転生騎士見習いの憂鬱

鍋底の米

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記憶

 今、世界で一番幸せな男は誰かと問われたら俺だと答えるだろう。

 自分でも引くくらい浮かれているのはわかっている。しかし仕方がないだろう?

 腕の中に納めた体を抱きしめて手触りの良い美しい金髪を何度もなでる。

 二人とも今日の試合で順当に勝ち上がりベスト8となっていた。明日には優勝者が決まる。
 今は俺の部屋で二人きりの状況だ。風呂上がりにまた髪を乾かしてもらい、いちゃいちゃタイムを満喫している。

「ヴィル…」

 ねだるようなジストナーの視線に誘われてもう甘いと知っている唇を食む。

「ん…」

 促さなくても薄く開いて招いてくれる口内に遠慮なく舌を差し入れじっくりと味わう。

「…はぁ………んっ…」

 唇を離すと扇情的なジストナーの声が漏れこぼれる。下半身に熱が集まりキス以上のこともしたくなるが、モザイク問題に阻まれていてできない。ジストナーに怪我をさせるわけにはいかないからだ。それ以前に明日の試合前にジストナーに負担をかけられないし…

「もうすぐ点呼だ…」

 何と言ってもこんな色っぽい表情をしたジストナーを他のヤツに見せるわけにはいかない。顔を上げて少し体を引く。

「ん…やだ……ヴィル…」

 離れるのを嫌がり追うように身を寄せてキスの続きをねだるジストナーを首を横に振って止める。

「駄目だ…」

 グイと腰を抱いて鏡の前にいざなう。

「……こんな顔…他のヤツに見せるな…」

 鏡の向こうには欲に溶かされてトロトロの表情を浮かべ俺に体を預けてしな垂れかかっているジストナーの姿が映っている。
 背後から手を伸ばし頬と顎を捉えて顔を傾けさせ、朱に染まったジストナーの目尻に音を立ててキスを落とす。
 潤んで深さを増したサファイア色の瞳が驚きで大きく見開かれる。そしてその顔を隠すように鏡から背けて俺の肩口に埋めた。
 そのまま抱きしめて落ち着かせるように優しく頭から背までを繰り返し撫でた。

 しばらくそうしていたら少し冷静さを取り戻したジストナーが体を離して明日の話題を振ってきた。

「……明日は…決勝戦で戦えるな…」

 まだ恥ずかしいのか耳が赤いままで視線も逸らされている。可愛い。

「今回の対戦は難しいかもしれんな」

 俺は苦笑しながら答える。過去の結果は平均で7位だ。最高位でも4位だった。

「ヴィルはいつも手を抜いているからだろ。今回は本気で戦って」

 いやいやどうして手を抜いているなどと思っているのか。俺はいつでも全力だ。ジストナーはどうも俺を買い被りすぎのきらいがある。

「手など抜いていないんだがな…」

「何言ってんだか…。属性魔法だって土しか使わないしほとんど防御に回ってる。攻撃に切り替えたら一気にかたをつけられるような試合でもわざわざ相手のミスを誘ってからしか攻撃に回らないし…」

 土しか使わないんじゃなくて土しか使えないんだが…。よって相手よりも攻撃手段も限られてくるから防御で凌いで相手のミスを誘うしかない訳で。他にも属性魔法を使える前提で話しているみたいだ。

「属性魔法は土しか使えない」

 イメージを壊すようで申し訳ないが、事実なので仕方がない。

「え?ウソ、昔は全属性使ってたよね?」

「いや、使えないが……誰かと間違えていないか?」

「そんな訳な…」

 ジストナーがハッとしたように口をつぐむ。

「約束…覚えてないって…」

「その事だが…昔ジストナーと会ったことがあったのだろうか?」

 ジストナーが息を飲む。

「何かの事故にあったらしく…それ以前の記憶が所々飛んでいる。事故自体の記憶も無い。…すまない…約束も忘れてしまっているようだ」

 今もジストナーがこだわっているということは、何か大切な約束であったはずだ。それを忘れてしまうなど申し訳ない。

「何か手掛かりをくれないか?思い出せるよう努力してみる」

 ジストナーが慌てて首を横に振る。

「…いいっ!忘れて!下らないことだったんだ!」

「しかし……」

「ホントなんだ!下らないことだ!だから思い出さないで!」

 心なしか顔が青ざめているように見える。

「…ジストナー?」

 ジストナーがぎゅっと抱きついてくる。

「お願い………」

 ジストナーがそう願うのなら俺に異論はないが……

 何かに怯えているのか少し震えている体を抱きしめる。

「…ヴィル……俺のこと……好き?」

「ああ、好きだ」

 抱いている腕に力を込める。

「ずっと……好きでいて…」

「ああ、約束する」

 特に気に止めていなかった消えてしまった過去の記憶の中にジストナーが居るというのなら知りたくなった。しかしジストナーが望まないなら忘れたままでいようと思う。
 忘れてしまった約束の代わりに新たな約束をした。約束するまでもなくこの思いは変わらないだろう。ジストナーが感じる全ての不安を取り除いてやりたい。この約束をすることで少しでも不安が取り除けるのなら……。忘れていないと示すように側にいてずっと愛を囁こう。
 そんな事を考えてしまい、完全に浮かれてしまっている自身にあきれつつも幸せな気分で腕の中の愛しい男の頭上にキスを落とした。
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