せっかくヒロインに転生したのだから物語通りに生きていこうと思います。

夢呼

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7.婚約者のエドガー

 ラリエットはレイラに手伝ってもらいながら急いで着替えを終ると、彼女に支えられながら婚約者の待つ客室に向かった。
 そこには不安そうな顔をして部屋中をウロウロと歩き回っている男性がいた。彼こそが婚約者のエドガーだ。

「お待たせいたしました。エドガー様」

「ラリエット!! 階段から落ちたんだって?! 大丈夫なのかい?!」

 ラリエットが入るなり、エドガーは駆け寄ってきた。そして、彼女の両肩をガシッと掴むと心配そうに顔を覗き込んだ。その勢いに、当のラリエットは面食らい、少しのけ反った。

「だ、大丈夫ですわ。足を少し捻っただけです」

「本当に?! あっ! 腕も包帯をしているじゃないか! 足だけじゃないんだろう!?」

 隠していたはずの腕の包帯が、袖から少しばかり覗いていたようだ。エドガーはそれを見逃さなかった。彼は青い顔でラリエットの両手を取った。

「す、擦り傷ですよ。大丈夫ですから、そんなに心配しないで下さい」

「こんなに細い腕に、こんなに大きな怪我をして・・・。痛いだろう・・・?」

 ラリエット本人よりも痛そうな顔をして彼女の腕を見るエドガー。心底心配していることが伝わり、ラリエットの胸がジンワリと熱くなった。

「本当に大丈夫ですよ」

 ラリエットはエドガーに向かってにっこりと微笑んだ。エドガーはまだ「本当に?」とでも言いたそうな顔をしたままラリエットを見ている。ラリエットは頷いて見せた。

「それよりもエドガー様、ごめんなさい。私のせいで今日の約束をふいにしてしまって。楽しみにしていたのですけど・・・」

 今度は残念そうに肩を竦めてみせた。エドガーは慌てて首を横に振った。

「謝ることではないよ! 仕方ないじゃないか。そりゃ、僕だって楽しみにしていたけどね」

 そう言うと、ラリエットの手をキュッと握り直した。

「でも、街なんていつだって行ける。まずは怪我を治すことが優先だ。完治したらすぐにでも出かけよう!」

「ありがとうございます、エドガー様」

 ラリエットは感謝の気持ちを言葉だけではなく、態度でも伝わるようにエドガーの手を強く握り返した。途端にエドガーの顔がホワッと赤くなった。と、同時に何かを思い出したように目を丸くした。

「あ! し、しまった! 慌てていたせいで、手ぶらで来てしまった! 花束もないなんて! お見舞いなのにっ!」

 そう叫ぶと、バッとラリエットから手を離し、頭を抱えた。その慌てぶりにラリエットはプッと噴き出した。

「格好悪いな・・・。ごめん、ラリエット」

 後頭部を搔きながら申し訳なさそうに謝るエドガーに、ラリエットは何とも言えない親しみと嬉しさが込み上げてくる。

「ふふふ、お気になさらず。それよりもエドガー様。ちょうどお昼時です。折角ですから、一緒に昼食を如何ですか? 家の者は出かけてしまっているので私たち二人だけですけど」

 ラリエットからの昼食の誘いに、エドガーの顔がパアッと明るくなった。

「ありがとう! 是非!」

 こうして、二人仲良く昼食を共にすることになった。


☆彡


 昼食を終えても、エドガーはすぐに帰ることはなく、マーロウ家の図書室でラリエットと共に過ごした。
 読書家な彼はいろいろな本を知っている。彼ほどではないがラリエットも本が好きだ。よくエドガーからお勧めの本を教えてもらったり、読んでも理解できなかった本の解釈をお願いしていた。

 ラリエットはこの時間が好きだ。二人の間には常に穏やか空気が流れているのだが、それでも、同じ本を一緒に読んでいて、エドガーの顔がラリエットの顔に触れそうになるほど近づいた時などは、穏やかな気持ちから一変、急に心臓の音が早くなり、頬が熱くなる。
 一緒にいて心地よいだけでなく、時折、トキメキを感じられるこの時間。エドガーに仄かに恋心を抱いていると自覚するこの時間が、ラリエットはとても好きなのだ。

(それももう終わっちゃうのね・・・)

 いつものように穏やかに過ごす図書室。今日は大きな昆虫の図鑑を広げ、少し得意気にラリエットに説明をしているエドガー。そんなエドガーの横顔を眺めながら、ラリエットはこの先の事をぼんやりと考えた。

 こんな風に彼と過ごす時間はもう残り僅かだろう。時期に彼からも見放されることになる。こんなに優しい彼が・・・。にわかには信じられないけれど・・・。捨てられたその時、自分はどう思うのだろう。
 切なさがどんどん沸いてきて、目に薄っすらと涙が浮かんできた。

「??? どうしたの? ラリエット?」

 エドガーに声を掛けられて、ラリエットはハッと我に返った。

「ううん、なんでもないです!」

 慌ててプルプルッと首を振ると、涙を誤魔化すため急いで図鑑へ目を落とした。そして、

「あ、この蝶々って、前にエドガー様が私にプレゼントして下さった髪飾りの蝶々に似ています。これがモデルかしら?」

 出来るだけ陽気な声を上げ、一つの蝶々の図を指差した。

「うん、そうだよ・・・。君には蝶々が似合うなって思ったから・・・」

 エドガーは恥ずかしそうにそう答えると、フイッと顔を背けてしまった。ラリエットから見える彼の耳と首元は赤く染まっている。そんな彼を見て、今度はラリエットの方がポッと赤くなった。

―――トクントクンと鳴る心臓。恥ずかしいのに心地良いこの鼓動。

 ラリエットは思わず胸を押さえた。

 今は悲しいことを考えないようにしよう。
 一緒にいられるこの時間、残り僅かなこの時を大切に過ごそう。

 ラリエットはそう自分に言い聞かせた。

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