目が覚めたら奇妙な同居生活が始まりました。気にしたら負けなのでこのまま生きます。

kei

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叶わなかったジェーンの望み

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 私達の目の前に赤い靄がゆらゆらと揺らめいている。
 一体、いつの間に。

 周囲の変化さえ見落とすほどレギオン先生(仮)の狂態に翻弄されていた。


 …‥あっ
 …‥? くーちゃんどうしたの?
 …‥何でもないわ。見たことがあるかと思っただけ、気のせいだったわ。


 気のせいとはぐらかす彼女の曖昧な微笑に若干の違和感を覚える。その言葉を素直に受け取れないのは、どうしてなのか。自分の勘がサラリと囁く。彼女は何か隠していると。






 ‥‥し…てぇ

 

 不意に響く絶望の声。
 今までとは違う誰かの気配に私達は怯む。

 
 ‥‥えっ? まだ誰かいるの?
 ‥‥そうみたいね。

 (ええー、今度は誰よー! ヤバい人は、もうレギオン先生(仮)でお腹いっぱい! もう勘弁して!!)

 アレと似た者が増殖するのかと失礼ながら辟易してしまった私は悪くない。悪意はない。うっとおしいだけなのだ。可能なら無視したいのに。無駄な願いは気を滅入らせる。

 苺のような赤色が薄暗い空間に嫌に冴える。
 広がり行く様はまるで染みが滲み渡るようだ。そう、徐々に大きく形を作り始めているのだ。この場に現れるために‥‥。

 
 (え? なにあれ‥‥)

 映えすぎる赤に目が離せない。



 ‥‥あれって、人みたいね。
 ‥‥だよね?
 

 この時ばかりは一人じゃなくて心底良かったと心の中で安堵した。視覚の暴力と異常性は結構ショッキングなのだ。赤い靄が赤い衣を着た女性?に変化したのだから。


 ‥‥誰かしら。
 ‥‥顔がよくわからないね? フローレンスちゃん関係者かな?

 (うーん、いたっけあんな人? あれ? 見たことあるかも)

 僅かな既視感にちょっとだけ動揺する。



 ‥‥どう…してぇ 聞いた…とちがう‥‥

 

 後悔と違って嘆きの声色が胸に迫る。

 …‥また、騙された人っぽいね。
 ‥‥みたいね。

 (もしかして同じパターンかも?)

 ‥‥あ‥‥あぁ‥‥

 
 暫く様子を見ていると女性の意識が明確になり、簡単な会話を交わす程度には意志の疎通が可能になったことを地味に喜んだ。

 同じ立場なのか術者なのか。そこんとこはっきりして欲しい。



 ‥‥孤児の私に優しくしてくれたのは彼女なの。誰からも顧みられない私にね親切だったのは彼女と神官様だけだった。


 ‥‥彼女は幼いころから厳しい教育を施され貴族の令嬢として恥ずかしくないよう躾されていたのよ。それはそれは‥…誰が見ても可哀想なほどね。

 
 (うーん、以前、夢で見たような気がするのは気のせいかな? いつだっけ‥‥あ~確か…?! あ、そうだ! あの夢! 3日も眠り続けた時に見た夢に間違いない。‥‥今の今まですっかり忘れた~)


 何故かこの時はそう思った。不思議だが共感できるのがその証拠だろうとアイナは胸中で納得させていた。


 ‥‥ご両親に振り向いてもらえず、婚約者からも裏切られ親から勘当されて。でもね、やっと素敵な男性に見初められたのよ。彼女の努力が報われたのね。

 ‥‥結婚して子供も生まれて‥‥本当に幸せな生活を‥‥誰が見てもそう見えたのよ? 仲睦まじいご夫婦。子煩悩な父親。慈しみ合う家族の姿がそこにあったの。


 ‥‥壊されたわ。

 ‥‥えっ?
 
 (あ、思わず声出しちゃった! まずい?)

 ‥‥殺されたのよ。

 (うわっ、重い話じゃない! ちょっちょっと、聞きたくないんだけど!)


 ‥‥だから‥‥恩人の神官様と彼女達を殺した人たちに復讐を決めたの。私と母を捨てたあの男とその娘に一矢報いたいと願ったわ。


 女性の顔は不鮮明で判別できないが、遠い記憶を思い出しているのがわかる。


 ‥‥話が違うじゃないの‥‥嘘だったのね‥‥使徒様。


 強い憎しみの感情が胸を突く。衝撃的に驚いて彼女を見ると。
 目が合った彼女は…‥彼女の顔は知っている。


 ‥‥えっ?! ジェ、ジェーンさん?!



 ‥‥ジョアンナさま…‥ごめんなさい‥‥




 全ての景色が一瞬で消えた。


 私の意識も‥‥

 

 









 「はぁぁぁぁぁ?! どういうことよー!」
 
 雄叫びと共に飛び起きたアイナは、またもや見知らぬ部屋で一人寝かされていたのだった。


 「はっ?! あ…あぁ、良かったぁ~夢か~」

 目覚めたアイナは夢で良かったと、全身の力を抜いてホッとした。あのまま暗闇の空間に閉じ込められなくて本当に良かったと心底安堵する。

 「あ‥‥れぇ? 夢見てたよね? どんな夢だっけ? 閉じ込められてたのかなぁ? うーん、思い出せない」

 確かに解放された喜びと安堵を感じるのだが、それが何から齎された感情なのか全く思い出せないアイナである。それに妙な不安と嫌な気分もしっかり感じ取っているのだ。すっきりしない、頭に引っ掛かる目覚めである。


 「はぁ‥‥悪い夢でも見たのかな? まぁ起きて忘れちゃったからいいか。それよりもお腹空いたなぁ~」


 ノックもなく部屋に入って来たのはいつぞやの神官さん。

 「ああ!! 目覚めたのですね! 本当に良かった」

 (何だか、デジャブってない?!)

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