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53.嘘はつかない方がいい
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役員用の黒塗りの車が並んでいる地下の駐車場にやって来た香織は、恐る恐る周りを見渡した。
陽一の姿を探すが、見当たらない。
(どこにいるの?)
香織がキョロキョロしていると、一台の車が目に入った。
同じ黒色だが明らかに社用車とは違う。
最近の静粛性の高い静かな車とは真逆を行くようなスポーツカーが・・・。
その車から颯爽と長身の男が降りてきた。
紛れもない陽一だ。
陽一は何の戸惑いもなく香織に近づくと、呆れたように見下ろした。
「まったく、何度も鳴らしてるのに、何で出ないんだ」
顔の横で携帯を振りながら、香織を軽く睨んだ。
「就業中は仕方ないとしても、定時後はすぐ取れるようにしておけ」
そう言うと、ごく自然に香織の手を取って歩き出した。
今まで、会わずにいた時間など全く無かったかのようだ。
「ちょ、ちょっと・・・、あ、あの・・・」
香織は慌てて手を引いたが、陽一の手はしっかり繋がれて離れない。
陽一は引きずるように香織を車まで連れてくると、助手席のドアを開けた。
「どうぞ」
「どうぞって・・・。どこに行くんですか?」
香織はドキドキする胸を押さえて、目を逸らしたまま陽一に尋ねた。
まだ、まともに顔を見ることができない。
恐らく耳まで赤いだろうと思うほど、自分の顔が熱い。
「映画」
「へ?」
香織は瞬きして陽一を見た。
「同期の奴とは一緒に行っているのに、俺と行かないっていう法はないだろ?」
陽一はそう言うと、開いた助手席のドアに肘をかけ、そこに顔を乗せた。
そして、香織を覗き込むように見ると、
「お前、確かどんなジャンルでもいけるんだよな?」
ニッと意地悪そうに笑った。
「オカルトでもスプラッターでも」
「!」
香織は自分の顔が赤から青に変わっていくのが分かった。
「じゃ、チケット買ってあるから、早く乗ってくれる?」
(くっ・・・)
いつの間にか、今までと同じように陽一のペースで事が運んでいく。
香織はまんまとそのペースに乗せられてしまった。
今までのように陽一を軽く睨むと、ガックリと肩を落とし、車に乗り込んだ。
☆
香織は映画館のカップルシートで前屈みになり、嘘を付いた自分を呪っていた。
陽一は全くもって容赦がない。
連れて来られたのは本当にオカルト映画だった。
言っているだけで、もしかしたら普通の映画かも・・・なんていう淡い期待などバッサリ斬られた。
顔を膝に埋めて画面を見ないようにしても、身の毛のよだつような効果音と悲鳴は嫌でも聞こえてくる。
耳を塞ぎたくても、片方の手は陽一に握られていて、片耳しか塞げないからだ。
陽一は香織が横で震えていることなどお構いなしに映画に見入っている。
(ああ!これだから嘘なんて付くもんじゃないんだ!神様、ごめんなさーい!)
心の中で猛省しつつも、隣の陽一を恨んだ。
チラッと盗み見ると、澄ましてポップコーンを食べている。
(く~~!)
香織は余裕綽々な陽一を睨みつけた。
その視線に気が付いたのか、陽一も香織の方に振り返った。
しかし、暗くてその顔の表情までは分からない。
でも、次の瞬間、握られている手に力が込められた。
「!」
香織はまた膝の上に顔を戻した。
心臓の鼓動が恐怖から別の動悸に変わる。
トクントクンと可愛らしく心臓が跳ねる。
少しの間だけ、恐ろしい効果音もおぞましい悲鳴も香織の耳には入らなかった。
☆
映画が終わった頃には、香織の魂は半分無くなっていた。
よくあることだが、見たくないのについつい覗きたくなる心理が働いたときや、効果音が静かだから油断して顔をあげてしまう、そんなときに限り、無情にもスクリーンは一番見たくないハードな映像を映し出すものだ。
香織も例に漏れず、何度もこの失敗を繰り返した。
買ってもらったポップコーンに手を伸ばそうと顔を上げた時、飲み物を飲もうとした時、いい加減、手を離してくれと陽一に声を掛けようとした時などなど、顔を上げる度に、どエライ映像とかち合った。
映画が終わり、席を立つときには半分腰が抜けた状態だった。
陽一に手を引かれ、ヨロヨロと歩きながら何とか映画館を出た。
「飯は何にする?」
陽一は、魂が抜けている状態の香織に、平然と聞いてくる。
「・・・あんな映像の後に、よく食べられますね・・・」
「大したことなかったろ? あんな程度」
「大したことあり過ぎですよ! オカルトなんてホント最悪! めっちゃグロかった!」
「あれ? オカルト系だってちゃんと話になっているから舐めるなって言ったのは誰だっけ?」
「う゛・・・」
「この映画も思いの外、ちゃんとストーリーになってたぜ?お前が言ってた通り」
陽一は意地悪そうに笑って香織の顔を覗き込むと、人差し指で額をはじいた。
「ったぁ・・・」
「ま、そもそもお前が悪いんだろ? 嘘なんて付くから」
(う~~・・・)
香織は額を摩りながら陽一を睨みつけた。
陽一はいつもの勝ち誇った顔を見せると、
「飯食って機嫌直せ」
そう言うと、香織の手を引いて歩き出した。
陽一の姿を探すが、見当たらない。
(どこにいるの?)
香織がキョロキョロしていると、一台の車が目に入った。
同じ黒色だが明らかに社用車とは違う。
最近の静粛性の高い静かな車とは真逆を行くようなスポーツカーが・・・。
その車から颯爽と長身の男が降りてきた。
紛れもない陽一だ。
陽一は何の戸惑いもなく香織に近づくと、呆れたように見下ろした。
「まったく、何度も鳴らしてるのに、何で出ないんだ」
顔の横で携帯を振りながら、香織を軽く睨んだ。
「就業中は仕方ないとしても、定時後はすぐ取れるようにしておけ」
そう言うと、ごく自然に香織の手を取って歩き出した。
今まで、会わずにいた時間など全く無かったかのようだ。
「ちょ、ちょっと・・・、あ、あの・・・」
香織は慌てて手を引いたが、陽一の手はしっかり繋がれて離れない。
陽一は引きずるように香織を車まで連れてくると、助手席のドアを開けた。
「どうぞ」
「どうぞって・・・。どこに行くんですか?」
香織はドキドキする胸を押さえて、目を逸らしたまま陽一に尋ねた。
まだ、まともに顔を見ることができない。
恐らく耳まで赤いだろうと思うほど、自分の顔が熱い。
「映画」
「へ?」
香織は瞬きして陽一を見た。
「同期の奴とは一緒に行っているのに、俺と行かないっていう法はないだろ?」
陽一はそう言うと、開いた助手席のドアに肘をかけ、そこに顔を乗せた。
そして、香織を覗き込むように見ると、
「お前、確かどんなジャンルでもいけるんだよな?」
ニッと意地悪そうに笑った。
「オカルトでもスプラッターでも」
「!」
香織は自分の顔が赤から青に変わっていくのが分かった。
「じゃ、チケット買ってあるから、早く乗ってくれる?」
(くっ・・・)
いつの間にか、今までと同じように陽一のペースで事が運んでいく。
香織はまんまとそのペースに乗せられてしまった。
今までのように陽一を軽く睨むと、ガックリと肩を落とし、車に乗り込んだ。
☆
香織は映画館のカップルシートで前屈みになり、嘘を付いた自分を呪っていた。
陽一は全くもって容赦がない。
連れて来られたのは本当にオカルト映画だった。
言っているだけで、もしかしたら普通の映画かも・・・なんていう淡い期待などバッサリ斬られた。
顔を膝に埋めて画面を見ないようにしても、身の毛のよだつような効果音と悲鳴は嫌でも聞こえてくる。
耳を塞ぎたくても、片方の手は陽一に握られていて、片耳しか塞げないからだ。
陽一は香織が横で震えていることなどお構いなしに映画に見入っている。
(ああ!これだから嘘なんて付くもんじゃないんだ!神様、ごめんなさーい!)
心の中で猛省しつつも、隣の陽一を恨んだ。
チラッと盗み見ると、澄ましてポップコーンを食べている。
(く~~!)
香織は余裕綽々な陽一を睨みつけた。
その視線に気が付いたのか、陽一も香織の方に振り返った。
しかし、暗くてその顔の表情までは分からない。
でも、次の瞬間、握られている手に力が込められた。
「!」
香織はまた膝の上に顔を戻した。
心臓の鼓動が恐怖から別の動悸に変わる。
トクントクンと可愛らしく心臓が跳ねる。
少しの間だけ、恐ろしい効果音もおぞましい悲鳴も香織の耳には入らなかった。
☆
映画が終わった頃には、香織の魂は半分無くなっていた。
よくあることだが、見たくないのについつい覗きたくなる心理が働いたときや、効果音が静かだから油断して顔をあげてしまう、そんなときに限り、無情にもスクリーンは一番見たくないハードな映像を映し出すものだ。
香織も例に漏れず、何度もこの失敗を繰り返した。
買ってもらったポップコーンに手を伸ばそうと顔を上げた時、飲み物を飲もうとした時、いい加減、手を離してくれと陽一に声を掛けようとした時などなど、顔を上げる度に、どエライ映像とかち合った。
映画が終わり、席を立つときには半分腰が抜けた状態だった。
陽一に手を引かれ、ヨロヨロと歩きながら何とか映画館を出た。
「飯は何にする?」
陽一は、魂が抜けている状態の香織に、平然と聞いてくる。
「・・・あんな映像の後に、よく食べられますね・・・」
「大したことなかったろ? あんな程度」
「大したことあり過ぎですよ! オカルトなんてホント最悪! めっちゃグロかった!」
「あれ? オカルト系だってちゃんと話になっているから舐めるなって言ったのは誰だっけ?」
「う゛・・・」
「この映画も思いの外、ちゃんとストーリーになってたぜ?お前が言ってた通り」
陽一は意地悪そうに笑って香織の顔を覗き込むと、人差し指で額をはじいた。
「ったぁ・・・」
「ま、そもそもお前が悪いんだろ? 嘘なんて付くから」
(う~~・・・)
香織は額を摩りながら陽一を睨みつけた。
陽一はいつもの勝ち誇った顔を見せると、
「飯食って機嫌直せ」
そう言うと、香織の手を引いて歩き出した。
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