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第三章 チタニア教帝領~教帝聖下救出編~

シアニン帝国にて

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「守護魔獣による、御前試合!?  」

    思わず聞き返してしまった。

「ああ。カッパー、ジンク両皇子の皇帝即位を祝し、余興として行われるらしい。各国の戦力を測り、今後の協力体制に生かす意図もあるようだ」

「面白そーだな!  」

「自分も参加したいっす!  」
    ピロロの返答に、スネーク兄弟が顔を覗かせた。

    俺達は今、シアニン帝国に向かっている。お聞きの通り、両皇子の戴冠式に参加するためだ。

    昨夜飛び込んできた朱雀は、それを伝えるものだった。
    伝朱雀でんすざくと呼ばれているそれは、紙にラキノン国王陛下の色素ピグメントが混ぜこまれているという。
    製紙技術、および、折紙技術に長けたサイリーン家が、製造を一手に引き受けているらしい。その功績で、平民から伯爵位にまでのし上がったのだと。

「ピロル、お前はどうする?  」

「……」

    正直出たくない。血の気の多い蛇達とは異なり、俺はふつーの元大学生なのだ。好き好んで痛い思いなどしたくない。ただ、ピロロの立場を考えると、なぁ……。

「一応、任意ということだから、出なくてもいいだろう」

    答えに窮する俺を見兼ねたように、ピロロが言った。

「こんなにカッコよく目立てる時に出ねーなんて、有り得ねーだろ!  」

「目立ってどうすんだよ」

    噛み付いてきた蛇に、噛みつき返す。

「あんっ?  レッタ嬢にいい所を見せるに決まってんだろ」

「きゃー! ドン様、かっこいいー!!  」

「てめぇ、ぶっ殺す!  」

「いってぇ!  ばかっ!   腹の毛を引っ張んじゃねー!   」

    俺達の下らない応酬が続く。
    それに合わせるように、馬車が跳ねた。

「……もうこれ以上目立つ必要は無いだろう、君たちは」

    ラヴォア博士は苦笑いしながら、独りごちた。


◇◆◇


「これは、美味であるな!  」

「本当じゃ、こんなに美味しい魚は、久方ぶりじゃ!  」

    フサロ皇帝陛下とラキノン国王陛下が、感動の声を上げた。

「スラリーくんが運んできてくれたのです。生きた状態のままでしたので、お刺身にさせて頂きました。調理場に突然現れて、ドバっと吐き出された時には驚きましたが……」

    シマさんが笑いながら言った。
    追い蛸漁で捕まえた魚を、スラリーが人知れず運んで来たのだ。

    シアニン帝国に着くと、スラリーは樽から勢いよく飛び出した。当然、辺りはびちゃびちゃの大惨事である。
    そんな色素魔獣ピグモンを1匹で闊歩させる訳にもいかず、共にブルーフィールズ城内を歩き回ることになった。
    やっとのことで調理場にたどり着くと、スラリーはシマさん目掛けて、飛んで行った。そして止める間もなく、ドバっとやったのだ。

    俺達は今、両陛下に、チタニア作戦の首尾について報告していた。教帝聖下が感謝の意を述べられ、両陛下からお褒めの言葉を頂いたところで、シマさんが料理を運んで来た。

「スラリーと言うのか。我々にまでご馳走をありがとう」

「教帝聖下の救出にも、多大な貢献をしたらしいな。改めて、例を言おう。ありがとう」

「本当に助けられた。ありがとう」

    両陛下とともに、教帝聖下が頭を下げた。スラリーがふるふると嬉しそうに揺れる。

    ──来るっ!

    本能がそう叫んだ。同時に素早く頭を引っ込める。

    ペチャッ!

    小気味の良い音が、部屋に響き渡った。

「……ピロルくん、それはあんまりじゃないか」

    ドロドロの博士は、そう嘆いた。
    その姿を見て、皆が吹き出したのだった。
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