木瓜

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慟哭は深紅色の空に刺さって

慟哭は深紅色の空に刺さって

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 所々硝子の欠けた、テンパードアをゆっくりと押し開ける。

幸い、扉に鍵はかかっていなかった。

ここを訪れるのは、随分と久しぶりだった。

小学校を卒業するときに訪れて以来だから、一年ぶりぐらいだろうか。

この廃ビルも、人の活気で溢れていた時代があった。

ビルの中には、いくつもの商業施設が立ち並び、平日祝日と問わず、家族から老若男女が訪れる、憩いの場となっていた。

私はと言えば、このビルの屋上にある、空中庭園に行くことが、何よりもの楽しみだった。

父親に連れられて行った場所。

顔も名前も知らない母親が、愛していたというジャスミンの花で溢れた場所。

私はそこで、甘い香りに包まれながら、二人がまだ幸せであったろう日の事を、夢想しながら過ごすのが、好きだった。
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