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第27話 伝えたいこと
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今や黒い影を背負った人影は王城の目の前に来ていた。
(やっぱりあの黒い人影は湊山くんだったのね)
魔王湊山くんから少し下がった両脇にも二人の人影が控えている。
(あれはアスウスと、ドーガかしら?)
私は今、妖精女王エルファと闇妖精部隊長グルヌそして、宮廷魔術師オローギルと共に城門の前で魔王軍を待ち受けている。
「あなたも出るの?」
オローギルが王城を出て魔王軍に立ち向かうと言い出したのを聞いて、私は素直に驚いてしまった。
「ほっほっほっ。この老いぼれでも何かの役に立つかもしれませんからの」
(大丈夫なのかな、かなりのお年寄りみたいだけど……)
などとつい失礼なことを考えてしまう。
だが知識に関してはおそらく王国一だろうから、色々教えてもらえることもあるだろう。
トーラやギール、クリスも王城を出て戦うと言って聞かなかった。
「もしものことがあるかもしれないでしょ?その時に王城と王国の人たちを守ってほしいの」
私がそう言ってなんとかかんとか説得して王城に留まらせた。
「そういえば、王様はどうしてるの?」
私はオローギルに聞いた。
「玉座の間におられます」
「まさかひとりで?」
「いえ、メイドが侍《はべ》っておると思います」
「メイドって、もしかしてレギナ?」
「はい」
(王様の護衛がメイド一人だけって)
「王城の各所には闇妖精部隊の者が見張りとして張り付いておりますので」
「ああ、そういうことね」
「それに……」
「?」
「王様はお一人でも大丈夫、と思えてしまうのです」
「なんで?」
「それが分からんのですよ。我ながら不思議に思うのですが」
「ふーーん」
お互いの信頼関係みたいなのがあるのだろうか、などと思ったが、
(今はそれどころじゃないわね)
魔王湊山くんたちに動く様子は見られない。
「彼らが攻撃してきたら身を守ることに専念して」
私は三人に言った。
「攻撃は極力しないように。無力化ができれば一番よ」
「それはかなりの難問だぜ、勇者様」
視線を魔王湊山くん達から離さずにグルヌが言った。
「分かってるわ、でもお願い」
「了解!勇者様の願いを無下にしたりしたら、かあちゃんにぶっ殺されちまうからな」
「ふふ、ナアシュさんて頼もしくて素敵な方ね」
「そう言ってもらえて嬉しいぜ、勇者様。それに、しょっちゅう殴られてるおかげで物理耐性も身に付くしな」
ニカッと白い歯を見せてグルヌが言った。
しばらくすると動きがあった。
「ミリアさん」
エルファが私に注意を促した。
「ええ」
私は勇者の剣に手をおいた。
魔王湊山から下がった奥にいた二人が前に出てきたのだ。
そしてゆっくりと手を差し出して掌をこちらに向けた。
「防御準備よ!」
すでに各人に防御魔法はかけてある。
私は勇者の能力である身体強化にエルファから防御力強化の魔法をかけてもらってある。
魔法による防御力強化は時間が来ると効果が消えてしまう。
だが、ダメージ軽減だけでなく、体力の消耗をも少なく抑えてくれるのでありがたい魔法だ。
アスウスとドーガの手が光り魔法弾が飛んできた。
だが魔法弾は私たちの頭の上を越えて行った。
そして、
ドォオーーーーン!
ドォオーーーーン!
と爆裂音を響かせて王城を囲う防御結界に当たって炸裂した。
「くそ、そう来やがったか!」
悔しそうに言うとグルヌが短刀を手に突っ込もうとした。
「待って!」
私はグルヌを手で制してエルファを見た。
「エルファ様、あの二人に無力化魔法や幻影魔法は効きそう?」
エルファはアスウスたちを見ながら、
「難しそうですけど、魔法弾を撃った直後ならもしかしたら……」
と言った。
「俺なら気づかれずに忍び寄れるぜ」
「でも、あの二人にはあなたの魔力では効かないと思うわよ」
エルファが困り顔で言った。
「何も魔法をかけるとは言ってないぜ」
そう答えてグルヌは短刀をキラリと輝かせた。
「ううん、それはまだ待って」
「てもよ、勇者様」
「ごめんなさい、グルヌ。あなたの隠密能力《おんみつのうりょく》が王国一だということはトーラに聞いたわ。でもそれは最後の手段にしたいの。それにね……」
「?」
「アスウスたちは倒せたとしても、魔王があなたを……」
「……分かったよ、勇者様」
グルヌはがっかりしてナイフを収めた。
ドォオーーーーン!
ドォオーーーーン!
またしても魔法弾が防御結界に炸裂する。
「どうしますか、ミリア殿?」
と、不安顔のオローギル。
「このままではいずれ防御結界も破られてしまいますわ」
「そうなったらいくら王城が固いっつっても」
エルファとグルヌは何とかしなければという切迫感が顔に出ている。
私は腰の勇者の剣に手を添えた。
(やっぱり私がこの剣を使わなければいけないの?)
この勇者の剣、戦いで使ったことは一度もない。
だが、日々素振りをしているせいか私の手になじんでいる。
この剣ならアスウスやドーガは勿論、今の魔王でも倒せると思う。
なんの根拠もないのだが直感的にそう感じるのだ。
(てもその前に何か別の手を……魔王と、せめてアスウスとでも話せれば……あ……!)
「エルファ様!」
「は、はい?」
いきなり私にすっ頓狂な声で呼ばれて驚いて答えるエルファ。
「前に城壁の上から魔王に話しかけた魔法はまた使えますかアスウスとかドーガとか魔王とかに」
私は早口でまくしたてた。
「え、ええ、やってみることはできますけど……」
「けど?」
「上手くいく確証はありません。それに今の悪魔卿たちの様子を見るとかなり危険だと思います」
「危険、とはどのようなことですか?」
「あの魔法は微弱な魔力で声を送り合う魔法なのです。なので悪意ある者が相手だと……」
「魔力に悪意を乗せて送ることができる、ということですか?」
「ええ……」
確かにかなり危険だと私にも分かる。アスウスは強力な魔術師だ。あの、トーラでさえ敵《かな》わなかったのだ。
「危険なのは分かります、でもできることは何でもやってみたいの」
そう言って私はエルファをじっと見た。
「分かりましたわ。でも危ないと思ったたらすぐに切ってくださいね」
「はい」
ドォオーーーーン!
ドォオーーーーン!
こんなやりとりをしている間もアスウスとドーガは魔法弾を撃ってくる。
「ではいきますわよ」
そう言ってエルファは緑色の光る珠を宙に作り出した。
私は緑の珠に手を当てた。軽くしびれるような感覚が伝わってくる。
珠から手を離すと手が薄っすらと緑に光っていて、細い糸のような光が手と珠を繋いでいる。
繋げる相手は決めてある。
(アスウスなら、もしかしたら……)
私は、今も魔法弾を撃とうとしているアスウスに狙いを定めた。
そして人差し指でアスウスを射抜くように指差した。
細い光の糸が伸びていきアスウスの胸を小さく照らす。
魔法弾を放とうとしていたアスウスが胸の光に気づき、腕を下ろした。
(よし……!)
私は大きく息を吸い込んだ。
『き、聞こえる、アスウス……?』
アスウスの赤黒く光る目が私を見た。
何度かまばたきをすると、心持ち目の色が明るくなった。
『……ゆ、勇者ミリア……』
『アスウス!』
『は、早く……ぐっ!』
そこまで言うとまたしてもアスウスの目が赤黒くなる。
『アスウス……』
私の様子を心配してエルファが肩に手をのせた。私は頷いて応えた。
私はもう一度大きく息を吸って気持ちを落ち着けた。
『アスウス、聞こえる?』
『早く……倒して……』
『倒してって……なんとかならないの?』
『できません……早く』
アスウスは肩を大きく上下させている。
『ねえ、魔王とも話できる』
『魔王……さまと……』
アスウスは少し考えるような素振りをして、ドーガを指差した。
細い光の糸がドーガまで伸びた。
『勇者……ミリア』
ドーガの目も心持ち明るくなった。
『あなたとも話せるのね、そうしたら……』
私は期待を込めて言った。
アスウスとドーガが目配せをした。そして二人同時に魔王湊山くんを指差した。
光る糸が魔王湊山の胸に達した。
私の胸に希望が湧き上がった。
『湊山くん、聞こえる?』
私の呼びかけに魔王湊山くんがこちらに視線を向けた。
だが彼の目は底なしの漆黒のような色のままだ。
『湊山く……』
そこまで言った時、
キィイイイイーーーーーーーーン!
という超音波のような鋭い音が私の耳を襲った。
「あぁああああーーーー!」
その奇怪な音に耐えられず、私は両耳を押さえてうずくまった。
「ミリアさん!」
エルファが私の肩を抱いて声をかけた。
音は鳴り止んでいた。
「だ、大丈夫です、ありがとう」
私は立ち上がって魔王湊山くんを見た。
今も彼は漆黒の目でこちらを見ている。
アスウスとドーガとの繋がりはまだ切れていない。
『ねえ、なんとかならないの?』
私はアスウスに思念を送った。
『魔王様……』
『魔王様を……』
アスウスとドーガは目を見合わせた。
『我々の、魔力を……』
『魔力を……魔王様に』
二人は頷き合っている。
そして彼らの両手が銀色に輝きだした。
『魔力を、どうするの?』
わけが分からずに私は聞き返した。
アスウスとドーガは魔王湊山くん向かって両手を差し出して、掌《てのひら》を開いた。
そしてアスウスは肩越しに私を見て言った。
『勇者ミリア……これが、最後の……』
『どうか……魔王様を……』
アスウスの言葉を継いでドーガも言った。
すると、二人の手の先から延びた光の糸が銀色に輝いた。
光が魔王湊山くんの胸に達すると、漆黒の闇だった目の色が明るくなった。
『『魔王、様……』』
アスウスとドーガはそう言うとその場で崩折れた。
そしてみるみるうちに体が固まった土塊《つちくれ》のようになり、ボロボロと崩れていった。
「ぁぁ……」
私は地面に膝をついてがっくりとうなだれ、声にならない声を漏らした。
(なんで……なんで……!)
アスウスとドーガが消えてしまった。
持てる魔力を全て魔王湊山くんに渡して、文字通り土に還ってしまったのだ。
「ミリアさん、しっかり」
そう言ってエルファが私を支えてくれた。
アスウスとドーガの魔力を注がれた魔王湊山くんはじっと私を見ている。
(そうだ、湊山くんと話をしなきゃ……!)
アスウスとドーガが命をかけて魔力を注いでくれたのだ。
それを無駄にしてはいけない。
『……湊山くん、聞こえる?』
私はエルファに支えられながら魔王湊山くんに思念を送った。
『ゆ……勇者……ミリア』
『湊山くん……!』
私の心に小さな光が芽生えた。
(やっぱりあの黒い人影は湊山くんだったのね)
魔王湊山くんから少し下がった両脇にも二人の人影が控えている。
(あれはアスウスと、ドーガかしら?)
私は今、妖精女王エルファと闇妖精部隊長グルヌそして、宮廷魔術師オローギルと共に城門の前で魔王軍を待ち受けている。
「あなたも出るの?」
オローギルが王城を出て魔王軍に立ち向かうと言い出したのを聞いて、私は素直に驚いてしまった。
「ほっほっほっ。この老いぼれでも何かの役に立つかもしれませんからの」
(大丈夫なのかな、かなりのお年寄りみたいだけど……)
などとつい失礼なことを考えてしまう。
だが知識に関してはおそらく王国一だろうから、色々教えてもらえることもあるだろう。
トーラやギール、クリスも王城を出て戦うと言って聞かなかった。
「もしものことがあるかもしれないでしょ?その時に王城と王国の人たちを守ってほしいの」
私がそう言ってなんとかかんとか説得して王城に留まらせた。
「そういえば、王様はどうしてるの?」
私はオローギルに聞いた。
「玉座の間におられます」
「まさかひとりで?」
「いえ、メイドが侍《はべ》っておると思います」
「メイドって、もしかしてレギナ?」
「はい」
(王様の護衛がメイド一人だけって)
「王城の各所には闇妖精部隊の者が見張りとして張り付いておりますので」
「ああ、そういうことね」
「それに……」
「?」
「王様はお一人でも大丈夫、と思えてしまうのです」
「なんで?」
「それが分からんのですよ。我ながら不思議に思うのですが」
「ふーーん」
お互いの信頼関係みたいなのがあるのだろうか、などと思ったが、
(今はそれどころじゃないわね)
魔王湊山くんたちに動く様子は見られない。
「彼らが攻撃してきたら身を守ることに専念して」
私は三人に言った。
「攻撃は極力しないように。無力化ができれば一番よ」
「それはかなりの難問だぜ、勇者様」
視線を魔王湊山くん達から離さずにグルヌが言った。
「分かってるわ、でもお願い」
「了解!勇者様の願いを無下にしたりしたら、かあちゃんにぶっ殺されちまうからな」
「ふふ、ナアシュさんて頼もしくて素敵な方ね」
「そう言ってもらえて嬉しいぜ、勇者様。それに、しょっちゅう殴られてるおかげで物理耐性も身に付くしな」
ニカッと白い歯を見せてグルヌが言った。
しばらくすると動きがあった。
「ミリアさん」
エルファが私に注意を促した。
「ええ」
私は勇者の剣に手をおいた。
魔王湊山から下がった奥にいた二人が前に出てきたのだ。
そしてゆっくりと手を差し出して掌をこちらに向けた。
「防御準備よ!」
すでに各人に防御魔法はかけてある。
私は勇者の能力である身体強化にエルファから防御力強化の魔法をかけてもらってある。
魔法による防御力強化は時間が来ると効果が消えてしまう。
だが、ダメージ軽減だけでなく、体力の消耗をも少なく抑えてくれるのでありがたい魔法だ。
アスウスとドーガの手が光り魔法弾が飛んできた。
だが魔法弾は私たちの頭の上を越えて行った。
そして、
ドォオーーーーン!
ドォオーーーーン!
と爆裂音を響かせて王城を囲う防御結界に当たって炸裂した。
「くそ、そう来やがったか!」
悔しそうに言うとグルヌが短刀を手に突っ込もうとした。
「待って!」
私はグルヌを手で制してエルファを見た。
「エルファ様、あの二人に無力化魔法や幻影魔法は効きそう?」
エルファはアスウスたちを見ながら、
「難しそうですけど、魔法弾を撃った直後ならもしかしたら……」
と言った。
「俺なら気づかれずに忍び寄れるぜ」
「でも、あの二人にはあなたの魔力では効かないと思うわよ」
エルファが困り顔で言った。
「何も魔法をかけるとは言ってないぜ」
そう答えてグルヌは短刀をキラリと輝かせた。
「ううん、それはまだ待って」
「てもよ、勇者様」
「ごめんなさい、グルヌ。あなたの隠密能力《おんみつのうりょく》が王国一だということはトーラに聞いたわ。でもそれは最後の手段にしたいの。それにね……」
「?」
「アスウスたちは倒せたとしても、魔王があなたを……」
「……分かったよ、勇者様」
グルヌはがっかりしてナイフを収めた。
ドォオーーーーン!
ドォオーーーーン!
またしても魔法弾が防御結界に炸裂する。
「どうしますか、ミリア殿?」
と、不安顔のオローギル。
「このままではいずれ防御結界も破られてしまいますわ」
「そうなったらいくら王城が固いっつっても」
エルファとグルヌは何とかしなければという切迫感が顔に出ている。
私は腰の勇者の剣に手を添えた。
(やっぱり私がこの剣を使わなければいけないの?)
この勇者の剣、戦いで使ったことは一度もない。
だが、日々素振りをしているせいか私の手になじんでいる。
この剣ならアスウスやドーガは勿論、今の魔王でも倒せると思う。
なんの根拠もないのだが直感的にそう感じるのだ。
(てもその前に何か別の手を……魔王と、せめてアスウスとでも話せれば……あ……!)
「エルファ様!」
「は、はい?」
いきなり私にすっ頓狂な声で呼ばれて驚いて答えるエルファ。
「前に城壁の上から魔王に話しかけた魔法はまた使えますかアスウスとかドーガとか魔王とかに」
私は早口でまくしたてた。
「え、ええ、やってみることはできますけど……」
「けど?」
「上手くいく確証はありません。それに今の悪魔卿たちの様子を見るとかなり危険だと思います」
「危険、とはどのようなことですか?」
「あの魔法は微弱な魔力で声を送り合う魔法なのです。なので悪意ある者が相手だと……」
「魔力に悪意を乗せて送ることができる、ということですか?」
「ええ……」
確かにかなり危険だと私にも分かる。アスウスは強力な魔術師だ。あの、トーラでさえ敵《かな》わなかったのだ。
「危険なのは分かります、でもできることは何でもやってみたいの」
そう言って私はエルファをじっと見た。
「分かりましたわ。でも危ないと思ったたらすぐに切ってくださいね」
「はい」
ドォオーーーーン!
ドォオーーーーン!
こんなやりとりをしている間もアスウスとドーガは魔法弾を撃ってくる。
「ではいきますわよ」
そう言ってエルファは緑色の光る珠を宙に作り出した。
私は緑の珠に手を当てた。軽くしびれるような感覚が伝わってくる。
珠から手を離すと手が薄っすらと緑に光っていて、細い糸のような光が手と珠を繋いでいる。
繋げる相手は決めてある。
(アスウスなら、もしかしたら……)
私は、今も魔法弾を撃とうとしているアスウスに狙いを定めた。
そして人差し指でアスウスを射抜くように指差した。
細い光の糸が伸びていきアスウスの胸を小さく照らす。
魔法弾を放とうとしていたアスウスが胸の光に気づき、腕を下ろした。
(よし……!)
私は大きく息を吸い込んだ。
『き、聞こえる、アスウス……?』
アスウスの赤黒く光る目が私を見た。
何度かまばたきをすると、心持ち目の色が明るくなった。
『……ゆ、勇者ミリア……』
『アスウス!』
『は、早く……ぐっ!』
そこまで言うとまたしてもアスウスの目が赤黒くなる。
『アスウス……』
私の様子を心配してエルファが肩に手をのせた。私は頷いて応えた。
私はもう一度大きく息を吸って気持ちを落ち着けた。
『アスウス、聞こえる?』
『早く……倒して……』
『倒してって……なんとかならないの?』
『できません……早く』
アスウスは肩を大きく上下させている。
『ねえ、魔王とも話できる』
『魔王……さまと……』
アスウスは少し考えるような素振りをして、ドーガを指差した。
細い光の糸がドーガまで伸びた。
『勇者……ミリア』
ドーガの目も心持ち明るくなった。
『あなたとも話せるのね、そうしたら……』
私は期待を込めて言った。
アスウスとドーガが目配せをした。そして二人同時に魔王湊山くんを指差した。
光る糸が魔王湊山の胸に達した。
私の胸に希望が湧き上がった。
『湊山くん、聞こえる?』
私の呼びかけに魔王湊山くんがこちらに視線を向けた。
だが彼の目は底なしの漆黒のような色のままだ。
『湊山く……』
そこまで言った時、
キィイイイイーーーーーーーーン!
という超音波のような鋭い音が私の耳を襲った。
「あぁああああーーーー!」
その奇怪な音に耐えられず、私は両耳を押さえてうずくまった。
「ミリアさん!」
エルファが私の肩を抱いて声をかけた。
音は鳴り止んでいた。
「だ、大丈夫です、ありがとう」
私は立ち上がって魔王湊山くんを見た。
今も彼は漆黒の目でこちらを見ている。
アスウスとドーガとの繋がりはまだ切れていない。
『ねえ、なんとかならないの?』
私はアスウスに思念を送った。
『魔王様……』
『魔王様を……』
アスウスとドーガは目を見合わせた。
『我々の、魔力を……』
『魔力を……魔王様に』
二人は頷き合っている。
そして彼らの両手が銀色に輝きだした。
『魔力を、どうするの?』
わけが分からずに私は聞き返した。
アスウスとドーガは魔王湊山くん向かって両手を差し出して、掌《てのひら》を開いた。
そしてアスウスは肩越しに私を見て言った。
『勇者ミリア……これが、最後の……』
『どうか……魔王様を……』
アスウスの言葉を継いでドーガも言った。
すると、二人の手の先から延びた光の糸が銀色に輝いた。
光が魔王湊山くんの胸に達すると、漆黒の闇だった目の色が明るくなった。
『『魔王、様……』』
アスウスとドーガはそう言うとその場で崩折れた。
そしてみるみるうちに体が固まった土塊《つちくれ》のようになり、ボロボロと崩れていった。
「ぁぁ……」
私は地面に膝をついてがっくりとうなだれ、声にならない声を漏らした。
(なんで……なんで……!)
アスウスとドーガが消えてしまった。
持てる魔力を全て魔王湊山くんに渡して、文字通り土に還ってしまったのだ。
「ミリアさん、しっかり」
そう言ってエルファが私を支えてくれた。
アスウスとドーガの魔力を注がれた魔王湊山くんはじっと私を見ている。
(そうだ、湊山くんと話をしなきゃ……!)
アスウスとドーガが命をかけて魔力を注いでくれたのだ。
それを無駄にしてはいけない。
『……湊山くん、聞こえる?』
私はエルファに支えられながら魔王湊山くんに思念を送った。
『ゆ……勇者……ミリア』
『湊山くん……!』
私の心に小さな光が芽生えた。
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※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
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