木瓜

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慟哭は深紅色の空に刺さって

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どんな美術品よりも美しく、

誰よりも、今を生きていた。

生まれ落ちた時から、平等に手にしていたはずの権利を、自身の不当な境遇によって、失いそうになりながらも、

それでも尚、後ろを向くことなく、その権利を、声高に主張する彼女は、確かに生きていた。

生きながらに死んでいる、私とは違う。

―死にたい、だなんて…。

彼女の、今の姿を見れば、どれだけ馬鹿げていたかが分かる。

何が、迫りくる足音に、自ら向かってやればいい、だ。

走り続けるべきだろう。

その音が、聞こえなくなるまで、足がもつれても、走り続けるべきなんだ。

その結果、追い付かれたっていい。

だって、苦しみに塗れて、死の存在に怯えながらも、それでも、『生きたい』と叫ぶ彼女の姿は、こんなにも、美しいのだから。

その美しさは、かつて私が、この庭園に見た、あの青い花々の美しさと同じだった。

この庭園で夢見た、母親の美しさと、同じだった。
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