迷宮美少女使徒への変貌 ~ダンジョンの毒牙にかかった冒険者と恋する女騎士~

火ノ鷹

文字の大きさ
36 / 45
決戦

決戦-1

しおりを挟む
翌日の昼、ローザリッサはかつてカルザ達が訪れた岩山まで来ていた。今のローザリッサの速度ならカルザ達が時間をかけて歩んできた旅路もすぐだ。

「ここだな」

岩山にある洞窟。ここを探索した果てにジルクはああなったはずだ。であれば、もう一度同じことを起こせば奴は現れると考えるのが妥当だ。

「入っていけば階段があるはず」

カルザ達が覚えていた最後の記憶、それは階段にヤヴォールの魔術を打ち込んだというものだ。つまりそこまで再現すればそこから先は記憶を失った領域に入れる。
今のローザリッサなら魔力感知もかつてのレベルではない。一瞬で階段を探知し、移動ルートを確定させる。
そして姿を戻して歩いて移動する。あのヤギが考えている通りの力を持っているなら、さっきまでの姿を知らないはずだ。

「ここだな」

階段に辿り着く。ただの階段にしか見えないが、これが深淵につながっているなどとは誰も考えないだろう。
知っているからこそ怯えもする。一つの深呼吸と共に、威力をかつてのレベルまで落とした炎の魔術を放つ。
しかし放ったと同時に魔術は目の前で消滅する。どこか邪悪さが見える魔力に覆われて消えてしまったのだ。

「待っていましたよ」

その言葉と共に空間が捻じれ、ローザリッサは別の空間へと転移された。抵抗などせず、ローザリッサはその転移に身を任せていた。

転移された場所はかつてジルクがシアになった洞窟。ローズにとって忌々しい場所であり、二度と帰らないと決めたかった場所だ。
だがローザリッサにとってはそうではない。絶対に帰ってくると決めた場所だ。

「出たな。ジルクはどこにいる?」
「シアですか?。彼女ならここに」

ローザリッサはヤギと対等になるような話し方をしていた。それはかつてローズがだましだましで行っていたものではない。実際に対等なのだというような態度だった。
ヤギの後光が消え、その周囲の風景が正しく見えるようになる。ローザリッサはその光景に怒りこそ覚えたものの、どこか悲しい目もしていた。

「フィーアさまぁ」

甘ったるい声と共にフィーアに抱き着いているシア。美少女という言葉がしっくりくるシアが抱きつくというのは、人間の裏社会に潜む者の夢でも叶えているのかと思ってしまう。
取り戻すと言っているものの、ここまで堕ちた者ともなるとその気も落ち込んでしまう。

「……」
「可愛いでしょう?。かつての姿は消え失せ、私に従順な眷属となったシア。返せと言われても返せる部分はありませんよ?」

ふぅと一つ溜息をつく。最悪の予想と最低の予想をしていたが……最低の予想の方が当たったようだ。最悪とはジルクという存在を消去したのかということ。そして最低とは、ジルクの存在を嘲笑うような力の使い方をしたのかということだ。

「ああ、そんな気はしていた」

だからこそ、嬉しい。

「……ほう?」

それならば、取り戻せる。

「だからこそ私は力を求めた。私の知っているジルクを取り戻せる力を」

全身に力を漲らせる。両手両足が燃えるような魔力に覆われ、以前とは全く別物の力を宿す。ローザリッサとしての力を少しずつ展開していく。

「これは……一体?」

その反応を見てローザリッサはにやりと笑う。獰猛な肉食動物を思い起こさせるような笑顔は、ヤギとシアを引かせるには十分だった。

「その反応、確信したぞ。私はジルクを取り戻せる」
「……妄信というのですよそれは」

ヤギも魔力を展開し始める。かつてローズを圧しきった魔力が周囲を覆い、さらに密度を濃ゆくしていく。ローザリッサもそれに覆われ、その炎は相対的にどんどんと小さくなっていく。
さらにかつてジルクとローズに致命傷を負わせたエルダードワーフとエルダーエルフが現れる。ローズからすればトラウマを刺激するには十分であり、怯えの表情すら見せただろう。

だが今ここにいるのはローズではない。奪われたモノを取り返すために試練を乗り越えてきた者、ローザリッサだ。

エルダードワーフとエルダーエルフがかつてと同じ速度で大槌と長剣をローザリッサへと振るう。だがそれらが届く前に、ローザリッサの燃える指が彼らの首をなぞった。

「いいや確信さ。例え未来予知できても、お前は私の名前が分からないだろう?」

二人の動きは止まり、力無く前のめりに倒れる。そこには首を焼き切られた跡が残っていた。
ヤギ……災害獣フィーア・ラヴィリエントはそこで初めて動揺を見せた。一度聞いたはずの名前は分かっても、そこから先に見た未来の名乗りが違っていたからだ。

「ローズと言って……いや、これは。ローザ……」

ローザリッサの背中から大きく蝶の羽が羽ばたく。それと同時に周囲を覆っていた邪悪とも言えるフィーアの魔力は焼き払われた。

「赤い……羽根……?」

フィーアの言葉に訂正するように彼女は……彼女らは名乗る。

「ローズ・アリッサ。我が主である赤い羽根に頂いた、眷属たる私の名前よ」
「名乗る程の強さでもないですね。赤い羽根とでも呼べばいいですよ。しかし予想より早かったですね。急ぐのは悪い癖ですよ?」

全身に災害獣レ■ィ■■■■■赤い羽根 の力を宿すローザリッサ。そしてその肩の上に小さな赤い蝶が一羽飛んでいた。
全てを燃やし尽くす紅蓮の火を灯す一人と一羽は、明確な意思を持って敵対の目をフィーアとシアに向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...