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大怪獣タケノコドン
心霊刑事②
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――町立井戸端中学校――
北野は聞き込みと残滓を頼りにこの場所を訪れた。怪獣は真っ直ぐ町を通り抜けただけで被害規模は意外と少なく、通り道で家が潰された世帯以外は既に帰宅許可が下り、残った被災者は約60世帯。その内二分の一がここに集まっていた。体育館を生活スペースとして活用し、校舎では夏休み前の授業が再開されているという。今はもう放課後の時間帯で、校庭では歳もまばらな子供達が遊び回っている。
(さて、ここに居る筈だが……どう接触するか。養母が1人に後は子供だけと聞いたが、やはり子供から取り入るか……うん?)
体育館の向こう、塀との間に固まる少年グループに目が行った。どうも、大柄だが気の弱そうな男子に対し他3人が何か言い寄っている様である。職業柄ああいう雰囲気には自然と反応するらしい。
「おいシン、いい加減ミーコに告れってぇ」
「ラブレターも書いてやったし、告白の言葉も教えてやったろ? そろそろ結果出してくんねえかな~」
「無理だよ……て言うか、自分のタイミングでやらせてよ……」
「オレらの好意を無下にするってか! 代わりにオレらがミーコに告ってやってもいいんだぜ?」
「「へへへへへ」」
「それだけはヤメテよぉ」
「おいっ‼︎ 野口に浩二、忠彦!」
「ゲッ! 出たよ総番」
「ダイちゃん」
「イジメなんてしてんじゃねえよ!」
「イジメじゃねえよ! 恋路の手伝いしてやってんだけだろぉ」
「どこがだ⁉︎ 側から見たらテメェらやってんの嫌がらせでしかねえぞ」
「仕方ねえだろ、ゲームも漫画も失くなっちまって娯楽が無えんだよ!」
「シンとミーコがくっ付きゃ、2人もハッピーこっちもオモロいでwin-winだろうが」
「大体、お前だって早く告れっつっていつもヤキモキしてんだろうが」
「おぅ、めっちゃヤキモキイライラしとるわ。けどな、背中押して応援してやんのと悪ノリで焚き付けんのは違えだろ! 他人の人生娯楽にすんなや」
険悪で一触即発な空気。人目に付かないこの場所で止める大人が気付く事も無い。緊張が高まったその時、ロングコートの怪しい男が割って入った。
「コラコラ、喧嘩はいかんぞ少年達」
「何だこのオッさん……不審者か」
「確かに職質よく受けるけど、こう見えても刑事さんだよ。ホラ手帳」
「そんなん見ても本物とか知らんし判別出来んわ」
「そりゃごもっとも」
そんなやり取りをしてる内に、バツが悪そうな3人はその場から走り去ってしまった。
「しょっちゅうこんな事があるのかい?」
「勘違いしてっかもだけど、あいつら普段悪い奴らじゃないから。何もかんもいきなり奪われちまって、相手が相手だけにぶつけ様の無い感情溜め込んであんなんなってるだけで、根は良い奴なんすよ」
「ほお? 歳の割に良く出来た子だ。オジさん感心だよ」
「で、お巡りさんが何してるんすか?」
「刑事だよ。被災地では窃盗や詐欺なんかの犯罪が横行するから様子を見て回ってるんだ」
「へぇ~」
「ところで君達、カエル園に住んでる子達って知らないかな?」
「あ? 俺らに何か用?」
「あー君達が! 丁度良かった。いやね、例の怪獣が出たすぐ側だろ? ちょっと話を聞かせて欲しいと思ってね」
「え? そーゆーのもう自衛隊やマスコミの人に話したけど」
「時間が経つと思い出す事や気付いた事が出て来たりするもんでね。何度も聴き取りをするのが警察の手法なのさ。ドラマでもよく観るだろ?」
「あ~なんかしつこいくらいの奴。犯人追い詰める為の嫌がらせかと思ってた」
「それもあるよ。証言を変えたり矛盾点を探ったり……っと、こっちの話はこの辺にして、そろそろ君達の話を聞かせてくれないかな?」
「いいけど、何話せばいい?」
「怪獣が出る数日前から何か変わった事は無かったかい?」
「全然何も」
「あそこには竹林が在ったそうだけど、行った事は有るのかな?」
「あの辺は俺らの縄張りだぜ? しょっちゅう行ってらぁ」
「じゃああの場所に何か変わった事や変わった物とか無かった? 祠とか、塚の跡なんかは?」
「無いね。竹以外は何も無い場所だった」
「そう。そっちの君はどうかな?」
「あ、僕も特に気付いた事とか無い……です」
「分かった、有難う。一応他の同居人にも聞いてみたいんだけど、案内してくれるかな?」
「あぁいいよ。んじゃこっち」
居住スペースとして解放された体育館内は、ダンボールで区切られブルーシートや畳が敷かれただけの簡素な空間だった。しかし季節は夏。全ての扉を全開にすれば風通しも良く、田舎程ではないが地域住民は殆ど顔見知りで仲は良好。物資は十分足りていて、集団生活によるストレスやトラブルは感じられず不満は無い様子。
北野は2人に連れられ体育館の奥、カエル園に割り振られたブースへと向かう。一目で目当ての人物が居ないのは彼には判ったが、不自然にならない様一応その場に居た者達にも先と同様の質問をするも得られる情報も無かった。話題が切れたところで、突如美衣子が彼の例の持ち物に食い付いた。
「キーツ!」
「おっ、よく知ってるね。そう言えば君が抱いてるねこまじんも同じ企画で作られたキャラクターだった。でも君がもっと小さい頃の物なんだけど……成る程、御両親の遺してくれた物なんだね」
「何で分かるの⁉︎」
「職業柄ね。コレには御両親の強い想いが込もっている。手元に置けばずっと君を護ってくれるだろう。大事にしなさい」
「うん。オジさんのも誰かから貰った物なの?」
「ああ。姉から貰ったんだ、御守りにってね」
そう言うと北野は、何かを思い浮かべながら白狐を愛おしそうに指で撫でた。
「これで全員かな? 他に同居人は……」
「あと1人、高校生の子が居ますが」
「那由姉なら外で小さいのの相手してる。付いて来なよ」
再びダイ少年に連れられ体育館を後にし、校庭の一角に集まる子供達の一団の方へと近付いて行った。見た所、小学生低学年から園児を中心にした輪の中で、たった1人浮いた女子高生の姿が見て取れた。そんな彼女らが遊び道具にしていたのは……現在ではあまり見る事も無い竹馬であった。
「竹馬とはまた古風な。僕の子供の頃ですら実物を見た事が無い」
「那由姉は作るのも乗るのも名人なんだぜ。他にも竹トンボとか籠とか、竹で何でも作れるんだってよ。元々一緒に住んでた田舎の爺ちゃんに教えて貰ったんだと」
「あらダイちゃん、その人は?」
「お巡りさん。改めて色々聞きに来たんだって」
「刑事だ。わざと言ってるね?」
「初めまして、竹本那由子と言います。私で分かる事なら何でも聞いて下さい」
「これはご丁寧に。北野です」(当たりだな、彼女で間違い無い。どうやら霊感はまだ目醒めてはない様だが、かなり強い潜在霊力を持っている。修行すればすぐにでも奥之院の高僧レベルには成れそうだが……いや、止そう。極めて人材不足な現状惜しくはあるが、この世界に関わらずに済むならその方が良い。何より……彼女には日向の方がよく似合う)
「あのぅ……どうかされました?」
「いや失敬。では二、三質問を。怪獣が現れる数日中に何か変わった事は無かったかな? 特に山の方で」
「いいえ特には」
「ふむ。あの竹林の辺りは君達の遊び場だそうだけど、最近はどんな事をしてたのかな?」
「鬼ごっこや玩具の材料になる竹を採ったりくらいしか……」
「そうですか」(嘘を吐いてる風には見えない。やはり、龍穴に干渉する様な儀式的な行動は無かったのか。だとすれば一体何が……)
「あー! 遊びじゃねえけど、特別つったら七夕やったっけ」
「七夕?」
「毎年の恒例行事なんです。夕暮れ時に園の子達だけで竹林の中の一本に短冊を吊るすんです。肝試しも兼ねて」
「……因みに何と書いたのかな?」
「俺は怪獣が見たいって書いたぞ。まさか叶うとは思ってなかったけど……」
「ダイちゃん……あなたの所為じゃないんだから、気にしなくていいのよ」
「ん。でも俺なぁ、漠然とただ怪獣が見たいってだけのつもりで書いたんけどさ、その後起こる結果とか何も考えて無かったんだな~って」
「殊勝な事だ。それで……君の方はどんな願いを書いたんだい?」
「私はこれといって願いは無かったので。ただ、みんなの願いが叶いますように……とだけ想いを込めました」
(それだっ!)
「刑事さん?」
「有難う、とても良い話を聞かせて貰ったよ」
「お役に立てずすみません」
「とんでもない。縁があればまた」
そう言い残し立ち去った北野は、学校の敷地の外に停めてあった車に乗り込みスマホを手に取った。
「もしもし、骸骨男か?」
電話の向こうの骸骨男と呼ばれた男……そのハンドルネームで知られた者の正体は、裏社会の情報に精通した闇の斡旋人である。実は霊能者でもあり、北野は彼と連絡を取れる数少ないそっち方面の同業者なのだ。
「例の件で話がしたい」
『フゥ……北野、その話は終わった筈だ。お前とは懇意にしちゃいるが……身内を売るワケにゃいかねえ。裏にゃ裏の筋や道理ってもんが在る』
「そうも言ってられん状況になった。聴けばお前さんの手の平も綺麗に裏返るだろうよ」
『……なるべく簡潔に頼む』
「善処する。いつも通りの手で奴らの遺体遺棄現場を特定した。場所は例の怪獣が現れた山だ。残留思念を読んだ感じ20数体ほぼ全て怨霊化したらしいが、その場に1体も残ってはいなかった。残滓を辿ってみると、それらは一つに纏まりながら何処かへ移動したらしい」
『集合霊か……厄介だな』
「本当の厄物はこの後だ。怪獣の出現地に何が在ったと思う? ……龍穴だ」
『龍穴だとっ⁉︎ 成る程……いや、だがその両者が交わる事は無い筈』
「そう、両者は陰と陽の間柄で自然に結び付く事は無い。だが居たんだよ……稀有な術者が。現場の近くに住む少女なんだがね、未覚醒だが強い潜在霊力を持っていた。そんな彼女が七夕の祀りをしたそうだ」
『七夕? 願いを書いて吊るすアレか』
「ここから先は推測になるが……彼女は未覚醒故に自らの強い霊力を制御しきれず偶に漏れ出てしまう。その霊力に当てられた短冊を龍穴の真上に在った竹に結んだ事で霊符の役割を果たし、簡易儀式となって怨霊を引き寄せたのではないかと」
『……大胆過ぎる仮説だが……有り得なくはないな』
「因みにその時彼女が書いた願いは、皆の願いが叶う様にだそうだ。それが怨霊の願いを叶える為に、龍穴の力を変換させ擬似的な式神として怪獣の身体を与えた」
『怨霊の願いとは、その怨念を晴らす事。つまり復讐だ』
「そう。だから怪獣は例の2人組を追っている。今は……だ」
『何が言いたい』
「知っての通り、殆どの霊は自我が薄く死んだ瞬間の思考や感情に固定され、それに準じた行動を取る。だが時間が経つ程に残り僅かな自我も消え、負の思念だけが増幅して暴走し始める。地縛霊が悪霊に、怨霊が更なる禍に。もしあの怪獣を放置すればどうなると思う?」
『……復讐すべき先を見失い、ただ殺意と破壊衝動のままに日本を蹂躙するだろう。彼の三大怨霊以来、いやそれ以上の大禍となるな』
「その通りだ。当然だが、龍穴級の力を持ったアレを浄霊するのは国中の霊能者総掛かりでも無理だ。更に言えば、アレは物質化霊体である妖怪に近い性質と考えられる。則ち、物理兵器では滅する事が出来ない可能性が高い。例え核であろうと」
『よしんば核兵器で肉体は破壊出来ても、その核である怨念が残る限り禍は消えんだろうな。下手すれば新たな憑代を得て第二第三の怪獣が現れる堂々巡りか』
「ここまで話せばもう十分だろう」
『……よく理解った。国や世界が滅んでは道理も筋もあったもんじゃない。だが協力するからには』
「承知している。絶対にネタ元はバラさん」
『では、詳細は後で送る』
(よし、これで奴らの尻尾は掴んだ。後はあの方々にも協力を要請せねば)
北野は聞き込みと残滓を頼りにこの場所を訪れた。怪獣は真っ直ぐ町を通り抜けただけで被害規模は意外と少なく、通り道で家が潰された世帯以外は既に帰宅許可が下り、残った被災者は約60世帯。その内二分の一がここに集まっていた。体育館を生活スペースとして活用し、校舎では夏休み前の授業が再開されているという。今はもう放課後の時間帯で、校庭では歳もまばらな子供達が遊び回っている。
(さて、ここに居る筈だが……どう接触するか。養母が1人に後は子供だけと聞いたが、やはり子供から取り入るか……うん?)
体育館の向こう、塀との間に固まる少年グループに目が行った。どうも、大柄だが気の弱そうな男子に対し他3人が何か言い寄っている様である。職業柄ああいう雰囲気には自然と反応するらしい。
「おいシン、いい加減ミーコに告れってぇ」
「ラブレターも書いてやったし、告白の言葉も教えてやったろ? そろそろ結果出してくんねえかな~」
「無理だよ……て言うか、自分のタイミングでやらせてよ……」
「オレらの好意を無下にするってか! 代わりにオレらがミーコに告ってやってもいいんだぜ?」
「「へへへへへ」」
「それだけはヤメテよぉ」
「おいっ‼︎ 野口に浩二、忠彦!」
「ゲッ! 出たよ総番」
「ダイちゃん」
「イジメなんてしてんじゃねえよ!」
「イジメじゃねえよ! 恋路の手伝いしてやってんだけだろぉ」
「どこがだ⁉︎ 側から見たらテメェらやってんの嫌がらせでしかねえぞ」
「仕方ねえだろ、ゲームも漫画も失くなっちまって娯楽が無えんだよ!」
「シンとミーコがくっ付きゃ、2人もハッピーこっちもオモロいでwin-winだろうが」
「大体、お前だって早く告れっつっていつもヤキモキしてんだろうが」
「おぅ、めっちゃヤキモキイライラしとるわ。けどな、背中押して応援してやんのと悪ノリで焚き付けんのは違えだろ! 他人の人生娯楽にすんなや」
険悪で一触即発な空気。人目に付かないこの場所で止める大人が気付く事も無い。緊張が高まったその時、ロングコートの怪しい男が割って入った。
「コラコラ、喧嘩はいかんぞ少年達」
「何だこのオッさん……不審者か」
「確かに職質よく受けるけど、こう見えても刑事さんだよ。ホラ手帳」
「そんなん見ても本物とか知らんし判別出来んわ」
「そりゃごもっとも」
そんなやり取りをしてる内に、バツが悪そうな3人はその場から走り去ってしまった。
「しょっちゅうこんな事があるのかい?」
「勘違いしてっかもだけど、あいつら普段悪い奴らじゃないから。何もかんもいきなり奪われちまって、相手が相手だけにぶつけ様の無い感情溜め込んであんなんなってるだけで、根は良い奴なんすよ」
「ほお? 歳の割に良く出来た子だ。オジさん感心だよ」
「で、お巡りさんが何してるんすか?」
「刑事だよ。被災地では窃盗や詐欺なんかの犯罪が横行するから様子を見て回ってるんだ」
「へぇ~」
「ところで君達、カエル園に住んでる子達って知らないかな?」
「あ? 俺らに何か用?」
「あー君達が! 丁度良かった。いやね、例の怪獣が出たすぐ側だろ? ちょっと話を聞かせて欲しいと思ってね」
「え? そーゆーのもう自衛隊やマスコミの人に話したけど」
「時間が経つと思い出す事や気付いた事が出て来たりするもんでね。何度も聴き取りをするのが警察の手法なのさ。ドラマでもよく観るだろ?」
「あ~なんかしつこいくらいの奴。犯人追い詰める為の嫌がらせかと思ってた」
「それもあるよ。証言を変えたり矛盾点を探ったり……っと、こっちの話はこの辺にして、そろそろ君達の話を聞かせてくれないかな?」
「いいけど、何話せばいい?」
「怪獣が出る数日前から何か変わった事は無かったかい?」
「全然何も」
「あそこには竹林が在ったそうだけど、行った事は有るのかな?」
「あの辺は俺らの縄張りだぜ? しょっちゅう行ってらぁ」
「じゃああの場所に何か変わった事や変わった物とか無かった? 祠とか、塚の跡なんかは?」
「無いね。竹以外は何も無い場所だった」
「そう。そっちの君はどうかな?」
「あ、僕も特に気付いた事とか無い……です」
「分かった、有難う。一応他の同居人にも聞いてみたいんだけど、案内してくれるかな?」
「あぁいいよ。んじゃこっち」
居住スペースとして解放された体育館内は、ダンボールで区切られブルーシートや畳が敷かれただけの簡素な空間だった。しかし季節は夏。全ての扉を全開にすれば風通しも良く、田舎程ではないが地域住民は殆ど顔見知りで仲は良好。物資は十分足りていて、集団生活によるストレスやトラブルは感じられず不満は無い様子。
北野は2人に連れられ体育館の奥、カエル園に割り振られたブースへと向かう。一目で目当ての人物が居ないのは彼には判ったが、不自然にならない様一応その場に居た者達にも先と同様の質問をするも得られる情報も無かった。話題が切れたところで、突如美衣子が彼の例の持ち物に食い付いた。
「キーツ!」
「おっ、よく知ってるね。そう言えば君が抱いてるねこまじんも同じ企画で作られたキャラクターだった。でも君がもっと小さい頃の物なんだけど……成る程、御両親の遺してくれた物なんだね」
「何で分かるの⁉︎」
「職業柄ね。コレには御両親の強い想いが込もっている。手元に置けばずっと君を護ってくれるだろう。大事にしなさい」
「うん。オジさんのも誰かから貰った物なの?」
「ああ。姉から貰ったんだ、御守りにってね」
そう言うと北野は、何かを思い浮かべながら白狐を愛おしそうに指で撫でた。
「これで全員かな? 他に同居人は……」
「あと1人、高校生の子が居ますが」
「那由姉なら外で小さいのの相手してる。付いて来なよ」
再びダイ少年に連れられ体育館を後にし、校庭の一角に集まる子供達の一団の方へと近付いて行った。見た所、小学生低学年から園児を中心にした輪の中で、たった1人浮いた女子高生の姿が見て取れた。そんな彼女らが遊び道具にしていたのは……現在ではあまり見る事も無い竹馬であった。
「竹馬とはまた古風な。僕の子供の頃ですら実物を見た事が無い」
「那由姉は作るのも乗るのも名人なんだぜ。他にも竹トンボとか籠とか、竹で何でも作れるんだってよ。元々一緒に住んでた田舎の爺ちゃんに教えて貰ったんだと」
「あらダイちゃん、その人は?」
「お巡りさん。改めて色々聞きに来たんだって」
「刑事だ。わざと言ってるね?」
「初めまして、竹本那由子と言います。私で分かる事なら何でも聞いて下さい」
「これはご丁寧に。北野です」(当たりだな、彼女で間違い無い。どうやら霊感はまだ目醒めてはない様だが、かなり強い潜在霊力を持っている。修行すればすぐにでも奥之院の高僧レベルには成れそうだが……いや、止そう。極めて人材不足な現状惜しくはあるが、この世界に関わらずに済むならその方が良い。何より……彼女には日向の方がよく似合う)
「あのぅ……どうかされました?」
「いや失敬。では二、三質問を。怪獣が現れる数日中に何か変わった事は無かったかな? 特に山の方で」
「いいえ特には」
「ふむ。あの竹林の辺りは君達の遊び場だそうだけど、最近はどんな事をしてたのかな?」
「鬼ごっこや玩具の材料になる竹を採ったりくらいしか……」
「そうですか」(嘘を吐いてる風には見えない。やはり、龍穴に干渉する様な儀式的な行動は無かったのか。だとすれば一体何が……)
「あー! 遊びじゃねえけど、特別つったら七夕やったっけ」
「七夕?」
「毎年の恒例行事なんです。夕暮れ時に園の子達だけで竹林の中の一本に短冊を吊るすんです。肝試しも兼ねて」
「……因みに何と書いたのかな?」
「俺は怪獣が見たいって書いたぞ。まさか叶うとは思ってなかったけど……」
「ダイちゃん……あなたの所為じゃないんだから、気にしなくていいのよ」
「ん。でも俺なぁ、漠然とただ怪獣が見たいってだけのつもりで書いたんけどさ、その後起こる結果とか何も考えて無かったんだな~って」
「殊勝な事だ。それで……君の方はどんな願いを書いたんだい?」
「私はこれといって願いは無かったので。ただ、みんなの願いが叶いますように……とだけ想いを込めました」
(それだっ!)
「刑事さん?」
「有難う、とても良い話を聞かせて貰ったよ」
「お役に立てずすみません」
「とんでもない。縁があればまた」
そう言い残し立ち去った北野は、学校の敷地の外に停めてあった車に乗り込みスマホを手に取った。
「もしもし、骸骨男か?」
電話の向こうの骸骨男と呼ばれた男……そのハンドルネームで知られた者の正体は、裏社会の情報に精通した闇の斡旋人である。実は霊能者でもあり、北野は彼と連絡を取れる数少ないそっち方面の同業者なのだ。
「例の件で話がしたい」
『フゥ……北野、その話は終わった筈だ。お前とは懇意にしちゃいるが……身内を売るワケにゃいかねえ。裏にゃ裏の筋や道理ってもんが在る』
「そうも言ってられん状況になった。聴けばお前さんの手の平も綺麗に裏返るだろうよ」
『……なるべく簡潔に頼む』
「善処する。いつも通りの手で奴らの遺体遺棄現場を特定した。場所は例の怪獣が現れた山だ。残留思念を読んだ感じ20数体ほぼ全て怨霊化したらしいが、その場に1体も残ってはいなかった。残滓を辿ってみると、それらは一つに纏まりながら何処かへ移動したらしい」
『集合霊か……厄介だな』
「本当の厄物はこの後だ。怪獣の出現地に何が在ったと思う? ……龍穴だ」
『龍穴だとっ⁉︎ 成る程……いや、だがその両者が交わる事は無い筈』
「そう、両者は陰と陽の間柄で自然に結び付く事は無い。だが居たんだよ……稀有な術者が。現場の近くに住む少女なんだがね、未覚醒だが強い潜在霊力を持っていた。そんな彼女が七夕の祀りをしたそうだ」
『七夕? 願いを書いて吊るすアレか』
「ここから先は推測になるが……彼女は未覚醒故に自らの強い霊力を制御しきれず偶に漏れ出てしまう。その霊力に当てられた短冊を龍穴の真上に在った竹に結んだ事で霊符の役割を果たし、簡易儀式となって怨霊を引き寄せたのではないかと」
『……大胆過ぎる仮説だが……有り得なくはないな』
「因みにその時彼女が書いた願いは、皆の願いが叶う様にだそうだ。それが怨霊の願いを叶える為に、龍穴の力を変換させ擬似的な式神として怪獣の身体を与えた」
『怨霊の願いとは、その怨念を晴らす事。つまり復讐だ』
「そう。だから怪獣は例の2人組を追っている。今は……だ」
『何が言いたい』
「知っての通り、殆どの霊は自我が薄く死んだ瞬間の思考や感情に固定され、それに準じた行動を取る。だが時間が経つ程に残り僅かな自我も消え、負の思念だけが増幅して暴走し始める。地縛霊が悪霊に、怨霊が更なる禍に。もしあの怪獣を放置すればどうなると思う?」
『……復讐すべき先を見失い、ただ殺意と破壊衝動のままに日本を蹂躙するだろう。彼の三大怨霊以来、いやそれ以上の大禍となるな』
「その通りだ。当然だが、龍穴級の力を持ったアレを浄霊するのは国中の霊能者総掛かりでも無理だ。更に言えば、アレは物質化霊体である妖怪に近い性質と考えられる。則ち、物理兵器では滅する事が出来ない可能性が高い。例え核であろうと」
『よしんば核兵器で肉体は破壊出来ても、その核である怨念が残る限り禍は消えんだろうな。下手すれば新たな憑代を得て第二第三の怪獣が現れる堂々巡りか』
「ここまで話せばもう十分だろう」
『……よく理解った。国や世界が滅んでは道理も筋もあったもんじゃない。だが協力するからには』
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