転生騎士見習いの憂鬱

鍋底の米

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謝罪

 待て待て待て待て待てーー!!!

 パチリと目が覚め、ガバッと体を起こす。
 いきなり動いたことで視界がグラリと揺らいで片手で額を押さえる。多少の目眩など些末事項だ。
 そ・ん・な・こ・と・よ・り・も!

 チビの俺、出会ったその日にプロポーズとか何事だ?!
 なんなんだ?!虹よりも君の瞳が美しいって?!イケメン気取りか?!恥ずか死ねる!
 言っていることは全く間違ってはいないがな!

 はぁはぁと肩で息をする。
 忘れていた記憶がトレースされて、まるで昨日体験した出来事のように鮮明に思い起こされた。
 間違いなく全て過去の自分の言動であったと体感しているだけに羞恥心も半端ない。

 しかし、俺はともかく、ジストは本当に可愛いかった…。女の子と間違えてもあれは仕方がない…。

 ひとつ思い出せば堰を切ったようにどんどん記憶がよみがえってくる。
 あれから何度も頻繁にレーベン邸に通い、色々な魔法を駆使してジストの気をひいていた。そういえばあの頃確かに全ての属性魔法が使えていた。あの様に自在に魔法を扱っていたのを思うと、魔力自体も今より相当高かったはずだ。それが使えなくなったのは…

 ジストは潜在魔力が高すぎてコントロールが難しい為、もう少し体が成長するまではと魔法を使うのを禁じられていた。無意識のうちに使ってしまわないように、ピアス型の制御アクセサリーを使い、魔力も封じられて。
 周りの皆が当たり前のように魔法を使っている中、自分だけが魔法を使えないことで気鬱になり、俺に会うまでは部屋に閉じこもっていたのだ。

 そんなジストが外に出て明るく笑うようにもなり、俺は随分感謝されたし、レーベン家の長男であるジストを嫁にもらうなどと公言していても微笑ましく受け止められてもいた。
 ジストにすっかりメロメロだった俺は、かなり無理を言って、最低でも週に一度は必ず隣の領地に足を運んでいた。
 そういう生活が3ヶ月程続いた後、兄に山籠りの訓練に駆り出された俺は、ひと月もの間レーベン邸を訪れることが出来なかった。
 久しぶりに訪れたレーベン邸で、あれが起こってしまった。
 俺に会えない寂しさに耐えかねたジストが、俺と二人で見た虹を作ろうと、制御ピアスを外して魔法を使ってしまったのだ。
 何も訓練を行っていないままに魔法を使ってしまったので、当然魔力暴走してしまう。
 ジストを探して庭に来た俺は、暴走しているジストを見つけ、助けようと全魔力を使って近づき、ピアスを拾って暴走を止めた。
 それが記憶とほとんどの属性魔法を失うこととなった事故だったというわけだ。

「ヴィルフラン様!お目覚めになられたのですね!」

 長年我が家に勤めてくれているメイドが起きている俺に気付き、持ってきた水差しを慌てて置いて、大声を上げながら部屋を走り出て行く。

「旦那様っ!大旦那様っ!坊っちゃまがお目覚になられましたっ!」

 そういえばここは自邸の見慣れた俺の部屋だ。騎士養成学校の寮ではない。
 ジストの魔力暴走を止めた後、自邸の方に運ばれたということか?

 バタバタと駆けつけた現領主である上の兄と父がまずは俺を医者に診察させた。体の内外の傷は意識のないうちに治療されていたのか痛むところは無い。意識と身体に異常なしという診断がついたところで、二人に叱られることとなった。

「ヴィル、無茶をしすぎだ」

「申し訳ございません」

「もうあいつとは関わるなっ」

 父は憎々しげにジストのことをあいつ呼ばわりして眉根を寄せる。

「それは承服しかねます」

「お前は忘れているかもしれないが、あいつのせいでお前が死にかけたのはこれで二度目だ」

「その件は先ほど思い出しましたが、それでも気持ちは変わりません」

 頭をかかえた父が、はぁ、と深いため息をつく。

「わかっているのか?今回は二週間も意識が戻らなかったのだぞ。生命維持の限界まで魔力を使い果たしていたんだ!」

 それがどんなに危険なことかわかるか?と強く迫られる。
 心から心配してくれているのがわかるので申し訳ない気持ちで一杯だが、どうしても引くことはできない。

「申し訳ございません。こればかりは引くわけにはまいりません」
「お前はっ!」 

 怒りに震える父の肩をを兄が押さえる。

「ヴィルは何を言っても引きませんよ」

 さすが兄上、よくわかっていらっしゃる。

「ジストが大切なんです。今も昔も。どうしても守りたいのです」

 絶対に曲げられないと父の目を真っ直ぐ見据えて言い切ると、父はまた深く深くため息をついた。

 私がどんな気持ちで…とか、傷ついて魔力まで失って…とか、ヴィルが気鬱の病にかかってしまったのもあいつのせいだ…とか、色々父がぶつぶつと不満を口にしていたが…。『気鬱の件は、前世の記憶と股間のモザイクのせいです』などという申し開きもできず、黙って父の不満を受け止めるしかない。
 小一時間ほどそうしていた後、兄が父を部屋から追い出した。

「ヴィルはまだ意識を取り戻したばかりなのですから、そろそろ休ませてやりましょう」

 そう言って兄が背を押すと、父は渋々部屋を出て行った。

「さて…君の大切なあの子だが。この一週間毎日通ってきているよ。もっとも…父上に門前払いされているのだがな」

 部屋に残った兄が現況を教えてくれる。

 事故後、騎士養成学校に併設されている医院に一旦運ばれ処置を受けた。容態は安定したものの5日経っても意識が戻らなかった為、自領の屋敷に移され療養することとなったらしい。

 事故の原因となった小手だが、案の定アグスの仕業だと判明した。金に物をいわせて準備した魔法陣をジストの装備に仕込んだのだ。
 ジストが万年首位であることを面白く思っていなかった為、ジストの強力な魔力を利用すれば試合は台無しになるだろうし、上手くいけば同時間に戦っている俺共々痛い目に合わせられると目論んだようだ。
 それにしてもジストが攻撃対象にされると予測出来なかった自分が不甲斐ない。もし予測して注意を促していれば、ジストをあんな目にあわせずに済んだかもしれない。

 結果、これほど大事になるとは仕掛けたアグス本人も思っていなかったようで、バレた後には反省の色を見せていたそうだ。謹慎を命じられ、意外にも大人しく従っているらしい。

 ジストはというと、俺がこちらに移されてから毎日見舞いに訪れてくれているようだ。
 ということは……

「ジストは無事だったのですね?」

「ああ、外傷もなく魔力なども問題無かったそうだ。お前の対処が早かったからだな」

 それを聞いて心底ほっとする。
 しかしジストは辛い思いをしているだろう。

「兄上、ジストに会いたいです」

「なんとかしてやりたいが、父上の気持ちも蔑ろにはできないからな…」

 そう、父にはかなり心配をかけてしまっている。普段言葉少ない父が長々と不満を言い続ける程に。

 少し考えた後、兄が折衷案を出す。

「手紙を書け。渡してやる。お前の無事を知ればあの子も安心するだろう」

 本当は無理矢理にでも会いに行きたいが、心配と迷惑をかけ通しなのもわかっているのでその案に頷く。

 兄が部屋を出た後、早速ジストへの手紙を書き始めた。
 意識が戻り無事であること。数日で学校に戻るつもりなので心配せずに待っていて欲しいこと。などを書いた後、魔力の方はどんな感じなのか自分でも確認していないことに気づく。昔の事故では最大魔力は大幅に減退し、属性魔法もほとんどを失っていたが。もしも更に減退していれば騎士への道は閉ざされるかもしれない。手紙を出す前に確認しておくべきだ。学校に戻ると言って戻れなかった場合ジストに辛い思いをさせてしまう。

 無理をして倒れては、また父の心配と怒りをかってしまうので、魔法を使う前に目を閉じて自分の魔力を探ってみる。
 著しく減少している時のような怠さも感じないし異常もないような気がする。むしろ以前よりも力がみなぎっているような手応えさえある。

 問題なさそうだとみて、属性魔法を試してみる。室内で派手に使用して汚したり壊したりしてはいけないので、小さな石ころをひとつ出してみる。
 思惑通りに手のひらにコロンと石ころが現れる。

 今回は属性魔法を失わずに済んだようだ。
 ほっとして次に結界魔法を試してみる。
 こちらは周辺に被害を及ぼす心配もないので普通に試す。
 まずはこの部屋全体に目くらましの魔法をかける。下位魔法に問題はない。
 次にベッドの周辺に結界をかける。魔獣避けの効果を編み、その上に属性魔法を防御する効果を重ねていく。土、水、風、火、雷、氷、光、闇…。
 これだけの種類を重ねがけすると、いつもならそろそろ魔力に限界がくるのだが、何故かまだ余裕がある感じがする。
 続けて物理防御の効果も重ねる。圧力、刺力、切断力、摩擦力、振動力…。
 これでもまだ余裕を感じる。
 このまま範囲を広げてみる。まずは部屋全体に。
 まだ余裕だ。こんどはフロア全体に。
 まだいける。次は屋敷全体に。

 ーーーーまだ余裕を感じる。

 これは一体全体どういうことだ?
 結界を解いて首をひねる。
 あらかじめ決めた範囲に結界をはって固定するよりも、伸縮性を持たせ、範囲を変更できるようにする方がより魔力を必要とする。今やったのは、より魔力を使うやり方であるというのに余裕さえ感じるとは……

「ヴィル!」

 兄が扉を開けて部屋に飛び込んでくる。

「何をやっているんだ!安静にしてろ!」

「すみません。しかし兄上、おかしいのです」

「どうした?!どこか具合を悪くしたか?」

「魔力がどうなったのか確かめていたのですが…。以前より魔力が増えているようで…」

 兄が動きを止めて少し考えてから呟いた。

「確かに…。今の結界は相当緻密に組まれていたようだが…。俺のいた執務室はこの部屋とはフロアも違う。どのくらいの範囲を設定したんだ?」

「最初はベッド周辺にはったのですが、そのあと徐々に広げていって屋敷全体に…」

「あの緻密さで屋敷全体?!そんな馬鹿な!」

 兄が驚くのはもっともだ。俺も信じられない。以前であればあれの半分くらいの効果の物を人ひとりを覆う範囲にはるので精一杯だった。それなのに精度を上げたものを屋敷全体を覆うまで張り巡らせてもまだ余裕すらあったのだ。

「とにかくだ。何か体に悪影響が無いとも限らない。明日調べてもらうことにするからそれまで無理はせずにおけ」

「わかりました」

 もう少し自分でも確かめてみたかったが、ジストへの手紙を渡してもらえなくなっても困るのであきらめることにした。
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