115 / 129
慟哭は深紅色の空に刺さって
慟哭は深紅色の空に刺さって
しおりを挟む所々硝子の欠けた、テンパードアをゆっくりと押し開ける。
幸い、扉に鍵はかかっていなかった。
ここを訪れるのは、随分と久しぶりだった。
小学校を卒業するときに訪れて以来だから、一年ぶりぐらいだろうか。
この廃ビルも、人の活気で溢れていた時代があった。
ビルの中には、いくつもの商業施設が立ち並び、平日祝日と問わず、家族から老若男女が訪れる、憩いの場となっていた。
私はと言えば、このビルの屋上にある、空中庭園に行くことが、何よりもの楽しみだった。
父親に連れられて行った場所。
顔も名前も知らない母親が、愛していたというジャスミンの花で溢れた場所。
私はそこで、甘い香りに包まれながら、二人がまだ幸せであったろう日の事を、夢想しながら過ごすのが、好きだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる