シンデレラなんてお断り~ハイスペック御曹司にロックオンされました~

夢呼

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9.救世主

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食事が終わったら一目散に帰ろうと、香織はタイミングをずっと見計らっていた。
だが、陽一がそれを見逃すはずがない。
レストランを出ると、さりげなく手首を掴まれた。

幸之助と太一郎は、お手本通りに

「では、後は若者同士で~~!」

と、さっさと帰っていく。
にこやかに笑って手を振る陽一の横で、香織は情けない顔で二人を見送った。

(あきらめるな! まだチャンスはあるはず!)

香織はぎゅっと拳をにぎると、陽一がため息をついた。

「・・・。お前って本当に分かりやすいな」

「へ?」

香織は不思議そうに陽一を見ると、陽一は香織から手を離した。
そしてすぐに、香織のバッグを奪うと、

「重いだろう。持ってやるよ」

と言い、スタスタ歩き出した。

「うそ・・・、ちょっと!」

慌てて陽一を追いかける。

「いいですよ! 自分の荷物ぐらい自分で持ちます!」

追い付いた香織は、陽一からバッグを奪い返そうとするが、サッと反対側に持ち変えられて、手が届かない。

「遠慮するな。紳士たるもの、女性に荷物は持たせられないからな」

そう、わざとらしく言うと周りを見渡した。香織も釣られて周りを見渡す。
するとどうだろう、女性の荷物を持っている男性の何と多い事か!

「でも、陽一さんってそういうタイプじゃないでしょ!」

「へえ、良く分かってるな、俺の事」

陽一は意地悪そうに笑うと、ロビーに向かって歩き出した。
香織はガックリと肩を落とすと、すごすごと後を追いかけた。





陽一はラウンジまで来ると、足を止めた。
陽一の真後ろを、ブツブツ文句を言いながら歩いていた香織は、そのまま陽一に激突した。

「痛っ・・・! なに?」

鼻を押さえ、陽一を見上げた香織は、そのまま横から顔を出し、前を覗き込んだ。
そこにはなんと綾子の姿があった。

綾子は同世代の中年の男性と、その男性の秘書らしい女性と三人で立ち話をしていた。
にこやかに笑っている綾子は、先日、香織と話した時とは別人のように、穏やかで美しい。

(救世主!!)

香織は思わず、両手を前で合わせると、拝むように綾子を見た。

香織の念が届いたのか、陽一の視線が強かったのか分からないが、綾子はこちらに気が付き、驚いた顔で二人を見つめた。

綾子の様子に、一緒にいた紳士もこちらに振り向くと、にこやかに手を振ってきた。
陽一は、綾子たちの方に近づいていく。香織も慌てて陽一の後を追った。

綾子は、ギロリと香織を睨みつけると、そのまま、陽一をも睨みつけた。
香織は誤解されたと焦り、

〔だ・ま・さ・れ・ま・し・た!〕

と、陽一を指差し、口パクとジェスチャーで何とか綾子に伝えようとした。
香織の動作が視野に入り、陽一はチラッと振り返るが、香織は慌ててそっぽを向き、白を切った。
綾子はそれを見て、深くため息をついた。

そんな綾子と香織のやり取りなど、全く気が付かないのか、中年紳士はにこやかに陽一に話しかけてきた。

「久しぶりだね。陽一君」

「ご無沙汰しております。宍倉社長。お元気ですか?」

「ハハハ、この通り!」

二言三言話すと、紳士は香織を見た。

「こちらの女性は? もしかして、陽一君の恋人?」

「ええ」

香織はギョッとした。慌てて否定しようと、首をブンブン振ったが、陽一に肩を抱かれて、

「原田香織さんです。どうぞよろしく」

と、紹介されてしまった。

「これは、可愛らしいお嬢さんですね。私はしがない不動産屋をやっております、宍倉といいます。よろしくお願いしますね」

「大手不動産の社長さんだ」

陽一はそっと付け加えると、目で香織に挨拶するよう伝えた。

「・・・・原田と申します・・・」

香織は、消え入りそうな声で挨拶すると、ちらっと綾子を見た。
綾子は鬼のような形相で香織を睨んでいる。

(・・・やばい・・・!)

香織はもう泣きそうだった。嫌な汗がどんどん噴出してくる。

「いやぁ、可愛らしいお嬢さんで羨ましいですなぁ、佐田さん。うちの息子もさっさと嫁を貰って欲しいと思っているのですが、なかなか良縁に恵まれなくてね」

「ホホホ・・」

綾子は引きつるように笑っている。

「おお、そうだ!これからお二人はデートかな?」

「えっと、私はこれから用事が・・・」

香織は何とか陽一から逃れようと、身をよじりながら小声で答えたが、

「ええ、これから出かけるところです」

陽一は、香織の返答に被せるように答えると、肩をガシッと抱きなおした。

「そうか、ではこれをあげよう。良かったら行ってみて」

そう言ってチケットらしいものを二枚取り出して、陽一に見せた。
それは、オルセー美術館展のチケットだった。それを見た途端、

「あ、オルセー!」

思わず香織は食い付いてしまった。
しまった!と口を押えた時はもう遅かった。
横を見ると、ニッと笑う陽一の顔。前を見ると、般若のような綾子の顔・・・。

「彼女、絵画が好きなんですよ。ありがとうございます」

陽一はチケットを受け取ると、香織の腕を取り、引っ張るようにその場から立ち去った。
香織は綾子に縋るような目で訴えたが、紳士の手前、貴婦人らしく振舞っている綾子には成す術がない。
そのまま二人を見送るしかなかった。
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