タケノコドン

黒騎士

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タケノコドンⅢ――邪神獄臨――

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 タケノコドンによって世界が救われてから約3年。世界は再び平穏を取り戻し、甚大な犠牲を払った日本とアメリカにも支援の輪が広がり順調な復興を見せている。一躍救世主として讃えられる様になったタケノコドンに対し、生まれ故郷の井戸端の山や富士山、そして大雪山跡地に記念碑が建てられる等、今や世界に愛される存在に昇華。各地で活動を続ける小型幼体や、地に根付いて変態した竹も人々に愛でられる程に世間の印象は様変わりした。その3年弱の内にカエル園の子供達もまた成長し、今や進路に思い悩む高校生になっていた。


――井戸端町、私立楓高等学校。井戸端町唯一の高校であり、私立と言っても高額な学費や難しい試験を必要とはせず、ただ単に地元に高校が無い事を憂いた地元資産家が自費を投じて作った、自由な校風で地元民に愛される学校である。
 そんな放課後の校舎の屋上で屯ろする5人の男子達が居る。グループの輪の中心に居るのは、ご存知カエル園リーダー格のダイ。そしていつも一緒に居るシンと、幼馴染の野口、忠彦、浩二である。先日体育祭も終わり、話題は次の大型イベント文化祭。クラス毎に出し物が違い、クラスの違う3人がダイとシンのクラスについて訊ねている様だ。

「お前らんとこって劇やるんだろ? 何役よ?」

「俺は正直者のコック長」

「僕は社会人A」

「ちょっと待て……劇の演目って確か里見八犬伝じゃなかったか?」

「おう」

「それで何で料理人と社会人が出て来んだよ?」

「脚本担当が野球部のマネージャーでよ。何か独創的な話にしたいっつって、現代版にアレンジしちまったんよ。タイムスリップして来た通りすがりの新撰組とか出てくんだぞ。主役は忍者で、なのに術も武器も使わず素手で無双すんだ……盛り過ぎだっての」

「野球部のマネージャーってアレか⁉︎ 理事長の孫娘の」

「そうそう。どんな漫画でも小説でも知ってる凄えの」

「あいつん家って、こんこく通りのこんこく書房だろ? 昔っから本読み過ぎて普通の話じゃ満足出来ないんじゃね?」

「野球部って言や、今年は過去1ヤバいらしいな」

「ああ。甲子園常連校だけど、3年連続春夏連覇も有るって大手マスコミも連日取材に来てるよな」

「特に瀧の奴が凄いってな。ありゃもう漫画の主人公だな……絶対将来メジャー行くぞ」

「でも一番凄いのはあの監督だろ?」

「あーあの髭が特徴的な監督な。それまでならず者の溜まり場なんて呼ばれてた野球部を忽ち常勝高にして、あっちゅー間に甲子園常連校に仕立て上げた名将だってな」

「そうそう。あの和田選手始めプロも毎年何人も出してる化け物製造機なんだよな。何でも、公式戦では劣勢になって監督が諦めてからがチームの本領発揮なんだとか」

「なんだそりゃ」

「卒業生と言えば、何故か女子マネージャーからアイドルが沢山出てる謎が有るんだとか」

「な~。ちょくちょく応援ライブしに来るし、今年の文化祭ではOGアイドルでユニット組んで大規模ステージ開催すんだってよ。ファン殺到してもうプチ町興しだよな」

「でもよぉ、その元マネって監督と出来てるって噂じゃね? だからしょっちゅう顔出すとか何とか」

「まあ噂は噂だろ、知らんけど。で、野球部も凄いけどボクシング部の赤坂もインターハイ出るんだろ?」

「プロ入り間違い無しだってな。俺らの世代って意外と才能有る奴多くて、自分の将来不安になるわ」

「将来ねえ……俺は家業継ぐから卒業したら手伝うの決まってっけど、お前らどうすんの?」

「オレは適当に進学かな」

「オレも」

「ダイとシンは? ダイって最近ラップにハマってんだろ? そっち行くの?」

「いや~それだけで食ってくの厳しっしょ。飽く迄趣味にしときたいし、偶に動画配信で発表するくらいでいいかなって。そん時ゃシンちゃん手伝いシクヨロでぇす」

「えっ、まあうん、いいよ」

「シンは他に将来の事で考える事有るだろうが」

「なに?」

「ミーコの事だよミーコの!」

「野口、お前また……」

「今回はおちょくりじゃなくてマジな話だ。黙ってよく聴け。俺らてか、町の殆どの連中はお前らの関係知ってる訳だが」

「えっ……」

「今更だぞシンちゃん」

「でだ。だから皆傍観者に回ってた所為でミーコに対しそういう感情は持たなかった訳だが、そういう感情抜きにしたら普通にイイ女に成ってるワケよ。んでこの先卒業してこの町を離れたり、大学デビューで垢抜けたら即男が出来てもおかしく無え。お前はそれでいいのか? 例え同じ進路に付いてっても、結局告れず惨めな思いするだけじゃねえのかって話なのよ。俺らぁマジでダチだと思ってるから言ってんだぞ。このままじゃ絶対後悔する」

「えっ……えと……」

 シンは助け船を欲しそうにダイに視線を送るも――

「シンちゃんよぉ、これは俺も野口に賛成するわ。言わなきゃ間違い無く一生引き摺る奴だぜホンマ。一緒に居られるの良くも悪くもあと半年も無えんだから、一日も早く告った方が良い」

「分かってるけど、でも……」

 煮え切らない態度のシンに、周りの者達もヤキモキして堪らないという顔で目配せし合うが……これ以上は本人がその気にならなければどうしようもないのだ。と、そんな時ダイのスマホの通知音が鳴った。

「ん? えっ? シンちゃん帰るぞ。何か青山の姉ちゃん家来るって」

「青山さんてタケノコテレビの?」

「えっ、何? お前らまたテレビ出んの?」

「多分の取材じゃねえか? もしそうならお前らの所為だぞお前らの!」


 ダイとシンが急いでカエル園に帰り着くと、既に到着していた青山ディレクターがハルカ先生と共に玄関先で出迎えてくれた。

「やっ! カエルボーイズ久しぶりぃ」

「久しぶり姉ちゃん。今日はみや姉ちゃん一緒じゃねえの?」

「あー、みやこは結婚して寿退社した」

「えっ⁉︎ あのみや姉が⁉︎」

「一応キャスターやリポーターも兼業してたからね~。顔売る仕事してたらそれなりにモテたってワケよ。まあそれはそれとして、今回は取材の許可取りと簡単な打ち合わせだけしに来たの」

「取材って……やっぱアレか?」

「そうそう! アレ、早速見せてくれない?」

「いいけど、撮影はすんなよ」

「ん? まあ今はまだいいから、了解」


 一同が園の敷地の裏に回ると、ソレがそこに居た。もしソレを形容するならば……手と足が生えた筍としか言い様が無かった。というかそのまんまである。大体幼稚園児から小学生低学年くらいの大きさの筍に、腕や脚に相当する突起が生えたモノがそこには居た。

「えっ! 何コレ面白っ。生きてるのよね? これタケノコドン?」

「知らね」

「知らないって……」

「ホントに知らねんだ」

 ダイは掻い摘んでこの異様な生物について語り始めた。それは以前、タケノコドン復活の為に富士山に赴いた際の事。活動を再開し富士を去ったタケノコドンが居た跡地で那由子が不意に見付けたとても小さな筍。彼女は無意識にそれを持ち帰り、カエル園に着いてから思い出し取り出してはみたもののどう扱って良いか判らず、考えた末そっと裏山近くに埋めてそのまま忘れて下宿先に帰ってしまった。
 その数週間後、散歩に出たよしえが何の気なしに裏山の方に向かうと、異様に大きく育った筍を発見。皆を呼んで色々と議論してる間、これまた何の気なしに彼女がそれを突いてみたところ、ブルブルと震え出しボコッと地面から飛び出した。見たところ底から脚が生えており、これもタケノコドンの一種かと推測したカエル園一同は干渉せず放置して帰ろうとした所、なんと園まで着いて来てしまったのだ。いつの間にか手まで生えており、何も悪さはしないし言う事もよく聞き簡単な手伝いまで出来るのでペット感覚で置いてやる事に。それからは特にやる事が無ければ、日がな一日園の裏で脚を地面に挿し日向ぼっこをして過ごしているそうだ。だが交友関係の広い園の子供達にはしょっちゅう友人が訪ねて来るものだからこの生き物の事は即刻バレ、その内の誰かからリークされた情報が今回タケノコテレビに回って来たという訳なのだった。

「ふうん。で、この子名前付けてあるの?」

「おー、タケちゃん」

「タケちゃん? 意外と直球と言うか何と言うか」

「一応タケノコJrとか色々案は出たんだけどさ、グループ通話で相談中にいつの間にか那由姉がタケちゃん呼び出してなし崩しに決まった。まあ見付けて連れて来たのも那由姉だし、いっかって。短大出てからはこっち戻って来て、保育士しながらちょくちょく見に来てるよ」

「アラ、那由子ちゃん保育士になったのね、初耳。もう1人、熊三君は?」

「クマ兄は大学出てすぐ結婚して東京で就職した」

「え゛っ ⁉︎」

「まあ驚くよなぁ。小学校の頃から付き合ってる彼女居たのは知ってたけどよぉ」

「式はしたの?」

「おん。向こうの親類とか友達呼んでここで宴会みたいな感じでやった。まぁほぼほぼ顔見知りばっかだったからホントただの宴会だった」

「はぇ~……今の子って進んでんのね。私もそろそろ男捕まえて……ゴホン‼︎ ごめんなさい、脱線し過ぎたわ。じゃあこのタケちゃんの今後の事とか聞かせてくれる?」

「悪りぃけど、取材は断るぜ」

「えっ? どうして?」

「俺ら6年前の初めてタケノコドンが出た時からずっと世間に騒がれて、正直迷惑だったんだ。孤児だからって好き勝手な事言う連中も居たし、観光地気分で園や俺ら観に来る奴らが居てうんざりだ。それがやっと落ち着いて来て、俺らもこれから進学か就職かって時にまた蒸し返されたら困るんだよ。只でさえ近所連中が見物に来た前例が有んだ、世界中から人が押し寄せて来んぞ。パンダじゃねえってんだ。それにコイツの事が知れたら、政府や研究機関に連れてかれて何されっか分かんねえしな」

「もういい分かった。そういう事情なら無理にとは言わないわ」 

「あれ、意外とすんなり」

「ウチはアナタ達のお陰で成り立った様なもんだもの。報道に悪い印象を持たれるのは承知だけど、私個人は飽く迄人の為になる情報発信をポリシーにしてるから。カメラを人を不幸にする道具にしたくないのよね」

「あんがとよ、姉ちゃん」

「いいえ~。でも折角来たんだし、何か面白い事無いかな~?」

「おっ、じゃあアレ教えてよ! ペン回し!」

「ペン回し? 何で?」

「姉ちゃんやってんの見て興味持ってさぁ。偶々珍しいペン回し漫画見付けてハマっちゃってよぉ、今練習してんのよ。スピナーキングに俺は成るってな!」

「ダイちゃあん、成れても世界チャンピオンだと思うよ……」

「アッハハハ、相変わらず面白い子達。でも御免なさい。取材が出来ない以上、次のネタ探さなきゃいけないの。また時間有る時にね」

「そりゃあしゃあねえな」

「最後に1つだけ聞いていい? タケちゃんみたいな特別な個体が他にも居ると思う?」

「どうかな……タケノコドン跡から出た特別な出自だし。でも世界に何千て数散らばってりゃあ、どっかで突然変異とかしてもおかしくないんじゃね? いつかトンデモない奴生まれたりしてな」

 そんなダイの何の気ない言葉であったが、まさかあの様な形で実現するとは……この世の誰も想像すらしなかったであろう。

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