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60.「お断り」完了
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出勤した香織は、自分の席について暫くしても、ソワソワして落ち着かなかった。
周りを見渡しても、みんないつも通り仕事をしている。
それなのに、自分は重大な秘密を抱えてしまい、裏切り者になった気分だ。
この人たちの一体誰が、あの副社長とこの平々凡々の自分が付き合ってると思うだろう?
そんなことを思っている時、一人の女子社員が、
「今朝、副社長とエレベーター一緒になっちゃった!」
と、はしゃぎながらしゃべっているのが聞こえて、香織は飛び上がりそうになった。
「うそ~! 羨ましい~、超ラッキーじゃん!」
「えー! 王子様スマイル見たの?」
「うん! 見ちゃった! おはようって挨拶されたー!」
そんな会話を耳にして、香織の背中に冷たいものが流れた。
(や、やばい・・・。バレたら絶対吊るし上げられる・・・)
話題に上がっている王子様が、実は自分の男だということに、得意げな気持ちなる余裕など全くない。
それどころか、なぜ自分の男がそんな王子様なんだと恨めしく思う。
やはり、御曹司という物件はなかなか厄介だ。
(もう後には引けないし、引く気もないけどさ・・・)
そう思う一方で、会社生活は穏やかに平和に過ごしたいという願望はとても強い。
改めて、これは絶対的な秘密事項であり、情報漏洩には細心の注意を払わなくてはいけないと心に誓った。
☆
午後になり暫くすると、いつものごとく書類のお使いに香織がご指名された。
(うっ・・・)
香織は今までとは別の意味で、役員フロアに行くのが躊躇われた。
会社で陽一と顔を合わすのは、どうも気恥ずかしい。
だが、目の前に差し出された書類を受け取らないという選択肢はない。
「かしこまりました・・・」
仕方なく書類を受け取ると、陽一と鉢合わせ無いことを祈りながら13階に向かった。
秘書室に入り、陽一の秘書を見つけると声を掛けた。
「あ、お疲れ様です! 原田さん!」
いつもにこやかで丁寧な女性だが、いつもにも増してにこやかに挨拶をしてきた。
「お疲れ様です。こちら常務宛の書類です。ご検印をお願いします」
「はーい!」
「・・・? 何かいいことでもあったんですか?楽しそうですね」
ハイテンション気味の秘書を不思議に思い、つい訪ねてしまった。
「そうなんですよ! 実はね・・・」
秘書は急に小声になったかと思うと、香織に近づいてコソコソ話し始めた。
「前話した、取引先の役員の姪御さんなんだけど・・・」
「!」
「今日もお昼に来たんだけど、帰らされたの!」
ふふっと笑う秘書に対して、香織は言葉に詰まった。
もう一人のツンっと澄ました秘書も傍にやってくると、
「スゴスゴ帰って行ったわよね。絶対お昼一緒に行く気満々だったわよ、まったく図々しいったら。ざまあないわよね」
勝ち誇ったように鼻で笑った。
「・・・」
香織は早速行動に移ってくれた陽一の姿勢に、胸がキュンっとなった。
何て言って断ったのだろう?
仕事が忙しいと適当に誤魔化しただけかもしれない。
でも、もしかしたらちゃんと恋人がいると言ってくれたのかも・・・。
そう思うと、自然に頬が緩んでくる。
でも、目の前の秘書二人を見てすぐに現実に引き戻された。
(この二人にバレたら一番まずい!)
顔を引き締めると、二人にチョコンとお辞儀をして、急いで秘書室から逃げ出した。
☆
定時後、香織は仕事で引っ張り出してきたファイルを元の棚に片付けていた。
そこに湊が近づいてきた。
映画を見に行く日取りを決めようと思って、香織の席に行ったらいないので、探していたのだ。
しゃがみ込んで一番下の棚にファイルをしまっている香織を見つけ、声を掛けようと思って近づいた。
香織は、普段髪を下ろしているが、仕事中、たまに髪を束ねることがある。
今日も、さっきまで髪を下ろしていたのに、今は無造作に束ねていた。
湊はそこから見えるうなじに目がいった。
湊は特別うなじフェチなわけではない。
だが、気になる女性の普段は見えない部分が、無防備に目の前に晒され、つい見入ってしまった。
その時、あるものが目に入り、湊は息を呑んだ。
「・・・原田・・・」
「わぁ!」
突然、背後から声を掛けられて、香織は驚いて声を上げた。
振り向いて見上げると、湊が立っている。
香織はさらに動揺して、心臓が早くなった。
「か、加藤君! お、お疲れ様! どうしたの?」
香織は慌てて立ち上がった。
(どうしたのじゃない、きっと映画の事だ! ちゃんと断らないと!)
香織はドキマキしながら湊を見た。
陽一も例のご令嬢を断ってくれたのだ。自分だってきちんとしないと!
何て切り出そうかと思っていると、
「原田さ、髪、下ろした方がいいぞ・・・」
湊が暗い声で呟くように言った。
「?」
不思議そうにしている香織に、湊は自分のうなじを指差した。
「痕、付いてる・・・」
「あと??」
「あんまり見せない方がいいんじゃない?」
「!!!」
香織は咄嗟に両手でうなじを押さえた。
動揺しすぎて、棚にぶつかったが、そんな痛さなど感じないほど体中が熱くなった。
真っ赤になっている香織を、湊は寂しそうに見た。
「原田、男いたんだな・・・」
「う、その・・・、えっと・・・」
「悪かったな。それなのにしつこく誘って。言ってくれればよかったのに・・・」
「ご、ごめんなさい! あの、ちょっと言えない事情があって・・・。その・・・、本当にごめんなさい!」
香織は90度に腰を曲げて、湊に謝った。
「そんな謝るなよ。原田は悪くないし・・・。じゃあ、お疲れ・・・」
湊もやっと、今までの香織の歯切れの悪さの意味を理解したらしい。
暗い声でそう言うと、肩を落として香織から離れて行った。
周りを見渡しても、みんないつも通り仕事をしている。
それなのに、自分は重大な秘密を抱えてしまい、裏切り者になった気分だ。
この人たちの一体誰が、あの副社長とこの平々凡々の自分が付き合ってると思うだろう?
そんなことを思っている時、一人の女子社員が、
「今朝、副社長とエレベーター一緒になっちゃった!」
と、はしゃぎながらしゃべっているのが聞こえて、香織は飛び上がりそうになった。
「うそ~! 羨ましい~、超ラッキーじゃん!」
「えー! 王子様スマイル見たの?」
「うん! 見ちゃった! おはようって挨拶されたー!」
そんな会話を耳にして、香織の背中に冷たいものが流れた。
(や、やばい・・・。バレたら絶対吊るし上げられる・・・)
話題に上がっている王子様が、実は自分の男だということに、得意げな気持ちなる余裕など全くない。
それどころか、なぜ自分の男がそんな王子様なんだと恨めしく思う。
やはり、御曹司という物件はなかなか厄介だ。
(もう後には引けないし、引く気もないけどさ・・・)
そう思う一方で、会社生活は穏やかに平和に過ごしたいという願望はとても強い。
改めて、これは絶対的な秘密事項であり、情報漏洩には細心の注意を払わなくてはいけないと心に誓った。
☆
午後になり暫くすると、いつものごとく書類のお使いに香織がご指名された。
(うっ・・・)
香織は今までとは別の意味で、役員フロアに行くのが躊躇われた。
会社で陽一と顔を合わすのは、どうも気恥ずかしい。
だが、目の前に差し出された書類を受け取らないという選択肢はない。
「かしこまりました・・・」
仕方なく書類を受け取ると、陽一と鉢合わせ無いことを祈りながら13階に向かった。
秘書室に入り、陽一の秘書を見つけると声を掛けた。
「あ、お疲れ様です! 原田さん!」
いつもにこやかで丁寧な女性だが、いつもにも増してにこやかに挨拶をしてきた。
「お疲れ様です。こちら常務宛の書類です。ご検印をお願いします」
「はーい!」
「・・・? 何かいいことでもあったんですか?楽しそうですね」
ハイテンション気味の秘書を不思議に思い、つい訪ねてしまった。
「そうなんですよ! 実はね・・・」
秘書は急に小声になったかと思うと、香織に近づいてコソコソ話し始めた。
「前話した、取引先の役員の姪御さんなんだけど・・・」
「!」
「今日もお昼に来たんだけど、帰らされたの!」
ふふっと笑う秘書に対して、香織は言葉に詰まった。
もう一人のツンっと澄ました秘書も傍にやってくると、
「スゴスゴ帰って行ったわよね。絶対お昼一緒に行く気満々だったわよ、まったく図々しいったら。ざまあないわよね」
勝ち誇ったように鼻で笑った。
「・・・」
香織は早速行動に移ってくれた陽一の姿勢に、胸がキュンっとなった。
何て言って断ったのだろう?
仕事が忙しいと適当に誤魔化しただけかもしれない。
でも、もしかしたらちゃんと恋人がいると言ってくれたのかも・・・。
そう思うと、自然に頬が緩んでくる。
でも、目の前の秘書二人を見てすぐに現実に引き戻された。
(この二人にバレたら一番まずい!)
顔を引き締めると、二人にチョコンとお辞儀をして、急いで秘書室から逃げ出した。
☆
定時後、香織は仕事で引っ張り出してきたファイルを元の棚に片付けていた。
そこに湊が近づいてきた。
映画を見に行く日取りを決めようと思って、香織の席に行ったらいないので、探していたのだ。
しゃがみ込んで一番下の棚にファイルをしまっている香織を見つけ、声を掛けようと思って近づいた。
香織は、普段髪を下ろしているが、仕事中、たまに髪を束ねることがある。
今日も、さっきまで髪を下ろしていたのに、今は無造作に束ねていた。
湊はそこから見えるうなじに目がいった。
湊は特別うなじフェチなわけではない。
だが、気になる女性の普段は見えない部分が、無防備に目の前に晒され、つい見入ってしまった。
その時、あるものが目に入り、湊は息を呑んだ。
「・・・原田・・・」
「わぁ!」
突然、背後から声を掛けられて、香織は驚いて声を上げた。
振り向いて見上げると、湊が立っている。
香織はさらに動揺して、心臓が早くなった。
「か、加藤君! お、お疲れ様! どうしたの?」
香織は慌てて立ち上がった。
(どうしたのじゃない、きっと映画の事だ! ちゃんと断らないと!)
香織はドキマキしながら湊を見た。
陽一も例のご令嬢を断ってくれたのだ。自分だってきちんとしないと!
何て切り出そうかと思っていると、
「原田さ、髪、下ろした方がいいぞ・・・」
湊が暗い声で呟くように言った。
「?」
不思議そうにしている香織に、湊は自分のうなじを指差した。
「痕、付いてる・・・」
「あと??」
「あんまり見せない方がいいんじゃない?」
「!!!」
香織は咄嗟に両手でうなじを押さえた。
動揺しすぎて、棚にぶつかったが、そんな痛さなど感じないほど体中が熱くなった。
真っ赤になっている香織を、湊は寂しそうに見た。
「原田、男いたんだな・・・」
「う、その・・・、えっと・・・」
「悪かったな。それなのにしつこく誘って。言ってくれればよかったのに・・・」
「ご、ごめんなさい! あの、ちょっと言えない事情があって・・・。その・・・、本当にごめんなさい!」
香織は90度に腰を曲げて、湊に謝った。
「そんな謝るなよ。原田は悪くないし・・・。じゃあ、お疲れ・・・」
湊もやっと、今までの香織の歯切れの悪さの意味を理解したらしい。
暗い声でそう言うと、肩を落として香織から離れて行った。
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