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5.奪われる予定だった部屋
翌朝、当然のごとく朝食が部屋に運ばれてきた。ダイニングに来るなということだ。ラリエットは朝食を運ばれることを知っていたので驚かない。
しかし、運んできたレイラの顔は納得がいかないようにムスッとしている。嫡女である自分の主を蔑ろにされたが面白くないのだろう。何の苛立ちも表さない主に、レイラは少しがっかりしたように溜息をついた。
「お嬢様は悔しくないのですか? さっき聞いた話ですと、この後、旦那様とあの母娘で外出するらしいです。昼食は外で済ませる予定のようですよ。もしかして、今日の晩餐だってお嬢様をお呼びにならないかも・・・」
今日の晩餐どころか、今後一週間、怪我が完治するまで三度の食事は部屋に運ばれることになる。ラリエット自身はあの三人と顔を合わせなくて済むので返って気が楽でよい。
「いいのよ、別に」
ラリエットはアリーに助けられながら、窓際のテーブルに着いた。今日はいい天気だ。窓から入る日差しが心地よい。ポケ~ッと窓から外を眺めた。彼女はこの窓辺から眺める庭の景色が好きだ。しかし、ふとあることに気が付いた。
(そう言えば・・・部屋が・・・)
ラリエットは思わず部屋を見渡した。レイラとアリーはラリエットが突然キョロキョロし始めたことに首を傾げた。
「どうされましたか? お嬢様?」
ラリエットはハッとしたようにメイドを見ると慌てて首を横に振った。
「あ、いいえ。別に何でもないわ。食事が終わったら呼ぶわね」
「かしこまりました」
二人のメイドが去った後、一人になった部屋をゆっくり見渡す。ここは紛れもなく自分の部屋。日差しがたっぷり入る居心地の良いお部屋だ。ベッドや机、応接セット、本棚・・・。これらの位置が一週間前と微妙に変わっているのは訳がある。
「本当ならアリエルに獲られちゃうのに・・・」
ラリエットは不思議そうに呟いた。
この部屋は幼い頃からラリエットに与えられた部屋で、彼女のお気に入りだった。
思い出した小説の内容が確かならば、この部屋は異母妹に獲られ、彼女は別の部屋に移されるはずなのだ。
父は母娘を正式に子爵家へ迎え入れる前に一度だけ邸に招待したことがある。
小説では、その時にラリエットの部屋を見たアリエルがここをとても気に入り、父に自分の部屋にしたいと懇願するのだ。父はラリエットの意向など聞かずに二つ返事で了承する。それもそのはず。この部屋は夫婦の部屋に近い。新たに迎えた愛娘を傍に置きたいと思う父は、邪魔者であるもう一人の娘を離れた部屋へ追いやってしまうのだ。
しかし、現実では、父がラリエットを追い出す方が早かった。
母娘を招待する一週間前に、ラリエットは自分の部屋を追い出され、離れた部屋に移された。そこは以前、祖母が使用していた部屋だった。祖母が亡くなってからは開かずの間になっていた部屋。久々に足を踏み入れると、窓からの日差しは、外にある大きな木々に遮られ薄暗い上に黴臭い。とても陰気な空気が漂っていた。ただ、さすがに元当主夫人が使用していただけあって、広々としており、壁や備え付けの家具、ベッド、マントルピースなどはとても豪華だ。
祖母が生きていた頃はよく通ったこの部屋。その頃は、日差しが入るように外の巨木はきちんと手入れがされていた。
外に愛人を作り、母を冷遇する父を、祖母はよく諫めていたが、父は全く耳を貸さなかった。祖母はせめて自分だけはと、母の味方でいてくれた。祖母と母と三人でこの部屋でおしゃべりしながらお茶を飲む時間がラリエットはとても好きだった。
父がこの部屋を選んだのはせめてもの情けか? 煩わしく思っていても、ラリエットは嫡女。この段階ではまだ体裁を気にしていたようだ。いきなり屋根裏部屋に押し込むということはなかった。
とは言え、最終的には屋根裏部屋へ押し込まれるのだが・・・。
ラリエットは使用人たちと一緒に一週間かけてこの部屋をきれいに掃除した。豪華な家具もベッドもそのままに、そこそこ快適な部屋になった。
一方でラリエットの元の部屋もアリエル用に一新され、元々あったラリエットの家具は捨てられそうになったが、使用人が空き部屋に保管してくれた。
こうして綺麗になったラリエットの部屋―――元祖母の部屋を、初めて邸に来たアリエルは一目見て気に入ったのだ。
最初、父から得意気に自分の部屋を見せられたアリエルは、小さいが可愛らしい部屋にとても興奮し、喜んだ。しかし、異母姉の部屋も見たいと言い出した。ラリエットは素直にアリエルに自分の部屋へ案内した。その部屋を見た途端、
『お父様! 私、この部屋の方がいい!』
父に抱き付き、叫んだ。
ラリエットは不思議に思った。それなりに快適になった部屋だが、日当たりが悪いのは変わらない。多少陰気臭いのはそのまま。よっぽど元私の部屋の方がいいじゃないかと思ったが、部屋の広さや家具やベッドの豪華が、アリエルの目を引いたのだろう。父もこの部屋はお勧めではないらしく、やんわりと止めるように諭したが、それは逆効果だった。返ってこの部屋に執着してしまったようだ。最終的に、
『お父様なんて嫌い!』
と、叫んだ途端、父は白旗を掲げ、元祖母の部屋がアリエルの部屋となり、ラリエットは自分の部屋に戻ってよいことになったのだった。
しかし、運んできたレイラの顔は納得がいかないようにムスッとしている。嫡女である自分の主を蔑ろにされたが面白くないのだろう。何の苛立ちも表さない主に、レイラは少しがっかりしたように溜息をついた。
「お嬢様は悔しくないのですか? さっき聞いた話ですと、この後、旦那様とあの母娘で外出するらしいです。昼食は外で済ませる予定のようですよ。もしかして、今日の晩餐だってお嬢様をお呼びにならないかも・・・」
今日の晩餐どころか、今後一週間、怪我が完治するまで三度の食事は部屋に運ばれることになる。ラリエット自身はあの三人と顔を合わせなくて済むので返って気が楽でよい。
「いいのよ、別に」
ラリエットはアリーに助けられながら、窓際のテーブルに着いた。今日はいい天気だ。窓から入る日差しが心地よい。ポケ~ッと窓から外を眺めた。彼女はこの窓辺から眺める庭の景色が好きだ。しかし、ふとあることに気が付いた。
(そう言えば・・・部屋が・・・)
ラリエットは思わず部屋を見渡した。レイラとアリーはラリエットが突然キョロキョロし始めたことに首を傾げた。
「どうされましたか? お嬢様?」
ラリエットはハッとしたようにメイドを見ると慌てて首を横に振った。
「あ、いいえ。別に何でもないわ。食事が終わったら呼ぶわね」
「かしこまりました」
二人のメイドが去った後、一人になった部屋をゆっくり見渡す。ここは紛れもなく自分の部屋。日差しがたっぷり入る居心地の良いお部屋だ。ベッドや机、応接セット、本棚・・・。これらの位置が一週間前と微妙に変わっているのは訳がある。
「本当ならアリエルに獲られちゃうのに・・・」
ラリエットは不思議そうに呟いた。
この部屋は幼い頃からラリエットに与えられた部屋で、彼女のお気に入りだった。
思い出した小説の内容が確かならば、この部屋は異母妹に獲られ、彼女は別の部屋に移されるはずなのだ。
父は母娘を正式に子爵家へ迎え入れる前に一度だけ邸に招待したことがある。
小説では、その時にラリエットの部屋を見たアリエルがここをとても気に入り、父に自分の部屋にしたいと懇願するのだ。父はラリエットの意向など聞かずに二つ返事で了承する。それもそのはず。この部屋は夫婦の部屋に近い。新たに迎えた愛娘を傍に置きたいと思う父は、邪魔者であるもう一人の娘を離れた部屋へ追いやってしまうのだ。
しかし、現実では、父がラリエットを追い出す方が早かった。
母娘を招待する一週間前に、ラリエットは自分の部屋を追い出され、離れた部屋に移された。そこは以前、祖母が使用していた部屋だった。祖母が亡くなってからは開かずの間になっていた部屋。久々に足を踏み入れると、窓からの日差しは、外にある大きな木々に遮られ薄暗い上に黴臭い。とても陰気な空気が漂っていた。ただ、さすがに元当主夫人が使用していただけあって、広々としており、壁や備え付けの家具、ベッド、マントルピースなどはとても豪華だ。
祖母が生きていた頃はよく通ったこの部屋。その頃は、日差しが入るように外の巨木はきちんと手入れがされていた。
外に愛人を作り、母を冷遇する父を、祖母はよく諫めていたが、父は全く耳を貸さなかった。祖母はせめて自分だけはと、母の味方でいてくれた。祖母と母と三人でこの部屋でおしゃべりしながらお茶を飲む時間がラリエットはとても好きだった。
父がこの部屋を選んだのはせめてもの情けか? 煩わしく思っていても、ラリエットは嫡女。この段階ではまだ体裁を気にしていたようだ。いきなり屋根裏部屋に押し込むということはなかった。
とは言え、最終的には屋根裏部屋へ押し込まれるのだが・・・。
ラリエットは使用人たちと一緒に一週間かけてこの部屋をきれいに掃除した。豪華な家具もベッドもそのままに、そこそこ快適な部屋になった。
一方でラリエットの元の部屋もアリエル用に一新され、元々あったラリエットの家具は捨てられそうになったが、使用人が空き部屋に保管してくれた。
こうして綺麗になったラリエットの部屋―――元祖母の部屋を、初めて邸に来たアリエルは一目見て気に入ったのだ。
最初、父から得意気に自分の部屋を見せられたアリエルは、小さいが可愛らしい部屋にとても興奮し、喜んだ。しかし、異母姉の部屋も見たいと言い出した。ラリエットは素直にアリエルに自分の部屋へ案内した。その部屋を見た途端、
『お父様! 私、この部屋の方がいい!』
父に抱き付き、叫んだ。
ラリエットは不思議に思った。それなりに快適になった部屋だが、日当たりが悪いのは変わらない。多少陰気臭いのはそのまま。よっぽど元私の部屋の方がいいじゃないかと思ったが、部屋の広さや家具やベッドの豪華が、アリエルの目を引いたのだろう。父もこの部屋はお勧めではないらしく、やんわりと止めるように諭したが、それは逆効果だった。返ってこの部屋に執着してしまったようだ。最終的に、
『お父様なんて嫌い!』
と、叫んだ途端、父は白旗を掲げ、元祖母の部屋がアリエルの部屋となり、ラリエットは自分の部屋に戻ってよいことになったのだった。
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