そして永遠になる

三ツ葉りお

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失くさなくて良い筈のモノを、失った日。

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 朝の日差しが、カーテン越しに薄く入り込んでくる。

(今日って、仕事休みだっけ....?)

 深い眠りから覚めた朝は、一瞬予定が解らなくなり、不安になる。今朝も例に漏れず予定が飛んだおれは、ベッドから起き上がってスマホを確認しようと....しようと.....ん???

「起き上がれない....?!」

(これが噂の金縛り?! 初めてだよ....。そんなに疲れてたのか、おれ....)

 辛うじて動く手で、上掛けのタオルケットを退ける。

(あれ? 手触りふわっふわー。家のタオルケット、こんな上質な触り心地だったっけ?)

 漸く薄暗い部屋にも目がなれてきて、部屋の全容を見渡したおれは──────逆に一切、状況が解らなくなった。


(え、ちょっと。まって、まって、ナニコレ。どういうコト???)


 見覚えのない、すっっっっっっごく高いホテルのスイートルームみたいな内装の部屋の、めっっっっっっちゃ高いだろうベッドの上に──────────。

(ここからが更に問題だよ.....)

 “誰か”が、一緒に....横になっている。

(落ち着けー。落ち着けよー、おれ....。昨日は確か、金曜で。明日休みだから、どっか呑みに行くか、スーパーでお酒とお摘み買い込んで家で呑むか、どうしようかなーって....ウキウキ悩んで帰りの電車に乗った。降りた最寄駅の酒屋から、魚が焼けるの良~い匂いがして....そのまま誘われるように入店して、気分よく日本酒を傾けてたら.....“誰か”に、声をかけられた.....? ような???)

 その時点でしこたま酔っていたおれは、情けないことに、後の事を何も覚えていない。

 現状、後ろで小さな寝息を立てている“誰かさん”は、おれを背後からがっちり抱き込んでいて、身動きが取れない。金縛りかと思ったのは、このせいだ。おれの腕は回された“誰かさん”の腕で、足も絡められた“誰かさん”の足で、首も肩に凭れた“誰かさん”の頭で。全身で、ホールドされている。

(そりゃ動けないはずだわ...)

 落ち着いてみれば、抱き込まれた背後から体温も、心音も、寝息も感じる。

(取りあえず、金縛りじゃなくて良かったぁ~.....。って、安心できる要素、なんっっっっっっっにもない!!!!! 後ろの人、誰なのォオオオオオ???)

 腕の太さや、おれをがっちりホールドしている力、絡んでいる足の長さから推測すると、男性だろうとは、思う。しかし、一緒のベッドで寝るほど仲の良い友達は、おれには居ない。...別に寂しくなんてないやい。

(それに...この部屋のグレード.....)

 いくら酔っぱらっていたとは言え、おれは生粋の庶民だ。ホテルの部屋を取るにしても、『スイートルームで!』なんて選択肢は、おれの中には存在しない。ならば、この部屋を取ったのは、後ろの“誰かさん”のハズだ。

 外で、雀の鳴き声がする。放心しながら聞いていたら、“誰かさん”の頭が動き、腕の力が少し、緩んだ。

(ラッキー。ありがとう雀!!)

 “誰かさん”を起こさないようにそーっと腕の拘束を外し、足も引き抜いて....何とか“誰かさん”の腕の中から抜け出た。


 未だベッドで寝息を立てる“誰かさん”の姿を確認し、血の気が引いたおれは、ベッド下に落ちていた自分の服を素早く身に付け、一目散にご立派なホテルの部屋から、逃げ出した。


(あぁ、神様。考えたくないけど────おれは彼と、ヤっちゃったんですね...?)


 歩く度太股を伝う生温い液体が、何処から流れ出ててくるのかなんて、考えるのも無理だ。

(おかしいとは思ったよ? おれも彼も、裸だったし。でもさぁ、男同士だから。酔って意気投合して、『部屋で呑もうぜ~』って誘われて、楽しくて脱いじゃった~ってノリかなって.....思うじゃん? 思うよね? ......思わせてくれよぉ~~~~~......)


 ───兎にも角にも。平凡なサラリーマンとして日々を消費しているおれ、相田あいだ さくらは20歳にして.....一生失わないと思っていた後ろのハジメテを、失いました。
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