猫太郎画伯・渾身のグッバイ!

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猫太郎画伯、渾身のグッバイ

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 ここは、魔法が至上主義の世界。

 とある王国スクイナッシー王国の上空に、ふんぞり返った姿で浮く一人の魔女見習い。その名は黒。

 生憎、今宵の月は誰も照らす気がないらしい。厚い雲に覆われた夜空は闇。その中で浮かぶ全身黒コーディの見習い魔女は、常闇の世界に溶け込む異物。黒髪に黒い瞳。真っ黒いローブを羽織り、口と鼻を覆うマスクまで黒。洋服も履物だって黒。装着済みの暗視ゴーグルだって黒仕様。これがデフォの装いだからオシャレ番長にはなれない。ふとそう言った姉弟子達を思い出す。

「返り血、目立たない。食べこぼし、わからない。汗が渇いたらサイアク。でも、黒いシルエット、カッコイイ」黒には黒にしかない良さと味がある(意訳)と黒は言う。


 洒落乙姉弟子のファッションチェックは苛烈を極め、末妹弟子の黒は早々に脱落していた。
 末妹弟子の名は、名づけセンス皆無の師匠が見たまんま決めた。おまけに黒衣装一択。姉弟子達は黒子ちゃんと揶揄い半分親しみ半分でそう呼んでいる。

 さて、この黒。魔法の腕は良いのに非常識。魔道具を作らせば、意志を持って動く、魔道具が。ポーションを作らせば、謎生物が発生する、液体の中に。魔女さんのペット枠・使い魔を召喚させれば、異界の謎生命体を召喚した。鬼ヤバい黒。



 ある日、今まで辛抱強く指導してくれた師匠の憔悴しきった顔が黒に迫った。

『お前の性根は善だ。悪ではない。悪に染まらない清らかな心を持つ。ならば、外の世界でも大丈夫であろう。世界は広い。お前の失った記憶が戻るかは知らぬが、何か、そうさなぁ、琴線に触れるものがあるかも知れぬ。それにだ、可愛い子には旅をさせろと、先人の言がある。よし、ちょっくら世界を見て来い』

『ああ、見習いは魔女を名乗ってはならん。そうさなぁ、まあ、占い師ならば、よか』

 半ばやけくそ気味に言い放った師匠は、餞別に身分証と魔道具製作者の証明書を手渡し、未知な世界へと黒を追いやった。





 師匠に拾われる前、黒は気付いたら崩壊した街を一人彷徨っていた。自分の名前も年齢も親の事も忘れ、どうしてここを歩いていたのかさえ覚えていなかった。言葉も分からず、文字も読めない、物を見てもその名称がわからない。まるで生まれたての赤子の如くこの世界を知らないでいた。途方に暮れた黒を見つけ、保護してくれたのは、魔物の駆除に失敗した小国の救援要請を受けて訪れた師匠だった。


 師匠には返しきれない恩がある。その師匠が世界を見て来いと言った。未知な世界に、だ。恐ろしさもあるが、師匠の教えを実行する時だと思い覚悟を決めた。


「新作、あるし。試したい。旧式も、セーフティー着けたから、試したい。それに、宣伝方法、考えた」


 魔法陣とポーションの製作を禁止された黒の唯一が、魔道具製作。黒は魔道具を使って、世に貢献したいと願っていた。それが師匠の教えだから。





 問題児はこうして野に放たれた。









 時は今。

 問題児黒は、スクイナッシー王国上空にて、城下を見下ろす。


「大丈夫。上手く行く。私の勘が囁いた。新作の魔道具で、この国の民は私にひれ伏す。間違いない」


 ニヤッと不敵に笑い、フンッ!と気合を入れた。



「私伝説、ここから」


 ローブをはためかし飛び去る黒。








 ◕◕◕

 事の始まりは、デシャバリ令嬢の出しゃばりから。

 ナレマセンノの下に伝書鳩ならぬ伝言メッセージ伝言魔道具が夜空を飛んでやって来た。


『ナレマセンノ様、良いお話がございましてよ』

 従姉妹のデシャバリから『小鳥の囁き』(伝言魔道具の名称)が届いたのは、夜もすっかり更けた頃。興奮冷めやらぬ声音に、厄介事の匂いをかぎ取る。内容を聞かずとも面倒事に違いないと考え、うんざりな気持ちが返事を躊躇わせた。

 ――デシャバリ様は、また懲りずに。はぁ、面倒ですわ。無視していいわね。

 ナレマセンノこと、スナオ二公爵家次女、スナオ二・ナレマセンノ。
 先日、長年王太子殿下と第二王子殿下の婚約者候補の一人として女性達の憧れの存在から、一気に、魅力のない愛されない自慢は親の権力しかない、ないない令嬢に成り下がった不幸な令嬢だ。

 そう、王太子殿下のお眼鏡に叶わず候補から外された。そして、第二王子からも拒まれた。二人の王子から同時にごめんなさいされちゃったとなれば、ご令嬢生命、即終了。

 王家も長年の功労?束縛?忠義に報いる形で、新たに婚約者となる男性を用意してやればいいのに。それを怠った。いや、二人の王子のやらかしの後始末にてんやわんやで余裕を失っていたというのが正しい。

 ナレマセンノは煽りを食ったうちのひとりだった。

 利己的な父と高飛車な態度の母、俺様な兄に我儘な妹は、選ばれなかった彼女を、慰めるどころか不甲斐ない、出来損ない、可愛げのない、我が家の恥でしかないと罵った。長女ならば選ばれたのにと、事故死した双子の姉を引き合いに出す始末。出来の良い姉と、死んだ後でも比較される。

 最初は姉が婚約者候補だった。人生を途中で退場した姉の代りに、その立場に付いたのがナレマセンノ。体裁を整えるために。ホンの一時、両親を虚栄心を満足させただけ。

 三女は、可愛げがない不愛想な次女が候補に上がった事自体、許せないでいたという。論う顔が嗜虐的に歪むのを見て、妹の本性を見た気がした。候補の間は、『流石はお姉さまです』『わたくしの自慢のお姉さま』と愛らしく慕っていたのに。

 家族の手の平くるりん攻撃は、長年の努力と献身と失った自信と時間を労う間もなく、ナレマセンノの不信感を加速度的に募らせるに終わった。勿論、学友や周囲にも。

 すっかり人間不信なナレマセンノ。

 ――全ては虚構よ。マガイモノのわたくしも。

『まだ起きていらっしゃるの、知ってますのよ。無視しないで下さいませ』
『とっておきの情報ですわ!』
『もう。いいわ、どうせ聞いていらっしゃるでしょ? このままお聞きくださいませ』
『ふふふ、噂の魔じょ、あ! こふぉん! あー、テステス。うん、よし。ふふふ、噂の占い師様の出現情報をゲット致しましたの! どう? 凄いでしょ? うふふ、ご褒美なんかくれちゃっても、宜しくてよ』
『今、スクイナッシー王国に、ご滞在中ですって!』

 怒涛の『小鳥の囁き』はこれで終わりではない。

 まだ、夜空にお星さまのようにチカチカと光らせながら周回していた。ざっと見て数十羽。目が痛い。

 今からアレを聞かされるのかと・・・地味に殺意が湧いた。

 デシャバリのしつこさと食らいつきが悍ましい。

「もう、デシャバリ様いい加減にして下さいませ! 隣の部屋で寝ている妹が目をさま・・・さないわよね。でも、夜更けに迷惑は迷惑ですわ」

 腹を出し涎を垂らして爆睡する妹の、百年の恋が一気に冷める姿を思い浮かべ、アレは朝まで起きないわとホッと胸を撫で下ろした。睡眠妨害だと癇癪を起すのが容易に想像できるからだ。

 ナレマセンノは盛大な独り言をぼやいた後、深い溜息を吐く。諦めと一緒に。
 返事が来ないことぐらい察せるでしょうと、ぼやきのおかわりだ。彼女が落ち込むナレマセンノを元気づけようとしているぐらいナレマセンノだってわかる。だけれど、素直になれないナレマセンノ。デシャバリの無神経さが悪いのよと愚痴ってみたが。

『デシャバリ様、詳しいお話は、明日にしましょう』と返事を吹き込み『小鳥の囁き』を送り出した。
 飛び行く様にデシャバリの「いやっふぅ!」と喜ぶ姿が重なって見えた気がして。イラっときた。

「ちょっと、残りのコレ、デシャバリ様ぁ!」

 チカチカ光る魔道具が犇めく部屋に、ナレマセンノの叫び声は再生音デシャバリの声に掻き消えた。









 ◕◕◕

 デシャバリ情報は、少し遊び要素の強い話だとナレマセンノは感じた。
 噂の占い師は、未来を占うのではなく、悩み事を解決し願い事を叶えるとか。調子のいい話だ。そして選ばれし者のみ扉を叩く資格があるとは、ふざけすぎ。商売として成り立つのだろうか。いや、それよりも資格の基準が、憶測でしか語られていない点で疑わしい。理不尽や不条理に苦しむ者に救いの手をなどと、とんだ食わせ者めとナレマセンノは不快感を抱く。ナレマセンノこそ資格を持つと信じて疑わない様子のデシャバリに、あわよくばの気持ちが透けて見えたことが、斜に構えさせたのだ。

 侮っている。その事実がナレマセンノを、一層惨めにさせた。


 デシャバリの言い分が正しければ、スナオデスワも、その扉を叩き恩恵を享受できる。

 単なる思い付きが、酷く魅力的に思えた。
 常にナレマセンノの上に立つスナオデスワが、救いを求めて、詐欺紛いの占い師を頼ると思うと、歪な感情を抑えることが出来ないでいた。

 ――恥も外聞もなく、みっともない姿を晒して縋る姿を、是非、この目で見てみたいわ。








 晴れた晴れた晴れた、とても良く晴れた昼下がり。面会が許されたナレマセンノはスナオデスワの住む邸へと訪れた。


 人気の名菓子にお取り寄せの銘茶。心尽くしの気遣いにほろりと緊張が和む。

「スナオデスワ様、お時間を取って下さって、ありがとう存じます」

「ふふ、わたくし達は同じ婚約者候補で、切磋琢磨した間柄ではございませんか。いつでもお越しくださって宜しくてよ」

 高嶺の花と囁かれるほどの気品溢れる美しい人、スナオデスワ。今は、その評判の美しさは翳りを見せ病人と見間違うぐらい酷い。

「お身体の具合は、如何ですの?」

 病人にしか見えないスナオデスワを、気遣う素振りを見せたナレマセンノ。

 化粧で誤魔化せない目の下の隈、荒れた唇、誰もが見惚れる金色の髪は艶が無くパサついて、酷い有様。失った瑞々しさが実年齢よりも老いて見せた。

 羨望の的であった彼女がとナレマセンノは困惑を顔に出さず、細やかに微笑む。


 スナオデスワこと、ココロガネ公爵家長女、ココロガネ・スナオデスワ。
 ナレマセンノと同様婚約者候補だったが、それも過去の誉れ。初恋の王太子殿下の心を射止めたにも関わらず、呆気なく捨てられた。相手の心変わりは、幸福の絶頂期を見事打ち砕き、再起不能に追い込んだ。

 王太子の婚約者が決定した後、もう一人の候補者は弟王子の婚約者となる。だから、どうしても選ばれなかった候補者は、劣った印象を貴族達に与えてしまう。実に非情な選考方法といえよう。

 失恋の痛手に嘆き悲しむスナオデスワに、冷めた気持ちを向けてしまうナレマセンノ。おくびにもださない強かさぐらいは持つ。それに、はなから寄り添えない理由があった。愛する人と生涯を誓い合った後での裏切りは、初めから見向きもなれなかったナレマセンノの傷心とは比べようもないほどだろう。
 だが、見向きもされなかった。関心を持たれなかった。
 さすがに蔑ろにはされずとも大事にもされなかったナレマセンノが、傷つかないと思ったのだろうか。二人の王子に甘い言葉を囁かれ、好意を寄せられていたスナオデスワには、相手にされていないナレマセンノの悲しみを、汲み取る頭も持ち合わせていなかった。想像力を少し働かせれば、理解できただろうに。

 少し、そう、ホンの少し、思いやりを、気配りを、見せてくれていたら――そう思わずにいられないナレマセンノ。

「ふふ、今日はとても調子がよろしいのよ。ナレマセンノ様と久しぶりにお話ができると思うと、元気が出ましたわ。落ち込むわたくしを慰めて下さったのも、貴女でした」

 婚約者候補として二人は競い合い、共に負けた。同じ負け犬。

「・・・あの日以来でしょうか」

「・・・ええ。あの日以来ですわ」

 それでも、スナオデスワはまだ幸せの中だ。

 家族に恵まれたスナオデスワ。恋に破れた娘を・妹を想う両親と兄からの愛情。優しく労わり寄り添う家族の姿を見せられナレマセンノは、自分との違いに理解が追い付かず、感情がどうしたって乱れてしまう。

 同じ目に遭うと思っていたのはナレマセンノ。無能と罵られ詰られ見捨てられ零落れるはずなのに。どこが違うのとナレマセンノの心は叫ぶ。

 スナオデスワは恋心に終止符が打てず、傷心していたに過ぎない。悩み嘆き悲しみ悔い未練を断ち切れず。眠れぬ夜を、食事が喉が通らない日々を、繰り返していた。家族の深い愛情に包まれながら。

 何と贅沢だろう。ナレマセンノは歯痒く思う。

「今日、伺ったのは、デシャバリ様が、わたくし達に哀憐の情をお持ちでいらして、御慰みになればと、興味深いお話を語って下さったの。今、王都で持ち切りの噂らしくて、ああ、わたくしは存じませんでしたが、スナオデスワ様は、ご存じかと思いまして」

「まあ、何かしら。わたくしも、ほら、ご存じのように、ずっと邸に籠っていたでしょう? 世間の噂を、今はまだ・・・ですが、デシャバリ様は、情報通なお方ですもの。どのようなお話か知りたいわ」

「とても不思議なお話ですの。俄かには信じられませんが、何でも、評判の良い占い師が、ここ王都で、奇跡を起こしていらっしゃるとか。まあ奇跡と申しましても、願い事が叶った話や、悩み事が解消した話で、不治の病や障害が完治したでは、ありません」

「それは、ですが、願いが叶うのでしたら、ふふ、叶った人にしてみれば、奇跡に違いありませんわ」

 羨ましい気持ちが殺せていない。寂し気に視線を揺らしたと思えば、消え入りそうな声で「わたくしも、胸の苦しみが解消できれば」と零したのをナレマセンノは聞き逃さない。

「実は、物見遊山で赴いたデシャバリ様は、肝心の占い師の館に辿りつけず終わったと仰っていましてね。噂によれば、占い師は人を選ぶとか。お眼鏡に叶った者だけだそうですよ。ふふ、不思議な話だと思いませんか? デシャバリ様は、わたくしならばと仰って、お話をして下さったのです。・・・ねぇ、スナオデスワ様。もし、もしもの話ですが、招かれたら、貴女はどうなさいます?」

「えっ・・・そ、そうね、わたくしなら・・・お受けいたしますわ」

 恋心とは、時に思考を狂わすものらしい。

「スナオデスワ様、行ってみません?」








 胸の奥に居ついた初恋の想い出を、無くしたいのは同じ。





 ◕◕◕

「ここでしょうか?」

「デシャバリ様の説明では、ここで間違いないかと。あ、ご覧になって。何かメッセージが」

「え? あら、これ・・・は」

【運命のひとではない】
【これぐらいしか、お前の使い道なない】

「え・・・この言葉は」

「な?! 何と失礼な!」

 既視感のあるセリフに胸を抉られ、強い情動に駆られた二人。

 悪意を感じる。

 スナオデスワは、胸に刺さった棘に打ち震え。
 ナレマセンノは、見透かされた羞恥でわなわなと拳が。

 ギュッと心を縛り付ける心無い言葉。

 二人を引きつけてやまないに刻まれたの『メッセージ』

 心が凍てつく。


 扉の前でいつまでも立ち竦む二人。すると、『メッセージ』に変化が。

【今なら初回無料でお話を聞きます。誰にも打ち明けられない胸の内をここですっきりさせませんか】
【お試し期間絶賛開催中! どんな恨み節も当店は傾聴いたします!】
【そこの貴女、胸が苦しくありませんか? 誰かとその苦しみを分かち合いたくありませんか?】
【お供の方たちもご一緒に! さあどうそ!】

 必死すぎやしないか。
 いやそれよりも、占い師にのかと思うと、正直気分の良いものではない。
 だが、訪れると決めたのは二人だ。

【あなたの願いが叶うことは、私の願いを踏みにじること】
【傷ついた心で、自分を失くさないで】

 今度は、ふたつの『メッセージ』が二人に読めた。

 間違いなく心を見られた。
 二人は顔を見合わせ頷く。
 意を決し、複雑な思いを抱えたまま扉を開ける。

 カランカラン

「遅い。よく来た。私、占い師。そこ、座って」

 全身黒コーディの少女がカタコトで手招き、対面に座るよう指をさす。

「え?」

「は?」

 そこにいたのは、少女。平民だと思うのだが、見た事のない色合いを持つ子に面食らった。漆黒の髪は艶の煌めきを放ち、神秘的な黒味の瞳は、こちらの胸の奥底まで見透かしていそう。なぜこのような子がここに? 疑問が尽きないナレマセンノ。相手が人を選ぶ噂の占い師なら、二人の失礼な態度に機嫌を損ねそうなものなのに。目の前の少女に変化はない。

「失恋、癒す、上書き。これ特効薬。間違いない」

 前置きもなく、ぐっさりと刺しにきた。この少女は配慮を知らない生き物らしい。

「えっ?」

「?!」

 通じたのはナレマセンノ一人。今までひた隠してきた事実をなぜこの少女が知るのかと驚きで言葉が詰まった。

「魔道具、選べばいい。ハッとして、グッときたの、必要な魔道具」

 どうやら部屋にある魔道具の中から選べと催促しているらしい。どうにもこの子の言葉は足りなくて遣り辛いとナレマセンノは、苦手意識を持つ。

 それにしても、事情も聴かず自分達に必要なモノを選べとは。やはり子供は子供かとナレマセンノは眉を寄せ不快を表した。
 一方、少女を見つめたままのスナオデスワは、意を決したか。

「この胸の苦しみから解放されるのでしたら、わたくしは、選びます。いつまでも悲しみに泣き暮らしても皆を心配させるだけですもの。占い師さん、どうか、助けて下さいませんか。お願いいたします」

 深々と頭を下げたスナオデスワに、ナレマセンノは、平民相手に恥ずかしくないのかと鼻で笑った。

「魔道具、が、選ぶ」

 おかしなことを言い出したとナレマセンノは、ますます気分を害した。
 スナオデスワは、肩の力が抜けたのか、良い感じに緊張が解れた。周囲をきょろきょろと興味津々に視線を動かす。浮ついているのは一目瞭然だ。

「あ、あれね」と期待に満ちた声を上げ、席を立ったスナオデスワ。ハッとしたのか、グッと来たのか。兎に角、魔道具を見つけたらしい。席に戻った時には、一体の猫人形を大事そうに両手に抱えていた。

「ふふ、可愛らしいわ。この猫さんのお人形にしますね」

 掌にすっぽり収まる大きさの猫の人形。身の丈より大きな絵筆を持っていて可愛いと一目で惹かれたと言う。

「ふむ、お姉さん、良いチョイス。それ『猫太郎画伯』思い出を、絵に。上書きが得意。新作の力作」

「スナオデスワ様、そのように、ま、まあ、お気に召したのであれば」

「使い方、教える。聞け」

「あ、あなたねえ、子供だからって、その口調は、失礼よ」

「ナレマセンノ様、宜しではありませんか。ふふ、珍しい髪と瞳の色をお持ちだから、きっと遠い国から来られたのでしょう。言葉が流暢でないのは、仕方ありませんよ」

「お姉さん、アタリ。当たりは、もう一個、サービス」

「まあ、嬉しいわ。ありがとう、可愛い占い師さん」

「私、可愛い占い師」

 調子が狂うわと内心で呆れるナレマセンノ。勿論、表面上は笑みを絶やしていない。
 スナオデスワが当たりで貰ったのは、青い鳥のブローチ。彼女が心の底から喜んでいるのがわかる。

「幸せを呼ぶ青い鳥」

「まあ、素敵!」

 ふんわりと笑ったスナオデスワの笑顔に、ナレマセンノは忘れていた感情を思い起こされる。

 ――その笑顔よ、嫌いなの。

 ナレマセンノの身勝手な怒りは、幸せな娘へと向く。いつだって恵まれた娘に矛先が向く。しかも無意識に。性質が悪い。

「さっそく、使え。魔力を流して、思い出を話す」

「猫さんに魔力を流すのね。それで、思い出って、何を話せばいいのかしら」

「痛み」

「! 驚いたわ、流石は可愛い占い師さん。何でも、お見通しなのね」

「本当に、話す気なの? スナオデスワ様」

 首肯したスナオデスワは、何が起こるのかしらと期待の籠った瞳で、猫さん人形に優しい手つきで魔力を流した。

 パァーと光ったと思えば、みるみると大きくなった・・・成猫サイズに。
 ベレー帽を被りスモックを着た猫は、「にゃごにゃご」とスナオデスワに挨拶をしたらしい。手には絵筆とキャンパスを持って。

 見た目に反して野太い声で鳴く魔道具に、製作者の変な拘りを感じたナレマセンノは、やはり苦手なタイプだと眉間の皺が深まった。

「ふふ、猫太郎画伯、宜しくお願いしますね。では、わたくしの初恋を聞いてください」

 とは言え失恋の痛手は癒えていない。思い出を語るには時期尚早と言える。ぎこちない笑顔がそれを証明していた。

「子供の頃に婚約者候補になりましたので、初めはお友達の感覚でしたわ。ですが、共に学ぶうちに、お互いを認め合って、お互いに恋したの」

「にゃごにゃご」

 猫太郎画伯が鳴き白いキャンパスに向かって絵筆を一振り。
 淡く光った。

「まあ!」

「は?」

 白いキャンパスの輝きは一瞬だったが、見るとそこには幼いスナオデスワと王太子殿下の姿が映し出されていた。

 少女の言葉は嘘ではない。
 驚く二人を前に、得意気な少女は先を促す。

「恋心に気付いたのは、10歳の頃よ。魔法の修練で、わたくし、中々上手く魔法が使えなくて、くじけてしまったの。それを、根気よく励まして下さったのが、彼。お忙しいはずなのに、付きっきりで練習を見てくれたの。上手く行った時は、ふふ、二人して声をあげて、はしゃいだわ」

「にゃごにゃご」

 また光った。
 キャンパスの中に幼い頃の二人が、笑うスナオデスワを見つめる王太子殿下の姿に、ナレマセンノの心が軋む。

「お勉強をサボろうと皆で隠れたり、王妃様のお庭でイタズラして、ふふ、一緒に怒られたわ」

「にゃごにゃご」

 光は少し強く。
 キャンパスに四人の姿が。スナオデスワ、二人の殿下、そして双子の姉。ナレマセンノはそこにいない。また心が軋む。

「夏の季節は、一緒に避暑地に向かったわ。そこでボートに乗ったり、散歩したり。お庭のお花が奇麗で、わたくしのためにブーケを作って下さって、その時に、気持ちを確かめ合ったの」

「にゃごぉにゃごぉ」

 更に光が強まった。スナオデスワの瞳が輝く。初恋が実った時の記憶は輝きを取り戻すほどか。少し成長した二人が、見つめ合って、王太子の腕の中にスナオデスワが。悔しさでギリッ!と奥歯を噛み締めたナレマセンノ。

 ――やめて! 見せないで! 

 ナレマセンノの心が泣いた。

「ダンスのお相手は、彼がわたくし以外と踊るのは嫌だと。珍しく独占欲を見せて下さったの」

「にゃごにゃご」

 ――ああ、覚えているわ。初恋の王太子殿下と踊れると思って、緊張していたわたくしに、踊りたくないと仰って。教師が宥めて下さったのだけれど、すっかりご機嫌を悪くされて。

 ナレマセンノは、痛みを思い出し、キャンパスを睨みつけた。
 姉の代りに候補となったばかりのナレマセンノに、ダンス練習を拒んだ王太子殿下。

 ――ふうん、スナオデスワの視点だとそういう記憶なのね。

 あれは、スナオデスワと弟殿下の冗談を、王太子殿下が過剰に反応しての事。ナレマセンノに非はない。

 両殿下は候補者に礼儀を持って接する。婚約者でなくともだが。それこそ貴族社会で生きるのならば、出来て当然の話。ナレマセンノだって身に着けている。なのに、最高教育を受けている両殿下が無礼を働いた。恐らく、担当教師から報告が上がったか。王妃に叱られたと後で嫌味を言われた苦い思い出だ。

「贈り物も、自ら選んで下さって。わたくしの好みも、似合うものも、ご存じで。心の籠った文も、どれも素敵な思い出ですわ」

「にゃごにゃご」

 ――ああ、わたくしへの贈り物は、誰が選んでいたのかしら。

 体裁を取り繕う定型文の文を添えて。
 ナレマセンノはキャンパスから目を背けた。自分の気持ちから目を背けた時と同じように。

 スナオデスワは、王太子殿下との思い出ばかりだが、そこに弟王子殿下が加わってが、いつもの光景であった。姉が候補の時は、二人の殿下は公正な態度を崩さないでいた。狂いが生じたのは、姉の死がと言うより、スナオデスワを好きになったから。ナレマセンノが候補に選ばれた所為ではないと思いたい。

 ナレマセンノが辛い記憶を苦い気持ちで思い出していても、スナオデスワの素敵な回顧は止まらない。

「攻撃魔法を使うのが怖くて、怖くて。どうしても人に向けて放てなくて。ああ、これでは候補から落とされても仕方がないと、泣きだしたくなったの、でも、彼は、攻撃は自分がするから君は防御魔法で、僕を支えてくれればいいと言ってくれたの。支え合おうって。君を守る栄誉を授けて欲しいって」

「にゃごにゃご」

 見なくてもキャンパスに何が描かれているのかわかる。

 ナレマセンノは、攻撃魔法の厳しい指導を強いられ、何度もくじけそうになった。要望のレベルになかなか達せず、見下され、辛い思いを一人で耐えた。王妃や王子妃の命の優先順位は王や王子の次。時には命を懸けて守らなければならないとなれば、訓練に力が入るのも頷ける。なのに、なのにだ。スナオデスワの特別扱いに、ナレマセンノの心は張り裂けそうだ。

 スナオデスワの美しい思い出は、華やかな彩りで魅せられた。
 ナレマセンノでは得られなかった思い出ばかり。

 ――わたくしの、どこがいけなかったの? どうして、駄目だったの?

「王家専用のガーデンで、彼は膝をついて、プロポーズしてくれたわ。運命の二人だと言われたの。ふふ、勿論、返事はイエス! はしたないと理解していても、彼に抱き着いたの」

 弟殿下に八つ当たりされた当時の記憶が、憎悪の感情をぶり返す。
 スナオデスワの想い人が兄殿下だと知った時の弟殿下は、ナレマセンノに怒りをぶつけた。理不尽な怒りをぶつけられ、彼らとの関係はナレマセンノの中で燻った。

 誰にも顧みられないナレマセンノ。

 ――二人の殿下から愛されるのが当然と思うスナオデスワが許せなくて、憎くて。報われないわたくしが惨めで、哀れで、悲しくて、だから、思いついたの。僅かでもいい。貴女にこの痛みを、味合わせたかったの。

 都合の良い事に、打ってつけな者がいた。

 下級貴族の令息を手玉に取る下級貴族の令嬢に目を付けたのは、ナレマセンノ。デシャバリ情報で知った毒花のような子を利用すると企てた。二人の殿下に偶然を装って、引き合わせたのもナレマセンノ。

 毒花の香りは魅力的で、その蜜は男を虜にする。あっという間に優秀な殿下方は毒花の手に堕ちた。

「領地で起こった災害対策に奔走していた間に、彼は違う令嬢を隣に置くようになったの。ただの友人だよと笑って・・・。何も言えなかったわ。だけれど、熱の籠った瞳で、令嬢を見つめていれば、嫌でもわかるわ」

「にゃごおおぉにゃごごごごご」

 思い出に苦しむスナオデスワの顔が歪む。
 ナレマセンノは猫の汚い声に顔が歪む。

 キャンパスの絵は泣き顔のスナオデスワ。

 ――そうよそうよ、この顔が見たかったのよ。貴女の笑顔なんて、二度と見たくないわ。

「学院生活を一緒に楽しもうって約束していたのに。わたくしと暫く距離を置こうって。友人を作ればいいよって、笑って、それ以降、彼と行動を共にすることは、なくなったわ」

「にゃ! にゃごおおぉぉぉぉ」

 光る。絵筆もキャンパスも、スナオデスワも。

「辛くて、辛くて、理解できなくて、彼の隣が、どうしてわたくしではないの? 愛を語り合ったのは、わたくしなのに。どうして、別の子が、彼の愛を、愛されているの? 優しい眼差しをどうしてその子に向けるの? 笑顔を見せて、どうしてなの?」

「にゃ!にゃ!にゃ!にゃ!」

 光の連打だ。
 スナオデスワの叫びに応えるように光が舞う。

「彼と会えない日々が続いて、寂しくて、お手紙を送っても、お返事は頂けず、お声を掛ければ、不機嫌な表情を隠そうともしないで、何にお怒りなのかもわからなくて、本当に辛い毎日だったの」

「にゃ! けっ!」

 光った! 眩く。
 キャンパスのスナオデスワは泣いていた。

「お心の中に、わたくしがいなくなったのであれば、そう正直に打ち明けて欲しかったの。訳も分からず無視をされたり、不機嫌になられても、わたくし達の婚約が決まっていたのよ。それなのに・・・あの日、久しぶりにお声を掛けて頂いたの。本当に嬉しくて、その時のわたくし、きっと笑ったのね。でも、それがお気に召さなかったの。物凄い剣幕で、怖かった。わたくしの知らない人に見えて、恐ろしかったわ。もうその日は会話も許されず、どうしていいのかわからなくなって」

「にゃ にゃ にゃ にゃーん」

 眩い光。
 キャンパスに映し出された姿は、怯えていた。
 もうスナオデスワの姿しか映していない。

「王妃様のお茶会の帰り、城内で王太子殿下と偶然、あれは偶然だったのかしら・・・お会いした時に、君は私の運命のひとではない、と断言されてしまったの。衝撃が強くて、何を言われたのかわからなくて、呆けてしまったわ。他に愛する人がいる。その人と生涯を伴にしたいと、熱に浮かれたお顔で言われてしまったの。わたくしとの婚約を、なかった事にしたいと願われて、もう、意味が分からなくて、ただ、わかりましたとしか、言葉が出なかったの」

「にゃ―――ん。なうなうなうなう」

 絵筆を振る手を止めない猫なんちゃら。その度に光が舞って、目が痛いナレマセンノ。眩しくて、腹立たしくて、スナオデスワの悲しみを癒すように光る。煌めいて美しい光景を、光が雨の様にキャンパスに吸い込まれて行く様を、睨みつけるのが精一杯だった。

 ――あの日。招待されたのは二人だけで、苦言を呈した態を装った、ただの八つ当たりだったわ。

 思い出すだけで不快だと内心で毒気吐くナレマセンノ。押し殺した怒りが爆発しそうに苛ついた。とても王族に抱く思いではない。不敬を恐れる気持ちは既に捨てた。

 特に今日は、感情を抑えられない。沸々と怒りが湧いて止まらないのだ。普段は、きっちりと心に蓋を閉じ感情を押し殺すのに。何故だか今日は上手く殺せないのとナレマセンノも戸惑っていた。

「他に愛する人がいる。その人と生涯を伴にしたい」

 振られた理由をもう一度口にした愚かなスナオデスワ。

 ――ふふ、焦がれた相手の口から、別の女への愛が語られて、どう? 悔しいでしょう。お相手は、男爵令嬢だもの。貴女のプライドが許せないでしょう?

 今度は気分が高揚し自然と笑みが零れるナレマセンノ。心がかなり不安定である。

 ――スナオデスワが。二人の殿下から愛されたスナオデスワが。

 たった一人の令嬢の出現で、彼らはスナオデスワを捨てた。
 スナオデスワから見れば、単なる心変わりだろう。が、事実は違う。分不相応な望みを抱く野心家は、手段を選ばず、利用できる者は容赦なく利用する。ある意味、後がない子だと言えた。篭絡した子息達や、弱みを握った令嬢達を使って、スナオデスワの悪評を広め、殿下達に疑念を抱かせた。情報を巧みに使ったあの女が上手だったのか、殿下方が単純だったのか。公爵家を妬む貴族が暗躍したのかも知れない。男爵位では王妃になれないと、そのうちどこかの高位貴族が、養女に受け入れるだろう。その時になって、生まれの身分が低い令嬢に、頭を垂れる屈辱を思い知るがいい。そうナレマセンノは思う。

 ――兄弟で一人の令嬢を奪い合うのは、スナオデスワの時と同じね。好みが一緒なのかしら。

 今の兄弟仲は最悪で、一触即発と耳にした。
 利己的な貴族は既に動きを見せ、どちらに付こうかと情報戦が始まっている。そういう貴族達の動きを知り、ナレマセンノは非常にくだらないわと呆れていた。

 恋愛に呑まれた両殿下。女の色香に負けた王子達。実にくだらないと、ナレマセンノは嘲笑う。

 少しばかりの意趣返しをと望んだナレマセンノの企みは功を奏した。面白いほど踊らされた彼らは、これからも誰かに踊らされるのだ。その発端を切り開いたのが自分だと思うと、歪んだ優越性が顔を出す。

 ――それに。

 あの高慢なスナオデスワは、今まで碌にナレマセンノを視界に入れず、相手にしなかった。それが今こうしてナレマセンノの誘いに乗った。くだらない噂話に縋って、その瞳にナレマセンノを映したのだ。

 ――溜飲が下がるとはこのことね。

 だが、まだ足りない。

 スナオデスワの思い出話に引き摺られて、当時の痛みを思い出し更に傷ついた。記憶に紐づけられた負の感情が容赦なくナレマセンノを襲ってくる。

 ――嘲笑うために、スナオデスワを連れて来たのよ。どうして、わたくしが傷つくの。許せないわ。

「君は私の運命の人ではない。・・・ええ、そうね。そうよ!」

 突然、力強く言い切ったスナオデスワに驚かされたナレマセンノ。一体どうしたのだろうかと、表情が曇る。

「え? どうかなさったの? ねえ、スナオデスワ様?」

「にゃう!にゃ! にゃう!にゃ!」

 チカッ チカッ チカッ チカッ 

 点滅した光が、キャンパスに溶け込んでいく。

「ええ、あの方々は、わたくしの、わたくしの運命の人ではございません!」

「は? な、何を言い出すかと思えば・・・どうかなさったのですか? スナオデスワ様」

 猫太郎画伯が絵筆をおおきく振りかぶったのが視界の端に入った。
 ギョッと驚くナレマセンノ。もう目が離せない。

「そう、そいつ、運命の、ひと、じゃなーい。 Say Good bye!」

「グッバイ! にゃん!」

 一際眩い光が、閃光とも言える輝きが、言葉とともに放たれた。犯人は、勿論、絵筆を振りかざした猫太郎画伯。人の言葉を喋ったのだ。今まで猫語だったのに。猫を被っていたのだ。
 それ以前に、今まで無言で見ていた少女が叫んだのに驚かされたナレマセンノ。目を瞬く。さりげなく猫と息を合わせてくるところが、癇に障った。

「はあ?!」

 キャンパスが光を吸収し終わった後に残っていたのは、幸せな笑みを、満面の笑みを浮かべたスナオデスワだ。黄金に輝く髪を見せつけるかのよう靡かせて。嘗て、高嶺の花と謳われた頃の彼女が、愛らしい笑顔を見せていた。

「い、今のは、魔法なの? でも、思い出を描いたところで、現実が変わらないのであれば・・・!」

 キャンパスに目が釘付けだったナレマセンノは、何かに気付いたように、ハッと、スナオデスワに視線を向けた。

「え、う、うそ、うそよ、今まで、酷い顔だったじゃない! それがどうして、一瞬で元に戻るの?! い、いやだわ「ナレマセンノ様? 魔道具のお陰ですわ。うふふ、胸につかえていた悲しみも痛みも、すっかりなくなりましたわ!」はああ?!」

 晴れ晴れ。その一言に尽きると表情が語ったスナオデスワ。

「うん、成功。私、天才。お姉さんの失恋の痛み、消した」

 魔道具の効果が出たと少女は得意気だ。満面の笑みで、成功報酬を強請っていた。

「ええ、ええ、本当に素晴らしいわ。ありがとう。可愛い占い師さん」

 入店前のスナオデスワとは、別人レベル。いや、驚くことに、失恋前よりもグッと良い女に成長したスナオデスワがそこにいた。

 彼女の思い出を吸い取ったキャンパスは、一人の美しい令嬢を捉えて、その役目を終えた。
 幸せに満ちた笑顔がこちらを見ている。清らかささえ漂わせたスナオデスワ像の完成だ。

 生まれ変わった気分のスナオデスワ。今まで嘆き悲しんでいたのが嘘のようよと朗らかに口にした。

「うふふ、前向きな気持ちが、新しい恋を引き寄せそうよ。不思議だけれど、予感がするの」

 スナオデスワは瞳を輝かせ、気持ちを語った。

 方や、敗北感に塗れたナレマセンノ。すっかり自失望是である。

 ――また、スナオデスワは、幸せになるの? どうして、わたくしではないの?

 声をあげたくても、声が、力が、湧かない。

 ――どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、わたくしは幸せになれないの?



「へい、『幸せの青い鳥』ブローチに、魔力、流せ。幸せを、

「まあ! 素敵なお話ね、うふふ。今でも十分幸せなのですけれど。占い師さんが進めるのでしたら、さっそく」

 宝物を手にする如く、丁寧な手つきで胸につけたブローチを外し、魔力を流した。

「チチ チチ」 

 少し高い声で鳴いた青い鳥。羽ばたくと光の粒が舞い散る。

「はあ~! とても幻想的で、美しいわ。占い師さんは、芸術家なのね」

「ふっふっふ。芸術は、爆発」

「あら、うふふ」

 キャンパスの絵が、しゅるるんと巻き取られた。
 青い鳥が、ツンとスナオデスワの金色の髪を一本、啄んだ。その一本が金色のリボンに変化し、巻き取られた像画を結ぶ。全て魔法が仕上げてくれた。

 不思議現象は続く。

 青い鳥がリボンを咥えると、巻物のサイズがスッと縮む。みるみるうちに、くちばしに咥えてもおかしくないサイズに変化した。その鮮やかさにすっかりスナオデスワもナレマセンノも目を奪われてしまう。

 二人の視線も何のその。アッと言う間に、青い鳥は飛び立った。

 国を越え、遠くへと。







「やり切った、私、グッジョブ」










 ◕◕◕

「チチ チチ」

「ん? 鳥? ほお、珍しい色の鳥ではないか。おや?」

「これは、手紙でしょうか。殿下、危険がないか私が開けますので、お手に触れないで下さい」

「む? なんと、美人画! ほっほー」

「おい、それを寄越せ。・・・うむ、美しい娘だ。よし! 嫁だ! 嫁にするぞ!」

「えええ?!」

「あ、殿下、その絵の娘、スクイナッシー王国の、公爵家のご令嬢だと思いますよ。王太子殿下の婚約者候補だったお嬢さんですね。ほら、あそこの王子、痴情の縺れで揉めてるでしょ? 煽りを食って、候補から降りたか、降ろされたか、したと思いますよ? もっと調べさせましょうか?」

「徹底的にな」

「はっ!」

「おお、女っ気のない殿下がヤル気に! こうしちゃいられん。殿下の絵姿をお送りしましょう、今すぐに!」

「うむ、それよりこの青い鳥に文を持たせて、届させよう」

「おおー! それは、よい考えですな、殿下」







 ◕◕◕

 青い鳥(黒作)が一枚のカードを咥えて、師匠のもとに。



『拝啓。
 師匠。新作の魔道具、ぼろ儲け。黒より』


「あいつは、何をやっとる?」




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