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68.各々の会食
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「そう言えば、取引先のお偉いさんの姪の人って、どうなったんですか?」
飲食店に入って最初の乾杯を済ませると、早速、第一課の女子社員が秘書二人に聞いてきた。
「あー、あれね。副社長に断られたの。もう来なくなったわよ」
田島と言う秘書が得意気に答えた。
「え? 何の話?」
事情を知らないもう一人の第一課の女子が聞いてきた。
「なんか、取引先の偉い人の姪御さんが、副社長を狙ってたらしいですよ。毎回お昼時に目がけてやってきてランチ一緒に行っていたんですって」
「へえ、積極的!」
「でも、その気も無い人に頻繁に来られたら、副社長だって迷惑ですよ。立場を利用して近づいてくるなんて、どうかと思いません?」
坂上が苛立たし気に答えた。
ホントホントと田島が相槌を打つ。
そんな会話を香織はメニューと覗き込みながら、ハラハラして聞いていた。
「でも、正直なところ、副社長って恋人いないのかしら?」
第一課の女性がビールを口にしながら、秘書たちに聞いてきた。
香織はメニューを落としそうになった。
一番話題にしたくないことだ。だが絶対に話題になるネタだ。
覚悟はしていたが、手が震える。
「多分いないはず。いつも懇親会の席ではそう言ってるし。お見合いだって、また断ったとか言って、会長が愚痴をこぼしていらしたのも聞いてるし」
田島がそう言ったが、坂上の顔が曇った。
「そうですね・・・。特定の人はいないらしいですけど・・・。あんなに素敵な人、モテない訳ないですよ。それなりに女性はいるみたいですよ」
そう言うと、ビールを一気飲みした。
「え? そうなの?」
田島が食い付いた。
もちろん、第一課の二人もテーブルを乗り越えんばかりに、前のめりになって坂上を見た。
「この間、見えちゃったの。ここに痕付いてるの」
坂上は自分の首筋を指した。
香織は血の気が引いた。
「しかも、一回じゃないし。つい二、三か月前も見ちゃった」
(そ、それも・・・、私じゃん・・・)
第一課の二人がきゃぁ~と黄色い声を上げる中、香織はメニューに顔を埋めた。
もう、最悪だ・・・。
あの時の自分を引っ叩きたい・・・。
「何? それ。セフレってこと?」
田島が眉をひそめた。
香織は思わずムッとして、顔を上げた。
「さあ、分からないけど・・・」
坂上がそう答えた時、香織はメニューを差し出した。
「坂上さん、次、何飲みます? 食べ物ももっと頼みましょうよ! ね!?」
坂上がドリンクのメニューを覗いている間、何とか話題を変えたいと、自分の身内にメニューを見せるも、無視された。
「わ~。さっすが副社長、隅に置けないですね~」
「ホントホント! 副社長呼んで追求したーい! なんてね~」
アイドル的対象で陽一を見ている第一課の二人と、本気モードの秘書の二人とは温度差がある。
きゃあきゃあ言っている二人を田島は冷めた目で見つめている。
「あ、でも、お二人が呼べば来てくださるんじゃないですか? 私たちと違ってずっと親しいんだし」
『ずっと親しい』と言われて、田島も坂上も少しだけ頬を緩めた。
坂上はちょっと得意げな顔になり、
「そうですね、声を掛けたら来てくださるかも。でも、今日は会食が入って無理なんですよ」
そう言って、手を挙げて店員を呼んだ。
「確か金田製薬さんだったわよね?」
田島が聞いてきた。
坂上は頷くと、店員にモスコミュールを注文した。
「そう、急に決まってね。急いで手配したの」
☆
会食の席で正則は渋い顔をしていた。
同席するはずだった陽一の姿は無い。
その代わり、もう一人の孫の隼人の姿がある。
今回の会食の相手と一緒に手掛けているプロジェクトは主に隼人がメインを担っている。
だから、当然、仕事上の会食であれば隼人が適任だ。
だが、先方の連れには一人若い女性が混じっている。
正則は軽く溜息を付いた。
その状況に同席した息子である社長と隼人も困惑した顔をしている。
陽一からは同日に別の取引先との会食があり、そちらを優先せざるを得ない旨の連絡が入ったのは昨日だった。
相手先は重要な顧客で、主に陽一が携わっている。
しかも、ここ暫く先方から会食の申し出と上手く調整が付かず、やっと都合が付いたと言う。
「本来なら、会長のおじいさんもこっちの会食に出席してほしいくらいだけどね。でも伊東専務に話を付けたら、同席してもらう。そっちは隼人でいいだろ?なんせ、あいつがプロジェクトのメインなんだから」
会食の本当の理由を伝えなかった正則には、言い返す言葉が見当たらない。
こちらの約束を反故したどころか、逆に恩着せがましく話してくる陽一に腹が立っても、頷くしかなかった。
(まったく、ずる賢い奴だ・・・)
正則は苦々しく思いながら、同席している父子を見た。
隼人は既に見合いが上手くいっており、交際も順調だと聞く。
そんな隼人にこれ以上、若い女性は紹介できない。
息子の正和も、孫の隼人も少々困惑気味だが、率なく応対している。
見合いまがいの会食のはずが、通常の会食へと変貌した瞬間だった。
飲食店に入って最初の乾杯を済ませると、早速、第一課の女子社員が秘書二人に聞いてきた。
「あー、あれね。副社長に断られたの。もう来なくなったわよ」
田島と言う秘書が得意気に答えた。
「え? 何の話?」
事情を知らないもう一人の第一課の女子が聞いてきた。
「なんか、取引先の偉い人の姪御さんが、副社長を狙ってたらしいですよ。毎回お昼時に目がけてやってきてランチ一緒に行っていたんですって」
「へえ、積極的!」
「でも、その気も無い人に頻繁に来られたら、副社長だって迷惑ですよ。立場を利用して近づいてくるなんて、どうかと思いません?」
坂上が苛立たし気に答えた。
ホントホントと田島が相槌を打つ。
そんな会話を香織はメニューと覗き込みながら、ハラハラして聞いていた。
「でも、正直なところ、副社長って恋人いないのかしら?」
第一課の女性がビールを口にしながら、秘書たちに聞いてきた。
香織はメニューを落としそうになった。
一番話題にしたくないことだ。だが絶対に話題になるネタだ。
覚悟はしていたが、手が震える。
「多分いないはず。いつも懇親会の席ではそう言ってるし。お見合いだって、また断ったとか言って、会長が愚痴をこぼしていらしたのも聞いてるし」
田島がそう言ったが、坂上の顔が曇った。
「そうですね・・・。特定の人はいないらしいですけど・・・。あんなに素敵な人、モテない訳ないですよ。それなりに女性はいるみたいですよ」
そう言うと、ビールを一気飲みした。
「え? そうなの?」
田島が食い付いた。
もちろん、第一課の二人もテーブルを乗り越えんばかりに、前のめりになって坂上を見た。
「この間、見えちゃったの。ここに痕付いてるの」
坂上は自分の首筋を指した。
香織は血の気が引いた。
「しかも、一回じゃないし。つい二、三か月前も見ちゃった」
(そ、それも・・・、私じゃん・・・)
第一課の二人がきゃぁ~と黄色い声を上げる中、香織はメニューに顔を埋めた。
もう、最悪だ・・・。
あの時の自分を引っ叩きたい・・・。
「何? それ。セフレってこと?」
田島が眉をひそめた。
香織は思わずムッとして、顔を上げた。
「さあ、分からないけど・・・」
坂上がそう答えた時、香織はメニューを差し出した。
「坂上さん、次、何飲みます? 食べ物ももっと頼みましょうよ! ね!?」
坂上がドリンクのメニューを覗いている間、何とか話題を変えたいと、自分の身内にメニューを見せるも、無視された。
「わ~。さっすが副社長、隅に置けないですね~」
「ホントホント! 副社長呼んで追求したーい! なんてね~」
アイドル的対象で陽一を見ている第一課の二人と、本気モードの秘書の二人とは温度差がある。
きゃあきゃあ言っている二人を田島は冷めた目で見つめている。
「あ、でも、お二人が呼べば来てくださるんじゃないですか? 私たちと違ってずっと親しいんだし」
『ずっと親しい』と言われて、田島も坂上も少しだけ頬を緩めた。
坂上はちょっと得意げな顔になり、
「そうですね、声を掛けたら来てくださるかも。でも、今日は会食が入って無理なんですよ」
そう言って、手を挙げて店員を呼んだ。
「確か金田製薬さんだったわよね?」
田島が聞いてきた。
坂上は頷くと、店員にモスコミュールを注文した。
「そう、急に決まってね。急いで手配したの」
☆
会食の席で正則は渋い顔をしていた。
同席するはずだった陽一の姿は無い。
その代わり、もう一人の孫の隼人の姿がある。
今回の会食の相手と一緒に手掛けているプロジェクトは主に隼人がメインを担っている。
だから、当然、仕事上の会食であれば隼人が適任だ。
だが、先方の連れには一人若い女性が混じっている。
正則は軽く溜息を付いた。
その状況に同席した息子である社長と隼人も困惑した顔をしている。
陽一からは同日に別の取引先との会食があり、そちらを優先せざるを得ない旨の連絡が入ったのは昨日だった。
相手先は重要な顧客で、主に陽一が携わっている。
しかも、ここ暫く先方から会食の申し出と上手く調整が付かず、やっと都合が付いたと言う。
「本来なら、会長のおじいさんもこっちの会食に出席してほしいくらいだけどね。でも伊東専務に話を付けたら、同席してもらう。そっちは隼人でいいだろ?なんせ、あいつがプロジェクトのメインなんだから」
会食の本当の理由を伝えなかった正則には、言い返す言葉が見当たらない。
こちらの約束を反故したどころか、逆に恩着せがましく話してくる陽一に腹が立っても、頷くしかなかった。
(まったく、ずる賢い奴だ・・・)
正則は苦々しく思いながら、同席している父子を見た。
隼人は既に見合いが上手くいっており、交際も順調だと聞く。
そんな隼人にこれ以上、若い女性は紹介できない。
息子の正和も、孫の隼人も少々困惑気味だが、率なく応対している。
見合いまがいの会食のはずが、通常の会食へと変貌した瞬間だった。
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