が無事である事を祈るしか出来ないのかと両手に力が入らず、ダラダラとただ歩くたびに自然と揺れる両手にも気を払う余裕なくただゆっくりと帰路についているとスマホがブーっとバイブで着信を知らせる。
ハッとポケットに入っているスマホを取り出すと、画面を確認もせず耳に当てる。






「凪!?」

『…ぁ、佐久間くん…?私、凪の母です…』

「…あ、すみません…」





凪のご両親とは仲良くさせてもらっていて連絡先も伝えてあった。
基本仕事の連絡も他の連絡も凪が代わりに伝えてくれていたため、活用されることはなかった。それが今になって役に立つとは…。

沈んだ、どこかまだ涙の籠った声のおばさんに嫌な予感が更に増長される。
ドクドクと嫌な音が心臓から聞こえていて、俺はおばさんにかける声がなかなか出ずにいると、おばさんの方から連絡した内容を知らせてくれる。






『…っ、佐久間くん…落ち着いて聞いてね…、』

「…は、い…」







その後に続く言葉は、一番恐れていたそれだった。







『凪が…襲われて、亡くなりました…っ』























それから、何をしていたのかわからない。
何も、覚えていない。

確か…おばさんに言われた病院にタクシーで向かい、それから…凪に会いに行った。
凪は青白い顔で、冷たくて…でも凄く優しい顔をしていた。
おばさんが言うには、首を切られたらしく苦しくて痛いはずなのに最期まで穏やかな表情をしていたとの事。

まるで眠っているような凪の頬を優しく撫でる。
いつもなら、擽ったそうに身を捩る凪の身体は…ぴくりとも動かない。

なんでだろうか、俺は凪がいなくなって…辛くて、悲しくて…泣きたいはずなのに涙なんて1粒も出ないんだ。
ほろほろと涙を流して凪を見つめるおばさんの横で涙の一つも見せないでいる俺は異常に思えたのか、おじさんに「また連絡する、帰りなさい」と労るように背中を支えられてその場を去った。

家に帰ってから俺は風呂にも入らず、ご飯も食べることなく布団に横になる。
布団から見える景色にはいつも、凪がいた。





『おそよう寝坊助』

『佐久間、俺この映画観に行きたい』

『なぁ、唯兎ってこういう服着ると思う?』

『甘やかすな、ばか』





甘いその存在が目の前からサッと、一瞬で消え去る。
手を伸ばしてもソイツはもう、手を握ってなんてくれなくて。
求めても求めても、もう俺の前には出て来てなんてくれない。

胸の虚しさが、大きい。
ぽっかりと大きな穴が空いたように、胸には何も残っていない。

あぁ…俺は…。
凪を失ったことで、俺自身も無くしてしまったのか。

俺は、凪がいないと何も出来ない。
笑えない、泣けない、怒れない、哀しめない、喜べない。
…何もない。

何もなくなった俺は、昨日今日と何もしないで過ごした。
文字通り、何もしていない。

仕事もしてない。
学校にも行ってない。
ご飯も食べてない。
部屋からも出てない。
話てもいない。

それでも、凪との最期のお別れの日はやって来る。

黒い服に身を包んだ人達。
知ってる顔もあれば、知らない顔もある。
その中には、唯兎くんの姿もあった。
俺がおじさんたちに頼んで呼んだのだ。
凪もきっと、そうして欲しいと思ったから。





















「唯兎くん」





聞き慣れない声に周りをキョロキョロと見回して見ると、後ろの方から栗河さんと一緒にいた…佐久間さんが立っていた。
佐久間さんの顔色は一目見ただけでもわかるくらい悪く、今にも倒れてしまうんじゃないかと心配になる程だった。

それもその筈、佐久間さんと栗河さんはきっと…恋人同士だった。
はっきりと2人に確認したわけではないが、俺から見ても2人は相思相愛と言った様子で仲睦まじい姿を見せてくれていた。

俺の隣にいた兄さんは見慣れない人に警戒したのか俺を守ろうと一歩前に出たけど、俺は兄さんの腕を掴んで逆に前に出た。






「兄さん、佐久間さんと話して来る」

「でも…」

「佐久間さんは栗河さんの恋人だったんだよ、俺も知ってる人だから大丈夫」






栗河さんの恋人だ、という言葉に兄さんは目を見開いていたが俺は兄さんに背を向け佐久間さんへの近付いた。
呼び止めてごめんね、という佐久間さんに首を振ると栗河さんに向けていた視線とはまた違う優しさを含んだ目で俺を見てくる。
なんとなく、栗河さんを思い出す目だ。

佐久間さんは優しく俺の手を掴むと、その場からゆっくりと移動した。
行き着いた先は、俺が兄さんから逃げる時に使ったあの川。
その川に掛かった橋の上に俺たちはいる。
そこは先程いた場所からはそんなに離れていないが人通りはとても少なく、川の流れる音だけが俺たちを包んだ。
橋の手摺りに腕を置いて川を眺める佐久間さんは、今ではない…どこか遠くを見ているようでもの寂しなさが隠しきれないでいるようだった。
きっと、栗河さんの事を考えているんだろうなと勝手に推測しているとフと佐久間が俺の方を見て微笑む。







「…俺と栗河が、恋人同士だって…どうして思ったのか聞いてもいい?」

「ぁ、たまにお二人を見かけて…お互いを想いあってるんだなって、相思相愛なんだって思ったんです。違ったらごめんなさい」

「…違う…っていうより、俺が栗河に猛アタックしてたんだよ。好きだって、答えは聞かないから近くに居させてくれって」






俺から視線を逸らし、川を眺めながら語り始める佐久間さんの背中は今にも泣き出してしまいそうな…迷子の子供のように見える。
どうしたらいいのかわからない、どこに行ったらいいかわからない。そんな背中。







「…栗河さ、襲われる最期に…俺にメッセージ送ってくれたんだよ…好きだってさ」

「……はい」

「酷すぎると思わない?ずっと、俺はずっとその言葉が聞きたくても栗河が好きなもののことを優先して、栗河が幸せになれるなら俺はそれのために…って、それなのにさ」

「………はい」






橋から川を見つめている佐久間さんの目にはきっと、今はもう居ない栗河さんしか映っていない。
俺がきっと、綺麗事を並べたところで逆に佐久間さんを苦しめてしまうことになるだろう。
俺は…話を聞いてあげることしかできない。

そんな俺に振り返り、優しく微笑むと佐久間さんから少し下がったところにいた俺の手を握って川のよく見えるところまで誘導した。






「俺、馬鹿だから我儘な栗河が好きなんだよ。いい子ちゃんしてないあいつが好き」

「…はい」

「栗河ね、ここから見える川が好きだったんだよ。ほら、夕方になると夕日と流れる水がキラキラして…綺麗だってよくここで眺めてた」





指差した先には、オレンジ色に光る水がキラキラと反射してとても綺麗で…悲しい光景が広がっていた。
この光景を今俺と見ている佐久間さんはどんな気持ちなのか、そんな事は俺にはわからないし想像もできないけど…俺が佐久間さんの立場だったら耐えられないと思う。

そう考えるだけで哀しさに目の奥がジンっと沁みて来る感覚に襲われて慌てて首を振る。
そんな俺を見もせず、佐久間さんは話を続けた。






「俺、凪が天国にいても寂しくないようにさ…凪が大切にしてたもの全部持っていかせたんだよ。写真や、雑誌や…映画のディスクとか全部」

「……きっと、栗河さん天国でも楽しく過ごせますね」

「でもね、もうひとつ…これだけは絶対に届けたいっていうものがあるんだ」






そう言って俺の頭を優しく撫でる佐久間さんは本当に優しい笑顔で俺を見てて、それがなんなのかはわからないけど…本当に大事にしていたものなんだなと理解できる。
ふわふわと俺の癖っ毛を堪能するように撫でている佐久間さんに俺もヘラッと笑顔を見せて見ると佐久間さんは嬉しそうに笑い返してくれた。






「……ありがとう、凪も喜ぶ」






フワッと浮遊感が俺を襲う。

何が起きた?なんて考える余裕もなく俺と…佐久間さんの身体は大きな音を立てて川に落ちた。

冷たい、苦しい、助けて。

そう思いを込めてもがくが佐久間さんの身体が俺の身体を抱え込み空気を吸う余裕も与えてくれない。
どうして…佐久間さん、どう…して…。

次第に力を失っていく俺の身体は佐久間さんに抱えられた状態のままゆっくりと川を流れた。




















……凪


………なぎ…



お前が一番大切にしてたもの、これから持っていくから




そうしたら、お前も俺も…この子も、寂しくないよな




…苦しくないよな?




今、いくよ…なぎ…













     【バッドエンド】

______狂った愛情、純粋なる愛情______





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をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

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