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第五章 ニガレオス帝国~暗黒帝と決戦編~

朱雀vs炎烏 (★ラキノン王視点)

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「アハハッ、面白くありませんねー。
もう、気を失ってしまうなんて。
指一本ずつを切断して、美しい泣き声を奏でて頂こうと思ったのに」

    悪魔のような見た目の男──カフカが無表情で呟いた。そして、俯せのアナターゼ総主教を蹴り転がす。

「まぁ、いいでしょう。一思いに殺して差し上げましょう」

    心臓に狙いを定め、剣を突き出した。




「くっ!?」

    突如として紅く輝く神殿。

    カフカとアナターゼ総主教の間に、炎の壁が立ちはだかったのだ。
    巻き起こる熱波に、カフカの顔が歪む。
    しかし、それもホンの一瞬の事だった。
    待ちわびた敵の登場に、顔が怪しく輝く。

    頭上には朱雀が顕現した。
    無数に分身し、漆黒兵へと飛び掛かっていく。
    漆黒兵はメラメラと燃え上がり、あっという間に土葛へと変化した。




    炎が落ち着くと、神殿の隅に背を向けたラキノン王が佇んでいた。総主教をそっと寝かせている。

「やっと、お出でになりましたか。
危うく、大切な総主教様のお命を頂くところでしたよ」

    カフカはそう言うと、わざとらしく辺りを見回した。

「国王陛下のお陰で、邪魔者が消えました。存分に戦えますねぇ~」

    ラキノン王がゆっくりと振り返る。

「ピロロピロール、ピロル、そして、総主教。余の大切な者に三度も手を出したソナタは、絶対に許さぬ」

    言い終わらない内に、紅蓮の炎が爆発した。
    カフカの内側から漆黒の炎が溢れ出し、奴を守る。

「おやっ!!  メテウス、貴方が出てくるのですか?  」

「いけ好かない臭いを感じたんでな。
    国王陛下こいつはオレに殺らせろ」

    カフカの左肩から生えたもう1つの首――メテウスが、そういった。

「いいでしょう。
    因縁といえば、因縁ですからね。
    目には目を、炎には炎をですか。
    譲るからには、負けは赦しませんよ」

    意地悪く笑うと、カフカは体の中へと潜っていった。

国王陛下おっさん、アンタに恨みはねぇーが、その忌々しい炎には消えて貰うぜ」

    メテウスが切りかかってきた。ラキノン王も応戦する。剣と剣が交錯し激しい火花が飛び散った。
    さらに、互いに炎を纏わせ打ち合う。

     キンッ!  カキンッ!!

    まるで、刀鍛冶が鉄を打つ時のような高音が、神殿の空気を震わせた。どちらからともなく、剣が熱を帯び始めぐにゃりと曲がる。

    剣が使い物にならなくなると、今度は拳で打ち合う。
    打ち合いながら、メテウスは不思議な感覚に襲われていた。何故か、拳を合わせる毎に気持ちが軽くなっていくのだ。

「くっ!!  」

    漆黒の炎を纏わせた渾身の左ストレートが、紅蓮に輝く王の手により受け止められた。

「ソナタの炎は、実に綺麗な色をしている」

    慈愛に満ちた柔らかな赤い瞳がメテウスを捕らえた。まるで射竦められたように、動けなくなる。
    ラキノン王の右ストレートが炸裂した。
    紅蓮に輝く右腕から、朱雀が飛び立ちメテウスの顔面に直撃する。

「ぐっ!!  」

     くぐもったうめき声と共に、後方へと吹き飛ばされるメテウス。

    朱雀が急旋回し2打めの攻撃体制をとった。
    翼をはためかせて勢いよく飛び出し、そのまま流れるように翼を折りたたむと、渾身の頭突き繰り出してきたのだ。

「このっ!  腐れ外道がぁっ!!  」

    咄嗟に受身をとったメテウスがそれを、右拳で受ける。漆黒の炎烏えんうが飛び出し、朱雀を撃墜した。

「先程の言葉は、本心だ」

    がら空きの背中を、ラキノン王の回し蹴りが襲いかかる。

「洒落せぇっ!  」

    メテウスは床に着いた右手を軸にして回転し、それに左足で合わせた。

     又もや紅蓮と漆黒が交錯し、天井近くまで火柱があがった。

    それから何時間もの間、死闘が続いた。拳には拳で、蹴りには蹴りで、朱雀には炎烏で対抗した。そして、対抗する毎にメテウスの中の闘争心が削られて行った。

    気づけばメテウスは紅蓮の炎に包まれ、両膝をついていた。もう、全ての色素ピグメントを出し切っていた。

    エネルギー量では黒炎の方が勝っていたはずだった。その差を、この王は圧倒的な色素ピグメント保有量とその制御術で覆したのだ。

「……俺の……負けだ」

    ボロボロの体のメテウスが、呻くようにいった。体とは裏腹にスッキリとした表情だった。

ラキノン王あんたとヤリ逢えて……ラキノン王あんたにヤられてよかっ……」

    メテウスの頭が、ごとりと落ちた。
    色素ピグメントに覆われ、漆黒の鋭利な剣を模した左腕が、首を撥ねたのだ。その剣圧で紅蓮の炎が吹き飛ばされる。

「負けは認めないと言ったはずですが」

    切り口から、にゅーっとカフカの頭が再生した。留めをさそうと、腕をのばす。

    その剣先が紅蓮の炎に包まれた。
     メテウスの頭を紅蓮の炎が覆ったのだ。

「今ので、四度目だ。余の大切なものに、ソナタが手を出したのは」

    慈愛の王の瞳は、ゾッとするほど赤黒く濁っていた。
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