ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

文字の大きさ
24 / 66
第3章 近づく距離

23. 第一師団団長室 (レイ)

しおりを挟む
先程から室内には、書類をめくる音と時計の秒針が刻々と時を刻む音だけが聞こえている。

俺はというと、来月に行う騎士団と王宮専属魔導士たち合同の魔獣探査に向けて、日々の訓練の成果や個々の資料を見ながらパーティ編成を組んだり、その日の様々な報告書類に目を通しているところだ。

騎士団の一日の大半は訓練で、第一師団から第十師団までそれぞれの師団には特徴があり、その師団によってもちろん訓練内容も様々だ。

王宮内の警備や、王族の護衛については『金獅子』と呼ばれる王直属の部隊が別にあり、俺たち王宮騎士団は主に王宮周辺の警備や町外れに時々出没する魔獣の排除、他国との大きな戦争から小さないざこざまであらゆる事に対処できるように配備されている。

俺が所属しまとめているのは王宮騎士団第一師団。
巷では騎士団最強部隊とも呼ばれているが、最強と言われる所以は第一師団が剣術、武術に秀でた者の中で全員が高度な攻撃系魔法の魔石を使用できることが最大の要因だと思われる。

攻撃系魔法の魔石はコントロールが難しく、レベルが高いものは特に扱える者が少ないのが現状だ。そんな中でも、第一師団のメンバーは魔石のコントロールが上手く、闘いの場では大いにその力を発揮する。
かく言う俺も魔石のコントロールについて、騎士団では右に出るものはいないと自負している。

(まぁ俺の場合、それだけじゃないが・・・)

ふと書類をめくっていた手を止めて、窓の外に視線を向ける。
外はそろそろ日が暮れそうな色合いをしていた。

最近、というか俺がユーリとあの星空を見たあとぐらいから急に仕事が忙しくなり、自分からユーリに対し共に会おうと提案しておきながら、まだ3日くらいしかまともにユーリと会えていないというこの現状。

本音を言うと、仕事など放り出してユーリのそばにずっといたい。
だが、俺がこうして騎士団団長になった過程や、ここでのユーリとの出会い。

この出会いは必然だったが、生まれてから今までのお互いのこの過程はこの世界で生きていく上できっと意味があるものなんだろう。
ユーリに前世の記憶はないが、俺は同じ騎士として、以前と役割は違うがユーリに恥じない生き方をしたい。

だからこそ今の地位を疎かにはしない。
そして今度こそ・・・。

(ユーリ、早く会いたい)

ほんの少しだけ、外の景色を見ながらユーリに思いを馳せ、俺は再び書類に向き合う。

今日は、あと少しで終了だ。
団長の仕事は、訓練や部隊の統率以外にもこうした事務仕事が実は多い。
俺の先代の第一師団長は、この事務仕事が嫌いだった為ほとんど他の者に任せていたようだが、正直騎士団というところはあまり事務系が得意な者がおらず、
どちらにせよいざ報告書を提出となった際、報告書を渡された相手側はそれはそれはあまりの報告書の書き方に、毎回解読するのに一苦労したという話もちらほら聞いている。

俺はというと、もちろん体を動かしている方が好きなのだが別段特にこういう事務系も苦手という程でもなく、与えられた仕事はスムーズにこなしていく方だ。

コン、コン。

室内に、今までとは異なる音が響き渡る。

「団長、ダルコスです。報告にあがりました」

「あぁ、入ってくれ」

「失礼します」

扉を開けてその場で一礼をし入ってきたのは、我が第一師団の副団長を務めるバジル・ダルコスだ。

先代の頃からこの第一師団にいるバジルには、俺も色々と助けられていて、騎士団全体の頼れる兄貴分でもある。
大柄で背も高く、残念ながら俺が第一師団の団長になった当初は隣にいると大抵バジルが団長だと勘違いされたものだ。
さすがの俺も鍛えたからといって、バジルの体格にはなれそうにない。

バジルはまっすぐに俺の執務机まで歩いてきて、持っていた報告書を俺に差し出した。

「ひとまず今日までの新人達の訓練状況を師団ごとにまとめてあります。あとはそれぞれの師団長からの追加資料をまとめたものがこちらです」 

「あぁ、いつもありがとう。ところで、バジルから見た新人たちはどうだった?今回もなかなか面白い人材が入ってきたように思うんだが?」

俺は渡された報告書に一瞬目をやり、目の前のバジルに視線を移す。
バジルには、各師団をまわって新人たちの資料を各師団長から回収すると共に、実際の目で新人たちの様子や現在の実力を把握してきてもらったのだ。

「そうですね。なかなか鍛えがいのある者たちが多いようなので、もしかしたら短期間で第一、第二にあがってくる者もいるかもしれません。私が見た中でも数人は、魔石をすでにコントロールし始めている様子でしたので」

そう話すバジルは後輩たちの面倒見が良く、本人自身これからの新人たちの先行きを楽しみにしているようだ。

「そうか。それは確かに楽しみだな。各師団の奴らにも良い刺激になるだろう。わかった。ではまたこの資料を見ながら、引き続き来月の合同探査のパーティの編成をしていくとしよう。バジル、悪いがまた明日にでも手伝ってくれるか?」

「はい、わかりました。団長はもう今日はあがられますか?」

「あぁ、今日は書類の処理もスムーズにいったからこれで終わりにする」

「それは何よりです。毎度この時期の団長は根を詰めすぎですからね。団長が見た目以上に頑丈なのはもう知っていますが、やはり人間休息は大事ですよ」

「ハハッ、そうだな。根を詰めているつもりはなかったが・・・バジルにそう言われると、ほどほどにしておかないとな。ありがとう。では最後にこの報告書類を総務の方に持って行ってくれるか?」

バジルは、ニコっと笑みを浮かべて頷き書類を受け取った。

「了解しました。それでは、失礼します」

一礼をし、部屋を出て行くバジルを見送りながら、俺は椅子から立ち上がり出掛ける準備をする。ここ最近の中では早く仕事が終わった方なので、今日はユーリと少しゆっくり過ごせるだろう。

俺は逸る気持ちを胸に、団長室を出て待ち合わせ場所の国立魔法図書館へと足を進めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...