【異世界ラブコメ】勇者のわたしと魔王湊山くん

舞波風季

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第9話 デートしてあげる?

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 目覚めてから二日もするとすっかり体調も良くなったので、私は暇つぶしの剣の素振りを始めた。

 この剣の素振り、今までは部屋でやっていたのだが、剣を振った時の圧でカーテンが裂けたりしてしまう事が度々たびたびあった。
 なので、今日からは王城の中庭でやることにした。

(そういえば騎士隊長はどうなったんだろう?)

 素振りをしながらふと思いついた。そばで待機しているメイドのレギナに聞いてみた。

「騎士隊長様はまだ戻られていません」
「え、マジ?」
「はい」
 レギナはいつもどおりの笑顔で言った。
「て、いいの、それで?」
「はい」

(まあ、魔王湊山くんが騎士隊長をどうこうするとは思えないけど……)

 そこに、執事らしき白髪交じりのおじさんがやってきた。
「王様がお呼びです、勇者様」

(騎士隊長のことかな?)

 とらわれてしまったのか、帰ろうとしたけど帰れなくなってどこかを彷徨っているのか。
 どっちにしろどういう状況なのかは確かめなければならない、ということなのだろう。

 ――――――――

「勇者ミリアよ、魔王を討伐するのだ」
 毎度おなじみのセリフの王様。
「騎士隊長を助けに行けってことかしら?」
 私が聞くと、
「はい、ギール殿は未だ魔王城内にいるようですので」
 魔法使いじいさんが答えた。
とらわれてるってこと?」
「そこまではっきりしたことは分からないのですが」
「そう、わかったわ」

(まあ、私が倒れちゃったせいだから、多少は責任を感じるし……)

 魔王湊山くんは倒れた私を王城まで送り届けてくれた。
 お礼の言葉は伝えた、妖精の女王の魔法の力を借りて。
 だが、やはり直接会ってお礼を伝えるべきだという気持ちもある。
 そんな事を考えていると、

(……そうだ!お礼にデートしてあげるって言ってみよっかな)

 なんてことが頭に浮かんだ。
 前に約束したことでもあり、魔王湊山くんがどんな反応をするかも楽しみだ。

(顔を真っ赤にしてオロオロするだろうなぁ、ひひひ)

 などと思いながら私がニヤけていると、

「勇者ミリア殿、何か……?」
 魔法使いじいさんがいぶかしそうに聞いてきた。

「はっ!ううん、何でもないわ、ははは」
 私は笑ってごまかして、そそくさと玉座の間を後にした。

 ――――――――

「勇者ミリア!」
 私が魔王城前に転移して城に入ろうとすると、魔王湊山くんが城から走り出してきた。

「もう、大丈夫なんですか?」
「ええ、もうすっかり元気になったわ」

(私が来たのがすぐに分かるんだ)

「よかった!」
 魔王湊山くんは嬉しそうにそう言って私を城内へといざなった。

(魔王が勇者を魔王城に出迎えるってどうなんだろ?ま、悪い気はしないけど)

「ところでさ、前に一緒に来た騎士隊長はどうなったの?」
「ああ、彼は魔王城内にいますよ」
「牢に入れられてるの?」
「いえ、普通に部屋をあてがってます」
「え、そうなの?」
「はい、もうすっかり魔王城に馴染んでいて、部下たちとも仲良くやってます」

(なんだそれ)

 私はなんだか拍子抜けしてしまった。
 これまでのことで、魔王湊山くんが前世の通り優しい性格だということは分かっていた。
 なので、彼が騎士隊長にひどい仕打ちをするようなことはないだろうとは思っていたが……。

(まさか部屋をあてがわれた上に馴染んでるとは)


 私が魔王の間に入っていくと騎士隊長ギールが四、五人の魔物と賑やかに話をしていた。
「やあ、ミリアさん、もう大丈夫なのかい?」
 私に気づいたギールが予想を遥かに超えた陽気さで声をかけてきた。

「あなたも元気そうで……」
 よかったわ、と付け加える気にはなれなかった。
「随分と仲良くなったのね、魔物と」
 皮肉を込めて私は言った。

(心配して損した、まあ、少ししかしてないけど)

「いやあ、魔王国の人たちが良くしてくれるからさ」
 というギールの答えに近くの魔物がガヤガヤと囃し立てたり、ギールの肩をポンポンと叩いたりしたりしている。

「ふう……王様からはあなたを助け出してくるようにって言われてるんだけど、どうやらその必要はないみたいね」
 そう言って私はきびすを返した。

「いやいや、ちょっと待って、ミリアさん!」
 慌ててギールが駆け寄ってきた。

「僕ひとりだと王城へ帰れないんだよーー」
 ギールが泣き言をいう。

 聞いてみると、私が倒れたあの日、ギールは魔王城を抜け出し転移魔法陣が描かれていた場所へ行ったらしい。
 だが、いくら探しても転移魔法陣は見つからず、日が暮れてしまい魔王城へ戻ったということだった。

 私は魔法使いじいさんが用意してくれた転移魔法陣を、当たり前のように使っていた。

(あれって勇者がいないと使えないのかな……後で聞いてみよ)

「わかったわよ……じゃあ、先に外に行ってて」
「ミリアさんは?」
「私は……ちょっと魔王に話があるから」

「また模擬戦やろうぜ、ギール」
「うん、また来るよ」
 いかつい体つきの魔物に陽気に答えてギールは魔王の間を出ていった。
 ギールの回りにたむろしていた魔物たちも、黒ローブ男に言われて出ていった。
 ギール達がが出ていくのを見送ると私は魔王と向き合った。 

「……あ、あのさ、魔王」
(あれ?私、口ごもってる?)
「はい……」

「この前は……迷惑、かけちゃったわね」
(なんか暑くない?私、汗かいてるんだけど……)
「いえ、そんなことないです!」

 魔王は玉座から立ち上がって歩み寄ろうとした。

「それでね……」
「はい……」
「……」
「……」

(……私、緊張してるの?)

 心臓の鼓動がやけに大きく感じる。

(さあ、言いなさい、私!「デートしてあげる」って!)

「えっと……あ、改めてお礼を、言わせて」
「はい」
「……ありがと」
「はい」

(ほら、言いなさい、私!)

「……それじゃ……またね」
「はい」

(そうじゃないだろぉーー!)

 心とは裏腹に、私は魔王に背を向けて魔王の間を後にした。

(今ならまだ間に合う……戻って言い直すのよ!)

 だが 表面上は何事もなかったように、私は魔王城の外でギールと落ち合い、王城へと転移した。

 ―――――――

「ああーーーー!何やってんのよ、私はぁーー!」

 自室に戻った私はベッドに飛び乗って、手足をジタバタさせた。

「なんで『デートしてあげる』って一言が言えないのよっ!ヘタレか!」

 前に私は魔王湊山くんに「デートをしてあげる」と約束した。
 そこに今回の出来事だ。倒れた私を魔王が送り届けてくれた。

「そう、お返しよ、送ってくれたお返し!得に深い意味はないんだから……なのに」

 私はジタバタを止めて仰向けになった。

(なんで言えなかったんだろう……)

 私は前世のことを思い出した。高校卒業間近の時のことを。
 私は湊山くんからの告白の言葉を待っていた。
 だが、彼からの告白はなかった。

(あの時は湊山くんのこと、意気地いくじなしって思ったけど……)

 今は、あの時の湊山くんの気持ちがわかるような気がする。

「はぁーーーー……」
 私が大きなため息をついていると、ドアにノックがあった。

「……はぁい」
「お茶をお持ちしました」
 メイドのレギナの声だ。
「ありがとう」
 私はベッドに寝そべったままで答えた。

「お疲れのようですね、ミリア様」
 ティーカップをテーブルに並べながらレギナが言った。
「そうかな……うん、そうかも」
 私はベッドから起き上がって、席につきながら答えた。

「美味しい……」
 私はレギナが淹れてくれたお茶をゆっくりと飲んだ。
「ミリア様、まだ治って間もないのですから、お大事になさってください」
 レギナが心配そうに言ってくれた。
「うん、ありがとう」
 なんとか笑みを作って私は答えた。

(体というよりは、気持ちの問題なんだけどね、今は……)


 そして数日後、王様から呼び出しがあった。

(てことは……)

 魔王のことであろう。
 いつもなら軽い気持ちで、むしろ浮かれた気持ちになるところだが。

(どうしよう……)

 この前の余韻がまだ残っていて、どうにも気が進まない。

 そうやって部屋でもたもたしていると、ドアをノックする音がした。
「ミリアさん、魔王が来てますわよ」
 妖精の女王エルファの声だ。

「魔王が来てる……!」

 一瞬、気持ちが明るくなった。
 だがすぐに、会っても上手く話せるだろうかという不安が滲み出てきた。

「魔王は城門の前にいますわよ」
「……はい」
 私は気乗りしないまま扉を開いた。
「なんだか魔王がよく分からないことを言ってますの」
 とエルファ。
「よく分からないこと?」
「ええ、ホワイトデーがどうとか」
「あ……」

(三月十四日はまだだと思うけど……)


 私は、エルファとともに城門の外に出た。
 少し離れたところに魔王が立っている。

「勇者ミリア」
 魔王湊山くんは、私を見て表情を和らげた。
(魔王、緊張してるみたい)
 そんな彼を見ると私の気持ちも少し軽くなった。

 いつもなら「何の用?」なんて言ってしまうところだが、
「来てくれたのね」
 と、私にしては珍しく素直な言葉が自然と出てきた。

「今日は、その、ホワイトデーの日のことで……」
「うん」
「ホワイトデーに……ホワイトデーに……」
「ホワイトデーに?」
「ホワイトデーに、で、デートしてください!」
 魔王湊山くんはそう言って頭を深々と下げた。

(え、デート!?)

 予想外の魔王湊山くんの言葉に私は呆気にとられてしまった。

 だが、呆気にとられる私の心に、急速に明るい光が広がっていった。

(やった……!)
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