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第13話 お花見
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「もうかなり準備できてるわねぇ」
花見の場所に転移してきた私は思わず声に出して言った。
春も盛の頃、国境の魔王国側に王国側と魔王国側の者たちが集まった。
場所が魔王国側ということもあり、魔族は数十人はいそうだ。
今も割烹着ゴブリンなどが桜並木沿いに敷かれたシートに様々な料理や飲み物を配っている。
今回、王国側からの参加は私を含めて十数人といったところだ。
これまでの魔王国との交流?で、魔族が王国の人々に危害を加えるということはないだろう、ということで私たちの見解は一致していた。
(王様は相変わらず「魔王を討伐するのだ」しか言わないけどね)
そうは言ってもいきなり一般の国民を連れてくるのはまずいだろうといことで、
「参加は王国政府関係者のみがよろしいかと」
という魔法使いじいさんの提案で王国側のメンバーが決まった。
(私も王国政府関係者なのかな?)
などということが頭を過ったが、今回の花見の言い出しっぺは私なので、まあよしとすることにした。
早速魔王湊山くんに挨拶なんぞをと彼を見ると、
(むむ!)
何やら妖しい雰囲気の美女が隣に侍っているではないか。
私は早足にらないように気をつけて魔王湊山くんへと近づいた。
「今日は絶好の花見日和ねぇ」
隣の美女に視線をやりながら私は魔王湊山くんに話しかけた。
「はい、天気が良くてよかったです」
と普通に反応してくる魔王湊山くん。
(空気が読めてないなぁ……)
この辺はいつもの魔王湊山くんだ。とはいえ少しくらいは気にしてほしいものだ。
「それでなのね」
横目で美女を見ながら私は言った。
「はい?」
「綺麗どころを連れて来たのは」
「綺麗どころ?」
「まあ、いいけどねぇ、別に」
「あ、あの勇者ミリア……」
私はそっぽを向いて彼のもとを離れようとした。
すると、
「もう、魔王様ったら」
と隣の美女が魔王湊山くんに寄り添って彼の腕にすがりついた。
「あ、あの、そんなにくっつかなくても……」
ドギマギする魔王湊山くん。
「へぇーー随分とモテるのね、魔王」
私がジト目で冷やかすと、
「そ、そんなことは……」
「もちろんです、魔王国の女子は皆魔王様を愛してますから」
魔王湊山くんに被せるように隣の美女が言った。
「え、な、なななにを言って……」
あたふたする魔王湊山くん。
「ま、いいけど」
私はそう言ってその場を離れた。
(ふん、別に気にしないし)
そう思いながらも、つい背後をちらりと見てしまうのだが。
私は川沿いの桜並木に向かってゆっくりと歩いていった。
桜はほぼ満開で見ていると心が華やいでくる。
並木に沿って並べられたシートには様々な料理やお菓子が並べられている。
既に座って始めている者もいて、その多くは魔族だ。
「いやーー花見っていいねーー」
魔族に囲まれて騎士隊長ギールが賑やかにやっている。
遠慮がちな王国の者たちも、魔族とすっかり馴染んでいるギールの周りに集まりだしている。
(なにげに役に立ってるじゃない)
私は、ポンコツ騎士隊長をちょっとだけ見直した。
「ゆ、勇者ミリア……」
後ろから小走りでやってきた魔王湊山くんが呼びかけてきた。
「なに?」
「あ、あの……その……」
ついぶっきらぼうになってしまった私に、ビビってしまう魔王湊山くん。
「さっきの女性は、その、悪魔卿の妹なんです」
「そう」
「それで、多分……」
「……」
「多分、俺のことを誂《からか》ってるだけだと、思います……」
そう言って魔王湊山くんはうなだれてしまった。
(そういえば……)
私は前世の高校時代の湊山くんのことを思い出した―――
大人しくて女子とまともに話せなかった湊山くん。
そんな彼にいたずらを仕掛けた女子がいたのだ。
その子はクラスでも派手で目立つ子で、一種の派閥みたいなものを作っていた。
私はそういうのが好きではなかったので、その子とは距離を置いていたが。
ある日のこと、その子が湊山くんに接近して気がある素振りを見せた。
その頃、私と湊山くんは話をするようになって間もない時だった。
もしかしたら、その子は私へ見せつける魂胆があったのかもしれない。
当然のことながら湊山くんは、どうしていいか分からずにドギマギしていた。
そんな彼の様子を見て、その子の仲間の女子達が面白そうに笑っていた――――
(だけど……)
今回の悪魔卿の妹はそれとは違うように、私には思えた。
とはいえ、魔王湊山くんにしてみれば前世の苦い思い出がトラウマのようになっているのかもしれない。
(まあ仕方ないか)
しょんぼりしている魔王湊山くんを見て私は思った。
「誂《からか》われてるってことは無いと思うよ、多分」
「そうでしょうか……」
「まあ、おべっかはあるかもだけど」
「おべっか?」
「だってあなた魔王でしょ?」
「はい……」
「魔族で一番偉くて強いんだから、下の人が気に入られたいって思うのは普通じゃない」
「俺、強いんでしょうか、よく分からないんです……」
ボソッと言う魔王湊山くん。
「強いと思うよ、バレンタインデーの時とか凄かったじゃん、私に勝ったし」
的あて勝負の時の魔王湊山くんは、指先から出した魔法弾で見事的の中心を貫いたのだ。
「でもあの時勝てたのは、勇者ミリアが手加減してくれたから……」
「へぇーー分かってたんだ」
「はい、なんとなく……」
「でも、その後が大変だったたんだからね」
そう、勝利の賞品と称してバレンタインデーのチョコを私が渡すと、魔王湊山くんは舞い上がってしまった。
そして彼は舞い上がったり興奮したりすると、無意識に魔力を増幅させてしまうのだ。
もしあのまま魔王の魔力が増大し続けていたら、結構シャレにならない事態になっていたかもしれない。
「す、すみませんでした。後でドーガに聞きました」
と律儀に頭を下げる魔王湊山くん。
あの時は魔王側近のドーガに魔王湊山くんを眠らせるように私が言ったのだ。
「ふふ、大丈夫よ。でもあなたはもう少し……あ」
私はあることを思いついた。
「……何か?」
「ちょっと、試してみない?」
「はい?」
「魔王と私の力をぶつけ合ってみるの」
「ええ!?」
魔王湊山くんは魔力はとんでもなく大きい。
そのせいか、魔力をコントロールできていないように私には思える。
「お互いの強さを見ながら自分の魔力を調節するの」
「それで、どうすれば……」
「とりあえずやってみましょう、あっちの方で」
私は皆がお花見をしているところから離れた場所を指して言った。
「ね?」
「はい」
ということで、私と魔王湊山くんは魔力対決をすることになった。もちろん模擬戦だ。
魔王湊山くんと数メートル離れて対峙した私は右手の拳に魔力を込めた。
「私が拳に魔力を込めて攻撃するから」
「はい」
「私の魔力を感じて魔力の強さを調節して防御魔法をかけてみて」
「わかりました」
そうは言ったものの、私自身も魔力の加減が上手くできるか自信があるわけではない。
魔王湊山くんを見ると少しずつ魔力が上がってきているようだ。
(とりあえず、こんなもんかな)
「いくよーー」
「はい!」
私は一気に間合いを詰めて右の拳を打ち込んだ。
魔王湊山くんは眼の前に魔法防護壁を張って対抗した。
ドコ゚ォオオーーン!!
私の拳が魔王湊山くんの魔法防護壁に当たると、目も眩むような光と共に衝撃音が起こった。
「うん、いい感じなんじゃない?」
「そうですね……はい」
と、私と魔王湊山くんがお互いの感触を確かめ合っていると、
「勇者ミリア!!」
「魔王様!!」
騎士隊長ギールら王国の者たちと、魔王側近ドーガら魔王国の者たちが大声で叫ぶのが聞こえた。
「ん?」
「なんでしょう……?」
私と魔王湊山くんが不思議に思って見てみると、両国の者たちが血相を変えてこちらに向かってくる。
「とうとう決戦ですか、勇者ミリア!?」
「魔王様、ここは我らにお任せを!」
にわかに一触即発のような事態になった。
「ちょっと、あなた達……」
「いったい何を……」
私と魔王湊山くんにはいまひとつ状況が飲み込めないでいた。
「あらあら、ちょっと遅れちゃったけど、もしかして大変なことになってるのかしら?」
「なんだかキナ臭いなぁ、大丈夫か?」
そう言って歩いてきたのは、妖精女王エルファと闇の女帝トーラだった。
「あ、エルファさま、トーラさん」
私はホッとして呼びかけた。
「私たち、ちょっと魔力を試そうと思って……」
私が言うと、
「で、地面の形を変えちゃったってわけね」
エルファがため息混じりの苦笑いで言った。
「地面の形?」
そう言われて改めて私は周りの地面を見た。
私と魔王湊山くんが立っているところを残して、周囲の地面が半径二、三十メートルにわたってえぐられて、クレーターのようになっていた。
「「あ」」
私と魔王湊山くんの声が重なる。
「これって……」
「どうしましょう……」
私と魔王湊山くんが顔を見合わせて困っていると、
「さあさあ、皆さん、心配しなくて大丈夫ですよ」
「そうそう、ふたりは本気で戦ってたわけじゃないから」
エルファとトーラが険悪な表情の両国の者たちをとりなしている。
「そうそう、なんでもないの、ごめんねーー」
「申し訳ない」
私と魔王湊山くんもできるだけ和やかに言った。
「ここでふたりがハグしたら効果抜群だと思うのだけど」
とエルファがとんでもないことを私の耳に囁いた。
「は、ハグーー!?」
私が素っ頓狂な声を上げる。
「は、ハグ……!」
私の言葉を聞いた魔王湊山くんの顔が真っ赤になり、彼の魔力がにわかに膨張した。
「ば、ばか、魔力を抑えなさい、魔王!」
「ハグ、ハグ、勇者ミリアとハグ……」
魔王湊山くんには私の言う事など全く聞こえていないようだ。
(どうする……!)
今回は今まで以上に魔王湊山くんの魔力が膨張しているようだ。
彼のそばにいるのは私だけだ。
魔王側近のドーガや、エルファ、トーラが何か言いながら私たちに近づこうとしている。
だが、魔王湊山くんの強大な魔力に押されて、私が知る限り最強の魔術師のエルファですら近づくことができない。
遠くに視線をやると、魔王国や王国の者達がクレーターの外側で怯えて座り込んだりしている。
(なんとかしなきゃ!)
上手くいくが全く分からなかったが、一か八か私は賭けてみた。
「湊山くん」
私は湊山くんの目をじっと見つめて言った。
「ハグ、勇者ミリアとハ……?」
「湊山くん、落ち着いて」
「は、はい……」
「前世を思い出すね」
「前世……」
湊山くんの魔力が落ち着いてきた。
「湊山くん、最初の頃はいつも緊張してたけど」
「はい……」
「少しずつ慣れてきたじゃない」
「はい……」
湊山くんの魔力が減衰し始めている。
「湊山くん、気づいてた?」
「はい……?」
「私もね、最初の頃は少し緊張してたんだよ」
「え……?」
最初に湊山くんに話しかけた時、私は特に考えもなしに気楽な気持ちだった。
だが、返ってきた湊山くんの反応が思わしくなかったので、柄にもなく私は緊張してしまったのだ。
「だからさ、私と話す時はもう少し気持ちを楽にして」
「はい……」
「友達だったでしょ、私たち?」
「はい……!」
湊山くんの魔力はほぼ平常通りに戻っていた。
落ち着いて周りを見ると、魔王湊山くんの魔力暴発の影響の凄さが分かった。
桜の花びらがかなり散ってしまっている。
敷いてあったシートもふっ飛ばされて、料理やお菓子があちこちに散らばっている。
未だに魔王の魔力に恐れをなしている者達が遠巻きにこちらを見ている。
「とりあえずは収まったかしら?」
エルファが近づいてきて言った。
「はい、なんとか」
「もう花見はできなそうだな」
と、トーラが周りを見ながら言った。
「すみません、俺のせいで……」
しょんぼりと肩を落とす魔王湊山くん。
「ほらほら、気にしない」
私は魔王湊山くんの肩をポンと叩いた。
「でも……」
「また、別のことやればいいでしょ、ね?」
「別のこと……?」
「あら、いいですわね、それ」
「だな、面白そうだ」
エルファとトーラも賛同してくれた。
「でしょ?そうねぇ、やるなら……運動会とかはどうかな?」
「運動会、ですか……」
と、魔王湊山くん。
「そう。お弁当持ってきて皆で食べたり」
「いいかも、しれませんね」
「運動会って、皆で運動をするの?」
エルファが聞いてきた。
(そか、この世界にはないのか)
「そうですね、基本的には走る速さとかを競い合ったりする、競技会みたいなものです」
「それは面白そうだな」
と、トーラ。
そんなわけで、魔王湊山くんの魔力の暴発から私の思いつきで運動会をやることになったのであった。
花見の場所に転移してきた私は思わず声に出して言った。
春も盛の頃、国境の魔王国側に王国側と魔王国側の者たちが集まった。
場所が魔王国側ということもあり、魔族は数十人はいそうだ。
今も割烹着ゴブリンなどが桜並木沿いに敷かれたシートに様々な料理や飲み物を配っている。
今回、王国側からの参加は私を含めて十数人といったところだ。
これまでの魔王国との交流?で、魔族が王国の人々に危害を加えるということはないだろう、ということで私たちの見解は一致していた。
(王様は相変わらず「魔王を討伐するのだ」しか言わないけどね)
そうは言ってもいきなり一般の国民を連れてくるのはまずいだろうといことで、
「参加は王国政府関係者のみがよろしいかと」
という魔法使いじいさんの提案で王国側のメンバーが決まった。
(私も王国政府関係者なのかな?)
などということが頭を過ったが、今回の花見の言い出しっぺは私なので、まあよしとすることにした。
早速魔王湊山くんに挨拶なんぞをと彼を見ると、
(むむ!)
何やら妖しい雰囲気の美女が隣に侍っているではないか。
私は早足にらないように気をつけて魔王湊山くんへと近づいた。
「今日は絶好の花見日和ねぇ」
隣の美女に視線をやりながら私は魔王湊山くんに話しかけた。
「はい、天気が良くてよかったです」
と普通に反応してくる魔王湊山くん。
(空気が読めてないなぁ……)
この辺はいつもの魔王湊山くんだ。とはいえ少しくらいは気にしてほしいものだ。
「それでなのね」
横目で美女を見ながら私は言った。
「はい?」
「綺麗どころを連れて来たのは」
「綺麗どころ?」
「まあ、いいけどねぇ、別に」
「あ、あの勇者ミリア……」
私はそっぽを向いて彼のもとを離れようとした。
すると、
「もう、魔王様ったら」
と隣の美女が魔王湊山くんに寄り添って彼の腕にすがりついた。
「あ、あの、そんなにくっつかなくても……」
ドギマギする魔王湊山くん。
「へぇーー随分とモテるのね、魔王」
私がジト目で冷やかすと、
「そ、そんなことは……」
「もちろんです、魔王国の女子は皆魔王様を愛してますから」
魔王湊山くんに被せるように隣の美女が言った。
「え、な、なななにを言って……」
あたふたする魔王湊山くん。
「ま、いいけど」
私はそう言ってその場を離れた。
(ふん、別に気にしないし)
そう思いながらも、つい背後をちらりと見てしまうのだが。
私は川沿いの桜並木に向かってゆっくりと歩いていった。
桜はほぼ満開で見ていると心が華やいでくる。
並木に沿って並べられたシートには様々な料理やお菓子が並べられている。
既に座って始めている者もいて、その多くは魔族だ。
「いやーー花見っていいねーー」
魔族に囲まれて騎士隊長ギールが賑やかにやっている。
遠慮がちな王国の者たちも、魔族とすっかり馴染んでいるギールの周りに集まりだしている。
(なにげに役に立ってるじゃない)
私は、ポンコツ騎士隊長をちょっとだけ見直した。
「ゆ、勇者ミリア……」
後ろから小走りでやってきた魔王湊山くんが呼びかけてきた。
「なに?」
「あ、あの……その……」
ついぶっきらぼうになってしまった私に、ビビってしまう魔王湊山くん。
「さっきの女性は、その、悪魔卿の妹なんです」
「そう」
「それで、多分……」
「……」
「多分、俺のことを誂《からか》ってるだけだと、思います……」
そう言って魔王湊山くんはうなだれてしまった。
(そういえば……)
私は前世の高校時代の湊山くんのことを思い出した―――
大人しくて女子とまともに話せなかった湊山くん。
そんな彼にいたずらを仕掛けた女子がいたのだ。
その子はクラスでも派手で目立つ子で、一種の派閥みたいなものを作っていた。
私はそういうのが好きではなかったので、その子とは距離を置いていたが。
ある日のこと、その子が湊山くんに接近して気がある素振りを見せた。
その頃、私と湊山くんは話をするようになって間もない時だった。
もしかしたら、その子は私へ見せつける魂胆があったのかもしれない。
当然のことながら湊山くんは、どうしていいか分からずにドギマギしていた。
そんな彼の様子を見て、その子の仲間の女子達が面白そうに笑っていた――――
(だけど……)
今回の悪魔卿の妹はそれとは違うように、私には思えた。
とはいえ、魔王湊山くんにしてみれば前世の苦い思い出がトラウマのようになっているのかもしれない。
(まあ仕方ないか)
しょんぼりしている魔王湊山くんを見て私は思った。
「誂《からか》われてるってことは無いと思うよ、多分」
「そうでしょうか……」
「まあ、おべっかはあるかもだけど」
「おべっか?」
「だってあなた魔王でしょ?」
「はい……」
「魔族で一番偉くて強いんだから、下の人が気に入られたいって思うのは普通じゃない」
「俺、強いんでしょうか、よく分からないんです……」
ボソッと言う魔王湊山くん。
「強いと思うよ、バレンタインデーの時とか凄かったじゃん、私に勝ったし」
的あて勝負の時の魔王湊山くんは、指先から出した魔法弾で見事的の中心を貫いたのだ。
「でもあの時勝てたのは、勇者ミリアが手加減してくれたから……」
「へぇーー分かってたんだ」
「はい、なんとなく……」
「でも、その後が大変だったたんだからね」
そう、勝利の賞品と称してバレンタインデーのチョコを私が渡すと、魔王湊山くんは舞い上がってしまった。
そして彼は舞い上がったり興奮したりすると、無意識に魔力を増幅させてしまうのだ。
もしあのまま魔王の魔力が増大し続けていたら、結構シャレにならない事態になっていたかもしれない。
「す、すみませんでした。後でドーガに聞きました」
と律儀に頭を下げる魔王湊山くん。
あの時は魔王側近のドーガに魔王湊山くんを眠らせるように私が言ったのだ。
「ふふ、大丈夫よ。でもあなたはもう少し……あ」
私はあることを思いついた。
「……何か?」
「ちょっと、試してみない?」
「はい?」
「魔王と私の力をぶつけ合ってみるの」
「ええ!?」
魔王湊山くんは魔力はとんでもなく大きい。
そのせいか、魔力をコントロールできていないように私には思える。
「お互いの強さを見ながら自分の魔力を調節するの」
「それで、どうすれば……」
「とりあえずやってみましょう、あっちの方で」
私は皆がお花見をしているところから離れた場所を指して言った。
「ね?」
「はい」
ということで、私と魔王湊山くんは魔力対決をすることになった。もちろん模擬戦だ。
魔王湊山くんと数メートル離れて対峙した私は右手の拳に魔力を込めた。
「私が拳に魔力を込めて攻撃するから」
「はい」
「私の魔力を感じて魔力の強さを調節して防御魔法をかけてみて」
「わかりました」
そうは言ったものの、私自身も魔力の加減が上手くできるか自信があるわけではない。
魔王湊山くんを見ると少しずつ魔力が上がってきているようだ。
(とりあえず、こんなもんかな)
「いくよーー」
「はい!」
私は一気に間合いを詰めて右の拳を打ち込んだ。
魔王湊山くんは眼の前に魔法防護壁を張って対抗した。
ドコ゚ォオオーーン!!
私の拳が魔王湊山くんの魔法防護壁に当たると、目も眩むような光と共に衝撃音が起こった。
「うん、いい感じなんじゃない?」
「そうですね……はい」
と、私と魔王湊山くんがお互いの感触を確かめ合っていると、
「勇者ミリア!!」
「魔王様!!」
騎士隊長ギールら王国の者たちと、魔王側近ドーガら魔王国の者たちが大声で叫ぶのが聞こえた。
「ん?」
「なんでしょう……?」
私と魔王湊山くんが不思議に思って見てみると、両国の者たちが血相を変えてこちらに向かってくる。
「とうとう決戦ですか、勇者ミリア!?」
「魔王様、ここは我らにお任せを!」
にわかに一触即発のような事態になった。
「ちょっと、あなた達……」
「いったい何を……」
私と魔王湊山くんにはいまひとつ状況が飲み込めないでいた。
「あらあら、ちょっと遅れちゃったけど、もしかして大変なことになってるのかしら?」
「なんだかキナ臭いなぁ、大丈夫か?」
そう言って歩いてきたのは、妖精女王エルファと闇の女帝トーラだった。
「あ、エルファさま、トーラさん」
私はホッとして呼びかけた。
「私たち、ちょっと魔力を試そうと思って……」
私が言うと、
「で、地面の形を変えちゃったってわけね」
エルファがため息混じりの苦笑いで言った。
「地面の形?」
そう言われて改めて私は周りの地面を見た。
私と魔王湊山くんが立っているところを残して、周囲の地面が半径二、三十メートルにわたってえぐられて、クレーターのようになっていた。
「「あ」」
私と魔王湊山くんの声が重なる。
「これって……」
「どうしましょう……」
私と魔王湊山くんが顔を見合わせて困っていると、
「さあさあ、皆さん、心配しなくて大丈夫ですよ」
「そうそう、ふたりは本気で戦ってたわけじゃないから」
エルファとトーラが険悪な表情の両国の者たちをとりなしている。
「そうそう、なんでもないの、ごめんねーー」
「申し訳ない」
私と魔王湊山くんもできるだけ和やかに言った。
「ここでふたりがハグしたら効果抜群だと思うのだけど」
とエルファがとんでもないことを私の耳に囁いた。
「は、ハグーー!?」
私が素っ頓狂な声を上げる。
「は、ハグ……!」
私の言葉を聞いた魔王湊山くんの顔が真っ赤になり、彼の魔力がにわかに膨張した。
「ば、ばか、魔力を抑えなさい、魔王!」
「ハグ、ハグ、勇者ミリアとハグ……」
魔王湊山くんには私の言う事など全く聞こえていないようだ。
(どうする……!)
今回は今まで以上に魔王湊山くんの魔力が膨張しているようだ。
彼のそばにいるのは私だけだ。
魔王側近のドーガや、エルファ、トーラが何か言いながら私たちに近づこうとしている。
だが、魔王湊山くんの強大な魔力に押されて、私が知る限り最強の魔術師のエルファですら近づくことができない。
遠くに視線をやると、魔王国や王国の者達がクレーターの外側で怯えて座り込んだりしている。
(なんとかしなきゃ!)
上手くいくが全く分からなかったが、一か八か私は賭けてみた。
「湊山くん」
私は湊山くんの目をじっと見つめて言った。
「ハグ、勇者ミリアとハ……?」
「湊山くん、落ち着いて」
「は、はい……」
「前世を思い出すね」
「前世……」
湊山くんの魔力が落ち着いてきた。
「湊山くん、最初の頃はいつも緊張してたけど」
「はい……」
「少しずつ慣れてきたじゃない」
「はい……」
湊山くんの魔力が減衰し始めている。
「湊山くん、気づいてた?」
「はい……?」
「私もね、最初の頃は少し緊張してたんだよ」
「え……?」
最初に湊山くんに話しかけた時、私は特に考えもなしに気楽な気持ちだった。
だが、返ってきた湊山くんの反応が思わしくなかったので、柄にもなく私は緊張してしまったのだ。
「だからさ、私と話す時はもう少し気持ちを楽にして」
「はい……」
「友達だったでしょ、私たち?」
「はい……!」
湊山くんの魔力はほぼ平常通りに戻っていた。
落ち着いて周りを見ると、魔王湊山くんの魔力暴発の影響の凄さが分かった。
桜の花びらがかなり散ってしまっている。
敷いてあったシートもふっ飛ばされて、料理やお菓子があちこちに散らばっている。
未だに魔王の魔力に恐れをなしている者達が遠巻きにこちらを見ている。
「とりあえずは収まったかしら?」
エルファが近づいてきて言った。
「はい、なんとか」
「もう花見はできなそうだな」
と、トーラが周りを見ながら言った。
「すみません、俺のせいで……」
しょんぼりと肩を落とす魔王湊山くん。
「ほらほら、気にしない」
私は魔王湊山くんの肩をポンと叩いた。
「でも……」
「また、別のことやればいいでしょ、ね?」
「別のこと……?」
「あら、いいですわね、それ」
「だな、面白そうだ」
エルファとトーラも賛同してくれた。
「でしょ?そうねぇ、やるなら……運動会とかはどうかな?」
「運動会、ですか……」
と、魔王湊山くん。
「そう。お弁当持ってきて皆で食べたり」
「いいかも、しれませんね」
「運動会って、皆で運動をするの?」
エルファが聞いてきた。
(そか、この世界にはないのか)
「そうですね、基本的には走る速さとかを競い合ったりする、競技会みたいなものです」
「それは面白そうだな」
と、トーラ。
そんなわけで、魔王湊山くんの魔力の暴発から私の思いつきで運動会をやることになったのであった。
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その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
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